「本格的なバドミントンラケットを…」登山家・渡邊直子が語る、世界最高峰のベースキャンプの“意外な日常”とは?

登山家で看護師の渡邊直子が、印象的だった海外登山のエピソードを語った。

渡邊が登場したのは、ゲストにさまざまな国での旅の思い出を聞く、J-WAVEの番組『ANA WORLD AIR CURRENT』(ナビゲーター:葉加瀬太郎)。ここでは、7月11日(土)にオンエアした内容をテキストで紹介する。

番組は、Spotifyなどのポッドキャストでも聴くことができる。

・ポッドキャストページ

ネパールで見つけた「素直な自分」

渡邊直子は、3歳から登山やサバイバルキャンプに単身で参加し、幼いころからアジアの子どもたちとの海外登山やキャンプを経験。小学4年生で雪山登山の魅力に引き込まれ、中学1年生のときにはパキスタンで標高4,700メートルの雪山登山に挑戦。長崎大学水産学部、日本赤十字豊田看護大学を卒業後は看護師として働き、その給与のほとんどを遠征費に充てながら、ほぼ毎年ヒマラヤの8,000メートル峰への挑戦を続けた。

2024年10月には、日本人女性として初めて8,000メートル峰14座の登頂を達成。さらに、世界第2位峰・K2への3度の登頂は、女性として世界最多記録となり、ギネス世界記録にも認定されている。

葉加瀬:ひと言では片付けられないほど大変な偉業だと思います。思い出の登山というと、やはりネパール・ヒマラヤになりますか?

渡邊:そうですね。

葉加瀬:きっかけは何だったんですか?

渡邊:ヒマラヤ山脈で初めて峰を目指したのが「マルディヒマール」という、約5,600メートルの山だったんです。子どものころはパキスタン側のヒマラヤに行っていたんですが、ネパールで初めて登ったのがこの山でした。そこで「ネパールもめちゃくちゃいいところやん!」と思って(笑)。特に人がすごくよくて、自分に合っていたんです。日本では、人と話して疲れたり、気を遣ったりして、ひとりでいるほうが楽だと思うこともあるんですけど、ヒマラヤでは現地の人たちとずっと話していたいと思える。全然気を遣わずにいられるし、自然体の自分でいられるんです。素直な自分に戻れるので、ネパールが大好きになりました。

葉加瀬:自然環境の違いもあるでしょうし、人との距離感やコミュニケーションの違いも大きいんでしょうね。

渡邊:そうですね。特にシェルパ族の人たちが私にはすごく合っていて、「やっぱりネパールだな」と思いました。

進化するヒマラヤ遠征の実情

続いて渡邊は、ヒマラヤには富士山と同レベルでさまざまな設備が整っていると明かした。

渡邊:富士山って日本でいちばん高い山ですけど、多くの人が登れますよね。エベレストも世界一高い山ですが、サービスがとても充実しているんです。ベースキャンプは今やグランピングみたいな状態で、コックさんがステーキを焼いてくれたり、カフェやバーがあったり、ベッドで寝ている人もいます。そういう意味では、富士山と同じくらい整っています。

葉加瀬:もちろん、トレーニングや知識は必要ですよね。

渡邊:そうですね。

葉加瀬:ひとつの山を登るのに、どれくらいの期間がかかるんですか?

渡邊:昔は1座に2カ月くらいかかっていましたが、最近はサービスも整ってきて、20日くらいで終わる遠征もあります。海外では、エベレストを3日で登って遠征を終えた人もいるので、そういう時代になってきました。

葉加瀬:でも、3日は現実的ではないですよね?

渡邊:おそらく事前に高所順応のトレーニングをしてから来ているんだと思います。

葉加瀬:本来は時間をかけて、徐々に体を慣らしていかないと難しいですよね。

渡邊:はい。昔は高所順応を5回くらい繰り返してから登頂する流れでしたが、今は1~2回のほうが効率がよく、シェルパ族の負担も減るということで変わってきています。

葉加瀬:新時代だね!

渡邊:本当に新時代です。酸素ボンベも、ベースキャンプなど、以前より早い段階から使う人が増えてきてます。

葉加瀬:科学的な知見も進んで、安全性も高まっているんでしょうね。それでもすごいことですよ。

シェルパとの交流が登山の醍醐味

山で多くの時間をともにするシェルパ族たちは、渡邊にとって特別な存在だという。ヒマラヤ登山を通じて築いたシェルパ族との関係性について話を聞いた。

渡邊:私は山登りそのものが楽しくて行っているわけではないので、山の話はあまりしたくないんです(笑)。天気やルート、今年登れるかどうかといった話よりも、シェルパたちと関係のない雑談をしているほうが楽しいんですよ。

葉加瀬:そうなんですか(笑)。

渡邊:シェルパはプライドが高いので、昔の貧しかった話や嫌だった経験はあまり話さないんです。でも、私はネパール語が話せるので、打ち解けてくると「実はね」「他の人には話したことないんだけど」と聞かせてくれて、それが本当に面白いですね。

葉加瀬:シェルパにとっても、渡邊さんは他の登山家とは違う存在なんだろうなあ(笑)。

渡邊:違うと思いますね(笑)。家族みたいな関係になりすぎて、たまにバカにされるくらいで(笑)。でも、他の人には話さないことを聞かせてもらえたり、「特別な存在」と思ってくれているのはうれしいですし、自信にもなりますね。

登山にバドミントンラケットを持参!?

続いて、葉加瀬は「ヒマラヤで好きな場所を挙げるとしたら?」と問いかけた。

渡邊:やっぱりベースキャンプが最高です。平らなベースキャンプがいくつかあるんですが、そこでバドミントンやバレーボールをしたり、パラグライダーやジャグリングの練習をしたりする人もいます。フラットだからみんな遊びやすいんですよね。「今回はここに行ける」と思うだけでテンションが上がります。実は、今度8,000メートル峰のパキスタンへ行く予定なんですが、そこのベースキャンプも平らなので、先日、本格的なバドミントンラケットを買いました!

葉加瀬:ウォーミングアップのような時間もあるわけですね。

渡邊:今回は12人を連れて行くんですが、全員初心者です。そのなかには頂上を目指す人もいるので、教えたり、マネジメントしたりで忙しくなります。

葉加瀬:今回はどれくらいの遠征になりますか?

渡邊:早ければ20日ですが、1カ月くらいですね。

葉加瀬:体力だけでなく、マネジメント力も重要なんですね。

渡邊:すごく大事です。体力や技術がある人が必ず登頂できるわけではないことを、8,000メートル峰で何度も実感しました。いちばん大切なのは、高所順応をうまく進めること、自分の力量を正確に理解することです。たとえ体力がなくても、「自分は弱いからこう対策しよう」と理解して、それを周りにもきちんと伝えられる人は、コツコツ積み上げて登頂しています。それから、情報収集も重要です。現地会社やシェルパたちから「今回はVIPの登山家が来る」といった情報を聞けば、優秀なシェルパが付くと予測できるので、そのチームと行動したほうが登頂率が上がる、など戦略が立てられます。

葉加瀬:なるほどね!

山も海も楽しめる韓国・済州島の魅力

渡邊にとって思い出深い場所のひとつが、韓国・済州(チェジュ)。大学生だった2003年に交換留学で滞在した場所であり、島には韓国最高峰の漢拏山(ハルラサン)がそびえる。

葉加瀬:当時、海女さんを取材していたんですよね。

渡邊:はい。済州島は昔、日本の植民地だったこともあって、日本に嫌悪感を抱いているおばちゃんたちもいて。最初は私がインタビューしようとしても「こっち来るな」とか言われていたんですよ。それでもめげずに毎日通い続けたら、「じゃあ、インタビュー受けてやるよ」と言ってもらえて。そこから仲良くなって、いろいろな話を聞くことができて、それは今でもいい思い出ですね。あと、済州島は島なのに韓国でいちばん高い山があるんです。島であり山でもあるというのが変わってるなと、冬には雪も降りますし。韓国へ行く前は、韓国人の子どもたちと冒険活動をしていたので、「韓国ってどんなところなんだろう」と思っていたんですが、ごはんはおいしいし、黒豚もあるんですよね。

葉加瀬:済州はシーフードも豊富ですよね。

渡邊:そうですね。サザエやアワビなども獲れます。それから、あまり輸出されていないんですが、みかんが本当においしいんですよ。毎日新しい発見があって、とても楽しかったですね。

人との出会いが挑戦の原動力

パキスタンを訪れるようになったきっかけについて訊くと、渡邊はヒマラヤの一部を成すカラコルム山脈がパキスタンにあることから、中学1年生と高校2年生のときの2度にわたって現地を訪れたと振り返る。初めて足を踏み入れた中学1年生のときは、何よりも現地の独特な匂いが強く印象に残っているという。

葉加瀬:どんな匂い? スパイスみたいな?

渡邊:そうですね。嗅いだことのない匂いでした。それに、みんな同じ白い服を着ていて、「この国は何なんだろう」と思いました。当時はすごく純粋だったので、日本人スタッフに「このゲートをくぐったら私もパキスタン人になるの?」って訊いたくらいで(笑)。パキスタン人スタッフが逃げたり、物を盗まれたり、ハプニングだらけだったんですが、それも含めて面白かったですね。スタッフたちがハプニングを楽しめる大人たちだったので、私もそういう性格になったというか。それから、山の形がネパールとは少し違って、ギザギザしていて、すごく壮大なんですよ。その景色が本当に印象に残っていて、大好きなヒマラヤです。

葉加瀬:ネパールから見るヒマラヤとは、ずいぶん違うんですね。

渡邊:最初に行ったのがパキスタンで、そのあとにネパールへ行ったんですね。ネパールは丸みのある山並みで、緑も多いんですが、パキスタンはとにかくギザギザしていて、かっこいい!

葉加瀬:登るうえでも違いはあるんですか?

渡邊:近くまで行くと、そこまで尖って見えるわけではないんですが、遠くから見ると全然違います。

葉加瀬:どこへ行っても渡邊さんは人と交流することを大切にされていますよね。

渡邊:日本ではもともとひとりっ子で引っ込み思案でしたし、人と話すことも大勢のなかにいることも苦手で。それを克服したい、自分の嫌いなところを好きになりたいと思って、ネパールやパキスタンへ通うようになったんです。コミュニケーションが大好きというわけではなくて、「どうしたらコミュニケーションが取れるかな」と思って通い続けていました。

葉加瀬:ここまで長く通っていると、顔なじみというか、家族のようなお付き合いをしている方も多いんじゃないですか?

渡邊:そうですね。海外の登山家は数人ですが、本当に親友のような存在になりました。それから、シェルパ族の人たちは、もうほとんど私のことを知っていると思います(笑)。それだけたくさんコミュニケーションを取ってきました。

渡邊直子の最新情報は公式サイトまで。

葉加瀬太郎がゲストの旅のエピソードを聞くJ-WAVE『ANA WORLD AIR CURRENT』は、毎週土曜19時からオンエア。
番組情報
ANA WORLD AIR CURRENT
毎週土曜
19:00-19:54

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