「FUJI ROCK FESTIVAL'26」に出演した、アメリカ・テキサス出身の3人組バンド、クルアンビン(Khruangbin)の魅力に迫った。
この内容をお届けしたのは、7月22日(水)放送のJ-WAVE『MIDDAY LOUNGE』(ナビゲーター:クリス・ペプラー)の「TWO ROOMS MUSIC EXPLORER」。世界の音楽シーンのムーブメントを“今”の視点で考察するコーナーだ。
『MIDDAY LOUNGE』はグローバルなルーツを持つ国際色豊かなナビゲーターたちが、リスナーと一緒に「新しい自分、新しい世界と出会う」3時間のプログラム。ナビゲーターは、月曜 ハリー杉山、火曜 市川紗椰、水曜 クリス・ペプラー、木曜 ジョン・カビラが日替わりで担当している。
「クルアンビン」はタイ語で「飛行機」を意味する。そのバンド名やサウンドから、タイやアジアの音楽をルーツに持つグループという印象を受ける人も多いだろう。しかし、彼らはタイではなくアメリカ・テキサス出身。彼らがタイ音楽に惹かれた理由は、「誰も聴いたことのない新しい音を見つけたかったから」だったという。
クリス:自分たちのオリジナリティを表現するために、テキサスとは真逆とも言えるタイの音楽に目を向けたのではないかと思います。そうした「新しいものに挑戦したい」という思いから、クルアンビンはスタートしました。テキサスと聞くと、スティーヴィー・レイ・ヴォーンやZZトップを思い浮かべますが、そうしたイメージとはまったく違います。彼らがタイ音楽を取り入れたのは、「東洋の神秘」に惹かれたからではなく、「この音が最高にクールだから」という、とてもシンプルな理由でした。
ところが、クルアンビンのメンバーが育ったアメリカ・テキサス州ヒューストンには、さまざまなルーツを持つ移民が暮らしているそう。フロントマンのマークは「彼らの家に遊びに行けば、それぞれの家庭の母国の音が流れている。それが本当にエキサイティングだった」と語っている。
クリス:アジア系だけでなく、中東やソマリアなど、さまざまな地域からの移民がアメリカ南部や中西部には多く暮らしています。イスラム教徒の方が多く暮らすエリアもあって、一般的なイメージとはちょっと違うアメリカの姿があるんです。新しい楽器やエフェクターを取り入れるのと同じ感覚で、民族楽器の響きを自然に取り入れるのが、今の時代の特徴なのかもしれないですね。エキゾチックなロマンを求めているのではなく、そのグルーヴや音色そのものが魅力だから使う。ポップミュージックでは、ミュージシャンは常に新しい音を探していますから、その流れのなかで民族音楽も取り入れられているわけです。
クリス:ジョージはインド音楽やインド哲学、瞑想に深く傾倒し、その流れはビートルズ全体にも広がりました。彼がロックにシタールを持ち込んだ功績は非常に大きいのですが、実際のところ、ジョージ自身はシタールを十分に弾きこなせていたわけではありません。その後、普通のギター感覚で弾ける「シタールギター」という楽器まで登場しました。シタールっぽい音色は出せるけれど、本物のシタールとは違う楽器です。インドの人から見たら、「なんとも不思議な楽器が生まれたな」と感じたかもしれませんね。
一方で、自らのアイデンティティを表現する手段として、伝統楽器を積極的に取り入れたアーティストもいた。その代表例としてクリスは、1970年代後半からアメリカで活躍した日系人バンド、HIROSHIMAを挙げる。彼らは、アメリカのジャズやフュージョンを基調とした洗練されたサウンドに、日本の伝統楽器である尺八や琴を大胆に取り入れ、独自の音楽性を築き上げた。
クリス:『Lion Dance』という曲をお届けしました。タイトルも「獅子舞」ですし、日本の伝統文化をモチーフにしようという意図が伝わってきます。ただ……日本の楽器を使っているんだけど、どこかカンフー映画に出てきてもおかしくないようなサウンドなんですよね。当時の欧米のメインストリームでは、東洋の神秘や珍しさが先に評価されることが多かったんだと思います。
ここでクリスは、こうした西洋からの目線について、坂本龍一が海外メディアのあるインタビューで語った言葉を紹介した。
クリス:坂本龍一さんが痛快な言葉を残しています。あるとき、教授(坂本龍一)は「なぜ、日本人なのに琴や三味線といった日本の伝統的な楽器を使わないのか?」と質問されたそうです。それに対して坂本さんは、あっさりとこう答えたんです。「だって、家にあったのはエレクトーンだったから」。さすが、教授。坂本龍一さんにとってもっとも馴染みのある楽器は、琴や三味線ではなく、家にあったエレクトーンだったんですね。東洋人だから和楽器を使うべきという勝手な思い込みを、軽やかに一蹴した名言だと思います。
クリス:今は、かつてのように欧米から見たエキゾチズムとして民族音楽を使う時代ではありません。純粋に「かっこいい新しい音」として、エスニックな要素が取り入れられています。その新しい潮流として注目したいのが、東南アジアです。5月にもこの番組で、コーチェラのステージごとの視聴者数からフィリピンのP-POPを紹介しました。世界的に見ても、コーチェラはフィリピンからの視聴者数が非常に多かったんです。フィリピン初のガールズグループ、BINIが出演した際には、ファーストウィークの配信視聴者数が2位という非常に高い数字でした。コーチェラ出演をきっかけに、世界的な人気も高まっています。
BINIの洗練されたダンスポップには、フィリピンの伝統楽器である口琴「クビン」の音色が取り入れられている。クリスは、2026年のコーチェラでは『Salamin, Salamin』のダンスブレイクでクビンが用いられ、楽曲に力強いアクセントと独自性をもたらしていたと語る。
また、インドネシアのアーティスト・Nonaの楽曲にも、伝統的なガムランの打楽器の響きが取り入れられている。
クリス:「これは伝統音楽です」と強調するのではなく、最新のポップスの流れのなかで、ごく自然に「最高にクールな音」として使われているんです。特にフィリピンやインドネシアなど、マレー系のルーツを持つ音楽は、とても力強いグルーヴを生み出しています。
フィリピンとインドネシアは、ともに民族や言語のルーツをたどるとマレー系文化圏に属している。その土地で古くから受け継がれてきたリズムやメロディーの感覚が、現代のヒップホップやR&Bと融合し、新たな音楽を生み出し始めているという。クリスは、欧米のポップスにはない独特の揺らぎや熱気が、世界の音楽シーンに新たなうねりをもたらしていると語る。
クリス:こうした東南アジアのアーティストたちも、クルアンビンと同じように「伝統を守る」という意識よりも、「知らなかったかっこいい音を使っている」という感覚なのだと思います。その最前線にいるのがクルアンビンのようなバンドであり、マレー系の熱いグルーヴなのかもしれません。私もフジロックで、その新しいワールドミュージックの波を、実際に肌で感じてきたいと思います。
J-WAVE『MIDDAY LOUNGE』のコーナー「TWO ROOMS MUSIC EXPLORER」では、世界の音楽シーンのムーブメントを「今」の視点で考察する。放送は月曜~木曜の14時ごろから。
この内容をお届けしたのは、7月22日(水)放送のJ-WAVE『MIDDAY LOUNGE』(ナビゲーター:クリス・ペプラー)の「TWO ROOMS MUSIC EXPLORER」。世界の音楽シーンのムーブメントを“今”の視点で考察するコーナーだ。
『MIDDAY LOUNGE』はグローバルなルーツを持つ国際色豊かなナビゲーターたちが、リスナーと一緒に「新しい自分、新しい世界と出会う」3時間のプログラム。ナビゲーターは、月曜 ハリー杉山、火曜 市川紗椰、水曜 クリス・ペプラー、木曜 ジョン・カビラが日替わりで担当している。
テキサス出身バンドがタイ音楽を取り入れた理由
7月24日(金)から26日(日)までの3日間、「FUJI ROCK FESTIVAL '26」が開催された。7月25日(土)のヘッドライナーを務めたのは、アメリカ・テキサス出身のトリオ、クルアンビンだ。今回は「クルアンビンから考える、新しいワールドミュージックとは」をテーマに、彼らの音楽的ルーツや、現代におけるワールドミュージックの広がりについて掘り下げた。「クルアンビン」はタイ語で「飛行機」を意味する。そのバンド名やサウンドから、タイやアジアの音楽をルーツに持つグループという印象を受ける人も多いだろう。しかし、彼らはタイではなくアメリカ・テキサス出身。彼らがタイ音楽に惹かれた理由は、「誰も聴いたことのない新しい音を見つけたかったから」だったという。
クリス:自分たちのオリジナリティを表現するために、テキサスとは真逆とも言えるタイの音楽に目を向けたのではないかと思います。そうした「新しいものに挑戦したい」という思いから、クルアンビンはスタートしました。テキサスと聞くと、スティーヴィー・レイ・ヴォーンやZZトップを思い浮かべますが、そうしたイメージとはまったく違います。彼らがタイ音楽を取り入れたのは、「東洋の神秘」に惹かれたからではなく、「この音が最高にクールだから」という、とてもシンプルな理由でした。
ところが、クルアンビンのメンバーが育ったアメリカ・テキサス州ヒューストンには、さまざまなルーツを持つ移民が暮らしているそう。フロントマンのマークは「彼らの家に遊びに行けば、それぞれの家庭の母国の音が流れている。それが本当にエキサイティングだった」と語っている。
クリス:アジア系だけでなく、中東やソマリアなど、さまざまな地域からの移民がアメリカ南部や中西部には多く暮らしています。イスラム教徒の方が多く暮らすエリアもあって、一般的なイメージとはちょっと違うアメリカの姿があるんです。新しい楽器やエフェクターを取り入れるのと同じ感覚で、民族楽器の響きを自然に取り入れるのが、今の時代の特徴なのかもしれないですね。エキゾチックなロマンを求めているのではなく、そのグルーヴや音色そのものが魅力だから使う。ポップミュージックでは、ミュージシャンは常に新しい音を探していますから、その流れのなかで民族音楽も取り入れられているわけです。
伝統楽器が映し出す時代の価値観
クリスは、かつてエスニック音楽の要素を取り入れる際には、欧米から見た「神秘的なオリエント」という、一方的なイメージが先行していたと分析する。その代表例として挙げたのが、ビートルズのジョージ・ハリスンによるシタールの導入である。クリス:ジョージはインド音楽やインド哲学、瞑想に深く傾倒し、その流れはビートルズ全体にも広がりました。彼がロックにシタールを持ち込んだ功績は非常に大きいのですが、実際のところ、ジョージ自身はシタールを十分に弾きこなせていたわけではありません。その後、普通のギター感覚で弾ける「シタールギター」という楽器まで登場しました。シタールっぽい音色は出せるけれど、本物のシタールとは違う楽器です。インドの人から見たら、「なんとも不思議な楽器が生まれたな」と感じたかもしれませんね。
一方で、自らのアイデンティティを表現する手段として、伝統楽器を積極的に取り入れたアーティストもいた。その代表例としてクリスは、1970年代後半からアメリカで活躍した日系人バンド、HIROSHIMAを挙げる。彼らは、アメリカのジャズやフュージョンを基調とした洗練されたサウンドに、日本の伝統楽器である尺八や琴を大胆に取り入れ、独自の音楽性を築き上げた。
Lion Dance
ここでクリスは、こうした西洋からの目線について、坂本龍一が海外メディアのあるインタビューで語った言葉を紹介した。
クリス:坂本龍一さんが痛快な言葉を残しています。あるとき、教授(坂本龍一)は「なぜ、日本人なのに琴や三味線といった日本の伝統的な楽器を使わないのか?」と質問されたそうです。それに対して坂本さんは、あっさりとこう答えたんです。「だって、家にあったのはエレクトーンだったから」。さすが、教授。坂本龍一さんにとってもっとも馴染みのある楽器は、琴や三味線ではなく、家にあったエレクトーンだったんですね。東洋人だから和楽器を使うべきという勝手な思い込みを、軽やかに一蹴した名言だと思います。
東南アジアが生む新世代のワールドミュージック
続いて紹介したのは、ワールドミュージックの最新形ともいえるサウンド。オランダの4人組バンド、YIN YINの『Takahashi Timing』をオンエアした。タイトルの由来は、ツアースタッフとして帯同する日本人スタッフで、その人物が決して仕事に遅刻しないことから、この曲名が付けられたという。Takahashi Timing official audio video
BINIの洗練されたダンスポップには、フィリピンの伝統楽器である口琴「クビン」の音色が取り入れられている。クリスは、2026年のコーチェラでは『Salamin, Salamin』のダンスブレイクでクビンが用いられ、楽曲に力強いアクセントと独自性をもたらしていたと語る。
また、インドネシアのアーティスト・Nonaの楽曲にも、伝統的なガムランの打楽器の響きが取り入れられている。
no na - rollerblade (Official Music Video)
フィリピンとインドネシアは、ともに民族や言語のルーツをたどるとマレー系文化圏に属している。その土地で古くから受け継がれてきたリズムやメロディーの感覚が、現代のヒップホップやR&Bと融合し、新たな音楽を生み出し始めているという。クリスは、欧米のポップスにはない独特の揺らぎや熱気が、世界の音楽シーンに新たなうねりをもたらしていると語る。
クリス:こうした東南アジアのアーティストたちも、クルアンビンと同じように「伝統を守る」という意識よりも、「知らなかったかっこいい音を使っている」という感覚なのだと思います。その最前線にいるのがクルアンビンのようなバンドであり、マレー系の熱いグルーヴなのかもしれません。私もフジロックで、その新しいワールドミュージックの波を、実際に肌で感じてきたいと思います。
J-WAVE『MIDDAY LOUNGE』のコーナー「TWO ROOMS MUSIC EXPLORER」では、世界の音楽シーンのムーブメントを「今」の視点で考察する。放送は月曜~木曜の14時ごろから。
番組情報
- MIDDAY LOUNGE
-
月・火・水・木曜13:30-16:30