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「安価な服と高価な服」はどこで差がつくのだろう─モデルの鎌田安里紗が、サステナブルファッションに目覚めたきっかけ

「安価な服と高価な服」はどこで差がつくのだろう─モデルの鎌田安里紗が、サステナブルファッションに目覚めたきっかけ

一般社団法人unisteps共同代表でモデルの鎌田安里紗さんが、サステナブルファッションに目覚めたきっかけや現在展開しているプロジェクト、そして今後のビジョンなどについて語った。

鎌田さんは1992年徳島県生まれの32歳。高校進学と同時に上京し、在学中に渋谷109でアパレル販売員として働く傍らファッション雑誌『Ranzuki』でモデルデビューし、現在はunisteps共同代表としてファッション産業のサステナビリティを推進している。

鎌田さんが登場したのは、俳優の小澤征悦がナビゲーターを務めるJ-WAVEの番組『BMW FREUDE FOR LIFE』(毎週土曜 11:00-11:30)。同番組は、新しい時代を切り開き駆け抜けていく人物を毎回ゲストに招き、BMWでの車中インタビューを通して、これまでの軌跡や今後の展望に迫るプログラムだ。

「エシカルファッション」とは何か?

私たちが日々袖を通す衣服。この日常生活のなかで常に傍らにある“当たり前”がどのように作られているのか。また、生産過程でどのような環境への負荷がかかっているのか。まずは、走り出した「BMW iX1 xDrive30 xline」の車中にて、鎌田さんに語ってもらった。
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鎌田:服がどのような工程を経て作られているかって、意外と見えにくいと思うんですよ。たとえば、コットンのTシャツだと、コットン農家さんが栽培し、取れた綿を紡績工場で糸にする。そのあと、生地にして、染めて、切って、縫って、ようやく一着の服ができるわけです。しかし、日本で売られてるほとんどの洋服が現在海外で作られ、原料から服になるまで3か国ほど移動している関係上、その実態が把握しにくい。環境負荷が高いこと、働いてる方の労働環境が安全ではないことなどが徐々に明らかになってきたのが、ここ10年くらいの話なんです。こうした実態を受けて、どこかの誰かにだけにしわ寄せがいかないように、また、自然環境を必要以上に劣化させないようにする試み全てをまとめて「エシカルファッション」「サステナブルファッション」と言ったりします。

フランスでは近年、法規制が積極的に進められています。最近とりわけ話題になったのは「ファストファッション規制法案」です。1日に多くの商品をリリースする企業に対し、2025年から衣料品1点につき5ユーロの罰金が科せられるという法律ができたのです。ファッション業界では今、大量生産が常態化し、衣料品1枚あたりの値段が安くなっています。日本だけで見ても1990年からの30年あまりの間に衣料品の供給量が約2倍に増加した一方、値段は半分ほど下がりました。皆さんも服が安くなった体感があるかと思うのですが、やはり「買いやすい」と「手放しやすい」という側面があるのも事実です。大量生産、大量消費、大量廃棄の時代と言われるなか、この状況を変えることが、ファストファッション規制法案の意図だと思います。

国連によると、2019年はファッション業界だけで、地球の温室効果ガス排出量の最大8%を占めていたとのデータがあり、その排出量は年々増加し続けているという。その背景にあるのが、安価な衣料品が大量生産・大量消費・大量廃棄されているという現状だ。こうしたなかで3月に「ファストファッション規制法案」がフランスの国民議会にて全会一致で可決。上院でも可決されれば、2025年1月から施行となる。このほか、オーストラリア、アメリカも州ごとにさまざまな法整備が検討されているようだ。

ファッションと学問に全力で挑んだ

そんな、エシカルファッションを取り巻く最新のトレンドについて話を進めているうちに「BMW iX1 xDrive30 xline」は、鎌田さんが通っていた高校がある目黒区駒場エリアへ突入。車窓に映る懐かしい景色を眺めているうちに、10代の頃の記憶が鮮やかに蘇ってくる。
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鎌田:私は生まれてから中学生まで、出身地である徳島県で暮らしていたのですが、高校進学にあたって地元に行きたい学校がありませんでした。そこで、いろいろ探した結果「素敵な学校だな」と思って入学したのが、駒場東大前にある都立高校だったんです。なので、駒場エリアは上京して最初に通った場所であり、東京での出発点でもあるんですよ。当時は髪を染めたり、メイクをしたり、着飾ったりすることが好きだったんですけど、徳島で見た目が派手な中学生は、ヤンキーの枠組みに入れられてしまいます。ただ、勉強も好きでした。そんなわけで、「真面目でいること」と「ファッションを楽しむこと」を両立させるのに難しさを感じていたというか。見た目が派手だと、勝手に周りはやんちゃであることを期待するので、その不一致に苦労した記憶があります。

「勉強が好きだった」という鎌田さんは慶應義塾大学に現役合格し、さらには大学院へも進学している。ファッションと学問、どちらも全力で挑んでいたようだ。

高校で服ができるプロセスを知り感動

鎌田さんが高校入学と同時に上京したのが2008年のこと。その翌年2009年には「ファストファッション」が新語・流行語大賞のトップテンに選出されるなど、ファストファッションがブームとなっていたが、この流行を当時どう見つめていたのか。

鎌田:トレンドの服が安く買えるということで私もすごく楽しんでいました。その一方で、ファストファッションブームを機に安価な服と高価な服の差がどこからくるのか気になって、少しずつ掘り下げていったのを覚えています。とはいえ当時、今ほど浸透していなかった「サステナビリティ」というワードを聞いても「なんかそういう系の人いるよね」みたいな。曖昧でざっくりとした印象しかありませんでしたね。とにかくあの頃は、ファッションに情熱を注いでいました。どこにそんなエネルギーがあったのかと思うぐらいメイクを研究し、着飾ることを全力で楽しんでいましたし、毎日「明日は何着よう?」と考えて参考になるモデルさんを追いかけるなどしていましたからね。今はもう、週3ぐらい同じ服でいいやと思ってるんですけど(笑)。

ファストファッションも取り入れながら全身全霊でオシャレを楽しんでいた鎌田さんだが、あるときからその流れのなかで立ち止まるようになる。

鎌田:いつ頃だったかな。2009年か10年か。初めて服の工場に行ったとき、モノができていく過程を目の当たりにして「こうやって服ができるんだ!」とすごくびっくりしたんです。同時に、糸や生地が作られる工程一つひとつにさまざまな工夫があるのに、それらを知らずに着ているのはもったいないなとも感じました。このときに、服ができるまでのプロセスを知った上で、一着を着る楽しさを初めて知るとともに、「もっと早く知りたかった」とも思ったんです。そこで、当時発展し始めたSNSで発信してみたところ、「面白そう」「行ってみたい」などのリアクションが予想以上に多く寄せられたので、服の生産現場に一般の方をお連れするツアーを開始しました。コロナ禍の前は、年に2回ぐらいツアーを企画し、国内外の工場さんを訪ねていましたね。

18年から始動した「服のたね」プロジェクト

「BMW iX1 xDrive30 xline」は、駒場東大前エリアを離れたあと、かつて鎌田さんが販売員として働いていた渋谷109も通過。思い出の地を置き去りにし、話題は今の活動へ。鎌田さんは2018年から「服のたね」という画期的な企画を始動させているそうだが、その内容とは?
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鎌田:「服のたね」は、一年半かけて種からの服づくりを体験する参加型プロジェクトです。まずは、コットンの種を参加者の方にお送りし、自宅のベランダやお庭で育てていただます。次に収穫できた綿をみんなで紡績工場へ持っていき、糸を形成してもらう。そこから生地を作り、一着の服に仕立てていくというものです。私も毎年コットンを育てているのですが、「これから服作ろうと思った人類はすごいな!」といつも思いますし、小さな種から服になっていくプロセスに毎回感動しています。

プランターで育てて収穫できる綿の量は、せいぜい両手一杯分程度です。もちろん、それだけでは服一着さえ作れません。それに農薬や化学肥料を使用せずに育てているため、害虫が付いたり、場合によっては枯れてしまうこともあります。こうした体験を経て、アパレルショップの店頭に服が並んでいるということがいかに奇跡的なことで、また、ファストブランド全盛の今の時代、いかに膨大な量の綿が消費されているかを共有することを大切にしているんです。

鎌田さんが描く「未来への挑戦」とは?

鎌田さんの活動はこれだけに留まらない。2023年12月には世界中の5000以上のファッションブランドのエシカル度を評価するサイト「Shift C」を公開した。

鎌田:「Shift C」は、サイト内でファッションブランド名を検索すると、地球、人間、動物にそれぞれどのぐらい配慮してプロダクトを作っているかを5段階で評価できるサイトです。地球 3/5、人間 3/5、動物 2/5といったように、結果はすごくシンプルに表示されるのですが、裏側には900項目の評価ポイントがあって、プロのリサーチャーがファッション系企業の開示情報を見てスコアリングしているんです。

今はありとあらゆる製品に「環境に良い」との謳い文句が付き、消費者のなかには「どれがいいのかよくわからない」と混乱される方や、グリーンウォッシュを気にされる方も多いことでしょう。私もその一人です。なので、プロのリサーチャーが企業の開示情報を精査し、数値化することは製品を選ぶ際の大きな助けになると思うんですよね。もちろん、「環境に良い」だけでモノを選ぶ人は少数派でしょうが、たとえばコンビニでおにぎりを買うとき、カロリー表示をちらっと見ることもありますよね。カロリーは健康のことを考えて参考にしたりしなかったりすると思うんでけど、そういったモノを買う際の一つの指標として、ものづくりの過程でどんな影響があるのかを参考にできる社会になっていったらいいなと思って、このサービスを始めました。

服が生まれ、廃棄されるまでのプロセスを見つめ続け、企業、行政、生産者、デザイナーなどさまざまな人と対話を重ねながらファッション産業のサステナビリティ推進に尽力する鎌田さん。最後に彼女にとっての「未来への挑戦=FORWARDISM」とは何かと尋ねると、こんな答えが返ってきた。

鎌田:今、ファッション産業ってすごくネガティブなニュースが多いんですよね。環境への影響とか、廃棄の問題とか。でも本来装うことって、日々に彩りを与えてくれたり、元気になったりするものじゃないですか。なので、作る人も着る人もより安心と納得の上で楽しめるファッションが実現したらいいなと思っています。そんな理想的な状態にするために、消費者ができることもあるし、企業として変わらなければいけないこともあるし、行政や国として連携して対応すべきこともあるはずです。

最近欧米を中心に、ファッション産業含めた各産業において、みんなが向かいたい方向に向かえるよう、産業界と行政が対話を重ねてルールを整えていく動きが見られます。日本でも、例えば環境にいいものを作ったほうが得をするとか、あるいは、安心して消費者が選べるように情報開示をしてるほうがビジネスとしても利点があるとか。そんな仕組みが作られていくといいのかなと考えています。私個人としては、そのためのきっかけや対話の場を作ることを続けて行きたいです。
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(構成=小島浩平)

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