作家の燃え殻が、エッセイの書き方について語り、リスナーから寄せられたお悩みに答えた。
燃え殻が登場したのは、2月20日(木)放送のJ-WAVE『PEOPLE’S ROASTERY』(ナビゲーター:長井優希乃)のコーナー「MY FIELD NOTE」。長井と曜日別のさまざまなジャンルの人々が好奇心を刺激するコーナーだ。
燃え殻:『週刊新潮』で3年くらい連載しているエッセイなのですが、短い内容で、エッセイというよりも、できる限り“起承転結”をつけたショートショートのような物語にして、それを50編くらい入れた文庫です。
長井:私も読ませていただいたのですが、どこから読んでも面白いストーリーがたくさん入っていました。最初から最後まで時系列というよりも、「20年前のことなんだけど」という話や、最近の話、コロナ禍の話など、いろいろな“とき”が詰まっていて、興味深く、面白く読みました。
燃え殻:ありがとうございます。
長井:あと、タイトルのつけ方がすごく好きです。たとえば「まーまー好きだった人」とかは、「読みたい!」となります。ほかにも「バニラ♪バニラ♪バニラ♪バニラ♪」とか、どこかで聞いたことある音がタイトルになっているという(笑)。テーマやネタを、どのように日常から抽出しているのか気になっています。
燃え殻:週刊連載で毎週原稿を出さなきゃいけないので、「あったことを全部ネタにしよう」という気持ちで書いています。たとえば、このラジオに呼んでいただいて「いま緊張しているな」「この緊張って、人生のどこかであったよな」と思ったら、その記憶を取り戻しつつ、いまのスタジオのなかのことを書きつつ、みたいな感じで書いていきます。
長井:昔の記憶と結びつけて書かれているのも印象的ですが、ずっと日記を書いていたりしたのか、頭のなかの記憶とリンクさせているのかも気になりました。
燃え殻:記憶です。僕、(昔のことは)「全然覚えていない」と思っていたのですが、でも、体験しているので、そこにいたことやそのときの感覚を、「このおいしさって、あれに似ているな」と、ふと思ったときに初めて引き出しが空いて、忘れていたことを思い出します。「これって、近しい何かがあったな」と強く思うようにすると、「子どもの頃のあれに似ている」「お祭りのときのあれに似ている」ということを思い出すんですよ。
燃え殻:原稿を書いて、編集の人に渡すのですが、「タイトル、どうしましょう?」と言われたときに1回戻ってくるんです。それを初めて客観的に読んでみて、書いた内容をひと言で表したのをタイトルにしています。
長井:なぜ、そのスタイルになったのですか?
燃え殻:僕はずっと本を読んできたわけでも、書いてきたわけでもないので、自分のなかのいちばん最短でやらないと、週刊連載に間に合わないんです。たとえば、友だちや知人に「何を書いているの?」と聞かれたときに、長く話せないじゃないですか。だから、「バーニラバニラ♪みたいなさ」「あぁ、あれね」と、すぐにわかってもらうことを想定して、「コピーとしてひと言で言うなら何だろう?」と思って書いているかもしれないです。
長井:だから、「何これ!?」と、すごく読みたくなるタイトルなのですね。話の面白い友だちに「この前、これがあってさ」といわれたときの“これ”って、だいたい引きが強いじゃないですか。それのイメージかもしれない。もし、この『PEOPLE’S ROASTERY』に来たときのことを書くとしたら、書き出しとかはどうなるのでしょう?
燃え殻:たとえば、「あのとき、僕はもっとも東京らしいところにいた」とかから始めると、「東京らしいところってどこだろう?」と、自分のなかのいちばん東京らしいところをイメージしてもらえる。そうすると、読むのに疲れないじゃないですか。読むのに疲れないエッセイを書きたいんですよ。
長井:燃え殻さんのエッセイは本当に疲れなかったです。私、けっこう文章と対峙する派で、エネルギーを使うこともよくあるのですが、これは“トゥルリ”と入ってきてすごくよかったです。
燃え殻:うれしいです。ありがとうございます。
長井は、燃え殻が「事実しか書かないエッセイは好きではない」と話していたことが、気になっているという。その言葉の真意を、彼は次のように語る。
燃え殻:僕は大槻ケンヂさんのエッセイがすごく好きで、大槻さんと話しているときに「書いていて、いっぱいフィクションも入れちゃった」と言われたのですが、「大槻さんもそこまでノって書いたんだな」と思うとうれしくて。「小説って何?」と言われると全部はちゃんと答えられませんが、僕は「フィクション多めの真実」みたいなものが小説で、「真実多めのフィクション」がエッセイだと思っています。そういうふうに思うと、書きやすいじゃないですか。
長井:たしかに、「一言一句、真実を書かなければいけない」と思った段階でプレッシャーかも。エッセイは、真実多めのフィクション。だからトゥルっと入ってくるのかな。
燃え殻:そうだとうれしいですね。
長井:私も『バイブス人類学』という自分の連載コラムがあるのですが、「書こう、書こう」というプレッシャーを自分に課しすぎて、ものすごくあいだが空いてしまっているんです。次に書くものも「いいものを書かなきゃ」という気持ちになってしまって、“書けなくなっちゃう病”なのですが、どうしたらいいですか?
燃え殻:文庫の解説にも書いたのですが、僕は下請け仕事が多くて、クライアントからずっと「考えるな」「間に合わせろ」と言われていたんですよね。いまやっている週刊連載も、「いいのができたら送ってくださいね」だと、一生何もやらないなと思いますが、「1週間に1本送ってくださいね」と言われると、送るんですよ。なので、納期を設けてください。
長井:設けます(笑)! “送る”という行為にフォーカスするということですね。ありがとうございます。
続いて長井は、リスナーからのお悩みを紹介。「社交辞令の境界線がわからず、自分が傷つきたくないためその人を信じられなくなってしまう。内容が具体的な社交辞令を言う人と、どういった考えで付き合うか?」という相談に、燃え殻は次のように答えた。
燃え殻:こういう仕事をしていると、「今度飲もうよ」とか「今度軽くごはんでも」と言われることがあって、僕も真に受けるタイプだったので「じゃあ今度っていつなんだろう?」と思うのですが、相手もお忙しい人が多いのでその場で決められなかったりするじゃないですか。僕はそれでモヤモヤするのがいやだったので、「僕、全部本当だと思っちゃうんですよね」という話を先にするようにしていました。そうすると相手も真剣に考えたり、本当は社交辞令だったけど、実際にごはん食べに行くことになったりするので、自分から「こういう性格です」と言うクセをつけるといいと思います。モヤモヤするぐらいなら、伝えたほうがよくないですか?
長井:「私はこうですよ」と言語にして伝える、相手にカードを出してあげるというのは大事ですね。
燃え殻:そう。特に社会人にとって重要な気がして、「こういう人です」「こういうのがいやな人です」と言うとだんだんみんなが理解して、そういう空気ができると生きやすくなると思います。
J-WAVE『PEOPLE'S ROASTERY』のコーナー「MY FIELD NOTE」では、曜日別で登場するゲストが人々の好奇心を刺激する。放送は月曜~木曜の14時ごろから。
燃え殻が登場したのは、2月20日(木)放送のJ-WAVE『PEOPLE’S ROASTERY』(ナビゲーター:長井優希乃)のコーナー「MY FIELD NOTE」。長井と曜日別のさまざまなジャンルの人々が好奇心を刺激するコーナーだ。
連載中のエッセイは「あったことを、全部ネタに」
J-WAVEで、毎週火曜深夜に放送中の『BEFORE DAWN』でナビゲーターを務める燃え殻。現在、エッセイ『それでも日々は続くから』(新潮文庫)の文庫版が発売中だが、その内容は……?燃え殻:『週刊新潮』で3年くらい連載しているエッセイなのですが、短い内容で、エッセイというよりも、できる限り“起承転結”をつけたショートショートのような物語にして、それを50編くらい入れた文庫です。
長井:私も読ませていただいたのですが、どこから読んでも面白いストーリーがたくさん入っていました。最初から最後まで時系列というよりも、「20年前のことなんだけど」という話や、最近の話、コロナ禍の話など、いろいろな“とき”が詰まっていて、興味深く、面白く読みました。
燃え殻:ありがとうございます。
長井:あと、タイトルのつけ方がすごく好きです。たとえば「まーまー好きだった人」とかは、「読みたい!」となります。ほかにも「バニラ♪バニラ♪バニラ♪バニラ♪」とか、どこかで聞いたことある音がタイトルになっているという(笑)。テーマやネタを、どのように日常から抽出しているのか気になっています。
燃え殻:週刊連載で毎週原稿を出さなきゃいけないので、「あったことを全部ネタにしよう」という気持ちで書いています。たとえば、このラジオに呼んでいただいて「いま緊張しているな」「この緊張って、人生のどこかであったよな」と思ったら、その記憶を取り戻しつつ、いまのスタジオのなかのことを書きつつ、みたいな感じで書いていきます。
長井:昔の記憶と結びつけて書かれているのも印象的ですが、ずっと日記を書いていたりしたのか、頭のなかの記憶とリンクさせているのかも気になりました。
燃え殻:記憶です。僕、(昔のことは)「全然覚えていない」と思っていたのですが、でも、体験しているので、そこにいたことやそのときの感覚を、「このおいしさって、あれに似ているな」と、ふと思ったときに初めて引き出しが空いて、忘れていたことを思い出します。「これって、近しい何かがあったな」と強く思うようにすると、「子どもの頃のあれに似ている」「お祭りのときのあれに似ている」ということを思い出すんですよ。
「読みたくなるタイトル」はどう付ける?
長井:エッセイのタイトルは、どうやって決めているのでしょうか?燃え殻:原稿を書いて、編集の人に渡すのですが、「タイトル、どうしましょう?」と言われたときに1回戻ってくるんです。それを初めて客観的に読んでみて、書いた内容をひと言で表したのをタイトルにしています。
長井:なぜ、そのスタイルになったのですか?
燃え殻:僕はずっと本を読んできたわけでも、書いてきたわけでもないので、自分のなかのいちばん最短でやらないと、週刊連載に間に合わないんです。たとえば、友だちや知人に「何を書いているの?」と聞かれたときに、長く話せないじゃないですか。だから、「バーニラバニラ♪みたいなさ」「あぁ、あれね」と、すぐにわかってもらうことを想定して、「コピーとしてひと言で言うなら何だろう?」と思って書いているかもしれないです。
長井:だから、「何これ!?」と、すごく読みたくなるタイトルなのですね。話の面白い友だちに「この前、これがあってさ」といわれたときの“これ”って、だいたい引きが強いじゃないですか。それのイメージかもしれない。もし、この『PEOPLE’S ROASTERY』に来たときのことを書くとしたら、書き出しとかはどうなるのでしょう?
燃え殻:たとえば、「あのとき、僕はもっとも東京らしいところにいた」とかから始めると、「東京らしいところってどこだろう?」と、自分のなかのいちばん東京らしいところをイメージしてもらえる。そうすると、読むのに疲れないじゃないですか。読むのに疲れないエッセイを書きたいんですよ。
長井:燃え殻さんのエッセイは本当に疲れなかったです。私、けっこう文章と対峙する派で、エネルギーを使うこともよくあるのですが、これは“トゥルリ”と入ってきてすごくよかったです。
燃え殻:うれしいです。ありがとうございます。
長井は、燃え殻が「事実しか書かないエッセイは好きではない」と話していたことが、気になっているという。その言葉の真意を、彼は次のように語る。
燃え殻:僕は大槻ケンヂさんのエッセイがすごく好きで、大槻さんと話しているときに「書いていて、いっぱいフィクションも入れちゃった」と言われたのですが、「大槻さんもそこまでノって書いたんだな」と思うとうれしくて。「小説って何?」と言われると全部はちゃんと答えられませんが、僕は「フィクション多めの真実」みたいなものが小説で、「真実多めのフィクション」がエッセイだと思っています。そういうふうに思うと、書きやすいじゃないですか。
長井:たしかに、「一言一句、真実を書かなければいけない」と思った段階でプレッシャーかも。エッセイは、真実多めのフィクション。だからトゥルっと入ってくるのかな。
燃え殻:そうだとうれしいですね。
長井やリスナーのお悩みを相談!
ナビゲーターを務める『BEFORE DAWN』でリスナーからのいろいろなお悩みや愚痴に答えている燃え殻に、この日は『PEOPLE’S ROASTERY』でもお悩み相談を実施。長井は、自身の悩みを打ち明けた。長井:私も『バイブス人類学』という自分の連載コラムがあるのですが、「書こう、書こう」というプレッシャーを自分に課しすぎて、ものすごくあいだが空いてしまっているんです。次に書くものも「いいものを書かなきゃ」という気持ちになってしまって、“書けなくなっちゃう病”なのですが、どうしたらいいですか?
燃え殻:文庫の解説にも書いたのですが、僕は下請け仕事が多くて、クライアントからずっと「考えるな」「間に合わせろ」と言われていたんですよね。いまやっている週刊連載も、「いいのができたら送ってくださいね」だと、一生何もやらないなと思いますが、「1週間に1本送ってくださいね」と言われると、送るんですよ。なので、納期を設けてください。
長井:設けます(笑)! “送る”という行為にフォーカスするということですね。ありがとうございます。
続いて長井は、リスナーからのお悩みを紹介。「社交辞令の境界線がわからず、自分が傷つきたくないためその人を信じられなくなってしまう。内容が具体的な社交辞令を言う人と、どういった考えで付き合うか?」という相談に、燃え殻は次のように答えた。
燃え殻:こういう仕事をしていると、「今度飲もうよ」とか「今度軽くごはんでも」と言われることがあって、僕も真に受けるタイプだったので「じゃあ今度っていつなんだろう?」と思うのですが、相手もお忙しい人が多いのでその場で決められなかったりするじゃないですか。僕はそれでモヤモヤするのがいやだったので、「僕、全部本当だと思っちゃうんですよね」という話を先にするようにしていました。そうすると相手も真剣に考えたり、本当は社交辞令だったけど、実際にごはん食べに行くことになったりするので、自分から「こういう性格です」と言うクセをつけるといいと思います。モヤモヤするぐらいなら、伝えたほうがよくないですか?
長井:「私はこうですよ」と言語にして伝える、相手にカードを出してあげるというのは大事ですね。
燃え殻:そう。特に社会人にとって重要な気がして、「こういう人です」「こういうのがいやな人です」と言うとだんだんみんなが理解して、そういう空気ができると生きやすくなると思います。
J-WAVE『PEOPLE'S ROASTERY』のコーナー「MY FIELD NOTE」では、曜日別で登場するゲストが人々の好奇心を刺激する。放送は月曜~木曜の14時ごろから。
番組情報
- PEOPLE'S ROASTERY
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月・火・水・木曜13:30-16:00