「怖いくらいに、いつ聴いても新鮮」菊地成孔が語る、ジャズの巨匠 ジョン・コルトレーンの魅力

生誕100年を迎えたジャズ・サックス界の巨匠、ジョン・コルトレーンの歩みと功績に注目した。

この内容をお届けしたのは、9月24日(木)放送のJ-WAVE『MIDDAY LOUNGE』(木曜ナビゲーター:ジョン・カビラ)の「MUSIC EXPLORER」。世界の音楽シーンのムーブメントを「今」の視点で考察するコーナーだ。

ジャズ史に刻まれたコルトレーンの軌跡

9月23日に生誕100年を迎えた、ジャズ史にその名を刻むジョン・コルトレーン。今回の「MUSIC EXPLORER」では、今なお世界中で聴き継がれるその音楽と、人物の魅力をひも解いていく。

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1926年、コルトレーンはノースカロライナ州ハムレットに生まれた。音楽を愛する家庭で育ったが、10代のころに父を亡くし、その後も親族との別れが相次いだ。若くして大きな喪失を経験したことは、コルトレーンの人生に深い影響を与えることになる。

そんな孤独のなかで出会ったのが、サクソフォンだった。悲しみを埋めるように音楽にのめり込み、演奏を重ねるうちにジャズの世界へ。やがて頭角を現し、1950年代半ばにはジャズ界を代表する存在へと駆け上がっていく。

さらに、当時のジャズシーンを牽引していたマイルス・デイヴィス率いるグループにも抜擢される。最先端の音楽を追求する環境で演奏を重ねるなか、コルトレーンの才能は大きく開花していった。


ジョン:生前のみならず、没後も高く評価され、グラミー賞の生涯功労賞、2007年にはピューリッツァー特別賞を受賞。まさにジャズの枠を超え、アメリカの音楽史に刻まれたレジェンドです。そんなジョン・コルトレーンの音楽、そして演奏は、なぜこれほどまでに愛され、人々を魅了し続けるのでしょうか。今日は、その理由をジョン・コルトレーンを敬愛してやまないおふたりの言葉とともにひも解いていきます。

世代を超えて愛されるコルトレーンの魅力

ひとり目に登場したのは、銀座・山野楽器で商品部輸入販売課に所属する関 秀能さん。入社32年のキャリアを持ち、学生時代にはビッグバンドでサクソフォンを演奏していた経験を持つ。

長年、販売の現場や音楽イベントを通じて多くの音楽ファンと接してきた関さんに、演奏経験も踏まえて、コルトレーンの音楽が持つ魅力について話を聞いた。


関:私が楽器店の店頭に立っていた時代、サックスの楽器はもちろん、マウスピースやリガチャーなどについて「どんなのにしようかな」と考えている学生さんが、毎日のようにお店を訪れていました。そこで、ちょっとお話ができるようになった学生のお客さまに「どんなサックスプレーヤーに憧れているの?」と訊くと、本当に今でも「ジョン・コルトレーンが好き」という方が、男女問わずいらっしゃるんですよね。私より年配のお客様も当然いらっしゃるんですけれど、試奏室からジョン・コルトレーンのフレーズがふっと聞こえてくることもあります。世代を超えた影響力というか、そういったところが「ジャズの巨人」と呼ばれるゆえんなのかもしれませんね。

ジョン:そんなコルトレーンを愛してやまない関さんに、無理を承知で聞きます。最高の1曲を選ぶとしたら、どんな曲でしょうか?

関:とても悩んだんですけれども、ジョン・コルトレーンの死後に発表された『Transition』というアルバムがあります。私はそのタイトル曲『Transition』が大好きなんです。コルトレーンは『Transition』の録音のあとから、今でいうフリージャズの世界へ進んでいくんですけれども、フリージャズと調性のある音楽、その臨界点のようなところを捉えたトラックなんですよね。サックスでいうと、フラジオ奏法という、倍音を出す奏法があります。それがまさに魂の叫びのようなフレーズとなって飛び交うんです。

Transition

ジョン:『Transition』は1965年に録音され、コルトレーンの没後、1970年にリリースされた曲です。タイトルのとおり、彼が伝統的なジャズから自由なフリージャズへと「トランジション=移行」していく瞬間が、まさに刻まれています。

分析して見えてきたコルトレーンの独自性

続いて登場するのは、音楽家/文筆家の菊地成孔。サックス奏者であり、作曲や編曲も手がけ、アニメ『LUPIN the Third -峰不二子という女-』などさまざまな作品の音楽を担当。また、東京大学や慶應義塾大学の教壇に立ち、ジャズの理論や歴史について講義を行ってきた。

独自の視点と言葉で音楽を語ってきたプロフェッショナルなアーティストでもある菊地。そんな菊地にとって、コルトレーンの音楽はどのような魅力を持つのか。色あせることなく聴き継がれる理由をひも解いていく。


菊地:どんな音楽もある程度、時間が経つと色あせるところがあるんですけど、コルトレーンというのはちょっと怖いくらいに、いつ聴いても新鮮さがあるんですよね。今、初めて聴いたような気分が残るプレイヤーだと思います。最初からものすごく変わって聴こえたんですよね。マイルス・デイヴィスは頭のいい人で、自分があまり吹かない代わりに番犬のような役割として、隣に置くサックス奏者にはものすごく饒舌で、たくさん吹く人を選ぶんです。それをコルトレーンで決めて、その後、生涯にわたって続けていくんです。マイルスがちょっとだけ吹いて、コルトレーンが出てきて、ものすごい勢いで吹く。当時は「シーツ・オブ・サウンド」と言われて、音のシーツだと言われたくらい、音で全部を埋め尽くしてしまうんです。

菊地は、特に印象を受けたアルバムとして、マイルス・デイヴィスの『マイルストーンズ』を挙げる。



菊地:ほとんどの曲がブルースなんですけど、なかでも音色も技法も、何もかもが独特だったんです。初めて聴いたときはビックリしただけだったんですけどね。いちおう、音楽を勉強したり、分析したりするようになって、コピーし始めてからわかってきたことですが、コルトレーンは音色や技法に関してはとにかく独特だとあらためて認識しました。

ジョン:分析すればするほど「なんでこんなことが可能なの?」という発見がある。異次元すぎて打ちのめされそうになる、プロならではの感覚ということなんですね。

技術と精神が結実した『至上の愛』

現代のジャズ教育においても、コルトレーンの影響は大きい。菊地によると、ジャズの教則本やチュートリアル動画、テナーサックスの演奏スタイルを学ぶ際の基本的なモデルとして、現在もコルトレーンの奏法が扱われているという。

コルトレーンは、朝から晩まで、ライブの前後も練習を重ね、自身の演奏体系を築き上げたそう。さらに菊地は「教則本のなかには彼の語法が体系として入っており、それを学ばないと現代的なジャズにはならないと組み込まれていることが、彼のスキルのすごさを証明していると思います」と語る。


ジョン:それでは最後に、菊地さんにもコルトレーンの最高の1曲を選んでいただきました。

菊地:『至上の愛』というアルバムが、誰もが言うコルトレーンのベストアルバムのひとつなんですね。とはいえ、あまりにシリアスで難しいので、なかなか聴かれないんですよ。コルトレーンが若くてポップだったころの演奏もいっぱいあって、愛好家はみんなそっちを聴くんですけど、どうしても『至上の愛』というのは、コルトレーンの技術的にも精神的にも、心技体が揃った代表作として揺るぎない価値があります。コルトレーンが晩年に目指した「聖人でありたい」というような、超越的な願望みたいなものが『至上の愛』にあふれていますね。

A Love Supreme, Pt. II - Resolution

デビューからおよそ20年。コルトレーンは40歳で、がんのため亡くなった。バンドリーダーとして活動した期間は、わずか10年ほどである。

ジョン:コルトレーンが神のもとへと旅立ったのは早すぎましたが、その崇高な志、革命的な演奏と音楽性は、今も音楽を愛する人々、そして若きアーティストたちを刺激し、鼓舞し続けています。

J-WAVE『MIDDAY LOUNGE』はグローバルなルーツを持つ国際色豊かなナビゲーターたちが、リスナーと一緒に「新しい自分、新しい世界と出会う」3時間のプログラム。ナビゲーターは、月曜 ハリー杉山、火曜 市川紗椰、水曜 クリス・ペプラー、木曜 ジョン・カビラが日替わりで担当している。

『MIDDAY LOUNGE』のコーナー「MUSIC EXPLORER」では、世界の音楽シーンのムーブメントを「今」の視点で考察する。放送は月曜~木曜の14時ごろから。
番組情報
MIDDAY LOUNGE
月・火・水・木曜
13:30-16:30

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