映画『国宝』音楽担当・原 摩利彦が明かす「人生に大きな影響を受けた本」

音楽家・原 摩利彦が、自宅の本棚について、そして自身が音楽を手がけた映画『国宝』について語った。

原が登場したのは、7月6日(日)放送のJ-WAVE『ACROSS THE SKY』(ナビゲーター:小川紗良)のコーナー「DAIWA HOUSE MY BOOKSHELF」だ。

音楽の道に進むきっかけは坂本龍一のステージ

原は、静けさのなかの強さを軸に、ピアノを中心とした室内楽やフィールドレコーディング、電子音を用いた音響作品を制作。2020年東京オリンピック開会式追悼パートや、舞台、ドラマ、そして現在公開中の映画『国宝』と、7月4日(金)に公開された映画『夏の砂の上』など、多岐に渡り音楽を手がけている。

『国宝』本予告【6月6日(金)公開】|主題歌「Luminance」原摩利彦 feat. 井口 理

小川:『国宝』はすごいことになってますね。

原:うれしいことです。

小川:今回、『国宝』では主題歌も手がけていらっしゃいます。『Luminance』は「輝度」という意味で、作詞は坂本美雨さん、ボーカルはKing Gnuの井口 理さんが務められています。もともと、原さんが音楽の道に進むきっかけになったのが、坂本美雨さんの父・坂本龍一さんだったそうですね。



原:そうです。1996年に出たアルバム『1996』のツアーに中学1年のときに行ったんですけど、それで音楽家になりたいって強く思って。

小川:すごい。その影響で、一時は音大の進学を試みたりされたんですよね。

原:でも、全然合わなくて挫折しまくって。

小川:そこから4年制の大学に行かれて。

原:はい。4年よりもうちょっと長くいましたけど(笑)。そこでは教育学を専攻していました。ライフ・ロング・エデュケーション、生涯教育学って言うんですけど、学校だけじゃなくて生まれてから死ぬまでずっと人間は学び続ける存在、という学びで。音楽家としてやるにはぴったりの学問ではありました。

小川:音楽家として活動されている方は、音大に行かれたりする方が多いと思うんですけど、また別の道を歩みながら続けてこられたんですね。

原:ずいぶん遠回りをしましたけど(笑)。

小川:では、音楽自体は独自で続けられてきたんですか?

原:そうです。もちろん音大に入りたいって思ったときにちょっと基礎は習いましたけど、そのあとは基本的には独学ですね。

『国宝』の主題歌は現代神話にしたかった

原は、10年前に坂本龍一と初対面を果たしたという。当時の様子について、こう語った。

原:いちばん最初に、セッションに呼ばれたんですね。いまから10年前。完全即興のセッションで、スタジオに入ってすぐに音をチェックしたら、よーいドンなんですけど、そのときの衝撃というか、最初の2、3分は音が出せなかったんですよ。聴くばかりで。「これでやっていくか?」っていう覚悟を迫られたような気がしました。

小川:今回の坂本美雨さんとの共演はいかがでしたか?

原:美雨さんとは以前に別のお仕事を一緒にさせてもらってるんですけど、美雨さんの言葉って口にのせてメロディーにのせると、急に言葉が輝きだすというか、動きだすようなイメージがあったんですね。だから、今回もぜひお願いしたいと思ってオファーしました。

続いて、映画『国宝』の主題歌『Luminance』の制作の話題に。

小川:これは、どういうふうに作っていったんですか?

原:本編の音楽もやってますから、主人公・喜久雄の人生と、そのまわりの人生が神話、伝説だったって最後に語るような、そういうつながりにしたかったんですね。

小川:たしかに、喜久雄さん演じる吉沢 亮さんが人を超えた存在になっていく感じがして。神話ってしっくりきますね。

原:現代神話にしたくて、楽器の選定もヴィオラ・ダ・ガンバとリュートっていう、中世の歌舞伎が生まれた時代に使用されていたものを採用しました。

小川:そこで歌舞伎に使われている和楽器ではなく、同時代のヨーロッパの楽器を使用されるのが面白いですね。

原:そこがいいかなって思ったんです。

目次で、すごくドキッとした1冊

「DAIWA HOUSE MY BOOKSHELF」では、ゲストの本棚の写真を見ながらトークを展開。まずは、原の本棚を紹介した。

小川:分厚い本がとても多いですね。これはご自宅ですか?

原:そうです。階段の横に備え付けられてる場所に置いてあります。

小川:よく見ていくと、作曲家の本とか音楽の本が多いですね。

原:自分は人間が好きで、音楽の本とか文学とかいろんなのがあるんですけど、結局、人間がどういうふうに考えてきたかとか、いまどう思っているのかに興味があるみたいです。ここにある『食客』(京都大学学術出版会)っていう本は、ルキアノスっていう2世紀の人の本で、西洋古典叢書タイトルシリーズっていうのを100冊くらい譲り受けたんですね。この本をパッと開いたら、目次に「無学なのにやたらと本を買う輩に」というようなふうに書いてあって、すごくドキッとしたんですけど。それで読もうと思いました。

小川:すごい。開いて一発目にそれが書いてあると、挑戦状が投げかけられたみたいな。

原:分厚い本が多いって言われたときに、それを思い出しました(笑)。

小川:坂本龍一さんの『音楽の歴史』(小学館)もありますね。

原:これは坂本さんのこれまでの仕事が書かれたもので、他にももう少し持ってるんですけど。

小川は、本棚でも特に分厚い『新訂字訓』と『新訂字統』(ともに平凡社)が気になる様子。

小川:これは辞書ですか?

原:そうです。これで漢字の成り立ちとか由来とかをときどき見て、息子と文字を見たりしています。

小川:付箋も張ってあるようですが。

原:自分の名前の漢字とか、そういうのを調べたりとか気になる字を調べたりしています。

小川:あと、社会問題とかユーゴ内戦とかファシズムとかの本もありますね。

原:さっきの生涯教育学にもつながるんですけど、NHKとかでユーゴ内戦のドキュメンタリーの音楽の仕事があったときに、それをきっかけに学んだりとか。僕はパレスチナ・ガザの人たちと連絡をとって音楽を一緒に作っているんですけど、彼らの状況とかこれまでのこととかを直接連絡してコミュニケーションを取って、背景を知るっていう。いまの世界と向き合うことが音楽を深めていくことにつながっていくと思うので、いかに自分事になるかっていうことの最初は本だったりするのかなって。

大切な意識を持たせてもらった1冊

原が、最近読んだなかで本棚に残したい1冊として、イタリアの写真家、ルイジ・ギッリの『写真講義』(みすず書房)を挙げた。

原:彼はプロの写真家に付いてこなかったから、ライティングとかの技術は完璧ではないけども、野外で太陽の光とか建築の影を見て、光に対する感性を身に付けた。それが写真の根本に関わることって言ってるんですね。それを音に置き換えると、自分は音大で技術とかそんなに専門的に習わなかったですけど、フィールドレコーディングで音を録ったり、いろんな人と出会ったりしてきたことで、自分の音の感性を大事にしてきたかなって、ちょっとうれしくて。

小川:ルイジ・ギッリさんの写真の歩みと、原さんの音楽の歩みがちょっと重なる部分があったわけですね。

原:おこがましいですけど。

そして、原が人生に大きな影響を受けた本として挙げたのは、秋山邦晴の『昭和の作曲家たち 太平洋戦争と音楽』(みすず書房)だ。

原:この本は、戦前の音楽家たちの戦争責任を問うということで、いろんな人にインタビューをしているんです。そのインタビューも面白いんですけど、序章がすごくよくて。戦後30年を迎えようとしているっていうところから始まるんですけど、読んだときは戦後80年でそこから50年経っていたのに、すぐに刺さってきて。まだ全然解決できてないというか。自分が取り組まなくてはならない意識を持たせてもらいました。

小川:音楽って、よくも悪くも利用されてしまうものですからね。その責任について書かれていると。

原:あとは、無関心ですね。当時、作曲で精一杯でそれどころではなかったという人とか。ただ、言うのは簡単だけど自分だったらどうするかって考えるときに衝撃を受けた1冊ですね。新しい音楽を作りたいって思うことは、もちろん技術とかそういうことを探究することでもあるんですけど、同時にいま世界で起きていること、あるいは身近でもこの人がどういう気持ちで苦しんでいるとか、嫌なことがあるっていうことに対して想像したり、自分はどうかっていうのを考えたり、そういう人間の深みの部分に意識を向けることが音楽を前進させてくれて、新しい音楽になるんじゃないかっていう気がしています。それは結局、『国宝』とかの主人公の心の底を想像して音楽を作るっていうところに直接的につながっていくと思っています。

『Luminance』も収録されている、映画『国宝』のサウンドトラック『国宝 オリジナル・サウンドトラック』は6月から配信中。そのほか、原 摩利彦の最新情報は公式サイトまで。



『ACROSS THE SKY』のコーナー「DAIWA HOUSE MY BOOKSHELF」では、本棚からゲストのクリエイティブを探る。オンエアは10時5分ごろから。
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2025年7月13日28時59分まで

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