「予期せぬ音を入れる」を重要視するSuhm、音楽コンシェルジュ・ふくりゅうの感想は?

次世代を担う新人アーティストを、豪華クリエイター・プロデューサー陣が発掘し、メンターとなって育成するJ-WAVEの音楽プロジェクト「J-WAVE MUSIC ACCELERATOR PROGRAM」通称「MAP」。メンターの一人である音楽コンシェルジュ・ふくりゅうが聞き手を務める、審査を勝ち抜いた8組のアーティストへのインタビュー連載をお届けする。

今回は、シンガーソングライターでトラックメイカーのSuhmへのインタビューを紹介。Suhmは、ロックバンド「Kidori Kidori」の元メンバー・Keiske Toumotoによるソロプロジェクト。2022年1月19日には最新曲「スローダウン」をリリースし、自身がCGアニメーションを手掛けたミュージックビデオもYouTubeチャンネルにて公開している。

Suhmがバント解散後、ソロ活動に舵を切った理由は何だったのか。また、ソロならではの苦労、さらには、「MAP」プロジェクトの肝となる「NFT×音楽」というテーマとどう向き合っているのか。新進気鋭のアーティストの本音にふくりゅうが迫る。

DIY的な思想がソロ活動の原点に

ふくりゅう:Suhmさんの最新曲『スローダウン』を聴かせていただき、同曲のSF的な音像で、チルなんですけど高揚感のあるサウンドをすごく楽しませてもらいました。

Suhm:ありがとうございます。

ふくりゅう:そもそも、ソロプロジェクト「Suhm」を始めたきっかけは何だったのでしょうか?

Suhm:僕はもともと「Kidori Kidori」というバンドで活動していたバンドマンでした。そのバンドが解散してからは「これからどうしよう……」と悩んだのですが、音楽を続けようと決めまして。ただ僕自身「面白いことをずっとしていたい」というたちで、そのため、バンドをもう一度やるという選択肢にはあまり魅力を感じませんでした。そこで「一人でやってみよう」と思い立ったんです。当時はめちゃめちゃ貧乏で、パソコンさえ持っていないような有様でしたから、PCを頑張って買うところからスタートした……という感じでしたね。

ふくりゅう:テクノロジー的なものに詳しそうなイメージでしたが、ソロになって0から始められた感じですか?

Suhm:ですね。Kidori Kidoriのとき、デモをiPhoneアプリの「GarageBand」で作っていた程度で、あまりテクノロジーに触れる機会がありませんでした。ただもともと好きだったので、今、色々手を出しているんです。

ふくりゅう:ソロならではというか、ミックスやエンジニアリングまで、すべてセルフでやられていると伺いました。ミュージックビデオもご自身で?

Suhm:一個違うんですけど、それ以外は自分で作っています。Kidori Kidoriの頃も「予算はないけどMVを作りたい」となって、「じゃあ、自分らで作る!」……みたいなことをしていました。そういったDIY的な思想は昔から強いですね。

ソロ転向後、時間管理に一苦労

ふくりゅう:では、バンドからソロになったことで大変だったことは何ですか?

Suhm:楽曲制作時の時間管理に苦労しました。まずは音を整理する「ミックス」をして、次は、整理した音を聴けるような状態に仕上げる「マスタリング」をし、曲ができたら今度はMV……といった具合に、全行程を自分でやることによって、時間があっという間に過ぎてしまうんです。昨年、新しくリリースするレコードに収録する3曲分のMVを作ったのですが、それはもう、地獄でしたね(笑)。

ふくりゅう:セルフで楽曲作りを行う場合、ディレクターさんがいるわけじゃないから、全てを自己判断で進めなきゃいけないから大変ですよね……。自分のこだわり一つで、各工程にいくらでも時間を掛けられちゃうわけですし。

Suhm:まさにおっしゃる通りで。夜遅くまで作業して「明日の自分の判断に委ねる」ということをよくやるんですけど、大抵の場合、明日の僕は昨日の僕が作った音を許してくれない(笑)。だから、絶対に外せない締め切りを自分の中で設けて「ここで配信されちゃうから! 出さないとダメだから!」と言い聞かせることで、ようやく完成までもっていっていました(笑)。

ふくりゅう:なかなか壮絶ですね(笑)。とはいえ、既に何曲かリリースされているようですし、そういった創作スタイルにもだいぶ慣れてきたのではないですか?

Suhm:そうですね。自分の中でノウハウというか、楽曲を制作する上での工程の「区切り」のようなものが確立されつつある気がします。なので、次に楽曲を作るときはもうちょっと早くできるのかな?という手ごたえはありますね。

ふくりゅう:なるほど。「Suhm」のサウンドを聴いていると、独自のセンス・価値観みたいなものが感じられるのですが、ご自身の音楽性及びアイデンティティを表現していくにあたってどんなことを大切にしているのでしょうか?

Suhm:「予期せぬ音を入れること」を重視しています。たとえば『スローダウン』だとキックが妙にデカいとか。聴いている人がなにか「ん?」って立ち止まるような、「普通そうしなくない?」と思われるようなギミックを入れることが好きなんですよね。他にも、ある楽曲では色々な理由を設けて、蒸気の「プシュー!」って音を挿入したりとかしているんですけど、そんなふうに曲の中でイレギュラーな音を鳴らすことが好きですし、必然性を感じているんです。

ふくりゅう:僕は普段、音楽ストリーミングサービスの公式プレイリストを手掛けていて、その視点から言わせていただけば、Suhmさんの作品はプレイリストにはめ込みやすい楽曲という印象を受けます。そういったところも意識されているのでしょうか?

Suhm:ガッツリ「プレイリスト載せてもらいにいっちゃいました!」みたいなノリで作りはしませんが(笑)。とはいえ、「長さ」にはこだわっています。最近の曲って短いじゃないですか。バンドの頃は「ロックは大体3分だぜ」という思想を守って曲を作っていたんですけど、「Suhm」を始めてからは2分台でいいと思っていて。僕はギター弾きで、たとえば、昔だったら「絶対ここにギターソロ入れてたな」というところも、今は単純に音像とギターが合わなくなってきたという理由で端折ることも多いんですよね。

ライブ音源をNFT化したい!

ふくりゅう:お話を聞いていると、「Suhm」というプロジェクトは今この瞬間、表現したいことの塊のような印象を受けます。

Suhm:そうかもしれません。「Suhm」に限らず、ずっと僕にとって「今」というものがすごく重要なんです。もちろん、昔のことを歌う人もいますし、それも全然好きなんですけど、自分の中ではその曲を歌う理由・必然性がとても大事で「なぜそれを演るのか」を決めないと動き出せないんですよ。

ふくりゅう:話は変わりますが、「MAP」プロジェクトでは、NFTの活用が一つの重要なテーマとなっています。SuhmさんはNFTをはじめとした最新のテクノロジーを活用してどんなことをやってみたいですか?

Suhm:もっと進んだ先の話として、メタバースが今よりもっと主流になったとき、ネットの中でライブすることが当たり前になるんじゃないかと思うんです。その中で僕は、ネット空間でライブを開催し、そのライブ音源をお客さんが自由に録音してそれぞれでNFT化するという取り組みをしてみたくて。そうなれば、「僕、このライブに行ったんだ」と、お客さん一人ひとりにとってアーカイブが残るじゃないですか。さらには、そのNFTを「このときのライブ聞いてみる?」といった具合に、他の人と共有することもできたりするわけで。NFTは投資やお金儲け的な文脈で語られることが多いですが、今お話ししたように僕は、“音楽の新しい体験”みたいなところに面白みを感じています。

ふくりゅう:Suhmさんは音楽のクオリティは申し分ないので、それこそテクノロジーの展開で、個人だけの活動ではできないようなことをやられていくことを期待したいです。

Suhm:僕、「友だち、いなさすぎない?」っていう奴なんですよね(笑)。本質的にシャイな暗いやつで、なかなか人に頼むみたいなことができない性格なんです。だから一人でやりがちなんですけど、バンドの時代に楽しかったのは、自分では思いつかないような発想で音作りができたり、メンバーのちょっとしたミスから発展するようなイレギュラー性だったりもしたわけで。だからこそ、今後は、色んな人を巻き込めるように、人間的な成長を試みていきます。

(構成=小島浩平)

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