今年のアカデミー賞は例年以上に大混戦!? 「ハリウッドと映画産業の今」を識者が解説

「ハリウッドと映画産業の今」について、映画ライター・よしひろまさみちさんが語った。

よしひろさんが登場したのは、2月18日(火)放送のJ-WAVE『STEP ONE』(ナビゲーター:サッシャ、ノイハウス萌菜)のコーナー「SAISON CARD ON THE EDGE」だ。

今回のアカデミー賞は大混戦!?

日本時間3月3日(月)に行われるアメリカ映画界の祭典「第97回アカデミー賞授賞式」。コロナ禍、そしてその後の俳優と脚本家の組合によるダブルストライキからようやく回復の兆しが見えたと思った直後に、今度はロサンゼルスの山火事が起きるなど、ハリウッドは今大変な興行不振にあえいでいるとも言える。今後、映画産業への影響はどうなるのか。

サッシャ:ロサンゼルスは大変ですね。

よしひろ:年明け早々、大変でしたね。当初はアカデミー賞の授賞式が吹っ飛ぶかなくらいの勢いでしたが、ノミネーションの発表が2回延期されただけで、結果的に予定どおり開催されることになりました。

ノイハウス:それ以外に、普段の開催とは違うこともあるんですか?

よしひろ:異例は異例なんですけど、前哨戦のときに候補者が全員集まる昼食会「ノミニーズ・ランチョン」が中止になり、ますます私たちの予想ができなくなりました。

サッシャ:受賞に影響するほどなんですね。

よしひろ:投票の前に行われるので、ロビー活動のなかでもけっこう大きいほうなんです。その場での発言が受賞に絡んできたりするので、私たちも注目していたのですが、中止になってしまいました。

「今回のアカデミー賞は大混戦が予想される」とよしひろさんは言う。

よしひろ:2024年は『オッペンハイマー』のように「全部獲るよね」という作品がありましたし、だいたい毎年そういう作品があるんですけど、今年はないんです。

サッシャ:小粒なんですか? それとも大粒が揃ってる?

よしひろ:小粒がたくさん。小粒同士の戦いではありますが、小粒でも良作ばかりなので、もしかすると多部門受賞や何冠みたいなことではなくてバラけるだろうと。むしろ、そのほうが授賞式としては健全かなと個人的には思います。そんななかでも、この作品は主要賞を獲るかなというのがちょっとずつ見えてきている感じですね。

今年は公開延期の作品が次々に公開される

ハリウッドの興行収入が落ち込みを見せると、日本の映画市場にはどのような影響があるのだろうか。

よしひろ:北米では2024年は87.2億ドルという興行収入でしたが、それは前年比で2,000万ドルほど下がってしまっているんです。実は、これは上方修正されていて、クリスマス商戦での追い上げで7,200万ドルが上乗せされた数字です。とはいえ、ストの影響で供給不足になってしまい大作がなかったんです。それが日本でもものすごく影響しました。

サッシャ:全部ずれ込みましたからね。

よしひろ:日本の興行成績の全体トップは『名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)』で、洋画の1位が『インサイド・ヘッド2』で両方ともアニメーションなんです。洋画の大型キャンペーンがまったくなかった、という言い訳もありますが、あまり洋画に目が向かなかったのが2024年でした。本来であれば、コロナ禍で大ダメージを受けていたため、2024年はホップ・ステップ・ジャンプの年にしたかったのですが、コンテンツがなかったんです。

その影響から、今年は公開延期になっていた作品が次々に公開されるそうで、「たぶん1、2週間ですぐにスクリーンから落ちていくという現象が起きてしまうので、みなさん、観たい作品が見つかったときにはすぐに観に行ってください」とよしひろさんが呼びかけた。

今年のアカデミー賞の見どころ

そんな映画界のなか、よしひろさんに今回のアカデミー賞の受賞予想をしてもらった。

よしひろ:作品賞と監督賞はわりと固まってきたと思います。『ANORA アノーラ』ですね。

アカデミー賞6部門ノミネート!『ANORA アノーラ』2.28公開【本予告】

よしひろ:これはニューヨークのストリップクラブでの話で、少しロシア語が話せる女の子がロシア人のお客さんを相手にする。そのお客さんがロシアの新興財閥の御曹司でスーパー金持ちなんです。その人に気に入られちゃって「1週間だけ契約彼女をやってよ」って言われて、勢いでラスベガスで挙式をしちゃうんです。そうしたら財閥の両親が大怒り、というところから話が始まります。まさかのコメディで大笑いしました。

サッシャ:作品賞を獲るほどのメッセージ性やパワーがあるんですか?

よしひろ:あるんです。いわゆるセックスワーカーと呼ばれている人たちのコミュニティでも、ものすごく支持されてるんです。監督のショーン・ベイカーは、もともと社会の片隅で日の当たらないところにいる人たちにずっとスポットをあて続けてきた人で、しかも『ANORA アノーラ』はオリジナル脚本なので集大成とも言われています。カンヌ国際映画祭のパルムドールを受賞していて、そこからずっとフロントランナーなんです。「コメディなので、ちょっと賞には弱いかもね」とも言われていたんですけど、前哨戦はどんどん勝ってます。

よしひろさんは個人的に気になる作品として『BETTER MAN/ベター・マン』を挙げ、「視覚効果賞を獲ってほしい」と話す。

映画『BETTER MAN/ベター・マン』本予告

よしひろ:元テイク・ザットのロビー・ウィリアムスの伝記なんです。ロビーがずっとチンパンジー。

サッシャ:あれは監督とロビー・ウィリアムスが話しているときに、「自分はまるで舞台上にいるサルみたいだった」という発言をもとに「じゃあ、サルにしよう」ってことだったみたいですね。

よしひろ:実際にそれで成り立つのかなって思ったけど、逆に本人に似せた俳優が演じたとしたら生々しくて観てられなかっただろうから、むしろファンタジーっぽくみせるのが正解だったと思います。テイク・ザットの面々も若い俳優を揃えるんですけど、全員そっくりさんですごく似てるんです。

サッシャ:この作品の視覚効果が素晴らしいということですね。

よしひろ:全編チンパンジーなので、どうやって撮っているんだろうってなると思います。

また「『教皇選挙』も個人的に大好きな作品」と、よしひろさんは続ける。

【アカデミー賞®8部門ノミネート】映画『教皇選挙』予告篇|3月20日[木・祝]全国公開

よしひろ:これも超楽しいですよ。男の権力争いって、こんなに汚いんだってなります(笑)。だって、ローマ教皇って、全員男じゃないですか。出てくるのが枢機卿ばかりなんですけど、ビジュアルもいいんですよね。全員法衣で出てくるので。でも、やってることはゲスい(笑)。ドロドロで超面白いです。

J-WAVE『STEP ONE』のコーナー「SAISON CARD ON THE EDGE」では、ニューノーマル時代のエッジにフォーカス。放送は月曜~木曜の10時10分ごろから。
番組情報
STEP ONE
月・火・水・木曜
9:00-13:00

関連記事