角野隼斗と原摩利彦が、敬愛する音楽家・坂本龍一について語り合った。
ふたりが登場したのは、9月23日(水・祝)放送の特別番組『J-WAVE HOLIDAY SPECIAL SAISON presents HELLO, CLASSIC!』(ナビゲーター:秀島史香)。音楽をはじめとする時代を超えて愛される名作にフォーカスし、その背景をひも解きながら、普遍的な魅力と、そこに込められた思想に触れていく特別番組だ。
ふたりは坂本の音楽とどのように出会い、何に心を動かされてきたのか。クラシックとのつながりや、ピアニストとしての坂本の姿にも目を向けながら、時代やジャンルを越えて残り続ける音楽の魅力について語り合う。
角野:今日は摩利彦さんと一緒に、我々が敬愛する音楽家・坂本龍一さんについて、いろいろお話ししていきたいと思います。こうしてふたりで話すのは初めてですよね。
原:ちょっと緊張しますね(笑)。
角野:そうですね(笑)。摩利彦さんは、坂本龍一さんがご存命のころに、セッションも一緒にされたことがあるんですよね?
原:あります。僕が最初に音楽家になりたいと思ったきっかけが、坂本さんが1996年に行ったピアノ・トリオのコンサートなんです。大阪のフェスティバルホールであった公演に、中学1年生のときに行ったのですが、それで衝撃を受けて。「あんなふうになりたい。作曲家になりたい」と思ったんです。ちなみに、最初に聴いた(坂本さんの)曲って何ですか?
【関連記事】音楽の原体験は「坂本龍一」。映画『国宝』作曲の原 摩利彦、その時の印象を語る
角野:たぶん『戦場のメリークリスマス』だったんじゃないかと思います。高校生から大学生ぐらいのころにYMOを聴くようになって、『Tong Poo』のBメロが「これ、どうなってるんだ?」みたいな感じで。自分で耳コピしたりしながら、どんどん曲にのめり込んでいくようになりました。
角野が坂本への関心を深めるきっかけのひとつとなったのが、坂本の著書『音楽は自由にする』(新潮社)だったという。同書には、坂本が歩んできた半生と、人生のなかで常に響いていた音楽への思いが、自身の言葉で綴られている。
角野:ちょうど僕が音楽家を目指し始めたころに本を読んで、心に刺さる部分が大変多かったです。僕の場合はそこからって感じでしたね。
それまで坂本がセッションをともにしてきたのは、原から見ると自身とは少しジャンルの距離がある音楽家が多く、坂本の影響を強く受けてきた自分のような音楽家が声をかけてもらう機会はないと思っていたと語る。それだけに、実際に坂本から誘いを受けたことは大きな出来事だったと明かす。
原:スタジオに入って機材を並べて、サウンドチェックをしたら、「はい、スタート!」みたいな感じだったんですよ。予想としては、小さい音からくるかなと思っていたら、まったくそんなことなくて、坂本さんはいきなり強い音というか、ガーッという音を出されていました。でも本当に、カンフーマスターに稽古をつけてもらったみたいな感じで。「本当に音楽家としてやるのか、お前は」みたいなことを、音を通して問われたような気がしました。結局、夢中で22分くらいやったんですが、最初の2、3分は全然音が出せなくて、「どう、音を出そうかな」と思っているうちに、どんどん時間が経ってしまいました。
角野:坂本さんがピアノを弾かれるときって、決して強い音じゃないじゃないですか。それとは対照的に、シンセだと強い音になるんですよね。
原:そうですね。2019年にシンガポールで行われた坂本さんのコンサートのリハーサルに立ち会ったことがあるんです。ダムタイプの高谷史郎さんが舞台美術をされていて、水の中にピアノを置いて、後ろに映像があったりしました。たしか、囲みの舞台だったと思うので、坂本さんを囲むように座席があったんです。坂本さんがひと通りサウンドチェックを終えたあとに「ちょっと摩利彦、何か弾いてよ」と言われて、坂本さんのピアノを弾いたんですが、全然鳴らないんですよ。外で聴いていて、坂本さんの音を聴いて「このくらいの音が鳴るかな」と思ってタッチしたら、まったく鳴らなくて。「違うなあ」と思いました。
坂本のピアノを間近で聴いた原は、演奏時の重心の置き方や鍵盤の打ち方に、自分とは大きく異なるものを感じたという。瞬間的に音を強く響かせるというよりも、音そのものに重みを持たせるような強さがあったと捉えていると話す。続いて原は、角野に対して「坂本さんの演奏を聴いて、いろんな年代がありますが、どんなふうに感じますか?」と尋ねた。
原:この前、矢野(顕子)さんと『千のナイフ』とかも連弾されたじゃないですか。あのときの話なども教えてください。
角野:『千のナイフ』はけっこう初期の作品ですから、僕が坂本さんに思っているピアノの音色の感覚とは、また少し違うかもしれないです。ただ、全体的に坂本さんのピアノに対して思うのは、すごく「ピアノがピアノである」ということを意識させてくれるような演奏だということです。どういうことかというと、ピアノを通して人が人の感情を表現しているのではなくて、ピアノという木や金属でできた物体から音が鳴っているということに、自分の意識が向くような。一つひとつの音や、その間(ま)というのが、本当に自然を見ているかのようで、そこに恣意的なものが介在していないというのが、クラシック音楽で僕が普段やるようなものとは、ちょっと異なるところにあるなと思っていて。そこがすごく好きなところですね。
原:坂本さんのピアノは、坂本さん本人のタッチとか音色と、すごく密接なところがあると思うんですね。でも、これからはそれだけをずっとみんなが聴くだけじゃなくて、坂本さんの曲をいろんな人が弾いていって、違う音色がどんどん入っていく。そうすることで、坂本さんの曲がクラシックとして定番曲になっていくのかなと思いました。
角野:坂本さんとクラシックの関係についてどう思われますか?
原:僕が坂本さんを好きになったころ、それまでは洋楽をたくさん聴いていたのと、あとはベートーヴェンを中心にクラシックを聴いていたんです。クラシックと現代の音楽が離れていて、「クラシックの“今”を聴きたいな」と思っていたところに、僕の場合は坂本さんがいた。クラシックの延長線上にいる、でも新しい今の人という感じで、どんどん好きになっていったんです。なんというか、クラシックが体に入っている感じはしますよね、坂本さんは。自分は、クラシックは体に入っていないと思うんですよね。ネイティブじゃないというか、よそから来たみたいな気持ちがあります。角野さんはどうですか?
角野:そうですね。僕は坂本さんのボイシングがすごく好きなんです。すごくテンションの高い、緊張感の高い和音を使うときに、本当に最小限の音数でそれを表現される。これはバッハ的だとも思うし、ドビュッシー的だとも思う。ドビュッシーよりもラヴェルを感じることのほうが多かったりもするんですが、西洋音楽からくる1本の線を感じますね。でも、坂本さんの音楽性は、もちろんそれだけではなくって。いろんな要素と混ざり合っているんだと思います。
角野:1曲では選べないので、アルバムにします。ピアノだけで、クラシック的な立ち位置になり得るなと思うのが、『/05』というアルバムです。昔からめちゃくちゃ好きで、自分のなかでのクラシックです。
原:それで言うと、僕は絶対的に『1996』が不朽の名作だと思うんです。(1曲を選ぶとすると)、最後のアルバム『12』の『20220302 - sarabande』という、唯一タイトルが付いた曲がありますよね。僕は一時期、毎日ピアノを始める前にその曲をしばらく弾いていたんです。あるとき、音が書かれた瞬間の心境というか、感覚的なものがふわっと浮かんできたことがあって。そんなことは今までまったくなかったので、不思議な感動だったのを覚えています。
角野:へええ! 素敵なアンサーで、大変よく締まったと思います。
対談の模様は、J-WAVEの公式YouTubeチャンネルから観ることができる。
角野隼斗の最新情報は公式サイトまで。
原 摩利彦の最新情報は公式サイトまで。
ふたりが登場したのは、9月23日(水・祝)放送の特別番組『J-WAVE HOLIDAY SPECIAL SAISON presents HELLO, CLASSIC!』(ナビゲーター:秀島史香)。音楽をはじめとする時代を超えて愛される名作にフォーカスし、その背景をひも解きながら、普遍的な魅力と、そこに込められた思想に触れていく特別番組だ。
ふたりの音楽人生を変えた坂本龍一との出会い
ここでは、数々の名曲を生み出してきた音楽家・坂本龍一に焦点をあてたパートをテキストで紹介。世界を舞台に活躍するピアニスト・角野隼斗と、坂本との共演経験を持つ音楽家・原摩利彦という、ともに坂本の音楽から大きな影響を受けてきたふたりによる対談をお届け。ふたりは坂本の音楽とどのように出会い、何に心を動かされてきたのか。クラシックとのつながりや、ピアニストとしての坂本の姿にも目を向けながら、時代やジャンルを越えて残り続ける音楽の魅力について語り合う。
角野:今日は摩利彦さんと一緒に、我々が敬愛する音楽家・坂本龍一さんについて、いろいろお話ししていきたいと思います。こうしてふたりで話すのは初めてですよね。
原:ちょっと緊張しますね(笑)。
角野:そうですね(笑)。摩利彦さんは、坂本龍一さんがご存命のころに、セッションも一緒にされたことがあるんですよね?
原:あります。僕が最初に音楽家になりたいと思ったきっかけが、坂本さんが1996年に行ったピアノ・トリオのコンサートなんです。大阪のフェスティバルホールであった公演に、中学1年生のときに行ったのですが、それで衝撃を受けて。「あんなふうになりたい。作曲家になりたい」と思ったんです。ちなみに、最初に聴いた(坂本さんの)曲って何ですか?
【関連記事】音楽の原体験は「坂本龍一」。映画『国宝』作曲の原 摩利彦、その時の印象を語る
角野:たぶん『戦場のメリークリスマス』だったんじゃないかと思います。高校生から大学生ぐらいのころにYMOを聴くようになって、『Tong Poo』のBメロが「これ、どうなってるんだ?」みたいな感じで。自分で耳コピしたりしながら、どんどん曲にのめり込んでいくようになりました。
Yellow Magic Orchestra – Yellow Magic (Tong Poo) (Official Music Video)
角野:ちょうど僕が音楽家を目指し始めたころに本を読んで、心に刺さる部分が大変多かったです。僕の場合はそこからって感じでしたね。
坂本龍一とのセッションで感じた音楽家のすさまじさ
2014年1月1日に放送されたNHK-FMの特別番組『坂本龍一 ニューイヤー・スペシャル』では、原が坂本と即興セッションを行った。原にとっては、これが坂本との初めて1対1での仕事だったという。それまで坂本がセッションをともにしてきたのは、原から見ると自身とは少しジャンルの距離がある音楽家が多く、坂本の影響を強く受けてきた自分のような音楽家が声をかけてもらう機会はないと思っていたと語る。それだけに、実際に坂本から誘いを受けたことは大きな出来事だったと明かす。
原:スタジオに入って機材を並べて、サウンドチェックをしたら、「はい、スタート!」みたいな感じだったんですよ。予想としては、小さい音からくるかなと思っていたら、まったくそんなことなくて、坂本さんはいきなり強い音というか、ガーッという音を出されていました。でも本当に、カンフーマスターに稽古をつけてもらったみたいな感じで。「本当に音楽家としてやるのか、お前は」みたいなことを、音を通して問われたような気がしました。結局、夢中で22分くらいやったんですが、最初の2、3分は全然音が出せなくて、「どう、音を出そうかな」と思っているうちに、どんどん時間が経ってしまいました。
角野:坂本さんがピアノを弾かれるときって、決して強い音じゃないじゃないですか。それとは対照的に、シンセだと強い音になるんですよね。
原:そうですね。2019年にシンガポールで行われた坂本さんのコンサートのリハーサルに立ち会ったことがあるんです。ダムタイプの高谷史郎さんが舞台美術をされていて、水の中にピアノを置いて、後ろに映像があったりしました。たしか、囲みの舞台だったと思うので、坂本さんを囲むように座席があったんです。坂本さんがひと通りサウンドチェックを終えたあとに「ちょっと摩利彦、何か弾いてよ」と言われて、坂本さんのピアノを弾いたんですが、全然鳴らないんですよ。外で聴いていて、坂本さんの音を聴いて「このくらいの音が鳴るかな」と思ってタッチしたら、まったく鳴らなくて。「違うなあ」と思いました。
坂本のピアノを間近で聴いた原は、演奏時の重心の置き方や鍵盤の打ち方に、自分とは大きく異なるものを感じたという。瞬間的に音を強く響かせるというよりも、音そのものに重みを持たせるような強さがあったと捉えていると話す。続いて原は、角野に対して「坂本さんの演奏を聴いて、いろんな年代がありますが、どんなふうに感じますか?」と尋ねた。
原:この前、矢野(顕子)さんと『千のナイフ』とかも連弾されたじゃないですか。あのときの話なども教えてください。
坂本龍一「千のナイフ」
— 角野隼斗 - かてぃん (@880hz) August 1, 2026
矢野顕子さんと。@Yano_Akiko pic.twitter.com/myOFoWrKiV
原:坂本さんのピアノは、坂本さん本人のタッチとか音色と、すごく密接なところがあると思うんですね。でも、これからはそれだけをずっとみんなが聴くだけじゃなくて、坂本さんの曲をいろんな人が弾いていって、違う音色がどんどん入っていく。そうすることで、坂本さんの曲がクラシックとして定番曲になっていくのかなと思いました。
Thousand Knives
坂本龍一の音楽に息づくクラシックの系譜
角野は、坂本がバッハやドビュッシーから大きな影響を受けたと公言していることに触れる。坂本の自伝では、中学生のころにドビュッシーのサインを自ら練習していたというエピソードも紹介されているという。角野:坂本さんとクラシックの関係についてどう思われますか?
原:僕が坂本さんを好きになったころ、それまでは洋楽をたくさん聴いていたのと、あとはベートーヴェンを中心にクラシックを聴いていたんです。クラシックと現代の音楽が離れていて、「クラシックの“今”を聴きたいな」と思っていたところに、僕の場合は坂本さんがいた。クラシックの延長線上にいる、でも新しい今の人という感じで、どんどん好きになっていったんです。なんというか、クラシックが体に入っている感じはしますよね、坂本さんは。自分は、クラシックは体に入っていないと思うんですよね。ネイティブじゃないというか、よそから来たみたいな気持ちがあります。角野さんはどうですか?
角野:そうですね。僕は坂本さんのボイシングがすごく好きなんです。すごくテンションの高い、緊張感の高い和音を使うときに、本当に最小限の音数でそれを表現される。これはバッハ的だとも思うし、ドビュッシー的だとも思う。ドビュッシーよりもラヴェルを感じることのほうが多かったりもするんですが、西洋音楽からくる1本の線を感じますね。でも、坂本さんの音楽性は、もちろんそれだけではなくって。いろんな要素と混ざり合っているんだと思います。
ふたりが選んだ坂本龍一の「不朽の名作」は?
最後にふたりは、番組のテーマである「不朽の名作」にちなみ、坂本龍一の作品のなかから、これからも語り継いでいきたい1作を選んだ。角野:1曲では選べないので、アルバムにします。ピアノだけで、クラシック的な立ち位置になり得るなと思うのが、『/05』というアルバムです。昔からめちゃくちゃ好きで、自分のなかでのクラシックです。
原:それで言うと、僕は絶対的に『1996』が不朽の名作だと思うんです。(1曲を選ぶとすると)、最後のアルバム『12』の『20220302 - sarabande』という、唯一タイトルが付いた曲がありますよね。僕は一時期、毎日ピアノを始める前にその曲をしばらく弾いていたんです。あるとき、音が書かれた瞬間の心境というか、感覚的なものがふわっと浮かんできたことがあって。そんなことは今までまったくなかったので、不思議な感動だったのを覚えています。
20220302 – sarabande
対談の模様は、J-WAVEの公式YouTubeチャンネルから観ることができる。
角野隼斗×原摩利彦 坂本龍一を語る
原 摩利彦の最新情報は公式サイトまで。
番組情報
- J-WAVE HOLIDAY SPECIAL SAISON presents HELLO, CLASSIC!
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9月23日(水・祝)9:00-17:55