占星術研究家/翻訳家の鏡リュウジが、西洋美術と占星術の関係について語った。
鏡が登場したのは、クリス智子がお届けする『TALK TO NEIGHBORS』。この番組は毎週ひと組、クリスがいま声を届けたい人を迎える30分のトークプログラムだ。月曜から木曜はラジオでオンエアし、翌金曜には放送した内容に加えて、限定トークも含むポッドキャストを配信している。
ここでは、1月13日(火)にオンエアしたトーク内容をテキストでお届けする。
・ポッドキャストページ
鏡:もともと、ルネサンスの絵画って占星術を抜きにすると観られないんですよ。当たり前の話なんですけど、西洋の文化は中世以降、ずっとキリスト教が中心じゃないですか。だけど、ルネサンスの絵画をイメージすると『ヴィーナスの誕生』など、ギリシャ神話の神々がたくさん出てくるんですよね。これって、冷静に考えると不思議じゃないですか? つまり、一神教の世界なのに、多神教の神々がいろんな絵にたくさん出てくるわけですよ。もちろん、多神教のヴィーナスを拝んでいる人っていないわけですよね。じゃあ、どうやってそれが受け入れられてきたか。
クリス:面白い。
鏡:たとえば、絵画の『ヴィーナスとマルス』では、(愛の女神)ヴィーナスと戦いの神・マルスは、愛とか情欲といったものが人間の攻撃心を抑えているよっていう神話に読みかえた。こういう読み解き方がひとつあるんですよ。もうひとつがまさに占星術。つまりヴィーナスは金星だし、マルスは火星だから、その星の動きを表しているんだっていうイメージ。
クリス:その事実はなかなか難しいけど、本当にそういうふうにして描かれているってことですか?
鏡:そうです。中世って呼ばれている絵は、宗教絵画しかないじゃないですか。これがルネサンスのころになってくると、急に神話の絵が増える。ルネサンスって、もともと「再生」とか「復興」って意味じゃないですか。何が復興・再生したかというと、ギリシャとローマなんですよね。そのなかに神話があって、その神話と密接に関わっていたのが占星術だったんです。
クリス:鏡さんは美術館で昔の絵を観るときは、そういうふうに観ているんですか?
鏡:もちろん。
『芸術新潮』の特集のひとつは、ルネサンス学の日本における権威者のひとりである伊藤博明らをゲストに迎え、鏡がナビゲーターとして進行する構成となっている。
クリス:特集には「インフルエンサーとしての惑星」って話も出てきますよね。
鏡:いま、冬に流行る「インフルエンザ」って言葉がありますよね。あれはもともと「星の影響力」って意味なんですね。ウイルスとか細菌とかが見つかってなかったころには、一斉に人々が病気になっていくんです。「これはなんのせいだ」っていうと、星の影響力だって考えたわけです。実際に、パリの大学の医学部が「これは星がさそり座に集まったからだ」とか声明を出しているんですね。だから、医学と密接に関係してたんですよ。
クリス:いまは「ええ!」って思いますけど、当時の指針は星だったってことですもんね。
鏡:日本語でも「風邪」って言うじゃないですか。「風」の「邪気」でしょ。だから、風の悪い影響力が来ているって思って、そうなったんですね。
鏡:17世紀までは占星術と、医学とかそういう学問って分かれてなかったんですよ。なので、医学が占星術だった。それが分かれてきたのが17世紀から18世紀って感じですね。
クリス:それは医学が進歩したから?
鏡:そうそう。逆に言うと、医学の進歩したものとか天文学とか、いまでいう占い的なものを科学から切り離すことによって近代的な学問が成立した、という言い方がいいかもですね。
クリス:そのターニングポイントに生きた人の気持ちになると、どうなっていたのかな。
鏡:これは大変なことで、それをうまく漫画で描いてくださったのが『チ。-地球の運動について-』(小学館)ですね。その医学と占星術が分かれてる例でもうひとつ挙げると、フェルメールの『天文学者』って絵があるんですね。
クリス:地球儀を見ている絵ですね。
鏡:これは、オランダの風俗画が広まった時代の絵画なんですね。風俗画って、宗教画でもなく偉い人の肖像画でもなく、普通の人を描いた絵で。「天文学者」って英語では「アストロジスト」と書いてあって、これは占星術師とも読めるんですよ。それで天球儀を見ている。でも、いちおう『天文学者』と言われているんです。一方で、ロンドンのナショナル・ギャラリーに、同じ時代のベーハって画家の絵が展示されているんですけど、同じようなサイズで同じような形で『占星術師』っていう絵があるんです。フェルメールの『天文学者』はかっこよく描かれているんですね。一方、この『占星術師』のほうは、ボロボロの屋敷で老いぼれた人が、散らかりまくった場所でグデってなってる。近くに尿瓶もあったりして。このコントラストがすごくて。ちょうどこのくらいの時代に科学者としての天文学者と、(占星術師としての)占い師が老いぼれていくっていう。別の人が描いているんだけど、並べてみると時代のターニングポイントをうまく描いているなって思います。
クリス:特集の「天文学の夜明け、占星術の黄昏」に載ってますね。そういう分岐点を表すような絵なんですね。
鏡:並べるとそういうふうに見えるんです。いま、尿瓶って言ったんですけど、『占星術師』の絵には転がってる。これは誰も書いてないのでわからないのですが、これが転がってることが、医学と占星術がつながっていたってことのひとつの証拠になるんです。昔のお医者さんは、お小水を診て診断してたんですね。だから、その診断をしていたんだろうと絵を見てわかる。もうひとつは生年月日だけではなくて、患者が持ってきた時刻の星の配置を診ていたんですよ。だから、相談してきた瞬間の星の配置が、なぜかわからないけどその人の病気を表しているって考えていた。
鏡:心と体を分けるようになったのは最近の話かなって思っていて。いまでも「頭で考えてないで、腹を割って話そうぜ」って言いますよね。あと、ロダンの『考える人』ってあるじゃないですか。あれって伝統的に「メランコリア」といって、憂鬱な人のポーズなんですね、頬づえをつく。「メランコリー(憂鬱)」の語源って「メラ」が黒、「コリア」が胆汁なんです。だから、黒い胆汁のことをメランコリーって言うんですね。当時の人たちは、人間のなかに血液と粘液と胆汁と黒い胆汁の4つがあると考えた。そのどれが優勢になるかによって、その人のキャラクターや気分、ムードが変わるって考えていて、黒い胆汁が優勢になるとメランコリーに陥ると。このメランコリーって何がもたらすかって言うと、土星、サターンです。
クリス:語源を含めて昔をたどると、ルーツがそこにあったりすることが多々あるわけですね。
鏡:熟考するっていう意味の「consider」ってありますよね。「con」は「ともに」、「sider」は「星」なんです。だから、「consider」は「星とともに」って意味なんです。うまいこと言ってますよね。「よく考える」っていうことは自分だけじゃなくて、星、まわりのこと、時間とともに考えるということだ、と。
鏡リュウジの最新情報は公式サイトまで。
鏡リュウジとの放送回全3回に加えて、ポッドキャスト限定のエピソードも配信されている。
・ポッドキャスト限定のエピソードはこちらから
鏡が登場したのは、クリス智子がお届けする『TALK TO NEIGHBORS』。この番組は毎週ひと組、クリスがいま声を届けたい人を迎える30分のトークプログラムだ。月曜から木曜はラジオでオンエアし、翌金曜には放送した内容に加えて、限定トークも含むポッドキャストを配信している。
ここでは、1月13日(火)にオンエアしたトーク内容をテキストでお届けする。
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ルネサンスとギリシャ神話
2025年刊行の『芸術新潮』(新潮社)10月号では、「鏡リュウジの占星術でめぐる西洋美術」が特集として組まれ、話題となった。2人がにっこにこで眺めているのが、
— TALK TO NEIGHBORS (@ttn813) January 13, 2026
芸術新潮 2025年10月号
「占星術と西洋美術」総特集ナビゲート
気になった方は是非こちらからチェックください
https://t.co/ZasZhO0E7z#ttn813 #jwave https://t.co/ACAMtcP96o
クリス:面白い。
鏡:たとえば、絵画の『ヴィーナスとマルス』では、(愛の女神)ヴィーナスと戦いの神・マルスは、愛とか情欲といったものが人間の攻撃心を抑えているよっていう神話に読みかえた。こういう読み解き方がひとつあるんですよ。もうひとつがまさに占星術。つまりヴィーナスは金星だし、マルスは火星だから、その星の動きを表しているんだっていうイメージ。
クリス:その事実はなかなか難しいけど、本当にそういうふうにして描かれているってことですか?
鏡:そうです。中世って呼ばれている絵は、宗教絵画しかないじゃないですか。これがルネサンスのころになってくると、急に神話の絵が増える。ルネサンスって、もともと「再生」とか「復興」って意味じゃないですか。何が復興・再生したかというと、ギリシャとローマなんですよね。そのなかに神話があって、その神話と密接に関わっていたのが占星術だったんです。
クリス:鏡さんは美術館で昔の絵を観るときは、そういうふうに観ているんですか?
鏡:もちろん。
クリス:特集には「インフルエンサーとしての惑星」って話も出てきますよね。
鏡:いま、冬に流行る「インフルエンザ」って言葉がありますよね。あれはもともと「星の影響力」って意味なんですね。ウイルスとか細菌とかが見つかってなかったころには、一斉に人々が病気になっていくんです。「これはなんのせいだ」っていうと、星の影響力だって考えたわけです。実際に、パリの大学の医学部が「これは星がさそり座に集まったからだ」とか声明を出しているんですね。だから、医学と密接に関係してたんですよ。
クリス:いまは「ええ!」って思いますけど、当時の指針は星だったってことですもんね。
鏡:日本語でも「風邪」って言うじゃないですか。「風」の「邪気」でしょ。だから、風の悪い影響力が来ているって思って、そうなったんですね。
ふたつの絵画から読み解く医学と占星術の関係
そうした医学と占星術の関係は、17世紀をひとつの区切りとして考えることができると、鏡は言う。鏡:17世紀までは占星術と、医学とかそういう学問って分かれてなかったんですよ。なので、医学が占星術だった。それが分かれてきたのが17世紀から18世紀って感じですね。
クリス:それは医学が進歩したから?
鏡:そうそう。逆に言うと、医学の進歩したものとか天文学とか、いまでいう占い的なものを科学から切り離すことによって近代的な学問が成立した、という言い方がいいかもですね。
クリス:そのターニングポイントに生きた人の気持ちになると、どうなっていたのかな。
鏡:これは大変なことで、それをうまく漫画で描いてくださったのが『チ。-地球の運動について-』(小学館)ですね。その医学と占星術が分かれてる例でもうひとつ挙げると、フェルメールの『天文学者』って絵があるんですね。
クリス:地球儀を見ている絵ですね。
鏡:これは、オランダの風俗画が広まった時代の絵画なんですね。風俗画って、宗教画でもなく偉い人の肖像画でもなく、普通の人を描いた絵で。「天文学者」って英語では「アストロジスト」と書いてあって、これは占星術師とも読めるんですよ。それで天球儀を見ている。でも、いちおう『天文学者』と言われているんです。一方で、ロンドンのナショナル・ギャラリーに、同じ時代のベーハって画家の絵が展示されているんですけど、同じようなサイズで同じような形で『占星術師』っていう絵があるんです。フェルメールの『天文学者』はかっこよく描かれているんですね。一方、この『占星術師』のほうは、ボロボロの屋敷で老いぼれた人が、散らかりまくった場所でグデってなってる。近くに尿瓶もあったりして。このコントラストがすごくて。ちょうどこのくらいの時代に科学者としての天文学者と、(占星術師としての)占い師が老いぼれていくっていう。別の人が描いているんだけど、並べてみると時代のターニングポイントをうまく描いているなって思います。
クリス:特集の「天文学の夜明け、占星術の黄昏」に載ってますね。そういう分岐点を表すような絵なんですね。
鏡:並べるとそういうふうに見えるんです。いま、尿瓶って言ったんですけど、『占星術師』の絵には転がってる。これは誰も書いてないのでわからないのですが、これが転がってることが、医学と占星術がつながっていたってことのひとつの証拠になるんです。昔のお医者さんは、お小水を診て診断してたんですね。だから、その診断をしていたんだろうと絵を見てわかる。もうひとつは生年月日だけではなくて、患者が持ってきた時刻の星の配置を診ていたんですよ。だから、相談してきた瞬間の星の配置が、なぜかわからないけどその人の病気を表しているって考えていた。
英語の語源に隠された「星」
鏡の話を聞いたクリスは、「心の持ちようとか、整えるっていうことを考えると、星の作用ってあると思う」と話し、「気持ちが整っていくことと体の状態は、そんなに離れているようにも思えない」と口にする。鏡:心と体を分けるようになったのは最近の話かなって思っていて。いまでも「頭で考えてないで、腹を割って話そうぜ」って言いますよね。あと、ロダンの『考える人』ってあるじゃないですか。あれって伝統的に「メランコリア」といって、憂鬱な人のポーズなんですね、頬づえをつく。「メランコリー(憂鬱)」の語源って「メラ」が黒、「コリア」が胆汁なんです。だから、黒い胆汁のことをメランコリーって言うんですね。当時の人たちは、人間のなかに血液と粘液と胆汁と黒い胆汁の4つがあると考えた。そのどれが優勢になるかによって、その人のキャラクターや気分、ムードが変わるって考えていて、黒い胆汁が優勢になるとメランコリーに陥ると。このメランコリーって何がもたらすかって言うと、土星、サターンです。
クリス:語源を含めて昔をたどると、ルーツがそこにあったりすることが多々あるわけですね。
鏡:熟考するっていう意味の「consider」ってありますよね。「con」は「ともに」、「sider」は「星」なんです。だから、「consider」は「星とともに」って意味なんです。うまいこと言ってますよね。「よく考える」っていうことは自分だけじゃなくて、星、まわりのこと、時間とともに考えるということだ、と。
鏡リュウジの最新情報は公式サイトまで。
ポッドキャスト配信中
クリス智子がお届けする『TALK TO NEIGHBORS』は、J-WAVEで月曜~木曜の13時よりオンエア。ポッドキャストでも配信中。鏡リュウジとの放送回全3回に加えて、ポッドキャスト限定のエピソードも配信されている。
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2026年1月20日28時59分まで
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番組情報
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