韓国でベストセラーとなったエッセイ『女ふたり、暮らしています。』(CCCメディアハウス)の著書、キム・ハナとファン・ソヌが、ふたり暮らしのきっかけや継続のコツを語った。
この内容をお届けしたのは、J-WAVEの番組『ACROSS THE SKY』(ナビゲーター:小川紗良)のコーナー「WORLD CONNECTION」。ここでは、1月12日(日)にオンエアした内容をテキストで紹介する。
この日は、そんなエッセイの著者であるキム・ハナと、ファン・ソヌに話を訊いた。
(通訳:ヨン・ジミ)
小川:普段、コピーライターとして活動するキム・ハナさんと、長年ファッション誌の編集に携わってきたファン・ソヌさん。経歴も異なるふたりが出会ったきっかけはTwitter(X)なんですよね。SNSで知って、初めてリアルで会ったときは、お互いにどんな印象でしたか?
ファン:お互いにTwitter(X)で書かれている文章を通じて、好みがすごく似通っていて「合うな」ということはわかっていました。特に、音楽や本の趣味などがよく合うと感じていました。そして、お互いの仕事は雑誌と広告ということで、仕事自体は異なりますが、文章を書くことを基盤にしていることは通じていましたので、初めて会ったときも「すごく話が合うな」と思いました。
小川:本を読んでいても、いかにふたりの気が合うかということが伝わってきて、それだけの方と出会うのは本当に運命的なところもあるのかなと思いました。それにしても、ふたりで一緒にマンションを購入するのはすごい決断だなと思うのですが、そこまで踏み込めたのはなぜですか?
ファン:私たちは年齢が近いのですが、ふたりとも韓国で2番目に大きな都市である釜山(プサン)の出身です。そして、大学からソウルに行ってひとり暮らしを始め、それぞれひとり暮らしを20年近くして、さまざまな住居の形態を経験しています。寄宿舎にもいましたし、ワンルームでも生活をしました。そうやってひとりでさまざまな住居を転々とするなかで、「そろそろ定着したいな」という気持ちと、「もう少し大きな規模で、住みやすい場所に安定した住み処を得たい」という共通した思いがありました。ふたりとも共通して考えていたのが、「バスタブのある家に住みたい」ということでした。でも、その条件に合う家を見つけるのは、なかなか簡単なことではありません。女性がそういうことに遭遇したときの選択肢として結婚があると思いますが、私たちの場合は「これと結婚とは分けて考えよう」ということで、この選択に至りました。それは、私たちなりのやり方だったのかなと思います。
キム:私は以前、友人の家を見て「この家はふたりで住むのにすごくいいな」と思っていたマンションがあり、それをずっと心に留めていました。漠然と「長い付き合いの友人と一緒に、こんなところに住めたらいいな」と考えていました。ファン・ソヌさんとはまだ出会って間もなかったですが、「一緒に暮らせたらいいな」という気持ちになって、私のほうからいろいろ誘ってみたんです。そうしたら、その誘いに乗ってきて「一緒にマンションを買う」という決断をすることになりました。先ほど(小川が)「大きな決断をされた」と言っていましたが、大きな決断というよりも、むしろ「1回、一緒に住んでみて、合わなくなったり、お互いによくなかったと思ったりするようであれば、また処分して離れればいいだろう」くらいに考えていました。もし、これを“大きな決断”という意気込みでトライしていたら、それはつらいものになっていた気がします。
経済的にも、精神的にも、ひとり暮らしのままでも支障がなかったであろうふたり。小川は「ふたりだったからこそよかったと思うのは、どんなときですか?」と、質問を投げかける。
キム:ケンカをするとき以外は、やはりふたりでいるほうがいろいろなことも楽しいですし、面白いです。特に「ふたりでよかったな」と思える瞬間は、むしろ悲しいことやつらいことがあったとき、ストレスを受けたときです。代表的な例を挙げると、飼っていた猫1匹が先にこの世を去ったのですが、ひとりではなく(ファン・ソヌと)一緒だったから、その悲しみを分かち合うことができました。また、いま韓国は政治的に非常にストレスのある状況となっていますが、そのようななかでも、ふたりだからこそいろいろなことを話し合いながら、この状況を踏ん張っていくことができているなと感じます。
キム:知り合った期間が短い人に対しては、その場を良好に過ごして家に帰れば終わりですから、親切にすることも容易ですし、譲歩することもそんなに難しいことではないと思います。でも、長い時間を一緒に過ごす者同士では、最後まで譲歩や我慢ばかりするのは不可能なことですよね。ですから、「どんな点が不都合なのか」「どんな点が問題なのか」ということを、相手にきちんと伝える必要がありますし、伝える方法を研究する必要もあると思います。もし、ひたすら譲歩や我慢ばかりしていたら、いつかは爆発してしまうので、危機管理のためにも「何が自分にとって不都合で、居心地がよくないのか」ということをしっかり伝えることが、優先事項だと思います。
ファン:キム・ハナさんがミニマリストだとすれば、私はマキシマリストです。よく買い物をして、絶えず物が多く、それをなかなか整理整頓できません。私は「静かに暮らしている人のなかに、いつもカオスをもたらしている存在」だということでもあるので、それを意識しながら「すまない」という気持ちを持つ必要があると、私は思っています。そして、私たちがその解決策として実践しているのが、「何か新しいものをひとつ買ったら、同じカテゴリのなかにあるものをひとつ捨てる」ということです。たとえば、新しい靴下を1足買ったら古い靴下を1足捨てる。そのような形で、お互いに折衷案を見出しながら生活しています。
小川:いまの共同生活はふたりの信頼関係のもとに成り立っていると思いますが、法律や制度に求めることはありますか?
キム:法や制度は、絶えず人の実生活よりはるかにゆっくり変わっていくものだと思います。韓国の人々の暮らしはいま、いわゆる“正常な家族”と呼ばれる従来の家族制度の枠組みを超えており、さまざま形で生きている方がたくさんいます。でも、法や制度はいまだに従来の家族制度を前提に物事を解決し、また、そのような家族にのみ多くの支援を行っています。人々が臨時的ではない、これまでとはまた違う継続的な家族関係を構築したとき、その信頼関係に対して法や制度が支援を行うことができれば、社会における幸せはもっと高まっていくでしょうし、そのような社会になることを望んでいます。
ファン:たとえば韓国で、学校のなかで家族関係の調査をするときには、以前であれば「父」「母」を記入する欄がありましたが、いまは「保護者1」「保護者2」という項目に変わっているといった変化が起きています。これまで当たり前であった家族の形態が変わっているこの社会の在り方や形というのを知ったうえで、それを反映したり、想像する余地を持ったりする努力が必要なのではないかと思います。
キム・ハナ、ファン・ソヌはPodcastでも生活の様子を発信中だ。
『ACROSS THE SKY』のコーナー「WORLD CONNECTION」では、ゲストを招き世界の最新カルチャーに迫る。オンエアは毎週日曜の9時20分頃から。
この内容をお届けしたのは、J-WAVEの番組『ACROSS THE SKY』(ナビゲーター:小川紗良)のコーナー「WORLD CONNECTION」。ここでは、1月12日(日)にオンエアした内容をテキストで紹介する。
2025年1月19日28時59分まで
「マンションを買う」決断をできた理由は?
日本でも翻訳版が話題となっている『女ふたり、暮らしています。』は、タイトルのとおり、韓国・ソウルで暮らす女性ふたりの共同生活の模様を綴ったエッセイだ。作品を読んだ小川は、「おふたりの言葉、語られる生活の様子がユニークで、共同生活の難しさや面白さが、等身大で伝わってきた」と、感想を語る。この日は、そんなエッセイの著者であるキム・ハナと、ファン・ソヌに話を訊いた。
(通訳:ヨン・ジミ)
小川:普段、コピーライターとして活動するキム・ハナさんと、長年ファッション誌の編集に携わってきたファン・ソヌさん。経歴も異なるふたりが出会ったきっかけはTwitter(X)なんですよね。SNSで知って、初めてリアルで会ったときは、お互いにどんな印象でしたか?
ファン:お互いにTwitter(X)で書かれている文章を通じて、好みがすごく似通っていて「合うな」ということはわかっていました。特に、音楽や本の趣味などがよく合うと感じていました。そして、お互いの仕事は雑誌と広告ということで、仕事自体は異なりますが、文章を書くことを基盤にしていることは通じていましたので、初めて会ったときも「すごく話が合うな」と思いました。
小川:本を読んでいても、いかにふたりの気が合うかということが伝わってきて、それだけの方と出会うのは本当に運命的なところもあるのかなと思いました。それにしても、ふたりで一緒にマンションを購入するのはすごい決断だなと思うのですが、そこまで踏み込めたのはなぜですか?
ファン:私たちは年齢が近いのですが、ふたりとも韓国で2番目に大きな都市である釜山(プサン)の出身です。そして、大学からソウルに行ってひとり暮らしを始め、それぞれひとり暮らしを20年近くして、さまざまな住居の形態を経験しています。寄宿舎にもいましたし、ワンルームでも生活をしました。そうやってひとりでさまざまな住居を転々とするなかで、「そろそろ定着したいな」という気持ちと、「もう少し大きな規模で、住みやすい場所に安定した住み処を得たい」という共通した思いがありました。ふたりとも共通して考えていたのが、「バスタブのある家に住みたい」ということでした。でも、その条件に合う家を見つけるのは、なかなか簡単なことではありません。女性がそういうことに遭遇したときの選択肢として結婚があると思いますが、私たちの場合は「これと結婚とは分けて考えよう」ということで、この選択に至りました。それは、私たちなりのやり方だったのかなと思います。
キム:私は以前、友人の家を見て「この家はふたりで住むのにすごくいいな」と思っていたマンションがあり、それをずっと心に留めていました。漠然と「長い付き合いの友人と一緒に、こんなところに住めたらいいな」と考えていました。ファン・ソヌさんとはまだ出会って間もなかったですが、「一緒に暮らせたらいいな」という気持ちになって、私のほうからいろいろ誘ってみたんです。そうしたら、その誘いに乗ってきて「一緒にマンションを買う」という決断をすることになりました。先ほど(小川が)「大きな決断をされた」と言っていましたが、大きな決断というよりも、むしろ「1回、一緒に住んでみて、合わなくなったり、お互いによくなかったと思ったりするようであれば、また処分して離れればいいだろう」くらいに考えていました。もし、これを“大きな決断”という意気込みでトライしていたら、それはつらいものになっていた気がします。
経済的にも、精神的にも、ひとり暮らしのままでも支障がなかったであろうふたり。小川は「ふたりだったからこそよかったと思うのは、どんなときですか?」と、質問を投げかける。
キム:ケンカをするとき以外は、やはりふたりでいるほうがいろいろなことも楽しいですし、面白いです。特に「ふたりでよかったな」と思える瞬間は、むしろ悲しいことやつらいことがあったとき、ストレスを受けたときです。代表的な例を挙げると、飼っていた猫1匹が先にこの世を去ったのですが、ひとりではなく(ファン・ソヌと)一緒だったから、その悲しみを分かち合うことができました。また、いま韓国は政治的に非常にストレスのある状況となっていますが、そのようななかでも、ふたりだからこそいろいろなことを話し合いながら、この状況を踏ん張っていくことができているなと感じます。
仲よく暮らすための、ケンカのコツ
小川:ふたり暮らしのなかでは、ケンカをする瞬間もあるというのは、夫婦や家族、きょうだいでもあり得ることだと思います。(著書では)そんなケンカの模様も赤裸々に書かれているのが、すごくユニークで、私がいいなと思ったのが、「仲よく暮らすというのは、すなわちよくケンカをすることだ」という一文です。共同生活から見えてきたケンカのコツ、ぜひ教えていただけますか?キム:知り合った期間が短い人に対しては、その場を良好に過ごして家に帰れば終わりですから、親切にすることも容易ですし、譲歩することもそんなに難しいことではないと思います。でも、長い時間を一緒に過ごす者同士では、最後まで譲歩や我慢ばかりするのは不可能なことですよね。ですから、「どんな点が不都合なのか」「どんな点が問題なのか」ということを、相手にきちんと伝える必要がありますし、伝える方法を研究する必要もあると思います。もし、ひたすら譲歩や我慢ばかりしていたら、いつかは爆発してしまうので、危機管理のためにも「何が自分にとって不都合で、居心地がよくないのか」ということをしっかり伝えることが、優先事項だと思います。
ファン:キム・ハナさんがミニマリストだとすれば、私はマキシマリストです。よく買い物をして、絶えず物が多く、それをなかなか整理整頓できません。私は「静かに暮らしている人のなかに、いつもカオスをもたらしている存在」だということでもあるので、それを意識しながら「すまない」という気持ちを持つ必要があると、私は思っています。そして、私たちがその解決策として実践しているのが、「何か新しいものをひとつ買ったら、同じカテゴリのなかにあるものをひとつ捨てる」ということです。たとえば、新しい靴下を1足買ったら古い靴下を1足捨てる。そのような形で、お互いに折衷案を見出しながら生活しています。
小川:いまの共同生活はふたりの信頼関係のもとに成り立っていると思いますが、法律や制度に求めることはありますか?
キム:法や制度は、絶えず人の実生活よりはるかにゆっくり変わっていくものだと思います。韓国の人々の暮らしはいま、いわゆる“正常な家族”と呼ばれる従来の家族制度の枠組みを超えており、さまざま形で生きている方がたくさんいます。でも、法や制度はいまだに従来の家族制度を前提に物事を解決し、また、そのような家族にのみ多くの支援を行っています。人々が臨時的ではない、これまでとはまた違う継続的な家族関係を構築したとき、その信頼関係に対して法や制度が支援を行うことができれば、社会における幸せはもっと高まっていくでしょうし、そのような社会になることを望んでいます。
ファン:たとえば韓国で、学校のなかで家族関係の調査をするときには、以前であれば「父」「母」を記入する欄がありましたが、いまは「保護者1」「保護者2」という項目に変わっているといった変化が起きています。これまで当たり前であった家族の形態が変わっているこの社会の在り方や形というのを知ったうえで、それを反映したり、想像する余地を持ったりする努力が必要なのではないかと思います。
キム・ハナ、ファン・ソヌはPodcastでも生活の様子を発信中だ。
『ACROSS THE SKY』のコーナー「WORLD CONNECTION」では、ゲストを招き世界の最新カルチャーに迫る。オンエアは毎週日曜の9時20分頃から。
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2025年1月19日28時59分まで
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番組情報
- 『ACROSS THE SKY』
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日曜9:00-12:00