坂本龍一さん、“音”に反応して涙…耳の良さを感じる思い出を、大貫妙子が明かす

3月28日に逝去した世界的アーティスト、坂本龍一さんとのエピソードを、親交が深かった大貫妙子が語った。

大貫が登場したのは、坂本龍一さんの追悼特番『J-WAVE GOLDEN WEEK SPECIAL A TRIBUTE TO RYUICHI SAKAMOTO』(ナビゲーター:サッシャ)。オンエアは5月5日(金・祝)。

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楽曲制作は「『任せておけ』という感じ」

大貫は、がんで療養中だった坂本さんに代わり『RADIO SAKAMOTO』の最終回を担当。高橋幸宏の追悼特集をするなか、坂本さんからのメッセージも代読した。長年、坂本さんとの親交があった大貫に現在の心境を尋ねた。

大貫:妹ぐらいに思われていて、そのような関係で付き合ってきました。出会ったのが20代のころなので。家族ではないんだけど、いまもずっと坂本さんが自分のなかのどこかにいるという感じですね。

サッシャ:坂本さんと音楽をご一緒するとき、ミュージシャンとしての坂本さんをどんな風にご覧になっていましたか?

大貫:初期のころはわりといろいろとアレンジを「こんな風にしてほしい」と言っても、全然聞いてないような感じで(笑)。どんどんシンセを触り出して。たとえば「こんな歌詞を乗せたい」というのをどうも聞いてないようで(笑)、始めたらどんどんアレンジしていっちゃうという感じの人でした。「わかった」とは言うんですけど(笑)。その後、彼がニューヨークに行って、私もニューヨークに仕事で行ったときにまたアルバムを1枚作っているんですけど、そのときも変わってなかったです。もう「任せておけ」という感じだったんだと思うんです。

サッシャ:出来上がったものに関しては、いつもどう感じてらしたんですか?

大貫:すばらしいと思っています。

サッシャ:だから任せる、特にこちらから言うこともないという。

大貫:そうですね。

サッシャ:最近のフルバンドライブでも坂本さんのシンセフレーズなんかも同期されています。

大貫:初期のころの曲をやろうと思うと、坂本さんのあのシンセが入っていないと成り立たたないんですよね。たとえば『ピーターラビットとわたし』もバンドだけでやったんですけど、カントリーみたいになっちゃって。まあ『ピーターラビット』はカントリーでもいいんですけど、オリジナルに近くやろうと思うと、そういうこともあって、いまはそのようにしています。今後は主に坂本さんが作ったシンセを基礎としたトラックでコンサートをしようかなと思っています。今年中にできればと思っています。

音に反応して涙することも

大貫は「耳がすばらしくよかった」と、坂本さんの驚きのエピソードを語った。

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大貫:私たちには聞こえないすごく高い音まで聞こえているらしくて。録音中によく涙を流していて「なにが悲しいのかな? 私の曲そんなに悲しかったかな」と思って「どうして涙が出ているの?」と訊くと「いや、音に反応しちゃうんだよ」と言っていて。

サッシャ:我々には聞こえない音に反応している?

大貫:というぐらい耳がいい。でもその音が入っているか入っていないかは、私たちに聞こえていなくても体では聞こえているんですよね。そこが坂本さんの作り出すシンセの独特な、すごく透明だったりするところなんじゃないかなと、私はずっと思っているんです。

サッシャ:我々の聞こえない音の要素を加えているからこそ琴線に触れる。

大貫:彼の耳のなかでは加わっているということですね。

サッシャ:すごいなあ。

大貫:あとオーケストラも書けますし、すばらしいです。(亡くなってしまったことが)残念です。

サッシャ:引き出しが多いんですか?

大貫:なにを頼んでも、「任せておけ」とは言わないけれども、そっちの方向に導いてくれることが多かったですね。

サッシャ:それだけさまざまな知識やアイデアを。

大貫:民族音楽とかもものすごくよく知っていて。「いつ勉強しているんだろう?」と思うぐらい。異常にたくさん本も読んでいましたし。

サッシャ:(編集者だった)お父様のお仕事の関係ですかね。子どものころから本に囲まれていたと思います。

大貫:それはそうだと思います。

サッシャ:やっぱり本当にさまざまな知識をお持ちでしたよね。いろいろなことに興味もあったし。

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大貫:いまとなっては、もっと聞いておけばよかったなと思います。でも私と会うときは大体くだらない話だけでした。

サッシャ:(大貫さんを)妹のように思ってらしたからこその会話だと思います。今年からまた定期的に歌っていく、今後の予定としてはライブをやりたいという話もありましたが、どんなことを考えてらっしゃいますか?

大貫:コロナでかなりできなかったということもあるので、都市部が多かったんですけど、小さいところも回れればいいなとは思っています。

サッシャ:しばらく行けていなかったようなところに?

大貫:そうですね。自分の年齢も年齢なので「いまのうちだ」みたいな(笑)。

曲作りの思い出

大貫は、坂本さんとの信頼関係が垣間見える曲作りの思い出と、楽曲への想いを語った。

大貫:出会ってから9枚ぐらいはアルバムを作っているんです。やっぱり年月が経っても、どういう曲を書くと坂本さんがやる気になるかというのは、自分のなかではわかっていて。言葉ではなくて、楽曲を提供したときにすぐ始めてくれる、とっかかってくれるというような相手は、いまのところ見つかっていないので、残念です。けどまあ、ずっと続くことではないので。

サッシャ:そういう風に思いながら曲も渡していたんですね、「これだったら」と。

大貫:そうです。絶対メロディ、コードもですけど、「ありき」なんですよね。

サッシャ:そこが琴線に触れないと、ということですか?

大貫:全然進まないですよね、「ああ、つまんないと思っているんだろうな」と思って。そういうときは「ちょっとこれやめましょうか」とか私は言います。

サッシャ:それで戻したものもいっぱいあるんですか?

大貫:まあ、ありますね(笑)。だってそれはそうですよ。やる気にならないものをいくらやってもいいものはできないと思っているので。

サッシャ:そこはアーティスト同士の信頼関係とリスペクトがあったからこそ、作り上げられた作品がたくさんあるということですね。

大貫:あとはやっぱり、自分で曲を書いてコードも乗っけていくんですけれども、そのコードも彼がかなり変えてしまうので。もちろんいいようにですけれどね。だからコード感で全然違う世界になってしまうんです。着ているものを新しいファッショナブルなものに着せ替えてくれる、みたいなところもありますし。はやりのものという意味ではなくてね、質のいい洋服みたいな感じで。

サッシャ:そういう一面もある稀有な存在なんですね。

大貫:もう本当に。誰でも寿命があるのでしょうがないですけど、本当に残念です。たくさんの映画音楽からコマーシャルまで残しているので。それはいま聴いてもまったく古くなっていないですから、それを楽しんで、宝物のようにしていきたいと思います。

サッシャ:あまりにも早いですよね。まだ71歳。

大貫:まあ私も同じぐらいなので。

サッシャ:だから世の中でみたら、まだまだみなさん元気な年齢ですから。

大貫:身を削るような作業じゃないですか、音を作ることもメロディを書くことも。それは日本のなかでどうのという話ではなくて、世界のなかで作っていて、本当に身を削ってきたんだと思うんです。

サッシャ:神様が「こっちに来て曲を作って」と思っちゃったのかなと思うぐらい早いですけどね。

大貫:そうですね……。

最後にNetflixオリジナルアニメ『日本沈没2020』のテーマ曲『a life』(大貫が作詞、坂本が作曲)の思い出話を語った。

『日本沈没2020』OP(歌詞入り特別ver. )|主題歌:「a life」大貫妙子&坂本龍一

大貫:生きるうえで一番大事なのはなにというのがテーマですね。それで歌詞を書きました。YouTubeでも『a life』はあがっているんですけど、久しぶりに客観的に聴いて「いい歌だな」と思いました。坂本さんと私がいまより若くて、本当に残っていてよかったなと思います。

サッシャ:そういう作品が作れるってすばらしいことですね。

大貫:テーマが全然古くない、いまも大事にしなければいけないことだったりするので。いい作品になったと思います、聴いていただけると嬉しいです。
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2023年5月12日28時59分まで

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番組情報
J-WAVE GOLDEN WEEK SPECIAL A TRIBUTE TO RYUICHI SAKAMOTO
2023年5月5日(金・祝)
9:00-17:55

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