イギリスのロックバンドRADIOHEADの魅力を、音楽評論家でDJの田中宗一郎、シンガーソングライターの藤巻亮太が語った。
田中と藤巻が登場したのはJ-WAVEで放送中の番組『SONAR MUSIC』(ナビゲーター:あっこゴリラ)。ここでは3月28日(月)にオンエアした内容をテキストで紹介する。
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「RADIOHEADの被害者代表」として登場したのが田中宗一郎。出会いは最初にヒットしたセカンドシングル『Creep』だと振り返った。
田中:当時は「イギリスがそろそろ景気よくなるぞ」というときで。世界中にマクドナルドができたり、スターバックスができたりなど、世界中が文化的にアメリカナイズされたグローバリゼーションが進んでいった時代。イギリスでもグランジ、Nirvanaなどすごく元気で、気が付いたら「イギリスなのにアメリカの音楽が流行ってる」みたいな感じだったんです。だけどそのなかにポンと出てきたのが『Creep』だった。あの静かに始まっていきなりうるさくなるサウンドは、ようするにNirvanaやNirvanaの元ネタだったりしたPixiesと同じなんです。でも曲の作り方は50年代から60年代にたくさん作られた、すごく甘ったるいポップソングのコードなんです。だから「このソングライティングとこのサウンドを組み合わせるのってなくない? どこから出てきたのこんなの」みたいな驚きを最初は感じました。
あっこゴリラ:『Creep』的なものってたくさんありますけど、『Creep』的なものの最初が『Creep』ということですよね。
田中:そう。だからあの当時ああいうギターのバンドはいくらでもいたんだけど、甘いメロディーの曲と合わせることはなかったんです。
田中:シューゲイザーって「俺たち、とりあえず満たされているから言うこともないよ。でも人間関係とか面倒くさいから、ジャーってノイズを鳴らして、そのなかに隠れていたいよね」というムーブメントだったんです。
あっこゴリラ:そうなんだ!
田中:RADIOHEADはそこから出てきたんだけど「そんなの嫌だ! 俺は怒っているし悲しんでいるし、言いたいこともある」みたいな。当時グランジというのが同じように流行っていて、自己嫌悪の時代だったんです。「自分が大嫌いだし、死んだほうがましなんだ。じゃあそれを実際にデカイ声で歌ってみよう」という風に考えた音楽がオックスフォードから出てきたけど、シアトルにメンタリティがすごく近いし、ボストン的ないい子ちゃんの感じもある。いろいろな文化のアマルガム(折衷)みたいな感じで出てきたんです。
RADIOHEADは『Creep』が世界的なヒットとなったが、これで「ワンヒットワンダー(一発屋)」や「Nirvanaのパクりだ」と言われるなど、当時の評価は散々だったそう。
田中:イギリスのバンドは「アメリカに魂売ってる」って言うし、アメリカのバンドは「アメリカのパクりだ」って言うし。みんなに嫌われてた。
あっこゴリラ:じゃあめっちゃ売れてたけど、めっちゃ孤独だったんだ。そんななか日本ではかなり評価されてた?
田中:イギリスとかアメリカのインタビュアーって10の質問があったとしたら、8とか9は私生活を聞くわけ。「バンドメンバーと仲が悪くなったんじゃないか」とか「どこそこのバンドと仲がいいんじゃないか、悪いんじゃないか」とか。でも俺とか日本の媒体は音楽の話を聞くから、「日本人というのはジャーナリストもファンもすごく自分たちの音楽をわかってくれるんだ」という風に彼らは思ったんです。だから日本でしか話さないことがたくさんあったし、それがすごいファンの理解につながったんです。
田中:まずすぐ怒る。ありとあらゆることに怒ってます。自分自身も含めてね。で「歩くブラックジョーク」って呼んでいるんですけど(笑)。常に笑えない、みんながちょっとドヨンとするようなジョークを言って笑う人。
あっこゴリラ:でもそういうイメージ。
田中:あとは政治家とか大半のポップスターみたいに「自分のパブリックイメージがこうなんだよ」というのをファンとか世の中に向けて操作しようとしない人。取りたいように取ってくれれば構わないっていう。
あっこゴリラ:いいですね。
田中:それはもう、ずっと馬鹿にされたり、攻撃され続けたからだと思います。そういう意味ではメチャクチャタフ。
あっこゴリラ:大ヒットしたけどすごく馬鹿にされたからというのもあるんだろうな。
田中:『Creep』も悪い曲じゃないけど「『Creep』=RADIOHEAD」って言われると本人たちはすごく嫌なわけですよ。でもそれで「『Creep』最高! 愛してます」って言われたら「ありがとう」って言うしかないっていう風に何十年もすごしてきたわけだから。
あっこゴリラ:そいうひねくれているところも込みで愛されてますよね。
田中:基本的に彼って世の中のシステムとか社会とか全部間違っていると思っている人だから。なおかつそれに加担している自分も最悪だし、世の中の大半の人もそれに加担して罪を犯していると思っているわけです。それを直接的に言うんじゃなくて、本音は言わずなんとなく伝える。本音を言っちゃったらみんな受け止められないから。だからこそ音楽をやっているところもすごくあるんです。
藤巻:レミオロメンというバンド名はメンバー3人でジャンケンして好きな文字を1文字2文字3文字言い合ってくっつけた造語なんです。僕が勝って1文字目を選んだんですけど、「もうRADIOHEADしかないでしょう」ということで(笑)。RADIOHEADが好きすぎて、そこから「レ」という文字をもらったくらい影響を受けてます。
3ピースのレミオロメン結成した藤巻は、5人組であるRADIOHEADのアンサンブルへの憧れがあったという。
藤巻:コード進行のなかでもいろいろなアンサンブルがすばらしいんですが、特に『OK Computer』あたりは半音のギターフレーズがぶつかっていくようなところがたくさんあって、そこが見事に気持ちいいんですよね。普通だったら不協和音ぽくなってしまうような部分も、魅力になるぐらいのフレーズがあって。それで僕はけっこうぶつけたがりになったんです。まあ一番聴いたのは『OK Computer』かな?
『OK Computer』のあとに『Kid A』『Amnesiac』と続き、実験的な音楽になっていったと語る藤巻は、RADIOHEADが音楽的な世界観を深めながらも「ある一定のポップ感を失わないところ」が、自分たちの心を離さないポイントなのだと語った。
藤巻:日本も島国、イギリスも島国で、閉鎖的な部分もあるのかもしれませんけど、マインド的にも共感できるところが多くて。溶けていく、滲んでいくようなアメリカンロックみたいじゃない悲哀の部分も、日本人の心にかなり響くんじゃないかと。RADIOHEADのオルタナティブロックの突き抜けた感じというのは、歴史を変えたんじゃないかと思っております。
田中:ちょうどここ数週間で世界中の人がウクライナの情勢を見ているわけじゃないですか。これまでのRADIOHEADってずっと「こんな世の中おかしくなっちゃうよ、戦争起こるよ」みたいなことを表現してきた人なので、「いま、なにを考えているんだろう?」と思ってTwitterとかInstagramを見ていたんです。そうしたらティーポット作ってました。しかも大きな企業じゃなくて個人で作っている人たちに作ってもらったティーポットとティーカップを売ってました。
あっこゴリラ:めっちゃステキじゃないですか。
田中:いまはみんな感情的になっちゃうじゃないですか。こうやって実際にウクライナの市民が本当に命を奪われている状況だから、怒ったり悲しんだり苦しんだりしちゃうと思う。だけど僕らは直接的に死の恐怖には直面していないわけですよね。本当かウソかわからないような情報があふれていて、ちょっとおかしくなっちゃうじゃないですか。そのときに一番大切なのは、自分たちには大切な家族とか恋人がいて、一緒にお茶を飲んだりしてほっこりする時間があること。
あっこゴリラ:それだね。
田中:そこでもう1回冷静になってみようよ。それで明日やれることをやることも大切なんじゃないの?って言うメッセージを勝手に読み取りました。
J-WAVE『SONAR MUSIC』は月~木の22:00-24:00にオンエア。
田中と藤巻が登場したのはJ-WAVEで放送中の番組『SONAR MUSIC』(ナビゲーター:あっこゴリラ)。ここでは3月28日(月)にオンエアした内容をテキストで紹介する。
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RADIOHEADの音楽との出会い
RADIOHEADに多大なる影響を受けた人たちがリスペクトを込めて「RADIOHEAD被害者の会」を結成。90年代から2000年代の最重要バンドのひとつ、RADIOHEADによって言動やファッション、人格までが形成されてしまったある種の“被害者”の話を聞きつつ、バンドの魅力を考えていくことに。「RADIOHEADの被害者代表」として登場したのが田中宗一郎。出会いは最初にヒットしたセカンドシングル『Creep』だと振り返った。
田中:当時は「イギリスがそろそろ景気よくなるぞ」というときで。世界中にマクドナルドができたり、スターバックスができたりなど、世界中が文化的にアメリカナイズされたグローバリゼーションが進んでいった時代。イギリスでもグランジ、Nirvanaなどすごく元気で、気が付いたら「イギリスなのにアメリカの音楽が流行ってる」みたいな感じだったんです。だけどそのなかにポンと出てきたのが『Creep』だった。あの静かに始まっていきなりうるさくなるサウンドは、ようするにNirvanaやNirvanaの元ネタだったりしたPixiesと同じなんです。でも曲の作り方は50年代から60年代にたくさん作られた、すごく甘ったるいポップソングのコードなんです。だから「このソングライティングとこのサウンドを組み合わせるのってなくない? どこから出てきたのこんなの」みたいな驚きを最初は感じました。
あっこゴリラ:『Creep』的なものってたくさんありますけど、『Creep』的なものの最初が『Creep』ということですよね。
田中:そう。だからあの当時ああいうギターのバンドはいくらでもいたんだけど、甘いメロディーの曲と合わせることはなかったんです。
当初は一発屋扱いだった
田中はRADIOHEADのバックボーンを、イギリスの風光明媚な田園都市・オックスフォードだと解説。中産階級やハイクラスの人々が暮らす場所で生まれたのがシューゲイザーというロックのスタイルだったそう。田中:シューゲイザーって「俺たち、とりあえず満たされているから言うこともないよ。でも人間関係とか面倒くさいから、ジャーってノイズを鳴らして、そのなかに隠れていたいよね」というムーブメントだったんです。
あっこゴリラ:そうなんだ!
田中:RADIOHEADはそこから出てきたんだけど「そんなの嫌だ! 俺は怒っているし悲しんでいるし、言いたいこともある」みたいな。当時グランジというのが同じように流行っていて、自己嫌悪の時代だったんです。「自分が大嫌いだし、死んだほうがましなんだ。じゃあそれを実際にデカイ声で歌ってみよう」という風に考えた音楽がオックスフォードから出てきたけど、シアトルにメンタリティがすごく近いし、ボストン的ないい子ちゃんの感じもある。いろいろな文化のアマルガム(折衷)みたいな感じで出てきたんです。
RADIOHEADは『Creep』が世界的なヒットとなったが、これで「ワンヒットワンダー(一発屋)」や「Nirvanaのパクりだ」と言われるなど、当時の評価は散々だったそう。
田中:イギリスのバンドは「アメリカに魂売ってる」って言うし、アメリカのバンドは「アメリカのパクりだ」って言うし。みんなに嫌われてた。
あっこゴリラ:じゃあめっちゃ売れてたけど、めっちゃ孤独だったんだ。そんななか日本ではかなり評価されてた?
田中:イギリスとかアメリカのインタビュアーって10の質問があったとしたら、8とか9は私生活を聞くわけ。「バンドメンバーと仲が悪くなったんじゃないか」とか「どこそこのバンドと仲がいいんじゃないか、悪いんじゃないか」とか。でも俺とか日本の媒体は音楽の話を聞くから、「日本人というのはジャーナリストもファンもすごく自分たちの音楽をわかってくれるんだ」という風に彼らは思ったんです。だから日本でしか話さないことがたくさんあったし、それがすごいファンの理解につながったんです。
Thom Yorkeの人間性
あっこゴリラはRADIOHEADのフロントマンで、田中を「マイメン」と呼ぶThom Yorkeの魅力はどこにあるのかを問いかけた。田中:まずすぐ怒る。ありとあらゆることに怒ってます。自分自身も含めてね。で「歩くブラックジョーク」って呼んでいるんですけど(笑)。常に笑えない、みんながちょっとドヨンとするようなジョークを言って笑う人。
あっこゴリラ:でもそういうイメージ。
田中:あとは政治家とか大半のポップスターみたいに「自分のパブリックイメージがこうなんだよ」というのをファンとか世の中に向けて操作しようとしない人。取りたいように取ってくれれば構わないっていう。
あっこゴリラ:いいですね。
田中:それはもう、ずっと馬鹿にされたり、攻撃され続けたからだと思います。そういう意味ではメチャクチャタフ。
あっこゴリラ:大ヒットしたけどすごく馬鹿にされたからというのもあるんだろうな。
田中:『Creep』も悪い曲じゃないけど「『Creep』=RADIOHEAD」って言われると本人たちはすごく嫌なわけですよ。でもそれで「『Creep』最高! 愛してます」って言われたら「ありがとう」って言うしかないっていう風に何十年もすごしてきたわけだから。
あっこゴリラ:そいうひねくれているところも込みで愛されてますよね。
田中:基本的に彼って世の中のシステムとか社会とか全部間違っていると思っている人だから。なおかつそれに加担している自分も最悪だし、世の中の大半の人もそれに加担して罪を犯していると思っているわけです。それを直接的に言うんじゃなくて、本音は言わずなんとなく伝える。本音を言っちゃったらみんな受け止められないから。だからこそ音楽をやっているところもすごくあるんです。
藤巻亮太がRADIOHEADから受けた影響
ここでは「我こそはRADIOHEAD被害者」という現役ミュージシャン、藤巻亮太が寄せたコメントを紹介した。藤巻:レミオロメンというバンド名はメンバー3人でジャンケンして好きな文字を1文字2文字3文字言い合ってくっつけた造語なんです。僕が勝って1文字目を選んだんですけど、「もうRADIOHEADしかないでしょう」ということで(笑)。RADIOHEADが好きすぎて、そこから「レ」という文字をもらったくらい影響を受けてます。
3ピースのレミオロメン結成した藤巻は、5人組であるRADIOHEADのアンサンブルへの憧れがあったという。
藤巻:コード進行のなかでもいろいろなアンサンブルがすばらしいんですが、特に『OK Computer』あたりは半音のギターフレーズがぶつかっていくようなところがたくさんあって、そこが見事に気持ちいいんですよね。普通だったら不協和音ぽくなってしまうような部分も、魅力になるぐらいのフレーズがあって。それで僕はけっこうぶつけたがりになったんです。まあ一番聴いたのは『OK Computer』かな?
『OK Computer』のあとに『Kid A』『Amnesiac』と続き、実験的な音楽になっていったと語る藤巻は、RADIOHEADが音楽的な世界観を深めながらも「ある一定のポップ感を失わないところ」が、自分たちの心を離さないポイントなのだと語った。
藤巻:日本も島国、イギリスも島国で、閉鎖的な部分もあるのかもしれませんけど、マインド的にも共感できるところが多くて。溶けていく、滲んでいくようなアメリカンロックみたいじゃない悲哀の部分も、日本人の心にかなり響くんじゃないかと。RADIOHEADのオルタナティブロックの突き抜けた感じというのは、歴史を変えたんじゃないかと思っております。
RADIOHEADがいま伝えたいこと
音楽的にも進化を続けるRADIOHEADはいま、そしてこれからどのようなことを伝えようとしているのだろうか。田中は推察を交えながら解説した。田中:ちょうどここ数週間で世界中の人がウクライナの情勢を見ているわけじゃないですか。これまでのRADIOHEADってずっと「こんな世の中おかしくなっちゃうよ、戦争起こるよ」みたいなことを表現してきた人なので、「いま、なにを考えているんだろう?」と思ってTwitterとかInstagramを見ていたんです。そうしたらティーポット作ってました。しかも大きな企業じゃなくて個人で作っている人たちに作ってもらったティーポットとティーカップを売ってました。
あっこゴリラ:めっちゃステキじゃないですか。
田中:いまはみんな感情的になっちゃうじゃないですか。こうやって実際にウクライナの市民が本当に命を奪われている状況だから、怒ったり悲しんだり苦しんだりしちゃうと思う。だけど僕らは直接的に死の恐怖には直面していないわけですよね。本当かウソかわからないような情報があふれていて、ちょっとおかしくなっちゃうじゃないですか。そのときに一番大切なのは、自分たちには大切な家族とか恋人がいて、一緒にお茶を飲んだりしてほっこりする時間があること。
あっこゴリラ:それだね。
田中:そこでもう1回冷静になってみようよ。それで明日やれることをやることも大切なんじゃないの?って言うメッセージを勝手に読み取りました。
J-WAVE『SONAR MUSIC』は月~木の22:00-24:00にオンエア。
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2022年4月4日28時59分まで
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