味も見た目もいい「ヴィーガン寿司」とは? 食の選択肢を増やすスタートアップ企業の代表・工藤柊が語る展望

ヴィーガン生活を支えるスタートアップ企業「ブイクック」代表の工藤柊さんが、ヴィーガンになったきっかけや会社を立ち上げた理由、昨今のヴィーガン事情などについて語った。

工藤さんは1999年大阪府生まれ。大学在学中の2020年に起業し、さまざまな事業を通して誰もがヴィーガンを選択できる社会の実現を目指して活動する人物だ。

工藤さんが登場したのは、俳優の小澤征悦がナビゲーターを務めるJ-WAVEの番組『BMW FREUDE FOR LIFE』(毎週土曜 11:00-11:30)。同番組は、新しい時代を切り開き駆け抜けていく人物を毎回ゲストに招き、BMWでの車中インタビューを通して、これまでの軌跡や今後の展望に迫るプログラムだ。ポッドキャストで配信中だが、ここではテキストでも紹介する。

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環境問題と動物倫理を理由に、18歳でヴィーガンへ

工藤さんを乗せた「BMW i5 eDrive 40 Excellence Touring」は都内を走行。まずは、そもそもヴィーガンとは何なのか、また、自社でどんな事業を展開しているのかについて語ってもらった。

工藤:ヴィーガンは簡単にいうと、動物性の製品を使用しないライフスタイル、あるいはその生活様式を実践している人を指します。具体的な消費行動としては、食品であればお肉や魚、牛乳、卵などを口にしない、ファッションであればウール・皮製の衣服を使わない、コスメであれば動物実験をしていないアイテムを選ぶ…といったものが挙げられます。そんなヴィーガンのスタートアップとして、株式会社ブイクックは2020年に始動しました。ヴィーガンレシピの投稿サイト「ブイクック」、ヴィーガン商品専用のECサイト「ブイクックスーパー」、最近オープンしたヴィーガン寿司東京をはじめ、ヴィーガンにまつわる複数の事業を展開しています。

18歳からヴィーガンを実践し、2018年にNPO法人を立ち上げ、2019年にはヴィーガンレシピ投稿サイト「ブイクック」をリリースした工藤さん。彼はなぜヴィーガン生活を送るようになったのか。

工藤:ヴィーガンは高校3年生の頃、環境問題と動物倫理を理由に始めました。環境問題に関しては、学校で地理の授業を受けて、牛のゲップでメタンガスが発生することや、エビの養殖池建設のためにマングローブ林が伐採されていることなどを知り、「嫌だな」と思うようになりました。一方、動物倫理について考えるようになったのは、ある秋の日、学校の帰り道で亡くなった猫を発見したことがきっかけです。このときに人だけでなく動物にも格差があるのではないかと感じ、動物を取り巻く今の状況について、いろいろと調べものをするようになった。そのうちに自分が食用の肉を購入しているから現状の生産が行われていると知って、「やめてみるか」となったんですよね。こうして次の日から動物性の食品を食べない生活を始め、もう丸8年ほどが経ちました。

ラーメンやハンバーグが食べられない…最初は戸惑いも

地球環境と家畜の飼育・生産方法に問題意識を感じてヴィーガンとなった工藤さんだが、8年前は今ほどヴィーガンというライフスタイルが一般的ではなかったこともあって、最初のうちは苦労したようだ。

工藤:最初はすごく困りました。というのも、もともとラーメンやハンバーグ、卵などを食べていたので、急にそれらが選択肢から外れると、「じゃあ、何を食べようか?」と困ってしまったんです。母親にも相談したら、「好きにしたらいいけど、何食べるの?」と言われてしまいました(笑)。なので、最初はとりあえずおにぎりを口にしたリ、お鍋で野菜を煮て食べたり。手探り状態のため、大変だった記憶があります。ただ数週間が経過する頃には、動物由来でない食材のおいしい食べ方がどんどん見つかっていきました。

このように自身がヴィーガンデビュー時に感じた困難から、工藤さんはいつしか「誰もがヴィーガンを選択できる『ハローヴィーガンな社会』を実現したい」という理想を抱くようになる。その想いは、起業後の2019年、日本初のヴィーガンレシピ投稿サイト「ブイクック」として一つの形となった。

工藤:僕が「ブイクック」を作ったのは、ヴィーガン料理について最初、何もわからなかったからなんですよ。おにぎりと鍋だけの食生活を続けていた頃、卵の代替品があることや、大豆ミートでハンバーグを作れることを知っていたら、もっと楽しくヴィーガン生活を始められたのに……と思ったんです。そこで、インターネット上にヴィーガン料理を得意とする人がレシピを投稿し、レシピを知りたい人が検索するプラットフォームを作れば便利なのでは?と考え、2018年より「ブイクック」の開発に着手し、2019年7月に正式にリリースしました。最初は知り合いにお願いして投稿してもらっていましたが、徐々にSNSを中心に広まっていき、いつからか見知らぬ人が投稿してくださるようになって。今では「『ブイクック』があったから、ヴィーガンの食事を楽しく作って食べることができました」との声もいただけるようになりました。

「ブイクック」には、現在5000品以上のレシピが掲載されている。レシピは「卵を使わないマヨネーズ」「ヴィーガンのチーズケーキ」「自宅で作る時短カレー」「ひよこ豆や大豆のハンバーグ」などさまざまだ。さらに、工藤さんたちは、レシピ本「世界一簡単なヴィーガンレシピ | 今日から始められる料理100品」も出版。同レシピ本は材料も工程もとにかく簡単なレシピを厳選し、ヴィーガンに対するハードルをグッと下げることを意識したそう。「ヴィーガンでない人もぜひ気軽に参考にしてほしい」と工藤さんは語る。

学生時代の思い出が詰まった「バスタ新宿」

そうこうしているうちに「BMW i5 eDrive 40 Excellence Touring」は、JR新宿駅南口に到着。ここは神戸で大学生活を送っていた工藤さんにとって、忘れられない場所だという。

工藤:バスタ新宿は特に思い出深い場所です。僕は神戸で大学生をしていたときに起業したのですが、月に1~2回東京で商談やイベントがあり、毎月夜行バスでこの場所を訪れていました。当時はお金がなかったので、1000円をどうやったら減らせるか考えて、事前に予約して3000~4000円のバスで東京に来るみたいなことをしていましたね。早朝に新宿に着き、「暇だな」と思いながら駅のなかで待ったり、朝から開店しているカフェでコーヒーを飲みながら時間を潰していたことをよく覚えています。

一説によると、世界人口のおよそ1%にあたる7530万人がヴィーガンという今。工藤さんはここ日本でも大きな変化を感じているそうだ。

工藤:2024年におけるヴィーガン業界で一番の変化は、コロナ禍が明けて、インバウンドが帰ってきたことです。昨年2023年は世界中から約2500万人が日本を訪れたとされています。また、海外からの渡航者のうち、10人に1人はベジタリアンかヴィーガンだと言われています。なので、国内のヴィーガンレストランに行くと、自分たち以外、全員外国人ということがめずらしくありません。

「日本らしいヴィーガン食を食べたい」との声から、ヴィーガン寿司専門店を開業

日本政府観光局によると、昨年2023年には世界中からおよそ2500万人が日本を訪れ、そのうち上位20カ国のなかにはベジタリアン・ヴィーガンの割合が多いとされるインド、台湾、カナダ、イタリア、ドイツ、イギリスなども含まれているという。そんな状況のなか、2024年6月に工藤さんは、新たな挑戦をスタートさせた。「BMW i5 eDrive 40 Excellence Touring」は、その挑戦の舞台である渋谷に到着した。

工藤:今年6月に、東京初のヴィーガン寿司専門店「Vegan Sushi Tokyo」を渋谷道玄坂でオープンしました。なぜ始めたかといえば、現在、海外から日本へ来る外国人が増えていて、そのなかにはベジタリアンやヴィーガンの方が多数いるにもかかわらず、まったく対応が間に合っていないからです。実際にヴィーガン・ベジタリアンの訪日観光客100名以上にインタビューを行ったところ、「観光地の近くにヴィーガン食を食べられるお店がない」「日本らしいヴィーガン食を食べたい」といった声をたくさんいただきました。そこで、「自分たちでまずはやってみよう!」ということで開業したわけです。

こだわっているポイントは、おいしさと見た目の2つです。おいしさは、僕たちは飲食に関してほとんど未経験だったので、野菜寿司の職人さんに監修をお願いし、どのように野菜を切るか、どうやって野菜を焼くかといったところからご指導いただきました。一方の見た目で意識したのは、華やかさです。ヴィーガンの方が一般的なお寿司屋さんで食べられるものといえば、かっぱ巻きやいなり寿司くらいなんですよ。それだけだと、やっぱりさびしいじゃないですか。なので僕たちは、彩り豊かなお寿司の10種セットを提供しています。おいしくて見た目も良く、「なんだろうこれ?」といった驚きもある。そんなお寿司を目指して作りました。

ヴィーガン寿司セットは寿司10貫で3000円。ネタは海藻由来の成分などからできた植物性のいくらや、柚子胡椒で味付けしたエリンギ、豆腐と湯葉のかば焼きなど。工藤さん自身もお店に立ち、海外のお客さんとのコミュニケーションやヴィーガンの情報交換をしているという。

あくまでもヴィーガン以外を否定したり、強要するのではなく、社会のなかの一つの選択肢としてより多くの人に知ってほしいという工藤さん。そんな彼にとって「未来への挑戦=FORWARDISM」とは?

工藤:目指すのは、日本国内におけるどの飲食店、どの宿泊施設に入ってもヴィーガンのメニューが選べるという状況です。僕たちは日本を一番“ヴィーガンフレンドリー”な国にしたいと思っていて。その第一歩として自分たちで「Vegan Sushi Tokyo」を始めたのですが、これから店舗を増やしていくだけでなく、培ったノウハウをほかのカフェやレストラン、ホテルに提供していきたいです。それによってヴィーガンのメニューがさまざまな店舗・施設で選べる、ヴィーガンの方でも生活しやすい社会の実現を目指してこれからも頑張っていきます。

(構成=小島浩平)

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