チクリと胸を刺すのは、懐かしく切ない痛み。池松壮亮×松居大悟×クリープハイプの黄金タッグに、令和最高の演技派女優・伊藤沙莉が初加入。映画『ちょっと思い出しただけ』(2月11日公開)が誕生した。ダンサーの夢を諦めた照生(池松)と、その恋人だったタクシー運転手の葉(伊藤)。不器用な二人の“別れと出会い”の6年間を、ふと思い出すように綴っていくラブストーリーだ。
今回は伊藤と、J-WAVE『JUMP OVER』のナビゲーターを務める松居監督に単独インタビューを実施。お互いの初めての出会いの場や、駆け抜けたコロナ禍での撮影の日々を“ちょっと思い出し”てもらった。
松居:伊藤さんとは、J-WAVEで番組を持つ俳優の稲葉友くんにゆかりの深い二人として呼ばれて初めてお会いしました。それまでテレビドラマや映画で観てきた方ですし、どのような人柄なのだろうかとは思いましたが、稲葉くんと仲がいいのならばきっといい奴だろうと思っていました。初対面なのに事前打ち合わせもなく、ブース内で初めて会って喋るという状況には驚きましたが……。
伊藤:私も覚えています! 初対面なのに放送中の時間一杯喋らなければならないという(笑)。でもそこはさすが松居監督、ご自身でラジオ番組(J-WAVEの『JUMP OVER』)をやられていることもあり、進行がお上手。とても喋りやすかったです。
松居:そういえばこの作品がスタートするきっかけも、『JUMP OVER』でした。ゲストの尾崎世界観さんと「何か面白いことをやりたいね」と話したりして。
【関連記事】尾崎世界観×松居大悟が映画『ちょっと思い出しただけ』の制作経緯を語る
松居:反射神経も良ければ、こちらの意見もすぐに取り込んでくれる。葉としての6年間をしっかりと生きてくれました。2週間半というタイトなスケジュールの中で、時間が行ったり来たりする複雑な撮影ではありましたが、伊藤さんは葉として喜怒哀楽を越えるような感覚を出し切ってくれて。完成作を観ながら「あらかじめ計算して芝居をしているとしたら、凄まじいことだぞ!」と驚かされました。
──伊藤さんは主演・池松壮亮、監督・松居大悟、音楽・クリープハイプのゴールデンタッグ作への出演を熱望していたそうですね。実際にその中に入られていかがでしたか?
伊藤:嬉しい反面、憧れが強すぎて、それが無駄な緊張にも繋がったところがあります。新参者、転校生という意識を持ち込んでしまい、人見知りを発動。最初はその場の雰囲気にマッチしている感覚を得ることが難しかったです。この作品においてはマジで不要なことばかりを持ち込んでしまったと、今では反省しています(笑)。
松居:しかも初日が後半のBARのシーンという…。
伊藤:松居監督も悪いんです! 初日は葉というキャラクターが掴み切れていないので探り探りやっていて、松居監督に「どうでしたか?」と聞いたら、即答で「わからない」と。まさかの返答に「えー!」。松居監督は「自分としてはどうだった?」と逆質問してくるから、キーッ!となった私も「わからない」と(笑)。J-WAVEでのあの楽しかった対談の松居監督はどこに行ってしまったのか!?と思いました。
松居:いやいや(笑)。僕としては意地悪ではなくて、本当にわからなかったので素直な気持ちを伝えました。監督だからといって取り繕うことは僕にはできないし、取り繕った結果上手くいかなくなることもあります。監督となると全責任を負ったり、決定しないと周りが動けないと言われたりしますが、僕はわからなかったらわからないと言うようにしています。そうすることでキャスト・スタッフ各々が意見を持ってやってくれて、それを集めてみんなで作品を作り上げていく方が好きで。監督が「こうだ!」と一方的に決めつけて命令通りに動いていく現場の方が僕は怖いです。
伊藤:私自身運転が好きですし、タクシーも牽引で動かしていただいていたので、流れる外の景色を自然に目で追えたりして、ナチュラルな反応を出すことが出来ました。もし景色をCGで処理するようなスタジオ撮影だったら、しんどかったかもしれません。乗客を演じる方々は、いい球を投げ返してくださる人ばかり。しかも高岡早紀さんとはデビュー以来の再共演で、何年ぶりかの対面がこの作品で、この設定で、このシチュエーションで、というのは私的には心にグッと来るくらい感慨深いです。車中シーンはすべてが見どころだと声を大にして言いたいくらいです。すべてのシーンに意味がありますから。
──聞くところによると、伊藤さんは“ある動作”について松居監督からの洗礼を受けたとか……?
伊藤:葉がミンティアを食べる動きについてです。ミンティアについて松居監督は一家言を持っているようで、何度もNGになりました。
松居:ドンキ前のカップルがマスク越しでキスをする場面を車中から目撃した葉が、おもむろにミンティアを一粒口に含むシーンです。葉はタクシー運転手という仕事柄、エチケットには気を遣っていて、ミンティアを常備しています。ある意味でミンティアのプロです。ならばノールックでシャッとやってすぐに一粒取り出して食べることができるはず。でも伊藤さんはミンティアのプロではないので、何度もケースをシャカシャカ。一粒がなかなか出ない!
──あ、松居さんの手元には3箱ものミンティアが……。
伊藤:気づきましたか? この松居監督こそ、ミンティアのプロ! ミンティアに対してはプライドが高いんです。葉がミンティアを口に含む場面では、数え切れないほどNGの連発でした。
──でも“神は細部に宿る”とも言いますからね!
松居:たしかに細部にこだわる演出は多かったと思います。
──ワンカットの車中のシーンは伊藤さんと乗客の皆さんのお芝居が素晴らしく、躍動感がありました。
松居:実際のタクシーを使用したので、撮影中、僕らスタッフはそのタクシーに乗ることはできません。でもイヤホンから車中の音は聞こえてくるので、牽引セッティングをして俳優さんを乗せて、撮影のスタート地点に行くまでの間の会話も聞こえてきます。いざ本番になると劇として芝居が始まるわけですが、オフとオンがシームレスになっているような感覚があって。それがあまりにもナチュラルで面白かったです。
松居:作品によって聴く曲は違いますね。『ちょっと思い出しただけ』ではクリープハイプを聴いたし、『バイプレイヤーズ』では10-FEETや竹原ピストルさんの楽曲を聴きました。その作品に関わりのあるアーティストの曲を聴きますが、一曲をずっとリピートするときもあるし、そのアーティストのアルバム一枚をリピートということもあります。普段の気持ちを上げる一曲はエレファントカシマシの『俺たちの明日』です。
伊藤:私も役柄によって聴く曲は異なりますが、その役柄の主題歌として聴くことが多いです。私個人としては、SEKAI NO OWARIさんの『TONIGHT』は節目、節目に聴きます。歌詞にある「自分はなんにもできないと思っていた でもそれはなんでもできるって事」という言葉に、私の仕事のあり方を重ねています。私自身、周りの人たちのお陰でここまで来られたと思っているので。20歳くらいの頃に出会ってから、定期的に聴く大切な一曲です。
映画『ちょっと思い出しただけ』公式サイトはこちら。
(取材、撮影:石井隼人)
映画『ちょっと思い出しただけ』90秒予告【2022年2月11日(金・祝)】公開
初対面はラジオのブースだった!?
──2019年にJ-WAVEで生放送された番組での対談が、お二人の初対面の場だったんですよね?松居:伊藤さんとは、J-WAVEで番組を持つ俳優の稲葉友くんにゆかりの深い二人として呼ばれて初めてお会いしました。それまでテレビドラマや映画で観てきた方ですし、どのような人柄なのだろうかとは思いましたが、稲葉くんと仲がいいのならばきっといい奴だろうと思っていました。初対面なのに事前打ち合わせもなく、ブース内で初めて会って喋るという状況には驚きましたが……。
伊藤と松居が2019年5月、J-WAVEで演劇について語り合った際の写真(「J-WAVE SPECIAL PROGRAM」公式Twitterより)
松居:そういえばこの作品がスタートするきっかけも、『JUMP OVER』でした。ゲストの尾崎世界観さんと「何か面白いことをやりたいね」と話したりして。
【関連記事】尾崎世界観×松居大悟が映画『ちょっと思い出しただけ』の制作経緯を語る
J-WAVE『JUMP OVER』公式Twitterアカウントはこちら。毎週水曜深夜2時からオンエア。
伊藤沙莉の芝居で「凄まじい」と感じた部分
──今回の作品で対俳優として伊藤さんと接してみて、いかがでしたか?松居:反射神経も良ければ、こちらの意見もすぐに取り込んでくれる。葉としての6年間をしっかりと生きてくれました。2週間半というタイトなスケジュールの中で、時間が行ったり来たりする複雑な撮影ではありましたが、伊藤さんは葉として喜怒哀楽を越えるような感覚を出し切ってくれて。完成作を観ながら「あらかじめ計算して芝居をしているとしたら、凄まじいことだぞ!」と驚かされました。
──伊藤さんは主演・池松壮亮、監督・松居大悟、音楽・クリープハイプのゴールデンタッグ作への出演を熱望していたそうですね。実際にその中に入られていかがでしたか?
伊藤:嬉しい反面、憧れが強すぎて、それが無駄な緊張にも繋がったところがあります。新参者、転校生という意識を持ち込んでしまい、人見知りを発動。最初はその場の雰囲気にマッチしている感覚を得ることが難しかったです。この作品においてはマジで不要なことばかりを持ち込んでしまったと、今では反省しています(笑)。
松居:しかも初日が後半のBARのシーンという…。
伊藤:松居監督も悪いんです! 初日は葉というキャラクターが掴み切れていないので探り探りやっていて、松居監督に「どうでしたか?」と聞いたら、即答で「わからない」と。まさかの返答に「えー!」。松居監督は「自分としてはどうだった?」と逆質問してくるから、キーッ!となった私も「わからない」と(笑)。J-WAVEでのあの楽しかった対談の松居監督はどこに行ってしまったのか!?と思いました。
松居:いやいや(笑)。僕としては意地悪ではなくて、本当にわからなかったので素直な気持ちを伝えました。監督だからといって取り繕うことは僕にはできないし、取り繕った結果上手くいかなくなることもあります。監督となると全責任を負ったり、決定しないと周りが動けないと言われたりしますが、僕はわからなかったらわからないと言うようにしています。そうすることでキャスト・スタッフ各々が意見を持ってやってくれて、それを集めてみんなで作品を作り上げていく方が好きで。監督が「こうだ!」と一方的に決めつけて命令通りに動いていく現場の方が僕は怖いです。
松居大悟監督がこだわった“プロ”の仕草
──映画には実際のタクシーを使用した車中のシーンが出てきます。演じられてみていかがでしたか? 安斉かれんさん、高岡早紀さん、渋川清彦さん、尾崎世界観さんら豪華面々が乗客を演じられていますね。伊藤:私自身運転が好きですし、タクシーも牽引で動かしていただいていたので、流れる外の景色を自然に目で追えたりして、ナチュラルな反応を出すことが出来ました。もし景色をCGで処理するようなスタジオ撮影だったら、しんどかったかもしれません。乗客を演じる方々は、いい球を投げ返してくださる人ばかり。しかも高岡早紀さんとはデビュー以来の再共演で、何年ぶりかの対面がこの作品で、この設定で、このシチュエーションで、というのは私的には心にグッと来るくらい感慨深いです。車中シーンはすべてが見どころだと声を大にして言いたいくらいです。すべてのシーンに意味がありますから。
──聞くところによると、伊藤さんは“ある動作”について松居監督からの洗礼を受けたとか……?
伊藤:葉がミンティアを食べる動きについてです。ミンティアについて松居監督は一家言を持っているようで、何度もNGになりました。
なんとか引っ越し準備しなきゃと、食べ終わったミンティアを整理したら一晩かかった。どこを目指してるんだろう。(アマゾンの空箱に5列2段ぴったり入る!) pic.twitter.com/NSvg8jRJYd
— 松居大悟 (@daradaradayo) March 16, 2019
松居:ドンキ前のカップルがマスク越しでキスをする場面を車中から目撃した葉が、おもむろにミンティアを一粒口に含むシーンです。葉はタクシー運転手という仕事柄、エチケットには気を遣っていて、ミンティアを常備しています。ある意味でミンティアのプロです。ならばノールックでシャッとやってすぐに一粒取り出して食べることができるはず。でも伊藤さんはミンティアのプロではないので、何度もケースをシャカシャカ。一粒がなかなか出ない!
──あ、松居さんの手元には3箱ものミンティアが……。
伊藤:気づきましたか? この松居監督こそ、ミンティアのプロ! ミンティアに対してはプライドが高いんです。葉がミンティアを口に含む場面では、数え切れないほどNGの連発でした。
──でも“神は細部に宿る”とも言いますからね!
松居:たしかに細部にこだわる演出は多かったと思います。
──ワンカットの車中のシーンは伊藤さんと乗客の皆さんのお芝居が素晴らしく、躍動感がありました。
松居:実際のタクシーを使用したので、撮影中、僕らスタッフはそのタクシーに乗ることはできません。でもイヤホンから車中の音は聞こえてくるので、牽引セッティングをして俳優さんを乗せて、撮影のスタート地点に行くまでの間の会話も聞こえてきます。いざ本番になると劇として芝居が始まるわけですが、オフとオンがシームレスになっているような感覚があって。それがあまりにもナチュラルで面白かったです。
伊藤&松居の「勝負曲」は?
──お二人は音楽に縁が深いと思います。最後に、それぞれの勝負曲を教えてください! 松居監督であれば、ストーリーのアイデアを練るときでもかまいませんし、伊藤さんであれば、撮影前に聴く曲でもかまいません。松居:作品によって聴く曲は違いますね。『ちょっと思い出しただけ』ではクリープハイプを聴いたし、『バイプレイヤーズ』では10-FEETや竹原ピストルさんの楽曲を聴きました。その作品に関わりのあるアーティストの曲を聴きますが、一曲をずっとリピートするときもあるし、そのアーティストのアルバム一枚をリピートということもあります。普段の気持ちを上げる一曲はエレファントカシマシの『俺たちの明日』です。
クリープハイプ - 「ナイトオンザプラネット」
エレファントカシマシ『俺たちの明日』
SEKAI NO OWARI『TONIGHT』
(取材、撮影:石井隼人)