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「一汁一菜でよい」そこに込めた想いは? 料理の大切さを、土井善晴×クリス智子が語る

「一汁一菜でよい」そこに込めた想いは? 料理の大切さを、土井善晴×クリス智子が語る

人はなぜ料理をするのか? “おいしい”とはなにか? ──料理研究家・土井善晴と、J-WAVEナビゲーター・クリス智子が語るポッドキャストが好評配信中だ。

『J-WAVE presents 土井善晴とクリス智子が料理を哲学するポッドキャスト supported by ZOJIRUSHI』と題した本番組は、「食事とは“食べること”だけではない」「レシピはよその人の思い出や物語」「日本人は“おいしい”よりも“白”を尊ぶ」などの斬新な切り口で語り合い、料理をすること、食べること、そして生きることの豊かさを再発見できる内容となっている。

今回は、土井善晴&クリス智子に料理をすることで得られる感覚や、料理と言葉の関係、そしてポッドキャストで目指すことを聞いた。

料理を哲学するポッドキャスト、手応えは?

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<収録中のふたり>

──土井さんはこの秋に、最新刊『味つけはせんでええんです』(ミシマ社)を出版されたばかりです。テレビ、ラジオ、雑誌と各メディアで活躍されるなかで、このポッドキャストはどんな位置づけでしょうか?

土井善晴(以下、土井):やっぱり時間の制約がないぶん自由ですね。もうひとつ、「料理を哲学する」というタイトルもすごく大事で。「料理を哲学するってなんだ?」という。この頃は、「料理には料理以上のものがなにかあるんじゃないか?」と思ってもらえているように思うんですね、料理から人間を考えられるってことなんです。

──土井先生とクリスさんは、J-WAVEのオンエアでも料理について語ってこられました。ひとつの番組になった今、どんな手応えがありますか。

土井:料理を哲学するってこと、あまりに身近なことだけど、案外むずかしいことなんですね。料理はみんな大事だと思っているけれど、どうして大事なのか……なぜ料理をするのとか……料理の意味とか……、あんまりむずかしくはしたくないけど、当たり前のことをきちんとわかること、考えることが大事な時代になってきていると思う。少しずつですね。

クリス智子(以下、クリス):私も探り探りです。でも、探ることに時間をかけること自体がとてもいいなと思っていて。必要な時間だと感じています。というのも、土井先生の話は核心をつきながらも、大きくて広い。とくに今回は「哲学する」という深いテーマだから、なかなか吸収しきれないことがたくさんあって。面と向かってお話を聴いている私でも、ポッドキャストでまた聴いて、さらにノートに書いてまとめているくらいなんです。

土井:クリスさんに伝わったら、クリスさんの言葉で“翻訳”してもらえると思っています。クリスさんと、みなさんと、一緒に考えていけたらいいなと思います。

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クリス:楽しく聴いているうちに、土井先生の深い言葉がすっと入ってくる……そんなバランスになればいいなと思っています。もっとお話しをしていきたいですよね。

土井:そうですね。実は、私たちには行きたいところがあるんですよ!

クリス:そうなんです! 目指すところがある。

土井:はい、台所は地球と繋がっていますから。

クリス:えっ、そうなんですか?

料理には「人間にとって大事なこと」が含まれている

──ポッドキャストでは、「料理研究家は“レシピを作る人”で、かつての自分もそうだったかもしれない」というお話がありましたね。一方で、今の土井先生はレシピだけでなく、『一汁一菜でよいという提案』を筆頭に、そのメッセージに救われている人が多いと思います。“考え方”を発信し続ける背景にある想いを教えてください。

土井:「救われた」なんていうふうに思ってくださる方がいるのは、本当にありがたいです。発信を続ける理由は、やはり世の中が変わっていくなかで、料理しない人が増えたことが大きい。それは困るやろう、と。料理をすることのなかには、私たち人間にとってものすごく大切なものが含まれている。昔は言葉にできなかったけど、その想い自体はずーっとあるんです。食文化を大切にする気持ちですね。20歳ぐらいから今までずっとブレていなくて、だから「手抜き料理」「時短料理」といったテーマの依頼があっても、受けたことがないんです。基本を大事にすること、食文化を歪めないことが、人間にとって大事なことだと思うから。でも、世の中のほうが“料理をしない”という方向にブレていくのを感じて、「そっちにいってしまったらあかん」と思って、一生懸命にやってきました。筋が通っているのです。
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言葉を知ると、料理の腕が上がる

──クリスさんは、土井さんのお話を聞いていく中で、料理に対する考えは変わりましたか?

クリス:私は料理をするとき、感覚的にいろいろやってみるのが好きで、そのためにやっているようなところがあるんです。日中は頭を使っているぶん、料理中に感覚を優先すると、自分に戻っていくというか、回復していくと感じられるから。そういう自然と味わっていたことが、土井先生とお話をすると腑に落ちるんです。「そうか、こういう理由があるから、自分の感覚がああいうふうになったんだ」というような気づきがあって。

──たしかに土井先生の料理のお話は、「自分ではわからなかったけど、言われてみるとそうだな」という、ハッとするような納得感、説得力がありますよね。

クリス:私は料理を自由なものだと思っているから、「こうすべき」という押しつけは苦手なんですが、土井先生は「こうしなさい、ああしなさい」という話ではなく、「なぜそうなのか?」という気づきを与えてくれますよね。やっぱり言葉ってとても大事で、必要がないときもあるけれど、ほしいときもある。そういう意味で、先生のお話を聞いてると、ぐっと自分の中に言葉が入ってくるような感じがするんです。

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<収録中のクリス智子>

土井:クリスさんは、料理への知識や感性を、自由という言葉で表現されたのかなと思いました。自由に手が動いて、「ああ、こっちのほうがおいしそうじゃない」という感覚ですよね。それは必ずしも言葉にする必要はないんだけど、例えば「こうしたらもっと簡単においしいチャーハンが作れるよ」と言語化できると、すごくいいんですよ。イメージできるというようなことも含めてね。私の料理に関する話を聞いて、目の見えない方が「イマジネーションがふくらんだ」と言ってくださったことがあって。言葉っていうのは、すごく大事。知っていると、料理の腕が上がっていきます。同じようなことを繰り返していても、「あっそうか」と理解すると、頭と手が繋がっているということがわかってくるから。

──なるほど。

クリス:料理って、「できる」「できない」で語られがちなところがありますよね。「クリスさんは料理ができていいね」と言われたりもするんだけど、ちょっと違和感があって。「やってみよう」というふうにはならないのかなと。

土井:やったことがなかったらできない、ということですよね。

クリス:そうそう。食べない人はいないし、命と繋がっているんだから、してみたらいいのにと思いますね。

土井:勘がよかったり、喜びを感じたりすると、苦にならないですよね。料理に集中することによって、料理が嫌だという感覚はなくなっていくんです。洗い物だって、みんな嫌だと言うけれど、「きれいになれ」と思いながら鍋を磨けばちゃんと光るし、嬉しいですよね。しんどいことが楽しくなってくる。そういう意味で、クリスさんはやっていると楽しくなってくることを、感覚的に先に知ってはるんだと思います。体を動かすことが、もともと苦にならない。でも、そうではない人もいるし、時代の流れを見ていると、体を動かすことが苦に感じる人が増えてきたのかなと感じます。

──料理をしない人が増えてきた、というお話に通じてきますね。

土井:そう。それで、簡単な料理でいいから、まずは調理場に立ってみてほしいと思って生まれたのが、『一汁一菜でよいという提案』なんです。今までは、壁が多すぎたんやろうね。おいしく作らないとダメ、献立を考えないとダメ、買い出しに行かないとダメ、計量しないとダメ……面倒くさいことだらけなんですよ。一汁一菜やったら、とにかく体を動かして、できたらおいしくてほっとした、って。それを続けることで、だんだん苦にならなくなったらいいと思う。一汁一菜を作る短い時間であっても、自分のためになっていることは間違いないというのが、料理のええとこやから。

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<収録中の土井善晴>

クリス:短い時間しか使えなくても、その質は上げられますよね。長くかければいいというわけではないけど、時間がおいしくしてくれることもあると思うから。

土井:時間の中に幸せがありますよね。電子レンジに5 分かけるとして、その 5 分って、ものすごく空白な時間だと思うんです。便利だけど、その道中にはなにもない。ただ待っていて、みたいな。でも、電子レンジを使わず鍋に入れるといろんなことが起こって、例えば「もう火が通ったかなあ?」と思いますよね。それは心が動くということ。夕焼けを見たら「きれいやな」と感動するでしょう? それと同じで、料理も自然の食材が相手やから、穏やかになったり、落ち着いたりする。自然と心が重ね合わさる。それが、人間の美しいことやと思うんです。

クリス:「誰にとっても空白」、いいお話。

土井:人生にあるのは、行間の幸せやと思うんです。先ほど、私の思いがずっとブレていないというお話をしましたけど、このポッドキャストも始まって、世の中がちらりとでもこちらのほうに目を向けてくれるんやったら、嬉しいですね。若い人たちに「希望があるぞ」ということを示せたらと思うし、それが私たちの目指すところです。
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番組概要

タイトル:J-WAVE presents 土井善晴とクリス智子が料理を哲学するポッドキャスト supported by ZOJIRUSHI
配信日: 第2・4木曜16時配信
ナビゲーター: 土井善晴、クリス智子
配信URL: https://j-wave.podcast.sonicbowl.cloud/podcast/8770390b-dc1f-485e-8081-9a2fc42f203c/f3e52b22-cb3d-42b2-a3dc-5b6d11889426/

※番組は、Apple Podcasts、Google Podcasts、Spotifyなどの主要リスニングサービスにおいて聴取可能です。

(取材・文=西田友紀、撮影=竹内洋平)

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