映画『ルノワール』で監督を務めた早川千絵が、作品の世界や、映画製作を通して自身の“当たり前”がひっくり返ったエピソードを語った。
早川が登場したのは、6月17日(火)放送のJ-WAVE『PEOPLE'S ROASTERY』(ナビゲーター:長井優希乃)の「VIBES JINRUIGAKU」。長井がゲストとともに「人と世界」について考えるコーナーだ。
早川:『ルノワール』は、1980年代後半の日本が舞台の映画で、11歳の少女・沖田フキと、その家族の物語です。リリー・フランキーさん演じるフキのお父さん・圭司はガンを患っていて、石田ひかりさん演じるお母さん・詩子は仕事やいろいろなことが大変で、いっぱいいっぱいになっている。そんな家族の物語です。
長井:主人公のフキは11歳ということですが、子ども時代や“子ども”を主人公に撮ったのはなぜですか?
早川:ちょうどこれぐらいの年代は、私が「映画を作りたいな」となんとなく思い始めた時期なんです。(11歳くらいの時期は)自分のなかの感情をなかなか言語化できないけど、ものすごく感受性が強い時期というか。そんなときの「言葉にできていない感情」みたいなものを、いつか映画で描きたいと、当時から思っていました。
長井:大人になってから描く11歳という時代は、当時の感覚とまた違いますか?
早川:そうですね。大人になってからようやく「あれはこういうことだったんだ」とか「あのときの私はこういう気持ちだったんだ」というのが見えることが増えてきたかなと思います。それが(映画の)描き方に反映されていった気がします。
主人公・フキを演じる鈴木 唯は、撮影当時ちょうど11歳。「演じているというよりも、フキがそこにいたようにしか見えない」と、ナビゲーターの長井も驚いた鈴木の演技について、早川さんも「いっときも目を離したくない魅力があった」と絶賛する。
長井:映画のなかでは、社会のひずみや大人の暴力性みたいな部分、すごく繊細な登場人物の心情も描かれていましたが、鈴木さんにはどのように伝えて演技をしてもらったのでしょうか?
早川:鈴木 唯ちゃんは「なぜ、フキがこういうことをするのか」「なんでこういう表情をするのか」と、こと細かく演出しなくても、ああいうお芝居ができてしまう人なので、あんまり説明をしませんでした。彼女を信頼して、頼っていたところが大きかったですね。
【関連記事】大河ドラマ『べらぼう』でも活躍。日本初の「インティマシーコーディネーター」が語る、その仕事の進め方
早川:ストーリーの一部に、エクストラのケアが必要なシーンがあったので、早い段階からインティマシー・コーディネーターの方と心理士の方に関わっていただきました。鈴木 唯ちゃんと、演じる俳優さんに気持ちよく撮影に参加してもらえるよう、細心の注意を払いながら、環境を整えたかったという感じです。
長井:そういうサポートがあるというのは、すごく大切なことですよね。
早川:やっぱり安心できる現場じゃないと能力も発揮できないですし、それで傷つくようなことがあってはならないと思います。
長井:先ほど、「あまり説明しなかった」ともおっしゃいましたが、私は映画全体を通して、すごくいい意味で余白に満ちた映画、説明しすぎない美しさみたいなものがあるなと思いました。「説明しすぎない」というところには、こだわりをお持ちですか?
早川:そうですね。いかに「言わないで表現するか」というのは、ずっと頭の中にあります。というのも、観る人の感じ方や想像する力というものを信じているところがあって、それが映画を観る醍醐味なのではないかなと思っているからです。私も「正解がわからないけど、こういうことかも」と想像しながら観る映画がすごく好きなので、そういう映画にしたいなというのは最初からありました。
この日、番組では、リスナーからも「11歳だったときのエピソード」を募集した。早川さんが「映画で表現したい」と思うきっかけとなった、11歳のころのできごとは何だったのだろうか。
早川:当時、子どもが主人公の『泥の河』という映画を観たときに「あ、この気持ちわかる!」「私、この感覚知っている」と、ものすごく感じて衝撃を受けました。そこで「これをわかっている誰かがいるんだ」と、その映画を作った人に心のつながりを感じたのがきっかけで、映画にどんどんのめり込んでいきました。
長井:よく映画館に行く子どもだったんですか?
早川:小学生のころは、家族や友だちとハリウッド映画を観に行くような子どもでしたが、レンタルビデオ屋ができてアクセスしやすくなって、それからビデオを借りるようになりました。中学校に上がってからは、ミニシアターに映画を観に行き始めました。
早川:先ほどお伝えしたように、子どものころから「こういう映画を作りたい」と思っていたのですが、自分が年を取って大人になって、大人に対する理解も進むというか、「こういう大変さがあるんだ」「大人って完璧じゃないんだ」というところがわかる年齢になってこの映画を作ることになったので。フキの目線からではありますが、そういった大人の弱さや完璧でないところを描きたいと思いました。
長井:本当に、すごく生々しさがあるシーンもありました。自分が子どものときに実際にそういう体験をしても、渦中にいると気づかなかったりもしますが、“映画”というものを通してその気持ち悪さを言語化してもらった気がします。忘れていた感覚や、やり過ごしてきたなというところを、言葉や映像にしてもらった感じがしました。
さまざまな想いを込めて『ルノワール』の製作にあたった早川さん。そんな彼女に長井は、「映画製作のなかで、自分の“当たり前”を問い直した経験はなかったか」と、質問を投げかける。
早川:だんだんと気づいてきたことではありますが、何事も、いつも近道がいいわけではない。若いころはどうしても最短距離を求めがちだったんですけど、そうではなくていろいろ寄り道したり、回り道をしたり、一見「無駄」だと思えることが、あとあと「いい力になっていったな」と思うんですね。一見「失敗したな」「うまくいかなかったな」というできごとも、「その失敗があったから別の道が開けた」とか、別の人に会えた、別の出来事を経験できたということは多くあります。そういったことで映画が撮れるようになったと思うので、いまはうまくいかないときもわりと心配せずに、「ということは、別の何かがあるんだな」と思えるようになりました。
長井:すごく大事! そして、今回の『ルノワール』では日本・フランス・シンガーポール・フィリピン・インドネシア・カタールの、6カ国の国際共同制作です。「国際共同制作」とは、どういうことなのでしょうか?
早川:それぞれの国から出資をしてもらって、かつ、各国のプロデューサーがクリエイティブの面で関わってくれています。
長井:実際に、6カ国のみなさんとやり取りをしながら製作が進んでいくということですか?
早川:そうですね。撮影も、一部フィリピンでしたり、編集やサウンドの仕上げをフランスやシンガポールでやったりというかたちでしたね。
長井:さまざまなルーツを持つ方たちと映画を作るのは、どうでしたか?
早川:「映画って、同じ“言語”なんだな」と思いました。それぞれ文化も違うところで育っているけど、映画に関してはみんなが同じ言語でしゃべっているような気がするなかで作っていました。
最後に、監督、脚本家として早川さんが大切にしていることを訊いた。
早川:人に頼ろうというか、「人と関わりながら作りたい」と思っています。特に、今回の映画のように自分で脚本を書いてというかたちだと、わりと行き詰まっちゃったり、狭い視野のなかで作ったりしてしまいがちですが、いろいろな人の意見を聞いたり、実際に会って話をしたりすることを大切にしています。また、自分ができないこともどんどん頼ってしまうほうが、豊かになっていくと思います。映画はひとりでは作れないので、なるべく自分をオープンにして、いろいろな人の要素を感知できるようにしています。
長井:(映像には)俳優さんしか出てきませんが、いろいろなルーツを持ったたくさんの人が関わっていると思うと、映画はすごい作品ですね。
早川:すごいですよね。作る過程も、おもしろいです。
映画『ルノワール』の詳細は、公式サイトまで。
J-WAVE『PEOPLE'S ROASTERY』のコーナー「VIBES JINRUIGAKU」では、“声でつながるフィールドワーク”と題し、自分の当たり前を問い直しながら人と世界について考えていく。放送は月曜~木曜の14時5分ごろから。
早川が登場したのは、6月17日(火)放送のJ-WAVE『PEOPLE'S ROASTERY』(ナビゲーター:長井優希乃)の「VIBES JINRUIGAKU」。長井がゲストとともに「人と世界」について考えるコーナーだ。
鈴木 唯は「いっときも目を離したくない魅力があった」
長編デビュー作となった2022年公開の『PLAN 75』が世界中から高評価を集めた早川。6月20日(金)には、最新作『ルノワール』が公開となった。映画『ルノワール』予告編
長井:主人公のフキは11歳ということですが、子ども時代や“子ども”を主人公に撮ったのはなぜですか?
早川:ちょうどこれぐらいの年代は、私が「映画を作りたいな」となんとなく思い始めた時期なんです。(11歳くらいの時期は)自分のなかの感情をなかなか言語化できないけど、ものすごく感受性が強い時期というか。そんなときの「言葉にできていない感情」みたいなものを、いつか映画で描きたいと、当時から思っていました。
長井:大人になってから描く11歳という時代は、当時の感覚とまた違いますか?
早川:そうですね。大人になってからようやく「あれはこういうことだったんだ」とか「あのときの私はこういう気持ちだったんだ」というのが見えることが増えてきたかなと思います。それが(映画の)描き方に反映されていった気がします。
主人公・フキを演じる鈴木 唯は、撮影当時ちょうど11歳。「演じているというよりも、フキがそこにいたようにしか見えない」と、ナビゲーターの長井も驚いた鈴木の演技について、早川さんも「いっときも目を離したくない魅力があった」と絶賛する。
長井:映画のなかでは、社会のひずみや大人の暴力性みたいな部分、すごく繊細な登場人物の心情も描かれていましたが、鈴木さんにはどのように伝えて演技をしてもらったのでしょうか?
早川:鈴木 唯ちゃんは「なぜ、フキがこういうことをするのか」「なんでこういう表情をするのか」と、こと細かく演出しなくても、ああいうお芝居ができてしまう人なので、あんまり説明をしませんでした。彼女を信頼して、頼っていたところが大きかったですね。
いかに「言わないで表現するか」
『ルノワール』撮影時には、インティマシー・コーディネーターや心理士もスタッフに加わったという。その理由を、早川さんは次のように語る。【関連記事】大河ドラマ『べらぼう』でも活躍。日本初の「インティマシーコーディネーター」が語る、その仕事の進め方
早川:ストーリーの一部に、エクストラのケアが必要なシーンがあったので、早い段階からインティマシー・コーディネーターの方と心理士の方に関わっていただきました。鈴木 唯ちゃんと、演じる俳優さんに気持ちよく撮影に参加してもらえるよう、細心の注意を払いながら、環境を整えたかったという感じです。
長井:そういうサポートがあるというのは、すごく大切なことですよね。
早川:やっぱり安心できる現場じゃないと能力も発揮できないですし、それで傷つくようなことがあってはならないと思います。
長井:先ほど、「あまり説明しなかった」ともおっしゃいましたが、私は映画全体を通して、すごくいい意味で余白に満ちた映画、説明しすぎない美しさみたいなものがあるなと思いました。「説明しすぎない」というところには、こだわりをお持ちですか?
早川:そうですね。いかに「言わないで表現するか」というのは、ずっと頭の中にあります。というのも、観る人の感じ方や想像する力というものを信じているところがあって、それが映画を観る醍醐味なのではないかなと思っているからです。私も「正解がわからないけど、こういうことかも」と想像しながら観る映画がすごく好きなので、そういう映画にしたいなというのは最初からありました。
この日、番組では、リスナーからも「11歳だったときのエピソード」を募集した。早川さんが「映画で表現したい」と思うきっかけとなった、11歳のころのできごとは何だったのだろうか。
早川:当時、子どもが主人公の『泥の河』という映画を観たときに「あ、この気持ちわかる!」「私、この感覚知っている」と、ものすごく感じて衝撃を受けました。そこで「これをわかっている誰かがいるんだ」と、その映画を作った人に心のつながりを感じたのがきっかけで、映画にどんどんのめり込んでいきました。
長井:よく映画館に行く子どもだったんですか?
早川:小学生のころは、家族や友だちとハリウッド映画を観に行くような子どもでしたが、レンタルビデオ屋ができてアクセスしやすくなって、それからビデオを借りるようになりました。中学校に上がってからは、ミニシアターに映画を観に行き始めました。
映画製作のなかで、自分の“当たり前”を問い直した経験
6月16日(月)の『PEOPLE'S ROASTERY』には、映画ライター・ISOさんが登場し、『ルノワール』について語った。その際、ISOさんから早川に「なぜ、登場人物の危うさや生々しさといったものを描いたのか」「どういうふうに描こうとしたのか」という質問があった。早川:先ほどお伝えしたように、子どものころから「こういう映画を作りたい」と思っていたのですが、自分が年を取って大人になって、大人に対する理解も進むというか、「こういう大変さがあるんだ」「大人って完璧じゃないんだ」というところがわかる年齢になってこの映画を作ることになったので。フキの目線からではありますが、そういった大人の弱さや完璧でないところを描きたいと思いました。
長井:本当に、すごく生々しさがあるシーンもありました。自分が子どものときに実際にそういう体験をしても、渦中にいると気づかなかったりもしますが、“映画”というものを通してその気持ち悪さを言語化してもらった気がします。忘れていた感覚や、やり過ごしてきたなというところを、言葉や映像にしてもらった感じがしました。
さまざまな想いを込めて『ルノワール』の製作にあたった早川さん。そんな彼女に長井は、「映画製作のなかで、自分の“当たり前”を問い直した経験はなかったか」と、質問を投げかける。
早川:だんだんと気づいてきたことではありますが、何事も、いつも近道がいいわけではない。若いころはどうしても最短距離を求めがちだったんですけど、そうではなくていろいろ寄り道したり、回り道をしたり、一見「無駄」だと思えることが、あとあと「いい力になっていったな」と思うんですね。一見「失敗したな」「うまくいかなかったな」というできごとも、「その失敗があったから別の道が開けた」とか、別の人に会えた、別の出来事を経験できたということは多くあります。そういったことで映画が撮れるようになったと思うので、いまはうまくいかないときもわりと心配せずに、「ということは、別の何かがあるんだな」と思えるようになりました。
長井:すごく大事! そして、今回の『ルノワール』では日本・フランス・シンガーポール・フィリピン・インドネシア・カタールの、6カ国の国際共同制作です。「国際共同制作」とは、どういうことなのでしょうか?
早川:それぞれの国から出資をしてもらって、かつ、各国のプロデューサーがクリエイティブの面で関わってくれています。
長井:実際に、6カ国のみなさんとやり取りをしながら製作が進んでいくということですか?
早川:そうですね。撮影も、一部フィリピンでしたり、編集やサウンドの仕上げをフランスやシンガポールでやったりというかたちでしたね。
長井:さまざまなルーツを持つ方たちと映画を作るのは、どうでしたか?
早川:「映画って、同じ“言語”なんだな」と思いました。それぞれ文化も違うところで育っているけど、映画に関してはみんなが同じ言語でしゃべっているような気がするなかで作っていました。
最後に、監督、脚本家として早川さんが大切にしていることを訊いた。
早川:人に頼ろうというか、「人と関わりながら作りたい」と思っています。特に、今回の映画のように自分で脚本を書いてというかたちだと、わりと行き詰まっちゃったり、狭い視野のなかで作ったりしてしまいがちですが、いろいろな人の意見を聞いたり、実際に会って話をしたりすることを大切にしています。また、自分ができないこともどんどん頼ってしまうほうが、豊かになっていくと思います。映画はひとりでは作れないので、なるべく自分をオープンにして、いろいろな人の要素を感知できるようにしています。
長井:(映像には)俳優さんしか出てきませんが、いろいろなルーツを持ったたくさんの人が関わっていると思うと、映画はすごい作品ですね。
早川:すごいですよね。作る過程も、おもしろいです。
映画『ルノワール』の詳細は、公式サイトまで。
J-WAVE『PEOPLE'S ROASTERY』のコーナー「VIBES JINRUIGAKU」では、“声でつながるフィールドワーク”と題し、自分の当たり前を問い直しながら人と世界について考えていく。放送は月曜~木曜の14時5分ごろから。
番組情報
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