「父親が帰ってくると高村光太郎の詩を…」渡辺えりの創作の源流を吉岡里帆が訊く

俳優の渡辺えりが、幼少期のエピソードや、脚本・演出を手がける新作ミュージカル『シークレットステージ』について語った。

渡辺が登場したのは、5月3日(日・祝)放送のJ-WAVE『UR LIFESTYLE COLLEGE』(ナビゲーター:吉岡里帆)。心地よい音楽とともに、よりよいライフスタイルを考えるプログラムだ。

脚本・演出を手がける新作ミュージカルが9月より上演

渡辺えりは山形県出身。1978年より「劇団3〇〇」(さんじゅうまる)を主宰し、劇作・演出・出演のすべてを手がけながら、多くの話題作を世に送り出してきた。俳優としても、舞台にとどまらず映画やドラマなど幅広い分野で活躍している。

本番組はゲストのライフスタイルに迫る。今回は、渡辺が父からもらった絵葉書のエピソードや、部屋に飾っているポスター、お気に入りのトートバッグについて語る場面があった。全編はSpotifyなどのポッドキャストで配信中。

この記事では、オンエア内容の一部として、幼少期の思い出や新作ミュージカル『シークレットステージ』にまつわるパートをテキストで紹介する。

・ポッドキャストページ

『ガラスの動物園』に吉岡里帆を抜てきした理由は?

渡辺の登場時、吉岡は「えりさんが来てくれて本当にうれしい。私がいちばん元気になるゲストさんかもしれません」と声を弾ませた。吉岡は渡辺が演出した舞台『ガラスの動物園』への出演経験を持つ。

渡辺えりは16歳のときに、テネシー・ウィリアムズ作の『ガラスの動物園』に感銘を受け、52年のときを経て自ら演出を手がけた。本作は、演劇を志すきっかけとなった憧れの作品であり、2023年11月には『ガラスの動物園』と、別役 実がその後日譚として書いた『消えなさいローラ』を、世界初となる二本立てで上演した。

渡辺:それでローラの役をやってほしくて、(吉岡に)手紙を書きましたからね。

吉岡:びっくりしました。渡辺さんとはそれまでお会いしたこともなかったですし、もちろん作品は拝見していましたけども、「どうして私?」って疑問がいっぱいで。私より『ガラスの動物園』にゆかりのある方や、よく知っている俳優さんとやった方がいいんじゃないかって、勝手に思っていたんです。でも、なぜか私の本質、挑戦する気持ちとかを見抜いてくださったのかなと。渡辺さんと出会って、年齢って関係ないなと思いました。こんなに仲よくなれるなんて!

渡辺は、ローラという役に対して強い思い入れを抱いていたため、誰にでもまかせたいという気持ちはなく、むしろ慎重に託し先を選びたいという想いがあったという。ただ、もはや自分で演じることはできない現実も受け止めていたと語る。

渡辺:だから、尾上松也さんに相談したの。ローラは誰がいいかって。そうしたら、すぐに「吉岡里帆ちゃんがいい」って。そこから、(吉岡が出演する)全部、舞台、ドラマ、CMを観たの! それで、もうこの人しかいないって固執しちゃって。私、手紙を書いてお願いしますって出したの初めてだったの。

吉岡:私はああいう愛のあるものに弱くて、ほだされちゃいました。

幼いころから「物語」に囲まれて育った

番組では、渡辺えりの幼少期に迫った。山形県生まれの渡辺は子ども時代、祖母や母から物語を聞かされて育ち、日常的に物語の世界に親しんでいたという。一方で父は、高村光太郎や宮沢賢治の詩を深く愛しており、その影響で自然と詩にも触れる環境にあったそう。そうした家庭環境のなかで、物語や言葉に囲まれて育った渡辺は、歌うことも大好きな子どもだったと話す。

吉岡:えりさんの育った村は、「家族みたいなコミュニティで、いろんなお家に行って歌を歌って晩ごはんを食べさせてもらったりしていた」、とお聞きしました。

渡辺:韓流ドラマの『愛の不時着』って観たことある?

吉岡:観ました!

渡辺:あの作品で北朝鮮のおばあさんたちが集まって、キムチを漬けながらしゃべってるでしょ。あんな感じだったのよ。だから、韓流ドラマって懐かしいの。私が生まれ育った山形の村木沢の景色や雰囲気に似ていてね。雪深い、大雪が降るような村で、トイレも外にあって、電灯もなくて、お月さんがすごく明るいような場所で育ったの。父親は山奥の学校の先生をしていて、月に1回帰ってくるくらいだったから、「あの男の人は誰だ?」って聞くくらいの存在だったのよ。父親が帰ってくると、必ず高村光太郎の詩を朗読してくれてね。でも2歳の頭じゃ、さっぱりわからないでしょう?

吉岡:難しいですね。

渡辺:そういう難しい言葉から入ってきちゃったの。それで、同居していた母の叔父が写真好きで音楽好きで、レコードの童謡をいつも聞かせてくれていたのよ。『月の砂漠』とか『赤い鳥小鳥』とかね。父は宮沢賢治の朗読をしたり、チャイコフスキーが好きで音楽を聴かせたり。母はまた別の歌を歌っていて、そういういろんなものが混在したなかで育ったの(笑)。しかも、年寄りばかりのところに生まれたから、みんな物語を聞かせたがるのよ。それで、毎日お話を聞かないと眠れない子どもになっちゃったの。

吉岡:なるほど。

渡辺:でも、母たちは農協に勤めていて疲れて先に寝ちゃうでしょ(笑)。だから仕方なく、自分で物語の続きを考える子どもになったの。

吉岡:そこが演出・脚本家の原点なんですね。

渡辺:そうなの。たとえば桃太郎でも、鬼を成敗して帰ってきたあとどうなるのかって気にならない?

吉岡:気になりますね。

渡辺:金銀財宝を持ち帰ったあと、それを村人に配ったのか、自分で着服したのか(笑)。猿やキジや犬はどうしたのかって、ずっと考える子どもだったのよ。その想いがあとになって、中村勘三郎さんに頼まれて、歌舞伎で桃太郎の“その後”を描くことにつながったの。

吉岡:面白い!

5人で50役に挑戦する異例のミュージカルを書き下ろし

市村正親が主演を務め、渡辺えりが脚本・演出を担うミュージカル『シークレットステージ』が、2026年9月に上演される。舞台芸術学院の先輩・後輩として出会い、互いの才能を認めながらも交わることのなかったふたりが、初めて本格的にタッグを組む本作。完全書き下ろしによる新作として、その邂逅が実現するかたちだという。

物語の舞台は、初日の幕開けを目前に控えた劇場。主演不在という異常事態に加え、次々とトラブルが重なり、現場は極限の緊張に包まれていく。追い詰められた状況のなか、残された4人の俳優は、20もの役を演じ分けるという困難に挑むことになる。19世紀のイギリスを舞台にした重厚な劇中劇と、現代に生きる俳優たちの葛藤が交錯し、物語は層を成しながら立体的に展開していく構造になっている。

吉岡:えりさんがミュージカルを書かれるって新鮮ですよね。

渡辺:音楽劇は書いたことがあるんですけど、踊りがないんですね。今回はいちおう踊らないんだけど、入れ子式の、本当に複雑な話なんです。でも、面白くしようと思っています!

吉岡:主要キャスト5人で50役、おそらくもっとかも、と書かれていますね。

渡辺:羊の役や馬の役、木の役までやるんですよ。というのも、今ちょうど書いていますが、1週間後にイギリス、フランス、日本、ニューヨークでお芝居を同時上演する、その舞台裏を描くお話なんです。お芝居のなかで主演を務めるのが、市村さんの師匠の歌舞伎俳優という設定なんですけど、その師匠が突然倒れてしまって。他のお弟子さんたちはみんな、師匠の看病のために病院に行ってしまい、上演まで時間がないなかで残されたのが3人しかいないという状況で(笑)。

吉岡:この3人がまた面白いんですよね。

渡辺:市村さんと中川晃教君と、影山優佳さんですね。その3人に加えて、東島 京さんの4人しかいなくて、それで全役をやるしかない状況になるんですよ。しかも演出家がイギリス人で、細かくて絶対に妥協しない。「全部やってくれ」というタイプの女性演出家、という設定なんです。

劇中で中川はミュージカルスター、影山は若手女優・百合子役を担う。渡辺は、マネージャーの娘と同級生という設定の人物であり、熱烈な韓流ドラマファンでもあるマネージャー・岩崎直子を演じる。

吉岡:えりさんの役がめちゃくちゃ面白いんですよね。岩崎が強引に連れてきた韓流スターのパク・スビンを東島さんが演じます。えりさんとはこのあいだ、韓国のミュージシャンのライブに一緒に行きましたけども、めちゃくちゃ普通に話しかけてましたよね(笑)。

渡辺:そうそう。最近パク・ソジュンと一緒に写真を撮ったらバズっちゃったんだけど、知ってる(笑)?

吉岡:もちろんです、ネットニュースにもなってましたもん(笑)。よくあんなふうに写真を撮ってくださいましたよね。いい人すぎますよ。

渡辺:パク・ソジュンさん、本当にいい人すぎたよ!

ミュージカル『SECRET STAGE シークレットステージ』の詳細はホリプロステージの公式サイトまで。
渡辺えりの最新情報はオフィス3〇〇の公式サイトまで。

『UR LIFESTYLE COLLEGE』では、心地よい音楽とともに、よりよいライフスタイルを考える。オンエアは毎週日曜18時から。
番組情報
UR LIFESTYLE COLLEGE
毎週日曜
18:00-18:54

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