世界的なアーティストであるTHE WEEKND(ザ・ウィークエンド)の来日公演が9月19日(土)、20日(日)の2日間に渡ってベルーナドームで開催されます。既に日曜日の公演はソールドアウトとなっており、その期待値の高さが伺えます。
来日直前のこのタイミングで発表された最新リミックス曲「Out Of Time (with亜蘭知子)」は、1980年代の日本のシティポップアーティストである亜蘭知子の楽曲「Midnight Pretenders」をサンプリングした話題曲。ザ・ウィークエンドが先日の来日の際に、実際に二人で同じスタジオで音楽を制作することとなり、亜蘭知子の歌声が新たに重なるスペシャルなリミックス・バージョンとしてリリースされました。
シティポップの世界的なブームは、時代もエリアも越えて日本のアーティストや楽曲の魅力に改めて世界の音楽ファンが気付くきっかけとなりました。世界的にもフォロアーともいうべきシティポップサウンドを表現するアーティストは沢山います。その中でも、こと東南アジアにおいては日本発のある音楽ジャンルを感じさせるインディー系アーティストたちが、大変多く登場しているのです。
それが「渋谷系」です。
ロックやHIP HOPのような特定の音楽ジャンルではなく、ソフトロック、フレンチポップ、ボサノヴァ、映画音楽、歌謡曲etc……過去の膨大な音楽やカルチャーコンテンツの潮流の中から自らの感性でコラージュ、そこから新たらしいポップミュージックを作る姿勢やその感覚が特徴と言われています。
それが当時勃興した渋谷の大型CDショップや宇田川町を中心としたレコードショップから発信されたことで後に渋谷系といわれるようになりました。
当時を知る方は共感頂けると思いますが、渋谷系と言われると“何となくこういった雰囲気”という“言語化し辛いけれど明確な雰囲気”を身に纏っていたことを思い出します。ヨーロッパの空気感、知的で大人びていて、都会的にシニカルな目線を持つ。一言でまとめるなら「オシャレ」というイメージです。
音楽だけではなく、ファッションやアートワーク、映画、雑誌、ショップまでを含めた総体として、一つの世界観がつくられていたと言えるかと。
【関連記事】藤原ヒロシが考えるメディアの醍醐味は「一方通行であること」。『CUTiE』連載当時のカルチャーを語る
・Balming Tiger
韓国・ソウルを拠点に、ラッパーやシンガー、映像作家、プロデューサーなど多彩な才能が集まるオルタナティブK-POP集団。ドラマの主題歌に採用されたり、フェスに出演したり、J-WAVE『SAISON CARD TOKIO HOT 100』の東京チャートでNo.1を獲得したりと、日本でもとても人気のバンドです。
・Three Marloes
インドネシア第二の都市、スラバヤから登場した3人組バンド。1960年代のソウルやジャズ、ポップスが持つ温かな質感に、インドネシアらしい温かい空気感を重ねた、懐かしくも新しいサウンドを奏でています。
・NEW LORE
フィリピン・マニラを拠点とする女性3人組のオルタナティブ・ポップバンドです。ボーカルのティタが描く絵画や詩をもとに楽曲制作するという独特なスタイルで注目を集めるグループで、南国ならではのリラックスさとポップさを併せ持つバンドなのです。
枚挙の暇がありません。
勿論、こういったアーティストを一括りに語ってしまうのは、極めて乱暴な行為である事は否定できません。また、彼らが直接渋谷系を敬愛していることや、音が似ているという事を言いたいわけではありません。
ただ、どこか共通の空気感、かつて渋谷系が有していた“何となくこういった雰囲気”を感じずにはいられないのです。
特定の音色ではなく、異なる時代や地域の文化を序列なく並べ、自分たちの感覚で選び取り、編集する姿勢。それは「渋谷系が世界で流行している」というよりも、「世界の感覚が渋谷系化している」と考えた方が、現在起きている現象を正確に表していると言えるのかもしれません。
現代アーティストの村上隆氏によるスーパーフラットの概念は、日本の伝統芸術と現代のアニメやマンガが持つ二次元性の共通性を使いながらアートに落とし込むという日本の特殊性を表現した芸術運動でした。
そこには日本における文化的背景や時間軸、上下関係が排除され、多量の情報の中で様々な記号的なパーツを並列にコラージュし、表現の中に落とし込まれていく様相が見られます。
美術と大衆文化。オリジナルとコピー。芸術と商品。伝統とサブカルチャー。そこにあったはずの上下関係をスーパーフラットは高い水準で消していったのです。
その予兆が音楽の分野で、1990年代の渋谷系に垣間見えると仮定するのはどうでしょう?
渋谷系のアーティスト達は多様な音楽ジャンルを、まるで自分の部屋のレコード棚から取り出すように編集しました。だからこそ、彼らの音楽を聴くと様々な時代の音楽を同時に感じることができたのかもしれません。
それはDJのサンプリング文化へのJ-POPからのアンサーだったと言えます。
更に言うと、渋谷系の人たちにとって重要だったのは、物理空間に要素が集まっていたという事でした。宇田川町にならぶ様々なジャンルのレコード店、何十万枚のCDを所蔵する巨大ショップ、クラブ、古着屋、ミニシアター、コンビニに並ぶ大量の雑誌……。渋谷が物理的なデータベースとして機能し、情報が格納されていたとも言われています。それが渋谷系の核の部分だったのかもしれません。
発信する音楽がどのジャンルでどういった物語の中にあるものかは影を潜め、自らの感性というアンテナがキャッチするか否かが極めて重要なのです。
インターネット登場以降、思想のイノベーター達が敏感に察知した世界感が、四半世紀を経て繋がっていくことに改めて感嘆させられます。その更に前に、リアル空間の渋谷で音楽に特化してこういったクリエイティブが発展していたと想像すると、また別の物語が始まる気がします。
興味深いのは、各々が持つ情報が同じになったからと言って、発信される音楽が世界的に均質化しているわけではないということです。それは言語が違うという単純なものではなく、カルチャーという自身の感性を如何に耕してきたかで、そこにまかれた音楽的な種がどのような花を咲かせるかの違いが生れるということです。
自分がどこにいるのか、どのようなカルチャーに触れてきたのか。意識的にも無意識でもそれぞれの国の文化的背景が音楽の中に滲み出て来る様は、音楽の奥深さを感じずにはいられません。
日本のシティポップの世界的再評価は、自分の感性に引っかかるものは無理に探しに行かなくてもアルゴリズムの中で勝手に自分の手元に届き楽しめるという潮流の一つと言えます。
一方、1980年代も1990年代も2000年代も2020年代も、アルゴリズムの上では同じ「時代」です。何を選び、どう自分の文化として再構成するか。そこに2020年代の個性が生まれていると考えられます。
日本が構築してきた文化そのものが、時代も場所も越境することに柔軟性を持っており、その象徴としての渋谷系が今、世界的がその流れの中にいるということです。
改めて東南アジアを中心にこういった現象が同時多発的に勃興している要因を考えると、歴史的背景として都市部を中心に植民地としてヨーロッパの文化を内包しており一つのルーツになっていること、デジタルになった事で市場として音楽が成熟してなくても独自の挑戦や表現が表舞台に出やすくなったこと、そして、アーティスト個々人の生活の中に幼少期からアニメやマンガだけでない日本文化が自然と入り込んでいること……。
いずれも複合的に混ざり合い音楽として表現されているのではないでしょうか?
歌は世につれ、世は歌につれ――。音楽の歴史は常に巡っていきますが、決して同じところに戻る事はありません。
かつて渋谷で行われた「編集」という音楽的な感性が、四半世紀を過ぎてアジアの様々なアーティスト達の新たな表現のつながりを感じさせています。インターネット、SNS、そしてAIによって世界中の文化がフラットになったあと、そこから何を選び、自分たちの文化としていかにつくり直していくのか。
世界はスーパーフラットに――。
J-POPやK-POPだけでない渋谷系を感じる現代のアジアンミュージックにふれると、時代の潮流の最先端に触れられるかもしれません。
日程: 2026 年9月19日(土) 【追加公演】
2026 年9月20日(日)【SOLD OUT】
会場:ベルーナドーム(西武ドーム)
SPECIAL GUESTS: Creepy Nuts
¥ØU$UK€ ¥UK1MAT$U(9月20日のみ)
※SPECIAL GUESTSの出演は開演時間からを予定
★The Weeknd 来⽇公演特設サイト
https://www.livenationhip.co.jp/allevents/the-weeknd-tickets-ae474869
(問)LIVE NATION H.I.P. 03-3475-9999 / https://www.livenationhip.co.jp/
主催・招聘・企画・制作:LIVE NATION H.I.P.
(執筆◎J-WAVE 朝から朝倉)
来日直前のこのタイミングで発表された最新リミックス曲「Out Of Time (with亜蘭知子)」は、1980年代の日本のシティポップアーティストである亜蘭知子の楽曲「Midnight Pretenders」をサンプリングした話題曲。ザ・ウィークエンドが先日の来日の際に、実際に二人で同じスタジオで音楽を制作することとなり、亜蘭知子の歌声が新たに重なるスペシャルなリミックス・バージョンとしてリリースされました。
シティポップの世界的なブームは、時代もエリアも越えて日本のアーティストや楽曲の魅力に改めて世界の音楽ファンが気付くきっかけとなりました。世界的にもフォロアーともいうべきシティポップサウンドを表現するアーティストは沢山います。その中でも、こと東南アジアにおいては日本発のある音楽ジャンルを感じさせるインディー系アーティストたちが、大変多く登場しているのです。
それが「渋谷系」です。
渋谷系とは何だったのか
渋谷系の音楽は1990年代前半に日本のミュージックシーンで独特な存在感を示したPizzicato FiveやFlipper’s Guitar(小山田圭吾、小沢健二)に代表される音楽文化です。PIZZICATO FIVE / 東京は夜の七時
GOODBYE OUR PASTELS BADGE - さようならパステルズ・バッヂ - / FLIPPER'S GUITAR【Official Music Video】
それが当時勃興した渋谷の大型CDショップや宇田川町を中心としたレコードショップから発信されたことで後に渋谷系といわれるようになりました。
当時を知る方は共感頂けると思いますが、渋谷系と言われると“何となくこういった雰囲気”という“言語化し辛いけれど明確な雰囲気”を身に纏っていたことを思い出します。ヨーロッパの空気感、知的で大人びていて、都会的にシニカルな目線を持つ。一言でまとめるなら「オシャレ」というイメージです。
音楽だけではなく、ファッションやアートワーク、映画、雑誌、ショップまでを含めた総体として、一つの世界観がつくられていたと言えるかと。
【関連記事】藤原ヒロシが考えるメディアの醍醐味は「一方通行であること」。『CUTiE』連載当時のカルチャーを語る
アジアに現れた「渋谷系的な感性」
渋谷系の世界感を纏ったアジアのアーティストとして、筆者の目線でいくつか挙げてみます。・Balming Tiger
韓国・ソウルを拠点に、ラッパーやシンガー、映像作家、プロデューサーなど多彩な才能が集まるオルタナティブK-POP集団。ドラマの主題歌に採用されたり、フェスに出演したり、J-WAVE『SAISON CARD TOKIO HOT 100』の東京チャートでNo.1を獲得したりと、日本でもとても人気のバンドです。
Balming Tiger - Oui (Official Video)
インドネシア第二の都市、スラバヤから登場した3人組バンド。1960年代のソウルやジャズ、ポップスが持つ温かな質感に、インドネシアらしい温かい空気感を重ねた、懐かしくも新しいサウンドを奏でています。
Boru
フィリピン・マニラを拠点とする女性3人組のオルタナティブ・ポップバンドです。ボーカルのティタが描く絵画や詩をもとに楽曲制作するという独特なスタイルで注目を集めるグループで、南国ならではのリラックスさとポップさを併せ持つバンドなのです。
NEW LORE - i know u by heart (Official Music Video)
勿論、こういったアーティストを一括りに語ってしまうのは、極めて乱暴な行為である事は否定できません。また、彼らが直接渋谷系を敬愛していることや、音が似ているという事を言いたいわけではありません。
ただ、どこか共通の空気感、かつて渋谷系が有していた“何となくこういった雰囲気”を感じずにはいられないのです。
特定の音色ではなく、異なる時代や地域の文化を序列なく並べ、自分たちの感覚で選び取り、編集する姿勢。それは「渋谷系が世界で流行している」というよりも、「世界の感覚が渋谷系化している」と考えた方が、現在起きている現象を正確に表していると言えるのかもしれません。
渋谷という「物理的なデータベース」
その背景を考える上で補助線として機能するのが2000年頃登場した思想です。現代アーティストの村上隆氏によるスーパーフラットの概念は、日本の伝統芸術と現代のアニメやマンガが持つ二次元性の共通性を使いながらアートに落とし込むという日本の特殊性を表現した芸術運動でした。
そこには日本における文化的背景や時間軸、上下関係が排除され、多量の情報の中で様々な記号的なパーツを並列にコラージュし、表現の中に落とし込まれていく様相が見られます。
美術と大衆文化。オリジナルとコピー。芸術と商品。伝統とサブカルチャー。そこにあったはずの上下関係をスーパーフラットは高い水準で消していったのです。
その予兆が音楽の分野で、1990年代の渋谷系に垣間見えると仮定するのはどうでしょう?
渋谷系のアーティスト達は多様な音楽ジャンルを、まるで自分の部屋のレコード棚から取り出すように編集しました。だからこそ、彼らの音楽を聴くと様々な時代の音楽を同時に感じることができたのかもしれません。
それはDJのサンプリング文化へのJ-POPからのアンサーだったと言えます。
更に言うと、渋谷系の人たちにとって重要だったのは、物理空間に要素が集まっていたという事でした。宇田川町にならぶ様々なジャンルのレコード店、何十万枚のCDを所蔵する巨大ショップ、クラブ、古着屋、ミニシアター、コンビニに並ぶ大量の雑誌……。渋谷が物理的なデータベースとして機能し、情報が格納されていたとも言われています。それが渋谷系の核の部分だったのかもしれません。
小沢健二 featuring スチャダラパー - 今夜はブギー・バック(nice vocal)
全てがスマートフォンの中に
現在、その役割を担うのはYouTube、Spotify、Instagram、TikTokとスマートフォンの中に全て集約されています。余りある情報の中で自らの感性でセレクトしたコンテンツを再編集して新しいものとして発信する。そういった現象が起きているのです。アルゴリズムによる情報の海の中で、異なる国、時代、ジャンルではなく、今、自分が出会った今のものになる。発信する音楽がどのジャンルでどういった物語の中にあるものかは影を潜め、自らの感性というアンテナがキャッチするか否かが極めて重要なのです。
インターネット登場以降、思想のイノベーター達が敏感に察知した世界感が、四半世紀を経て繋がっていくことに改めて感嘆させられます。その更に前に、リアル空間の渋谷で音楽に特化してこういったクリエイティブが発展していたと想像すると、また別の物語が始まる気がします。
興味深いのは、各々が持つ情報が同じになったからと言って、発信される音楽が世界的に均質化しているわけではないということです。それは言語が違うという単純なものではなく、カルチャーという自身の感性を如何に耕してきたかで、そこにまかれた音楽的な種がどのような花を咲かせるかの違いが生れるということです。
自分がどこにいるのか、どのようなカルチャーに触れてきたのか。意識的にも無意識でもそれぞれの国の文化的背景が音楽の中に滲み出て来る様は、音楽の奥深さを感じずにはいられません。
日本のシティポップの世界的再評価は、自分の感性に引っかかるものは無理に探しに行かなくてもアルゴリズムの中で勝手に自分の手元に届き楽しめるという潮流の一つと言えます。
一方、1980年代も1990年代も2000年代も2020年代も、アルゴリズムの上では同じ「時代」です。何を選び、どう自分の文化として再構成するか。そこに2020年代の個性が生まれていると考えられます。
ELASTIC GIRL / カヒミ・カリィ【Official Music Video】
日本ブームではない、渋谷系的なもの
繰り返しになりますが、日本ブームだから日本的音楽が流行しているというものでは決してありません。日本が構築してきた文化そのものが、時代も場所も越境することに柔軟性を持っており、その象徴としての渋谷系が今、世界的がその流れの中にいるということです。
改めて東南アジアを中心にこういった現象が同時多発的に勃興している要因を考えると、歴史的背景として都市部を中心に植民地としてヨーロッパの文化を内包しており一つのルーツになっていること、デジタルになった事で市場として音楽が成熟してなくても独自の挑戦や表現が表舞台に出やすくなったこと、そして、アーティスト個々人の生活の中に幼少期からアニメやマンガだけでない日本文化が自然と入り込んでいること……。
いずれも複合的に混ざり合い音楽として表現されているのではないでしょうか?
歌は世につれ、世は歌につれ――。音楽の歴史は常に巡っていきますが、決して同じところに戻る事はありません。
かつて渋谷で行われた「編集」という音楽的な感性が、四半世紀を過ぎてアジアの様々なアーティスト達の新たな表現のつながりを感じさせています。インターネット、SNS、そしてAIによって世界中の文化がフラットになったあと、そこから何を選び、自分たちの文化としていかにつくり直していくのか。
世界はスーパーフラットに――。
J-POPやK-POPだけでない渋谷系を感じる現代のアジアンミュージックにふれると、時代の潮流の最先端に触れられるかもしれません。
The Weeknd 来日公演情報
タイトル:The Weeknd: After Hours Til Dawn Tour日程: 2026 年9月19日(土) 【追加公演】
2026 年9月20日(日)【SOLD OUT】
会場:ベルーナドーム(西武ドーム)
SPECIAL GUESTS: Creepy Nuts
¥ØU$UK€ ¥UK1MAT$U(9月20日のみ)
※SPECIAL GUESTSの出演は開演時間からを予定
★The Weeknd 来⽇公演特設サイト
https://www.livenationhip.co.jp/allevents/the-weeknd-tickets-ae474869
(問)LIVE NATION H.I.P. 03-3475-9999 / https://www.livenationhip.co.jp/
主催・招聘・企画・制作:LIVE NATION H.I.P.
(執筆◎J-WAVE 朝から朝倉)
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