NFTで音楽ビジネスはどう変わる? ミュージシャンの成長を加速させるプログラム「MAP」を解説

J-WAVEは、次世代アーティストを豪華プロデューサーやクリエイター、マーケター陣と発掘し、半年間かけて育成する音楽プロジェクトを実施中だ。その名も「J-WAVE MUSIC ACCELERATOR PROGRAM」(通称MAP)。

プロジェクト発足の経緯や詳細を、J-WAVEのPodcast連動プログラム『TOPPAN INNOVATION WORLD ERA』で紹介した。トークを繰り広げたのは、J-WAVEナビゲーターのサッシャと、フラクトンベンチャーズの赤澤直樹、J-WAVE MAPプロデュースチームの小向国靖。オンエアは、5月29日(日)。

アーティストとスタートアップ企業の共通点

サッシャはMAPプロジェクトのスペシャルアンバサダーを、フラクトンベンチャーズの赤澤直樹はメンターを務めている。まずはJ-WAVEの小向が、MAPプロジェクトを発足した経緯を語った。

小向は、番組『INNOVATION WORLD』や、毎年秋にJ-WAVEが開催するテクノロジーと音楽の祭典『INNOVATION WORLD FESTA』などに関わる。音楽アーティストだけでなく、テクノロジー分野やスタートアップ企業と接する機会が多いため、両者の共通点に気づいたそうだ。

小向:昔はプロモーションというと、CDをラジオ局に配ったり、テレビ局でタイアップをとってきたり、雑誌の記事のインタビューを受けたりなどが王道でした。しかし最近のミュージシャンを見ていると、基本的にはインターネットを中心に、「動画プラットフォームをどう選ぶか」とか、「いかにファンダムを作るか」、とか多種多様になっているんです。

サッシャ:TikTokにあげるとかね。

小向:ビジュアルも変わりました。顔を出さないコンセクティブなアーティストも増えて、プロモーションの仕方もさまざまです。そういった姿が『INNOVATION WORLD』で普段付き合っているスタートアップの企業とすごく似てきた気がしていて。アーティスト一組一組がスタートアップ企業と言えるんじゃないかなと思ったんです。一方でスタートアップ企業の世界では、大企業が自分たちと事業シナジーの近いスタートアップを4、5社集め、自分たちのリソースを使わせたり、スキルを持った人たちをメンターとして派遣したりして育てていく「アクセラレータープログラム」という仕組みがあります。これをアーティストに置きかえてみようと思ったのが発端です。

サッシャ:一般のスタートアップがあるんだったら、ミュージシャンもスタートアップとして同じアクセラレータープログラムがあったほうがいいんじゃないかと。

小向:それをやれる立場にあるのがJ-WAVEじゃないかと考えました。

アーティストの応募数は、想定のおよそ3倍にのぼった。選ばれたアーティストは、公式サイトで公開されている。

・MAP公式サイト
https://www.j-wave.co.jp/map/

NFT(非代替性トークン)を活用する利点

MAPは、単にアーティストを育成するだけでなく、NFT(非代替性トークン)を活用するという特徴を持つ。NFTとは、Non Fungible Token(非代替性トークン)の略で、ブロックチェーン技術を使ってデジタルデータの所有権を保証することができる仕組みだ。

選考で選ばれたアーティストは、10月に開催される「INNOVATION WORLD FESTA」のステージに向けて、デモ音源を数曲作ってNFT化し、プラットフォーム「OpenSea」等のマーケットプレイスで販売する予定だ。そこで得た資金で、次のデモ音源を作っていく。

アーティストや買う側に、どんなメリットがあるのか。

小向:仮に、最初はスタジオで一発録りしたような荒い音源をNFT化して10万円で売ったとしますよね。そのアーティストが数年後にフェスのヘッドライナーになったとしましょう。すると、最初の音源の価値が10倍、20倍になるかもしれません。つまり初期の段階で応援しておけば、買う側はNFTの価値を享受できます。また、買った人だけでなく、メンターやサポート企業みんなが持ち合います。 みんなが応援すればするほど、このNFTの価値が上がる。みんな同じゴールを見ながらこのアーティストの成長をアシストできるんです。

赤澤は、NFTの核心的な部分は「変えがきかないものをデジタル上で表現できること」だと解説した。

赤澤:NFTが何億円で売買されたとニュースになったりしますが、NFTで替えがきかない情報なのはデータそのもののコンテンツ、画像とか音声とかではなくて「そのデータを誰が持っているか」という紐づけている部分のデータなんです。だから「このデータは私が持っているんですよ」というのを世界でひとつだけに特定できるようにしてくれているのがNFTの面白いところで、「ギャランティカード」に近いものですね。

サッシャ:ギャランティカード?

赤澤:たとえばブランドもののバックであるとか、シリアルナンバーがついているような製品は「これを持っていますよ」と証明するためにギャランティカードがたまに発行されます。ですがデジタル上ではそれができなかったんです。

サッシャ:誰もが持ててしまうからですね。

赤澤:そうです。でもNFTは、「このデータはこの人が持っている」と、ブロックチェーンを使うことで紐づけられる。すると、「この人が持っているんだったらこのデータを買います」ということができる、つまり経済圏がデジタル上で生まれるようになった背景があります。コンテンツ自体というよりも、それを持っている事実というところに価値が生まれるようになってきたところが、NFTの面白いところかなと思います。

サッシャ:現物に当てはめると、たとえば「無名の画家の絵をアメリカ大統領が持っていた」ということで箔がつくわけですよね。「大統領が持っているならいい絵なんじゃないか」と。

赤澤:NFTで一番大きいのは「誰が前の持ち主なのか」「どういう経路で自分のところにきたのか」「誰がいま持っているのか」といった履歴が追えるというところでもあって。これはMAPでも関連してくるところなんですけど、誰が持っているのかというのを見ていけるのは、いままでのデジタルのデータではまったくできなかったんです。

サッシャ:NFTであれば「J-WAVEが応援しているアーティスト」だとか「プロも認める作品なんだ」みたいな位置づけになるんでしょうか?

赤澤:今後J-WAVEとして「この人はこの人が応援してましたよ」ということを証明しなくても、自然に広がっていく状態を作れるんです。オープン性がポイントであり、それができるのはブロックチェーンが出てきたからこそ、NFTだからこそと言えます。

エンタメ業界の新しいあり方を模索する

小向氏はNFTがエンターテイメントに与えるメリットを、株のように「頑張れば頑張るほどそこに関わった人たちに価値を共有できる」ことだと解説した。

小向:とあるメンターさんが「音楽配信だけでは食べていけない」と言っていました。アニメなどは盛り上がっているものの、J-POPやJ-ROCKといった純粋な音楽はビジネスとして難しくなってきている。でも、このNFTの文脈があれば、ファンが直接支えることもできるしコミュニティもできるし「ファンが応援した」という証がブロックチェーンでずっと残っていく。音楽、アーティストとの関係性としてポテンシャルがあるなと思います。そのメンターの方も、NFTに対して「音楽のエコシステムを変えるポテンシャルを感じる」とおっしゃってくださっています。

サッシャ:「この曲の会員番号1番」みたいなのを取れる可能性があるんですね。

赤澤:古参のファンをピックアップできるというのは、ありそうでなかったやり方です。しかも第三者からすると、ファンクラブの会員番号ってなかなかわからないじゃないですか。ですがNFTはオープンな情報なので「この人がずっと応援していたんだ」というのが誰でもわかります。

サッシャ:赤澤さんはNFTでエンタメ、音楽にはどのような作用があると思いますか?

赤澤:エンタメの一番大きな特徴は、ファンの方を巻き込みながら大きくなっていくという構造だと思っていて。この構造とNFTやブロックチェーンは相性がいいなと思っています。みんな巻き込んで、みんなが参加して、みんなでよくなって、みんなで果実を分け合う。そういう構造を技術の進歩によって誰でも作れるようになった。これはエンタメ業界の新しいあり方を模索する上では、大きな変化じゃないかなと思っています。

MAPの公式サイト、およびJ-me会員ページでは、審査を通過したMAPアーティストたちをその曲とともに一挙公開し、リスナーによる推しアンケートを実施中だ。そのほかの企画やMAPアーティストの活動についても、公式サイトで随時公開を予定。

・公式サイト
https://www.j-wave.co.jp/map/

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