アニメーターの舘野仁美が、これまでのキャリアを振り返り、スタジオジブリ時代の印象的だったエピソードを語った。
舘野が登場したのは、8月10日(日)放送のJ-WAVE『UR LIFESTYLE COLLEGE』(ナビゲーター:吉岡里帆)。心地よい音楽とともに、よりよいライフスタイルを考えるプログラムだ。 トークの模様は、Spotifyなどのポッドキャストでも聴くことができる。
・ポッドキャストページ
吉岡:舘野さんの著書を拝読しまして、この本の大ファンになりました。
舘野:ありがとうございます。
吉岡:『エンピツ戦記 - 誰も知らなかったスタジオジブリ』では、「スタジオジブリに嫁いだ」27年間を振り返って、記憶のなかにある宮﨑 駿監督、鈴木敏夫プロデューサー、高畑 勲監督、そしてスタッフたちのエピソードを綴られている1冊となっています。こちらは2015年に発売された著書の文庫化なんですよね。新たに追加されたその後のエピソードも載っています。
舘野:そうです。
吉岡:クスっとしたところをまずご紹介します。宮﨑 駿監督や鈴木敏夫プロデューサーの知られざる一面がたくさん描かれているんですけども、「私は宮﨑 駿のせいで結婚できなかった」と1行目に書いてくれと鈴木さんから打診を受けたあと、「鈴木敏夫も入れないと不正確です」と返したというエピソードが印象的でした(笑)。みなさんとのすばらしい関係性が伺えます。
舘野:大変生意気なことを言っていますね。いまだったら逆に言えなかったかもしれない(笑)。自分は絵を描くことに特化していたので、そういうことを平気で言えちゃったんですよね。ジブリから外に出ますと、鈴木さんの偉大さを感じますので、いまとなっては若気の至りだなと感じております。
吉岡:書籍ではアニメーターとして苦労してきた日々だったり、大変だった瞬間だったりが書かれていますけども、私は冒頭がすごく好きです。
吉岡:書籍ではそれが、ジブリという戦場で繰り広げられた理不尽との戦いの“のろし”だったのかも、というように綴られております。この“のろし”だと感じられたエピソードがすごくよくて。たとえば、目を閉じる瞬間の瞼、半目のときに「瞼線を付けなさい」と宮﨑監督にまず指示を受けていた。ところが、作画のAさんからは「瞼線を消してよ」と指示されていて、消したあとに監督のチェックが入ったとのことで……これはかなり理不尽ですよね。
舘野:はい(笑)。どちらの話を聞けばいいんだって。
吉岡:動画チェックというお仕事はすごく繊細で大変なんだなってことが伝わる一文でした。
舘野:Aさんは違う作品で作画監督もやられていて、本当に尊敬していた方だったんです。その方がおっしゃることと宮﨑監督のおっしゃること、どちらも聞かないといけないから……(笑)。
吉岡:お気持ち、察します(笑)。私はアニメーターのみなさんを心から尊敬しているひとりなんですが、アニメって本当にたくさんの工程があって、その一つひとつにプロフェッショナルな方がいるじゃないですか。そして、お互いを尊重し合いながらも、同時に監視し合わなきゃいけない関係性でもあるじゃないですか、きっと。現場の大変さはまったくわかりませんが、私は、1本の映画ができるまでの奇跡っていうのをこの本からすごく感じました。
舘野はリスナーに向けて、動画チェックの仕事内容を説明した。
舘野:アニメーションの作画は、大きく分けて「動画」と「原画」のふたつの仕事に分かれています。原画は動きの大事なポイントをかっこよく、要領よく描かないといけないんですけども、そのあいだの絵を動画の人におまかせするシステムになっているんですね。まず、原画をなぞって(クリンナップ)、あいだの絵を入れていくのが動画の仕事です。それが上がってきたときに、忘れ物とか、もうちょっと絵をよくしたいなってところがあれば、それを直さないといけない人(動画チェック)が必要なんですよね。実は、動画チェックという職業がなかった時代もあるそうです。
吉岡:そうなんですか!
舘野:宮﨑 駿さんと高畑 勲さんが動画チェックという仕事を作ったとおっしゃっていました。
吉岡:へええ!
舘野:いまの仕事のように規格化したのはおふたりだったと伺っております。
吉岡:その礎があるからこそ、いまでも日本のアニメーションが世界中で愛されているんでしょうね。
吉岡:1994年、社員旅行で奈良に行ったとき、池のほとりを歩いていたら、空から1羽の水鳥が舞い降りてきて、翼をたたんだと。そのとき宮﨑さんが「お前、飛び方、間違ってるよ」と鳥に言ったそうで、このエピソードは本当に傑作だなと思いました。宮﨑さんをあまりにも捉えているエピソードで、すごくよかったです。舘野さんは、“鳥に対してのその言葉は、現実の向こうにある理想のリアルを描くことだ”というようなことを書かれていて、すごくいい言葉だと思いました。
舘野:ありがとうございます。
吉岡:私たち俳優陣も、ただそうある生々しさを要求されながらも、ただそのまま生々しくやればいいかって言われたらそうでもなくて。みんなが見たいもの、理想とする美しい姿、かっこいい姿もあり。「こうだったら物語がもっと魅力的になる」というところを、より突き詰めていかないといけない。そこを、スタジオジブリで働かれているみなさんは追求されているんだと思うと、途方もない努力を感じました。それを絵で描くという。特に舘野さんはアナログで描くことを大切にされていると伺ったんですけども、私もアナログ画のアニメが大好きです。
舘野:不規則になっちゃうところもあるのですが、それがやっぱり大事なんですよね。監督は「1個のパターンをたくさん増やしてスタンプみたいに置いていくと、それは観客にバレる」と言っていました。脳が察知するから。だから、手で描くんだと。
吉岡:本当にすごい世界。
舘野:違う人生をやってみたくて。仕事をしているとき、窓から外の景色を眺めるのが好きで、できたら空が見えるような場所でカフェをやれたらいいなと漠然と思っていたんですね。そうしたら偶然、西荻窪にそういう物件があり、不思議なことにほかの物件が出てこないんですよ。だから、とにかくやってみようと思いました。
カフェ経営において、天候と客足は売上に大きく影響する。難航していたところ、「アニメーションを店内に展示してはどうか」と知人から助言を得たという。
舘野:それで、ちょっとまたアニメの世界に戻ってきたんです(笑)。展示をするようになったら、アニメーターの方が見に来てくれるようになって、気付いたら「アニメーターの人生をドラマにする企画があるんですが、監督をやりませんか?」っていう話が来たんです。それが、NHKの連続テレビ小説の『なつぞら』でした。
吉岡:すごいつながりですね! やっぱり、アニメ側が舘野さんを放っておかないという。
『なつぞら』終了後、若手の育成の重要性に気付いた舘野は、アニメの動画研修所を開設した。
吉岡:その延長として、若手を育成しながらNHKアニメ『cocoon~ある夏の少女たちより~』という作品でプロデューサー兼動画監督もされています。こちらはNHK総合テレビで8月25日(月)23:45~24:46に放送予定です。
舘野:仕事場にテラスがあるのですが、そこで植物を育てています。
吉岡:(写真を見て)かわいい! 薔薇の鉢ですね。赤と白ですね。
舘野:そうなんです。虫がついたり、枯れかかることもあるのですが、なんとか咲き続けてくれています。
吉岡:こちらはお部屋の写真でしょうか。すごくきれいにされていますね! ご自宅のテーマがあれば教えてください。
舘野:その写真はカフェのものなんです。実は自宅にはときどきしか帰っていなくって(笑)。カフェ、仕事場に泊まることが多いです。
吉岡:そうなんですね。白で統一されているような感じで、テーブルトップはグレーにちょっとピンクが入っていてかわいいです。
舘野:夏のあいだは冷たくて快適です。
吉岡:今日はありがとうございます。貴重なお話の連続で、じんわりと幸せな時間になりました。ラジオはいかがでしたか?
舘野:大好きなJ-WAVEに来られるだけでもうれしかったのですが、『エンピツ戦記』もとても詳しく読んでいただけて感無量です。
『UR LIFESTYLE COLLEGE』では、心地よい音楽とともに、よりよいライフスタイルを考える。オンエアは毎週日曜18時から。
舘野が登場したのは、8月10日(日)放送のJ-WAVE『UR LIFESTYLE COLLEGE』(ナビゲーター:吉岡里帆)。心地よい音楽とともに、よりよいライフスタイルを考えるプログラムだ。 トークの模様は、Spotifyなどのポッドキャストでも聴くことができる。
・ポッドキャストページ
スタジオジブリの回顧録が文庫化
舘野仁美は福島県出身。1987年にスタジオジブリに入社後、1988年公開の『となりのトトロ』から2014年公開の『思い出のマーニー』まで、数々のジブリ作品の動画チェックを担当。2014年にスタジオジブリを退職後は、アニメーターの育成にも注力。2015年には、ジブリ作品のアニメーターとして裏方に徹した回顧録『エンピツ戦記 - 誰も知らなかったスタジオジブリ』(中央公論新社)を発表し、話題を呼んだ。そして、2025年5月に同著の文庫版が中公文庫より発売された。吉岡:舘野さんの著書を拝読しまして、この本の大ファンになりました。
舘野:ありがとうございます。
吉岡:『エンピツ戦記 - 誰も知らなかったスタジオジブリ』では、「スタジオジブリに嫁いだ」27年間を振り返って、記憶のなかにある宮﨑 駿監督、鈴木敏夫プロデューサー、高畑 勲監督、そしてスタッフたちのエピソードを綴られている1冊となっています。こちらは2015年に発売された著書の文庫化なんですよね。新たに追加されたその後のエピソードも載っています。
舘野:そうです。
吉岡:クスっとしたところをまずご紹介します。宮﨑 駿監督や鈴木敏夫プロデューサーの知られざる一面がたくさん描かれているんですけども、「私は宮﨑 駿のせいで結婚できなかった」と1行目に書いてくれと鈴木さんから打診を受けたあと、「鈴木敏夫も入れないと不正確です」と返したというエピソードが印象的でした(笑)。みなさんとのすばらしい関係性が伺えます。
舘野:大変生意気なことを言っていますね。いまだったら逆に言えなかったかもしれない(笑)。自分は絵を描くことに特化していたので、そういうことを平気で言えちゃったんですよね。ジブリから外に出ますと、鈴木さんの偉大さを感じますので、いまとなっては若気の至りだなと感じております。
吉岡:書籍ではアニメーターとして苦労してきた日々だったり、大変だった瞬間だったりが書かれていますけども、私は冒頭がすごく好きです。
「動画チェック」は、どんな仕事?
舘野がスタジオジブリに入るきっかけとなったのは、『となりのトトロ』の動画チェックの仕事だった。現場では、監督の指示と作画監督や原画担当者の指示が食い違うことがあり、その矛盾からトラブルが頻発。そうした調整役、いわば“泥をかぶる”役割を担うのも、動画チェックの重要な仕事だった。吉岡:書籍ではそれが、ジブリという戦場で繰り広げられた理不尽との戦いの“のろし”だったのかも、というように綴られております。この“のろし”だと感じられたエピソードがすごくよくて。たとえば、目を閉じる瞬間の瞼、半目のときに「瞼線を付けなさい」と宮﨑監督にまず指示を受けていた。ところが、作画のAさんからは「瞼線を消してよ」と指示されていて、消したあとに監督のチェックが入ったとのことで……これはかなり理不尽ですよね。
舘野:はい(笑)。どちらの話を聞けばいいんだって。
吉岡:動画チェックというお仕事はすごく繊細で大変なんだなってことが伝わる一文でした。
舘野:Aさんは違う作品で作画監督もやられていて、本当に尊敬していた方だったんです。その方がおっしゃることと宮﨑監督のおっしゃること、どちらも聞かないといけないから……(笑)。
吉岡:お気持ち、察します(笑)。私はアニメーターのみなさんを心から尊敬しているひとりなんですが、アニメって本当にたくさんの工程があって、その一つひとつにプロフェッショナルな方がいるじゃないですか。そして、お互いを尊重し合いながらも、同時に監視し合わなきゃいけない関係性でもあるじゃないですか、きっと。現場の大変さはまったくわかりませんが、私は、1本の映画ができるまでの奇跡っていうのをこの本からすごく感じました。
舘野はリスナーに向けて、動画チェックの仕事内容を説明した。
舘野:アニメーションの作画は、大きく分けて「動画」と「原画」のふたつの仕事に分かれています。原画は動きの大事なポイントをかっこよく、要領よく描かないといけないんですけども、そのあいだの絵を動画の人におまかせするシステムになっているんですね。まず、原画をなぞって(クリンナップ)、あいだの絵を入れていくのが動画の仕事です。それが上がってきたときに、忘れ物とか、もうちょっと絵をよくしたいなってところがあれば、それを直さないといけない人(動画チェック)が必要なんですよね。実は、動画チェックという職業がなかった時代もあるそうです。
吉岡:そうなんですか!
舘野:宮﨑 駿さんと高畑 勲さんが動画チェックという仕事を作ったとおっしゃっていました。
吉岡:へええ!
舘野:いまの仕事のように規格化したのはおふたりだったと伺っております。
吉岡:その礎があるからこそ、いまでも日本のアニメーションが世界中で愛されているんでしょうね。
アニメーションで「理想のリアル」を追求
書籍では、宮﨑監督の人となりがわかるエピソードが多数収録されている。吉岡は、エピソードのなかで登場した「理想のリアル」という言葉が印象的だったと語る。吉岡:1994年、社員旅行で奈良に行ったとき、池のほとりを歩いていたら、空から1羽の水鳥が舞い降りてきて、翼をたたんだと。そのとき宮﨑さんが「お前、飛び方、間違ってるよ」と鳥に言ったそうで、このエピソードは本当に傑作だなと思いました。宮﨑さんをあまりにも捉えているエピソードで、すごくよかったです。舘野さんは、“鳥に対してのその言葉は、現実の向こうにある理想のリアルを描くことだ”というようなことを書かれていて、すごくいい言葉だと思いました。
舘野:ありがとうございます。
吉岡:私たち俳優陣も、ただそうある生々しさを要求されながらも、ただそのまま生々しくやればいいかって言われたらそうでもなくて。みんなが見たいもの、理想とする美しい姿、かっこいい姿もあり。「こうだったら物語がもっと魅力的になる」というところを、より突き詰めていかないといけない。そこを、スタジオジブリで働かれているみなさんは追求されているんだと思うと、途方もない努力を感じました。それを絵で描くという。特に舘野さんはアナログで描くことを大切にされていると伺ったんですけども、私もアナログ画のアニメが大好きです。
舘野:不規則になっちゃうところもあるのですが、それがやっぱり大事なんですよね。監督は「1個のパターンをたくさん増やしてスタンプみたいに置いていくと、それは観客にバレる」と言っていました。脳が察知するから。だから、手で描くんだと。
吉岡:本当にすごい世界。
NHKの連続テレビ小説のアニメーション監修を担当
スタジオジブリを退職後、カフェ経営を経験した舘野。当時を振り返りながら「一度アニメから離れようと思いました」と話す。舘野:違う人生をやってみたくて。仕事をしているとき、窓から外の景色を眺めるのが好きで、できたら空が見えるような場所でカフェをやれたらいいなと漠然と思っていたんですね。そうしたら偶然、西荻窪にそういう物件があり、不思議なことにほかの物件が出てこないんですよ。だから、とにかくやってみようと思いました。
カフェ経営において、天候と客足は売上に大きく影響する。難航していたところ、「アニメーションを店内に展示してはどうか」と知人から助言を得たという。
舘野:それで、ちょっとまたアニメの世界に戻ってきたんです(笑)。展示をするようになったら、アニメーターの方が見に来てくれるようになって、気付いたら「アニメーターの人生をドラマにする企画があるんですが、監督をやりませんか?」っていう話が来たんです。それが、NHKの連続テレビ小説の『なつぞら』でした。
吉岡:すごいつながりですね! やっぱり、アニメ側が舘野さんを放っておかないという。
『なつぞら』終了後、若手の育成の重要性に気付いた舘野は、アニメの動画研修所を開設した。
吉岡:その延長として、若手を育成しながらNHKアニメ『cocoon~ある夏の少女たちより~』という作品でプロデューサー兼動画監督もされています。こちらはNHK総合テレビで8月25日(月)23:45~24:46に放送予定です。
仕事場の薔薇でリフレッシュ
番組では、ゲストのライフスタイルに注目。舘野に「快適に暮らすために心がけていること」を訊いた。舘野:仕事場にテラスがあるのですが、そこで植物を育てています。
吉岡:(写真を見て)かわいい! 薔薇の鉢ですね。赤と白ですね。
舘野:そうなんです。虫がついたり、枯れかかることもあるのですが、なんとか咲き続けてくれています。
吉岡:こちらはお部屋の写真でしょうか。すごくきれいにされていますね! ご自宅のテーマがあれば教えてください。
舘野:その写真はカフェのものなんです。実は自宅にはときどきしか帰っていなくって(笑)。カフェ、仕事場に泊まることが多いです。
吉岡:そうなんですね。白で統一されているような感じで、テーブルトップはグレーにちょっとピンクが入っていてかわいいです。
舘野:夏のあいだは冷たくて快適です。
吉岡:今日はありがとうございます。貴重なお話の連続で、じんわりと幸せな時間になりました。ラジオはいかがでしたか?
舘野:大好きなJ-WAVEに来られるだけでもうれしかったのですが、『エンピツ戦記』もとても詳しく読んでいただけて感無量です。
『UR LIFESTYLE COLLEGE』では、心地よい音楽とともに、よりよいライフスタイルを考える。オンエアは毎週日曜18時から。
radikoで聴く
2025年8月17日28時59分まで
PC・スマホアプリ「radiko.jpプレミアム」(有料)なら、日本全国どこにいてもJ-WAVEが楽しめます。番組放送後1週間は「radiko.jpタイムフリー」機能で聴き直せます。
番組情報
- UR LIFESTYLE COLLEGE
-
毎週日曜18:00-18:54