なぜジブリ音楽を聴くと旅したくなるのか? 音のこだわりを『思い出のマーニー』作曲家に訊く

雨のパレードの福永浩平(Vo)と作曲家の村松崇継が「旅に行きたくなるジブリ曲」をテーマに語り合った。

2人が登場したのはJ-WAVEで5月12日(木)に放送された番組『SONAR MUSIC』(ナビゲーター:あっこゴリラ)。

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思い出の曲

この日の番組テーマは『ジブリ音楽で旅しよう!』。スタジオジブリ作品の音楽のなかから、映像とともに観る人をイメージトリップさせてくれる楽曲をピックアップ。まずは『思い出のマーニー』など、スタジオジブリの音楽を手がける村松が楽曲をセレクトした。

村松:いろいろあるんですが、『魔女の宅急便』とか。
福永:いいですねえ。
村松:『おもひでぽろぽろ』という夏の山形に旅をする映画や、『借りぐらしのアリエッティ』など、僕はいろいろあります。そのなかでも『おもひでぽろぽろ』のベット・ミドラー『ローズ』という曲があるのですが、それを演歌歌手の都はるみさんが歌ってらっしゃるバージョンがあって。『愛は花、君はその種子』という日本語の詞で歌っているんです。ベット・ミドラーさんの『ローズ』がそもそも大好きだったんですが、その曲を都はるみさんが歌うことによって山形の夏を描いている感じがします。いつも東北に夏休みに旅行に行くときは必ず都はるみバージョンの『ローズ』をかけてます。
あっこゴリラ:いいですねえ。まさに旅に行く物語が多いですもんね。ちなみに福永さんは?
福永:僕は『紅の豚』がめちゃくちゃ大好きなんです。セリフひとつひとつが本当に渋いし、景色も全部すばらしいし。ホテル・アドリアーノでジーナが出てきたときに、シャンソンを歌っているんですけど、もうその歌が最高なんですよね。空賊も賞金稼ぎも「ホテル・アドリアーノの近く50キロメートルだと戦わないよ」みたいな約束をしているんです。そこでみんな集ってジーナの歌を聴いているというのが、もうたまらないですね。
あっこゴリラ:そういうのって自分が旅をしたときにふと脳内に再生されたりしちゃいますよね。
福永:わかります。

外に連れ出してくれるようなジブリ音楽

村松が「思わず外に連れ出してくれるようなジブリ音楽」というお題でセレクトしたのは『紅の豚』から『Porco e Bella』だった。

村松:(作品の登場人物の)ポルコ・ロッソとドナルド・カーチスの戦いに決着がついたあとのラストシーンにかかる曲なんです。アドリア海、青い空をイメージしているようなとてもイタリアっぽい曲なんです。トランペットとかがイタリア映画っぽいし、ちょっと途中でボサノバっぽいリズムも出てきたりして。エンニオ・モリコーネの『ニュー・シネマ・パラダイス』という映画にも通じるような南欧風のテイストがいいですよね。イタリアのアドリア海のちょっとしたリビエラにあるカフェとかで流れているような感じの曲に聴こえて、この曲を聴くといつも「ああ、イタリア行きたい!」と思います(笑)。イタリアトリップをさせていただいている曲です。
あっこゴリラ:すごい、具体的な地名が出ちゃうぐらいってことですね。

スタジオジブリ公式サイトに掲載されている「ここが舞台」と言える作品は、『おもひでぽろぽろ』の山形、『海がきこえる』の高知や吉祥寺、『平成狸合戦ぽんぽこ』の多摩ニュータウン、『コクリコ坂から』の横浜や新橋の4つのみなのだとか。

あっこゴリラ:それ以外は架空の、もちろんモデルはあるんでしょうけど明言はされていないんです。でもこうやって楽曲を聴いたら「イタリアに行きたくなった」とか、そういう場所や地域を連想させるのってなんでだと思いますか?
村松:サントラをよく聴くんですけど、「ヨーロッパの国のこの地域」みたいなものを意識させるような楽器編成がよくとられているんです。『紅の豚』だと南欧風、ギリシア風というのかな? アコーディオンなど、イタリアの港町を思わせるような楽器を使っています。『ハウルの動く城』はフランスのアンザス地方をイメージしているというのが噂ではあるんですが、それもよく聴くとフランスの南仏風というか、ギターとかアコーディオン、ダルシマ―など民族的なご当地のカフェとかでよく鳴っているような楽器編成を使っている、ということもあるんじゃないかなと。
あっこゴリラ:気になるのは、村松さんは『思い出のマーニー』の音楽を担当されています。どういうアレンジにしてどういう楽器を使うのかというのは、作品を作っていく段階で話をされるんですか?
村松:します。「こういう地方なのでこういうイメージでこんな楽器を使ってみます」というのをミーティングで話します。ほかの作品の制作がどうなっているかわからないけど、「この辺の土地のこんな感じをここで表現したい」みたいなのが宮崎(駿)監督と久石(譲)さんのなかでもあるのかな?と推測します。あと、ジブリ作品って音へのこだわりがすごいんです。街の喧騒の音や列車の音、そこを走っている車の音など、その土地土地に合わせた音を音響効果さんが録音しに行って使っていたりもするんです。

福永は「思わず外に連れてだしてくれるようなジブリ音楽」として、『ハウルの動く城』から『人生のメリーゴーランド』をセレクトした。

福永:本当にどこか違う世界に連れてってくれる感じがします。三拍子も聴いていてワクワクするし。
あっこゴリラ:福永さんはよくツアー中に聴いていたと。
福永:はい。『もののけ姫』の『アシタカせっ記』という曲も僕すごい大好きなんですけど、ツアー中の名古屋に向かう新幹線で聴いたときに、駅弁食いながら泣いちゃいました。
あっこゴリラ:(笑)。ツアー中にジブリ音楽聴くのはめっちゃいいですね。
福永:そうなんですよね。ツアーの車で夜中に走っているときに聴いたら、すごい壮大な景色が浮かぶので。
あっこゴリラ:確かに。しかもそれをバンドワゴンでみんなで聴いたりとかしたら相当ヤバい、バイブスが高まりそう。
福永:メンバーも「ヤベーな!」とか言ってます(笑)。

ジブリ音楽で意識すること

村松が音楽を担当した『思い出のマーニー』の原作はイギリスの作家による児童文学作品。舞台はイギリスだが、ジブリのアニメ版では北海道のとある架空の町が舞台として描かれている。村松は実在しない町のイメージや世界観を表現するのにどんなことを意識しているのか解説した。

村松:『思い出のマーニー』は現実世界とファンタジー世界を行き来するシーンがあるんです。そういうなかで現実世界の音と、ファンタジーの世界の音と、ちょっといろいろと楽器の編成を変えたり、ミックスを変えたりしてやっています。たとえば沼地をマーニーと杏奈で歩くシーンは、なるべく水にスッと入る音と足の音を消さないように、でも情景を物語るみたいな音楽感。そこにある自然や環境を意識しながら、それを壊さないで音楽を作っていくことをしています。時代背景はマーニーと杏奈でちょっと違うので、時代背景ごとにちょっと変えてみる工夫をしたりしています。
あっこゴリラ:音楽の細かな計算とかが本当に影響をおよぼしているんだなと思います。
村松:現実感をいかに出さないか、というのが難しい映画というか。現実的なシーンもあるんです。いじめられて公園で落ち込むシーンとか、そういうところは現実的な杏奈の気持ちに寄り添うんだけど、架空の場所のところは架空感を出します。
あっこゴリラ:現実感を醸し出すにはどんな楽器や音色がいいとかあるんですか?
村松:リバーブを変えたり、環境のSEとのマッチングを考えたりします。杏奈の気持ちとかパーソナリティになるときは近く感じられる管楽器を使ってみたり。
福永:なるほど。
村松:現実感と架空感を出すために、シンセの使い方を多くするか少なくするか変えてみたりとかもします。
あっこゴリラ:すごい。
福永:ひとつひとつにコンセプトがあっていいですね。
あっこゴリラ:1個1個のシーンが本当に計算されていて、いろいろなクリエイターたちの想いが詰まってできあがってるんですね。同じ作曲家として情景描写とか舞台を連想させる音の巧みさを感じるほかのジブリ作品はありますか?
村松:ジブリはすべてすばらしいんですが、僕がやっぱりすごいなと思うのは『となりのトトロ』。
あっこゴリラ:おー。
村松:『五月の村』という曲があるんです。これを聴くと農村のサツキとメイがすぐ浮かぶじゃないですか。
福永:確かに!
村松:あの情景と空気感と、あの2人がすぐに浮かんでくる『トトロ』の音楽はすごいなって思います。

J-WAVE『SONAR MUSIC』は月~木の22:00-24:00にオンエア。
radikoで聴く
2022年5月19日28時59分まで

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番組情報
SONAR MUSIC
月・火・水・木曜
22:00-24:00

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