解剖学者の養老孟司が、AI時代の人間のあり方や、自身が考える「豊かさ」について語った。
養老が登場したのは、J-WAVE『JUST A LITTLE LOVIN'』(ナビゲーター:中田絢千)の「LIVING ON THE EARTH」。豊かさ・幸せにつながるオピニオンを週替わりのゲストに伺うコーナーだ。ここでは8月13日(木)のオンエア内容をテキストで紹介する。
【関連記事】8/12(水)放送:養老孟司の戦後の記憶――「あの感じは今でも忘れません」知り合いのおばあさんの衝撃だった一言とは?
まず中田が、90年近く生きてきた養老に「年齢を重ねるなかで、昔よりわからなくなったことはあるんですか」と尋ねると、養老は「ありますよ、たくさん」と答えた。
養老:いちばん考えるのは、世界の出来事をどう整理したらいいかということですね。なんかそういうふうにしたいんですよ。世界を整理したいっていう。
中田:それは自分なりの結論をつける、ということなんでしょうか。
養老:それに近いですね。考えていることの整理です。世界っていったいどうなっているんだろう、と。“世界を切り分ける”なんてのは随分大げさな話ですから、非常にいい具体例がないと自分でも納得がいかない。そうすると、そういうものを探しているわけじゃないんだけど、何かしていてもなんとなく考えが向くんですね。
中田:養老先生は簡単に意味付けをされないですよね。「こうであるべき」と断言しないというか。
養老:そんなものないんですよ。人間の世界にしかない。
中田:でも「はっきり言わないと」みたいな風潮もすごく今あるじゃないですか。何にでも白黒はっきり答えをつけなさい、ではないですけど。
養老:コンピューターなら0か1かと迫ることはできますけど、そんなことは実際の世界でできるわけがない。
中田:では、私たちがコンピューターに迫っていっている感があるということですかね。
養老:そうです。ああいうものって、ちょっと怖いところがあって。よく「AIが人間並みになってきた」とか言うんだけど、そうじゃなくて「人間がAI並みになっていった」んですよ。
中田:逆ということですね。
養老:そう、AIを人に近づけているんじゃないんです。たとえば「AIが人間の能力を超える」とよく言っていますね。「お前、いつ人間の能力を測ったんだよ」と言いたい。人間の能力がどこまであるかなんて、いったい誰が測ったんだ。
中田:私たちには計り知れないし、生涯わかるということはないですね、きっと。
養老:そうですよ。でも、平気で言いますよ「人工知能が人を超える」って。
中田:その「超える」っていうのはどういうことなの? ってことですよね。
養老:そうです。「それ、わかって言っているのか」ってね。僕はそういう言葉が横行している時代に育ってますから。何かと言えば、「神国日本」「無敵皇軍」「本土決戦一億玉砕」、そんなもの全部パーですよ。何にも根拠がないスローガンですね。そのころによく似てきたなと思って。そういう表現が平気で横行していますけど、それを僕は「脳化」(のうか)と言っています。要するに、頭の中の世界に住むようにしていくんです。その行き着く先がAIだったわけであって。都市がそもそもそうですね。人が作ったものしか置かない。そんなこと決めているわけではないんだけど、なんとなくそういう約束事になってくるんです。
養老:切羽詰まっていないという感じですね。極端な行動に走るのは、基本的に余裕がないときです。(ドナルド・)トランプなんか十分余裕があるはずなんだけど、それが余裕になっていない。だから、あんまり豊かな感じがしない。
中田:今の日本も余裕がちょっとない感じですかね。
養老:昔に比べたらかなり余裕が出てきたんじゃないかなと思います。だから、逆に余裕のない人が目立ちますね。キリキリ文句を言う、クレーマーですね。僕はよく講演していて思うんですが、年配の男の人が機嫌が悪いんですね。
中田:それはどうして?
養老:クスリともせずに、ずっと1時間半座って聴いている。以前、内田 樹さんにその話を持ちかけて、「あれ何でしょうね」と言ったら、「日本人は我慢して一生懸命やっていれば、あとで必ずいいことがあるという教育できたんだけど、あの年になってもいいことないじゃないかと怒っているんだよ」と言っていた(笑)。だから、豊かってことは辛抱しない……辛抱しないと言うと語弊があるので、もう少し「余白がある」というか。日本は余白の文化だったんです。お茶の掛け軸も何を書いてあるのかわからない、3分の1以上白紙になっているのを飾っていますけど、余白でいいんですよ。だって、首相が就任のあとでなんて言いました? 「働いて働いて働いて働いて働いてまいります」ってね。それが暗黙のうちに美徳とされているんでしょうね。それがないのが豊かさだと僕は思っています。
中田:余白、必要ですね。真っ白でちょこっと書いてある、でもいいんですよね。
養老:真っ白で隅っこに「虫」って書いてあったりする。
中田:ふふふ(笑)。それが養老さんの余白ですね。
養老:そう。
『JUST A LITTLE LOVIN'』のコーナー「LIVING ON THE EARTH」では、豊かさや幸せについて考えるヒントを、ゲストを迎えてお届けする。放送は毎週月~木曜の5時10分ごろから。
養老が登場したのは、J-WAVE『JUST A LITTLE LOVIN'』(ナビゲーター:中田絢千)の「LIVING ON THE EARTH」。豊かさ・幸せにつながるオピニオンを週替わりのゲストに伺うコーナーだ。ここでは8月13日(木)のオンエア内容をテキストで紹介する。
【関連記事】8/12(水)放送:養老孟司の戦後の記憶――「あの感じは今でも忘れません」知り合いのおばあさんの衝撃だった一言とは?
「AIが人間並みになった」のではなく「人間がAI並みになった」
養老孟司は、かつての教え子であり腫瘍内科医の高野利実との共著『“幸せ”よりも“居心地”のよい生き方』(ビジネス社)を7月に発売した。まず中田が、90年近く生きてきた養老に「年齢を重ねるなかで、昔よりわからなくなったことはあるんですか」と尋ねると、養老は「ありますよ、たくさん」と答えた。
養老:いちばん考えるのは、世界の出来事をどう整理したらいいかということですね。なんかそういうふうにしたいんですよ。世界を整理したいっていう。
中田:それは自分なりの結論をつける、ということなんでしょうか。
養老:それに近いですね。考えていることの整理です。世界っていったいどうなっているんだろう、と。“世界を切り分ける”なんてのは随分大げさな話ですから、非常にいい具体例がないと自分でも納得がいかない。そうすると、そういうものを探しているわけじゃないんだけど、何かしていてもなんとなく考えが向くんですね。
中田:養老先生は簡単に意味付けをされないですよね。「こうであるべき」と断言しないというか。
養老:そんなものないんですよ。人間の世界にしかない。
中田:でも「はっきり言わないと」みたいな風潮もすごく今あるじゃないですか。何にでも白黒はっきり答えをつけなさい、ではないですけど。
養老:コンピューターなら0か1かと迫ることはできますけど、そんなことは実際の世界でできるわけがない。
中田:では、私たちがコンピューターに迫っていっている感があるということですかね。
養老:そうです。ああいうものって、ちょっと怖いところがあって。よく「AIが人間並みになってきた」とか言うんだけど、そうじゃなくて「人間がAI並みになっていった」んですよ。
中田:逆ということですね。
養老:そう、AIを人に近づけているんじゃないんです。たとえば「AIが人間の能力を超える」とよく言っていますね。「お前、いつ人間の能力を測ったんだよ」と言いたい。人間の能力がどこまであるかなんて、いったい誰が測ったんだ。
中田:私たちには計り知れないし、生涯わかるということはないですね、きっと。
養老:そうですよ。でも、平気で言いますよ「人工知能が人を超える」って。
中田:その「超える」っていうのはどういうことなの? ってことですよね。
養老:そうです。「それ、わかって言っているのか」ってね。僕はそういう言葉が横行している時代に育ってますから。何かと言えば、「神国日本」「無敵皇軍」「本土決戦一億玉砕」、そんなもの全部パーですよ。何にも根拠がないスローガンですね。そのころによく似てきたなと思って。そういう表現が平気で横行していますけど、それを僕は「脳化」(のうか)と言っています。要するに、頭の中の世界に住むようにしていくんです。その行き着く先がAIだったわけであって。都市がそもそもそうですね。人が作ったものしか置かない。そんなこと決めているわけではないんだけど、なんとなくそういう約束事になってくるんです。
「豊かさ」とは「余白がある」こと
コーナーの最後に毎回ゲストへ尋ねている「豊かさ」について、「今、養老が考える豊かさとは何なのか」を訊いた。養老:切羽詰まっていないという感じですね。極端な行動に走るのは、基本的に余裕がないときです。(ドナルド・)トランプなんか十分余裕があるはずなんだけど、それが余裕になっていない。だから、あんまり豊かな感じがしない。
中田:今の日本も余裕がちょっとない感じですかね。
養老:昔に比べたらかなり余裕が出てきたんじゃないかなと思います。だから、逆に余裕のない人が目立ちますね。キリキリ文句を言う、クレーマーですね。僕はよく講演していて思うんですが、年配の男の人が機嫌が悪いんですね。
中田:それはどうして?
養老:クスリともせずに、ずっと1時間半座って聴いている。以前、内田 樹さんにその話を持ちかけて、「あれ何でしょうね」と言ったら、「日本人は我慢して一生懸命やっていれば、あとで必ずいいことがあるという教育できたんだけど、あの年になってもいいことないじゃないかと怒っているんだよ」と言っていた(笑)。だから、豊かってことは辛抱しない……辛抱しないと言うと語弊があるので、もう少し「余白がある」というか。日本は余白の文化だったんです。お茶の掛け軸も何を書いてあるのかわからない、3分の1以上白紙になっているのを飾っていますけど、余白でいいんですよ。だって、首相が就任のあとでなんて言いました? 「働いて働いて働いて働いて働いてまいります」ってね。それが暗黙のうちに美徳とされているんでしょうね。それがないのが豊かさだと僕は思っています。
中田:余白、必要ですね。真っ白でちょこっと書いてある、でもいいんですよね。
養老:真っ白で隅っこに「虫」って書いてあったりする。
中田:ふふふ(笑)。それが養老さんの余白ですね。
養老:そう。
『JUST A LITTLE LOVIN'』のコーナー「LIVING ON THE EARTH」では、豊かさや幸せについて考えるヒントを、ゲストを迎えてお届けする。放送は毎週月~木曜の5時10分ごろから。
番組情報
- JUST A LITTLE LOVIN'
-
月・火・水・木曜5:00-6:00