2025年3月には、「さけるチーズフェス2025」をグランフロント大阪うめきた広場で開催。画像はその際に登場した巨大オブジェ。画像出典:雪印メグミルク株式会社のニュースリリース

「さけるチーズ」は、なぜ“さらなる人気”を獲得できたのか? マーケティングの専門家が解説する道のり

「さけるチーズ」のさらなる成長の理由を、専門家がマーケティング視点で解説した。

登場したのは、Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立した、Aqxis合同会社代表の多田 翼さん。オンエアは、8月7日(木)のJ-WAVE『STEP ONE』(ナビゲーター:サッシャ、ノイハウス萌菜)内、ニューノーマル時代のエッジにフォーカスするコーナー「SAISON CARD ON THE EDGE」。この1週間はノイハウス萌菜がお休みのため、日替わりの代打ナビゲーターとして俳優の飛香まいが登場した。

すでに「商品力が強い」ところから、さらなる成長を遂げた

多田さんは毎週1回、ソーシャル経済メディア『NewsPicks』でマーケティングを紐解いたトピックスを配信している。この日は、6月6日に公開した「雪印メグミルクの『さけるチーズ』40年目の覚醒。市場リーダーの危機感からのマーケティング」という記事をピックアップした。気になるその内容は……?

多田:タイトルにあるとおり、「さけるチーズ」は40年以上ある商品なのですが、2023年ごろに「あらためてブランドを再成長させる」というチャレンジのもと取り組んだ内容がすごく面白かったので、その内容を紐解いたトピックスになっています。

サッシャ:マーケティング目線で見ると、昔といまで「さけるチーズ」は変わってきているということですか?

多田:そうですね。繊維状でさけるナチュラルチーズは、ストリングチーズ市場に分類されるのですが、雪印メグミルクさんの「さけるチーズ」は、おそらく私のなかでも消費者さんのなかでも「ストリングチーズといえばこの商品!」というイメージがあり、ロングセラーかつ認知度も高いと思います。高い商品力があるゆえに、ある意味、商品力頼みでやってこられたところもあるのですが、商品力のあるところにブーストするかたちであらためてマーケティングが入ったのが今回の面白いところだし、ターニングポイントになったんじゃないかなと思っています。

サッシャ:では極端な話、「売れているけど、なぜ売れているのかそんなにわかっていなかった」ということですか?

多田:「そうだ」というと語弊があるかもしれませんが、「どういう人たちが、どういった気持ちで、何を期待して買っていたのか」というのを緻密に分析しなくても、商品がどこでも売られている状態なので、商品力を出していけば売れるくらいのシェアは取っていました。今回のスターティングポイントは「どういうお客さんに、どういう価値を届けているのか」をあらためて見直した点だと思います。

サッシャ:ある意味、安定しすぎてしまって「(売り上げが)下がりはしないけど、逆に上がりもしない」みたいな状態だったということですか?

多田:そうですね。しっかりとしたデータでも、「さけるチーズ」はストリングチーズ市場のシェアでいうと90パーセントくらい取っていて、ほぼ市場独占状態です。「では、さらに成長するにはどうすればいいのか?」というところから始まった事例になっています。

「顧客理解」や「商品価値の明確化」によって進化

「さけるチーズ」のさらなる成長に向け、ゼロベースからあらためてマーケティング戦略を見直すことにした雪印メグミルク。まず行ったのは「顧客理解」だと、多田さんは語る。

多田:実際に「さけるチーズ」をよく買っているのはどういう人か、その人たちは「さけるチーズ」に何を期待しているのか、ニーズに対して何を期待しているのかというところから、あらためてお客さんを理解しました。

サッシャ:誰が、何のために買っているかと……。

飛香:「顧客の明確化」という意味でしょうか?

多田:そうですね。加えて、商品価値の明確化ですね。顧客理解に関して行ったのは、徹底したインタビューです。インタビューは2段階に分かれていて、「『さけるチーズ』とはどういう存在なのか?」という社員へのインタビューを第1段階として行いました。その後、消費者インタビューを重ねて、100人以上に聞いて回ったそうです。「さけるチーズ」の話はもちろん、チーズ以外のことも含めて、一人ひとりにじっくりと話を聞いたといいます。

サッシャ:その結果、見えたのが?

多田:共通して見えてきた「さけるチーズ」の存在意義は、「スナックとしてヘルシーで、プラス楽しい」というものでした。

サッシャ:さいて食べるというのは、ちょっとアトラクションですもんね。

飛香:私も初めて「さけるチーズ」に出会ったのは幼稚園生くらいだったのですが、「さける」っていうだけで面白くて、衝撃的でした。どれだけ細くできるかに挑戦したりもしていて、たしかに楽しいという意味ではいまだに刺さっていますね。

多田:(インタビューで)あらためて、消費者それぞれの「どういう状況で」というエピソードがじっくりと聞けたと思うんですよね。そこで「ヘルシー、プラス楽しさ」に行き着いて、しっかり言語化して社内のメンバーで共有して見定められたというのが、勝ち筋に乗っているんじゃないかなと思います。

老若男女に広く愛される「さけるチーズ」だが、顧客の明確化を進めるなかで、雪印メグミルクはより具体的なターゲット層も把握できたという。

多田:特に母親と子ども、つまり親子で一緒に楽しめる食べ物であることがわかりました。「その層に、いちばん価値を届けられるのではないか」と捉えられたのは、インタビューから得た大きな発見だったと思います。

飛香:なるほど。私も学校から帰宅して「さけるチーズ」を食べていましたが、楽しくておいしいだけでなく、ヘルシーというのもいいですよね。

サッシャ:家にあるということは、お父さんやお母さんが買っているということでもありますよね。

飛香:そうですね、買って、待っていてくれました。そういう意味では、ターゲット層に当てはまっていたなと思います。

ヘルシー“チーズ”ではなく“スナック”

長い歴史を持ちながらも、大胆な改革に踏み切った「さけるチーズ」。多田さんは、雪印メグミルクがあらためて行った具体的な戦略についても教えてくれた。

多田:「さけるチーズ」のことを、ひと言で「ヘルシースナック」であるとしました。ヘルシー“チーズ”ではなく、“スナック”という言葉にして、ひと言でかなり広げました。

サッシャ:「お菓子のような」の部類にも入ると。

多田:そうです。つまり「ヘルシーかつ、楽しい食べ物である」という位置づけを再定義しました。それにもとづいて、CM、動画広告を作ったり、子どもが見やすいように目線の低い棚に置いてお店での商品の並べ方を工夫したりしました。

サッシャ:昔は、棚のいちばん上に置いてありましたよね。

多田:最初は大人向けの商品でしたが、親子で楽しめるように、たとえばコンソメ味を子どもが見たときに「買いたい!」と言えるような置き方をしています。

サッシャ:コンソメ味ってあるんですね。いま食べさせていただいたのですが、めっちゃおいしい! たしかに、スナック感がありますね。

飛香:そうですね、手軽に食べたくなります。

多田:(コンソメ味は)比較的新しい味ですが、ニーズを広げるためのねらいもあったのではないかと思います。

飛香:大きな改革を行って、実際に数字としての変化は見られたのですか?

多田:ターニングポイントになったのが2022~23年ごろだったので、2023年度の数字を見たところ、もっとも多かった四半期で前年比30パーセント、通年で10数パーセント上がっていました。

サッシャ:ロングセラーで、市場が9割もあるところからの1割増しは相当ですよね。

多田:「さけるチーズ」としてだけではなくて、スナック菓子としても(売り上げを)取ってこられたのではないかなと推測されるので、大成功と言っていい事例かなと思います。

サッシャ:酒のつまみから、大人のお菓子、子どものスナックまで全部。だから、親子で買ったときに両方食べられるというね。

多田:そうですね。「ヘルシーかつ、楽しいスナックである」というのが、1本の軸として土台にあって、そのうえに広げているので、ブランドとしてもまったくブレずに、一貫性のある戦略から秘策につながっているというのがすごくきれいだし、面白いなと思います。

購入促進に貢献するレアパッケージの存在

「さけるチーズ」のマーケティング事例をピックアップするにあたり、放送前に“レアパッケージ”の存在を知ったナビゲーターのふたり。通常パッケージとは異なり、「さけるチーズ」を豪快にさいて広がった様子を印字したレアパッケージは「ボンバーさけチー」と呼ばれていると、多田さんは説明する。

飛香:レアパッケージを見つけたらテンションが上がりますね!

多田:そうですね。もともと、一部地域で数パーセントくらいしか出回っていなかったのを、マーケティングに力を入れたときに全国展開したので、もう少し見られる確率が上がりました。とはいえ、やはりレアなので、見つけた人がSNSに「ついに出会えた!」と投稿したりもしています。

飛香:お花のようにさけているなど、フレーバーによって形が違ったりもしていて、すごく面白い取り組みをされているんだなと思いました。

最後に、雪印メグミルクの事例から「私たちも学べること」を多田さんに訊いた。

多田:まずは、ロングセラーのような定番商品でもまだまだ伸び代がある可能性があるので、「成長させよう」とか「もっとお客さんに手に取ってもらえるんじゃないか」という挑戦意欲は、今回の「さけるチーズ」から学べることだと思います。また、マーケティングの観点では、冒頭でもお話したように「お客さんがどういう人で、どういうニーズにどういう価値が刺さるのか」という、マーケティング戦略の根幹となるところを当てずっぽうではなく、実在する消費者ひとりひとりのインタビュー情報に基づいてしっかりと顧客イメージを作っています。そこから「ヘルシースナック」のような価値をひと言で定義して、それを商品からCM店頭パッケージまで一貫してつなげているというのが、マーケティングのお手本となるような事例だし、食品業界以外にも参考になるかなと思います。

サッシャ:なるほどね。社内のチームワークはさけることがなかったということで。

飛香:そうですね(笑)。

J-WAVE『STEP ONE』のコーナー「SAISON CARD ON THE EDGE」では、ニューノーマル時代のエッジにフォーカス。放送は月曜~木曜の10時10分ごろから。
番組情報
STEP ONE
月・火・水・木曜
9:00-13:00

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