写真家・映像監督の奥山由之が、自宅の本棚について語り、自身が監督を手掛けた映画の見どころを紹介した。
奥山が登場したのは、J-WAVEで放送中の番組『ACROSS THE SKY』(ナビゲーター:小川紗良)のワンコーナー「DAIWA HOUSE MY BOOKSHELF」。11月10日(日)のオンエアをテキストで紹介。
小川:キャリアとして写真のイメージが強いのですが、映像もたくさん撮られていますよね。ご自身のなかで活動の違いはありますか?
奥山:関わる人数が違うぐらいで、やっていることはほとんど同じですね。
小川:もともとどちらかになりたいと思われていたんですか?
奥山:もともとはずっと自主映画を作っていたので、映像のほうが作っている期間としては長いです。
小川:写真はどのタイミングだったのでしょうか?
奥山:ロンドンに短期留学したとき、ブルース・デビッドソンという写真家の「サブウェイ」という展示を見て衝撃を受けたんです。想像の余白というか、一瞬の1枚からありとあらゆる前後を想像するのは魅力的な表現だなと思って、そこから写真を始めました。
小川:ご自身でも写真の仕事をされていますけども、ほかの方の写真集をどんな感じで見るのでしょうか?
奥山:レイアウトの構成だったり、テーマ、ステートメント(作品を説明する文章)の書き方、あとは何と言っても本の装丁ですね。ブックデザインは実物を見ないとなかなかわからないので、そういうところを見させてもらっています。
小川:写真集って1回限りのものもありますし、手に入るときに手に入れたいですよね。
奥山:そうですね。本というジャンルのなかではすごく部数が少ないものが多いと思います。
小川:ご自身が写真集を作るうえで大切にされていることはありますか?
奥山:僕は写真集を本屋さんで買うことが多いんですね。写真集って装丁がハードカバーでページ数が多いから、意外と重くなりがちじゃないですか。ですから、持ち帰りやすいかどうかは気にしています(笑)。
小川:たしかに!
奥山:あと、面で本屋さんに置かれているときに、手に取りやすいかどうかも考えます。
小川:仕事場にこれだけ写真集があると参考になりそうですよね。
奥山:そうですね。なので、新作を作るときは1冊ずつ見返したりしています。
奥山:こちらはグラフィックノベルを作られる方の本で、2022年に発売された作品です。
小川:グラフィックノベルとはどういったものなのでしょうか?
奥山:欧米の文学的な作品でして、文字数が多いんですよね。ニック・ドルナソさんはグラフィックノベルの『サブリナ』で初めてブッカー賞にノミネートされた方です。僕らが馴染みのある単行本の漫画とはちょっと違っていて、大きめのサイズに全部色がついています。ニック・ドルナソさんって人物の描写が無機質で、それが故に人物の思っていることが読み取れないんですよ。なので、「何か起きてしまうのではないだろうか」という緊張感や不安が薄く続く作品になっています。
小川:タイトルから、内容的には演技クラスのお話なんでしょうか?
奥山:そうですね。即興演技を教える教室に通う、10人の物語です。みんなそれぞれ問題を抱えており、演技としてやっている人物像と日常生活の自分自身との境目がだんだんと曖昧になっていって、読み手もわからなくなってくるんですよ。
小川:おもしろそう!
奥山:たとえば、ベランダで会話するシーンがあったとしますよね。会話は続いたまま、突然背景が無機質の壁になったりするんですよ。私生活に演技が浸食してきて、緩やかに壊れていく物語です。
小川:ちょっとゾクゾクしそうな話ですね。日常生活でも人って演じることはありますもんね。
奥山:まさにそうです。「演技をするとは何か」を問いかけてくるような本です。
小川:同じベンチを舞台に繰り広げられていくんですけども、出てくる人たちや話はまったく違っていて。全部がおもしろかったです!
奥山:ありがとうございます。嬉しい。
小川:脚本家の方々も4名いらっしゃって、1つは奥山さんですけども、みなさんの味がめっちゃ出ているんですよね。鑑賞して贅沢な時間を過ごせました。制作のきっかけは?
奥山:出てくるベンチは実在していて、大好きなベンチなんです。幼少期からその周辺で生まれ育ったんです。
小川:本当に好きなベンチだったんですね。
奥山:2年ぐらい前から、近くで大きな橋の工事が始まって。変わりゆく東京の景色のなか、変わらずそこにいるベンチは自分にとっても愛着のある場所なんです。東京の街って部分的に変化をし続けて、気づいたら記憶が塗り替わってしまうことがあるじゃないですか。今、このベンチを作品として残しておかないと後悔しそうだなと思って作り始めました。
小川:たしかに映画って街の景色を記録してくれますよね。知らない人が見たら何の変哲もないベンチなんですけども、それがそこにあることで憩いの場になっていたり、喧嘩や恋が生まれる場になったりする。きっとあのベンチはいろんな光景を見てきたんだろうなって、ベンチ視点にもなりますよね。
『アット・ザ・ベンチ』は自主制作映画だが、広瀬すず、仲野太賀、草彅剛、吉岡里帆、神木隆之介など、錚々たるメンバーが出演している。
奥山:作品の起点は本当にパーソナルだったので、それであれば最初から最後の完成に至るまで、個々の愛着や思いがある作品にしたいなと思いました。一生に一度あるかどうかの映画制作ですし、心からご一緒したいと思っている方々に、厚かましくもお声がけしたんですね。どういった思いで作品を作りたいかというのを、スタッフさん含め一人ずつにお伝えさせていただきました。みなさん真摯に作品と向き合ってくださったので、温かな温度感というか、自主制作ならではの質感を感じていただけるのかなと思います。
小川:舞台設定がベンチというシンプルな場所なので、基本的に会話劇じゃないですか。脚本家さんによってはすごい長さのセリフもあって、俳優さんが本気で作品と向き合ったんだなというのも伝わりました。あのベンチは絶対に保存しないといけないですよね(笑)。
奥山:今にも撤去されそうな哀愁を感じるベンチなので、それが愛おしくもあります。脚本家、スタッフ、俳優のみなさんとは、実際にベンチで僕とお話しさせていただいたうえで撮影をしました。
小川:オムニバス作品なんですけどベンチへの愛着という点ですごくまとまりがあるんですよね。1つの物語として楽しんでいただけると思いますので、みなさんもぜひをご覧ください。『アット・ザ・ベンチ』はテアトル新宿ほかで全国順次公開です。
『ACROSS THE SKY』のワンコーナー「DAIWA HOUSE MY BOOKSHELF」では、本棚からゲストのクリエイティヴを探る。オンエアは10時5分頃から。
奥山が登場したのは、J-WAVEで放送中の番組『ACROSS THE SKY』(ナビゲーター:小川紗良)のワンコーナー「DAIWA HOUSE MY BOOKSHELF」。11月10日(日)のオンエアをテキストで紹介。
写真表現には“想像の余白”がある
奥山由之は2011年、写真集『Girl』で 第34回写真新世紀・優秀賞を受賞。米津玄師、星野源、サカナクションなどのアーティストのMVやCMを数多く手がけ、映像作家としても精力的に活動している。小川:キャリアとして写真のイメージが強いのですが、映像もたくさん撮られていますよね。ご自身のなかで活動の違いはありますか?
奥山:関わる人数が違うぐらいで、やっていることはほとんど同じですね。
小川:もともとどちらかになりたいと思われていたんですか?
奥山:もともとはずっと自主映画を作っていたので、映像のほうが作っている期間としては長いです。
小川:写真はどのタイミングだったのでしょうか?
奥山:ロンドンに短期留学したとき、ブルース・デビッドソンという写真家の「サブウェイ」という展示を見て衝撃を受けたんです。想像の余白というか、一瞬の1枚からありとあらゆる前後を想像するのは魅力的な表現だなと思って、そこから写真を始めました。
写真集制作で重視しているポイントは?
「DAIWA HOUSE MY BOOKSHELF」では、ゲストの本棚の写真を見ながら小川がトークを進行する。奥山の本棚には、たくさんの写真集が収められていた。小川:ご自身でも写真の仕事をされていますけども、ほかの方の写真集をどんな感じで見るのでしょうか?
奥山:レイアウトの構成だったり、テーマ、ステートメント(作品を説明する文章)の書き方、あとは何と言っても本の装丁ですね。ブックデザインは実物を見ないとなかなかわからないので、そういうところを見させてもらっています。
小川:写真集って1回限りのものもありますし、手に入るときに手に入れたいですよね。
奥山:そうですね。本というジャンルのなかではすごく部数が少ないものが多いと思います。
小川:ご自身が写真集を作るうえで大切にされていることはありますか?
奥山:僕は写真集を本屋さんで買うことが多いんですね。写真集って装丁がハードカバーでページ数が多いから、意外と重くなりがちじゃないですか。ですから、持ち帰りやすいかどうかは気にしています(笑)。
小川:たしかに!
奥山:あと、面で本屋さんに置かれているときに、手に取りやすいかどうかも考えます。
小川:仕事場にこれだけ写真集があると参考になりそうですよね。
奥山:そうですね。なので、新作を作るときは1冊ずつ見返したりしています。
グラフィックノベルの魅力を紹介
奥山が最近読んだなかで本棚に残したいと思った1冊は、ニック・ドルナソの『アクティング・クラス』(早川書房)だ。奥山:こちらはグラフィックノベルを作られる方の本で、2022年に発売された作品です。
小川:グラフィックノベルとはどういったものなのでしょうか?
奥山:欧米の文学的な作品でして、文字数が多いんですよね。ニック・ドルナソさんはグラフィックノベルの『サブリナ』で初めてブッカー賞にノミネートされた方です。僕らが馴染みのある単行本の漫画とはちょっと違っていて、大きめのサイズに全部色がついています。ニック・ドルナソさんって人物の描写が無機質で、それが故に人物の思っていることが読み取れないんですよ。なので、「何か起きてしまうのではないだろうか」という緊張感や不安が薄く続く作品になっています。
小川:タイトルから、内容的には演技クラスのお話なんでしょうか?
奥山:そうですね。即興演技を教える教室に通う、10人の物語です。みんなそれぞれ問題を抱えており、演技としてやっている人物像と日常生活の自分自身との境目がだんだんと曖昧になっていって、読み手もわからなくなってくるんですよ。
小川:おもしろそう!
奥山:たとえば、ベランダで会話するシーンがあったとしますよね。会話は続いたまま、突然背景が無機質の壁になったりするんですよ。私生活に演技が浸食してきて、緩やかに壊れていく物語です。
小川:ちょっとゾクゾクしそうな話ですね。日常生活でも人って演じることはありますもんね。
奥山:まさにそうです。「演技をするとは何か」を問いかけてくるような本です。
1つのベンチから紡がれる温かな物語
奥山が監督したオムニバス映画『アット・ザ・ベンチ』の公開が11月15日(金)よりスタート。本作は東京・二子玉川の川沿いにある古ぼけたベンチを舞台に、人々の何気ない日常を切り取った作品となっている。奥山:ありがとうございます。嬉しい。
小川:脚本家の方々も4名いらっしゃって、1つは奥山さんですけども、みなさんの味がめっちゃ出ているんですよね。鑑賞して贅沢な時間を過ごせました。制作のきっかけは?
奥山:出てくるベンチは実在していて、大好きなベンチなんです。幼少期からその周辺で生まれ育ったんです。
小川:本当に好きなベンチだったんですね。
奥山:2年ぐらい前から、近くで大きな橋の工事が始まって。変わりゆく東京の景色のなか、変わらずそこにいるベンチは自分にとっても愛着のある場所なんです。東京の街って部分的に変化をし続けて、気づいたら記憶が塗り替わってしまうことがあるじゃないですか。今、このベンチを作品として残しておかないと後悔しそうだなと思って作り始めました。
小川:たしかに映画って街の景色を記録してくれますよね。知らない人が見たら何の変哲もないベンチなんですけども、それがそこにあることで憩いの場になっていたり、喧嘩や恋が生まれる場になったりする。きっとあのベンチはいろんな光景を見てきたんだろうなって、ベンチ視点にもなりますよね。
『アット・ザ・ベンチ』は自主制作映画だが、広瀬すず、仲野太賀、草彅剛、吉岡里帆、神木隆之介など、錚々たるメンバーが出演している。
奥山:作品の起点は本当にパーソナルだったので、それであれば最初から最後の完成に至るまで、個々の愛着や思いがある作品にしたいなと思いました。一生に一度あるかどうかの映画制作ですし、心からご一緒したいと思っている方々に、厚かましくもお声がけしたんですね。どういった思いで作品を作りたいかというのを、スタッフさん含め一人ずつにお伝えさせていただきました。みなさん真摯に作品と向き合ってくださったので、温かな温度感というか、自主制作ならではの質感を感じていただけるのかなと思います。
小川:舞台設定がベンチというシンプルな場所なので、基本的に会話劇じゃないですか。脚本家さんによってはすごい長さのセリフもあって、俳優さんが本気で作品と向き合ったんだなというのも伝わりました。あのベンチは絶対に保存しないといけないですよね(笑)。
奥山:今にも撤去されそうな哀愁を感じるベンチなので、それが愛おしくもあります。脚本家、スタッフ、俳優のみなさんとは、実際にベンチで僕とお話しさせていただいたうえで撮影をしました。
小川:オムニバス作品なんですけどベンチへの愛着という点ですごくまとまりがあるんですよね。1つの物語として楽しんでいただけると思いますので、みなさんもぜひをご覧ください。『アット・ザ・ベンチ』はテアトル新宿ほかで全国順次公開です。
『ACROSS THE SKY』のワンコーナー「DAIWA HOUSE MY BOOKSHELF」では、本棚からゲストのクリエイティヴを探る。オンエアは10時5分頃から。
番組情報
- ACROSS THE SKY
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毎週日曜9:00-12:00