ドイツの巨匠、ヴィム・ヴェンダース監督の映画『PERFECT DAYS』が、12月22日から公開されている。共同脚本とプロデュースを手がけたクリエイティブディレクターの高崎卓馬と、キャストに名を連ねる映画監督・松居大悟が、J-WAVEで対談した。
高崎が登場したのは、2023年12月20日(水)に放送されたJ-WAVEの番組『RICOH JUMP OVER』(ナビゲーター:松居大悟)。その内容をテキストで紹介する。
松居:僕はとにかく感動しきりだったというか、自分の知らない東京を観た感じがすごくありました。東京で生活していると、近すぎて「愛おしいな」と思わない部分、例えば川の上の橋を歩くとか、高速道路のような当たり前の光景から、東京が好きなヴェンダースが見つめる「東京の愛おしさ」を感じて。
高崎:アングルって、同じカメラで同じレンズで、同じ時間帯で同じ場所を撮ってるわけじゃない? でも、そんなに違う?
松居:そうなんです。でも、全然違うんです。その瞬間もそうかもしれないし、物語の中でのあのシーンがあるっていうこととかは。
高崎:グレーディング(※写真や映像の色彩補正)、つまり色とかも全部ベルリンで作ってるので、そういうのもあるかもしれないね。だから、ちょっとノスタルジックで。
松居:音楽ももちろんそうですし、基本的にアパートから始まって1日を見つめ続けるっていう中でやっているから、東京をあらためて愛せるのではと思います。
高崎:横にいて「こっちにあれがある」「ここは使える」「ここは使えない」とずっと関わり続けていると、助監督みたいな感じでずっと同期しているというか。
松居:考えてることとかも。
高崎:右腕と左腕をやってますって感じでずっと一緒にいたので、そうするとヴェンダースというアプリが自分の中に入ったみたいな感じがして(笑)。
高崎は「街の見方がちょっと変わる感じ」と表現する。
高崎:大きく言うと、木とかにすごく関心がいくようになって。街の中に生えてる木をすごく見るようになってましたね。めちゃくちゃ風景が変わって見えて、気づかないものに気づくというか。特段、美しいものを見つけてるっていうことでもない。構図がきれいとかじゃなくて、どちらかというとここにしかないものとかを見つけるのがすごく得意で。
松居:へえ。
高崎:これは面白いっていうのが、僕らはいつも見てる場所なのにって思う場所だったりとか。僕がすごくかわいいアパートだって思ってる場所を見せても、そんな奇妙なものはいらないって拒絶したりして。普通の場所をどう見るかみたいなのは、ずっと一緒にいると同期していくっていうか。
松居:一緒に歩いてて「あそこにスカイツリーありますよ」とか言っても、スカイツリーよりも、その脇の雑草がどうとか。
高崎:そうそう。川の橋のたもとにブルーのテントがあって、そこをびっくりするくらいゆっくりジョギングしてるおじいちゃんとかいると、それをずっとiPhoneで撮ってたりとか。みんながきれいと思うものとか、そういうものに反応する感じは全然なくて。何に反応するか、最初はわからなかったんだけど。
松居:すごい感覚的なものだったり。
高崎:感覚的なものと、それは主人公の男が世界をどう見るかって考えて見てるから、そういう見方をきっとしてるんだなって。
松居:ヴェンダースは高崎さんとどういう打ち合わせをして台本制作していったんですか?
高崎:もともと短編を作ろうっていう話から始まって。トイレを舞台にして、清掃員を主人公にした物語で、清掃員は役所広司さんっていうのは決めてて。役所広司さんが清掃する4つのトイレを舞台にした短編を作ろうってことを決めてたんですよ。
松居:なるほど。
高崎:どのトイレにするかとかは決めてなくて、ヴェンダース先生に自分の考えたエピソードを見せられるって最高だし、すごいチャンスだから短編だとはいえ、めちゃくちゃ考えたんですよ。60くらいエピソードを作って。それをぶわっと見せて、そしたらその中から20個くらい「このへん、面白い」ってキャッキャ言いながら選んで、「これは短編じゃ済まない」って言い出して「これは映画にしよう」と。
松居:じゃあ、高崎さんは枝葉を書いて、ヴェンダースが幹を作ったみたいな。
高崎:そう。役所さんが演じた平山っていう男の毎日があって、(高崎)卓馬が作ったこのエピソードを月曜から日曜まで1週間に並べ替えそうって言い出して。「彼の月曜があります。何が起きる?」「このエピソードにしよう」、「水曜日はどうしてもないな。ここは考えよう」とかやって、ばっと並べて。並べていくのにも3日くらい朝から晩まで考えてたんだけど、並べてたときに、ここの月曜があるから木曜日はこうなったんだなっていうのが2人がめちゃくちゃ納得する瞬間があって、それを「アーチがかかる」って言ってて。こういう関連性が生まれるのがいちばん楽しいんだって言ってて。
高崎はヴェンダースとの制作過程で、ある疑問を抱いたという。
高崎:「でも、このやり方で書いてると関連性はあるけど伏線はできないですよね?」って言ったら、ヴェンダースが「サブプロットとか考えちゃダメだ」ってすごく言って。
松居:ほう。
高崎:サブプロットなんて世界にないぞ。そんなものを作るから作為が生まれる。物語というのは本来、映像の中に感じさせちゃいけないものだと。そのことを「ゾウ」って彼は言うんです。映画の中にゾウがいるって。
松居:動物のゾウ?
高崎:そう。映画の中にデッカい邪魔なものがいて、みんなそれに気づかないふりをして、それをありがたいとか言っちゃってるけど、物語というのは誰かの作為だから世界じゃないって。「映画って、本当は物語を追うことじゃないんだ」って言ってて。物語をびっくりするほど排除しようとする。
松居:へえ。
高崎:写真とか絵画とかに近い映画というか。何回も観れるとか、ストーリーを追うとか起承転結とか伏線回収とか、そういうものはNOっていう人で、それはびっくりでした。だからこそ本当にいる人が切り取られている気がするとか。
松居:そこに生きてる感じとかするっていう。
高崎:一応、2週間を描いても、2週間以外の350日とかがある感じというか。
松居:描かれていない時間も想像できる。
高崎:描かれてないことが描かれてるっていう状態がいちばんいいっていう。たぶんそういうスタイルだから。
高崎:ほとんどテストなしで全部まわしてて。カメラマンはドイツ人なんですけど、狭い部屋で撮ってるからカメラがこれ以上は下がれなくて、人物が前にいて表情が撮れないとかってあるじゃない。そういうのがあったときに、カメラマンがもうちょっと顔が見たいなって思ってると、役所さんがスってそうするんだって。
松居:指示されずにってことですよね。
高崎:「なんで役所広司は自分が撮りたい面がわかるんだ?」っていつも言ってた。
松居:へえ。
高崎:「なんなんだ、あの人は?」って。
松居:すごいな。僕は下北沢のレコード屋で役所さんと柄本時生くんと共演して、ヴェンダースもいてっていうときに、僕はすごい緊張していて。
高崎:名演技ですよ。
松居:いやいや(笑)。緊張したけど、とにかく「パーフェクト!」とか言ってくれて、「でも、もう1回だ」とかいう感じの、すごい演じている自分たちも気持ちよくなるような。
高崎:現場をすごく楽しくする人ですよね。わりと盛り上げていって。
松居:何より現場を楽しんでるんだなって。
高崎:映画を作ることをすごく楽しんでるから、伝染するよね。
松居:しますね。で、あのシーンって現場が狭かったんで、ヴェンダースが指示して、そのまま引きのシーンで、ヴェンダースがお客さん役で映ってるんですよね。
高崎:レコード屋にいる外国人はヴェンダースなんですよね。
最後に、高崎は「この映画は3回観たほうがいい」とおすすめしつつ、その理由を語った。
高崎:意外と淡々としている、何も起きない映画なんですけど、起承転結があってドラマドラマしてるわけではないけど、自分の体調とかによって見方も変わるし、役所さんの表情から受け取るものが日によって違うから。
松居:そうですよね。
高崎:写真とか絵を観るのと似てるっていうか、そういう感じの映画だなって思うので。
松居:だし、生きてる世界が愛おしくなるっていうのも本当に。何気なく歩いてるサラリーマンとか掃除の人とか。
高崎:大切に思える。
松居:そう、大切に思えるし、毎日を大事に生きようってすごく思います。
松居大悟の『RICOH JUMP OVER』は、J-WAVEで毎週水曜26:00-27:00にオンエア。高崎は、毎週金曜25時から放送中の『BITS & BOBS TOKYO』でナビゲーターを担当している。
高崎が登場したのは、2023年12月20日(水)に放送されたJ-WAVEの番組『RICOH JUMP OVER』(ナビゲーター:松居大悟)。その内容をテキストで紹介する。
東京が愛おしく見えてくる
役所広司主演映画『PERFECT DAYS』は、第96回アカデミー賞の国際長編映画賞のショートリストに選ばれたことでも話題になっている。映画『PERFECT DAYS』あらすじ
東京・渋谷でトイレ清掃員として働く平山(役所広司)は、静かに淡々とした日々を生きていた。同じ時間に目覚め、同じように支度をし、同じように働いた。その毎日は同じことの繰り返しに見えるかもしれないが、同じ日は1日としてなく、男は毎日を新しい日として生きていた。その生き方は美しくすらあった。男は木々を愛していた。木々がつくる木漏れ日に目を細めた。そんな男の日々に思いがけない出来事がおきる。それが男の過去を小さく揺らした。
(映画『PERFECT DAYS』公式サイトより)
松居:僕はとにかく感動しきりだったというか、自分の知らない東京を観た感じがすごくありました。東京で生活していると、近すぎて「愛おしいな」と思わない部分、例えば川の上の橋を歩くとか、高速道路のような当たり前の光景から、東京が好きなヴェンダースが見つめる「東京の愛おしさ」を感じて。
高崎:アングルって、同じカメラで同じレンズで、同じ時間帯で同じ場所を撮ってるわけじゃない? でも、そんなに違う?
松居:そうなんです。でも、全然違うんです。その瞬間もそうかもしれないし、物語の中でのあのシーンがあるっていうこととかは。
高崎:グレーディング(※写真や映像の色彩補正)、つまり色とかも全部ベルリンで作ってるので、そういうのもあるかもしれないね。だから、ちょっとノスタルジックで。
松居:音楽ももちろんそうですし、基本的にアパートから始まって1日を見つめ続けるっていう中でやっているから、東京をあらためて愛せるのではと思います。
「風景の見え方が変わった」その理由は
高崎はシナリオを作る段階から、撮影・編集も「ずっと一緒」だったという。その結果、どんな学びを得たのか。高崎:横にいて「こっちにあれがある」「ここは使える」「ここは使えない」とずっと関わり続けていると、助監督みたいな感じでずっと同期しているというか。
松居:考えてることとかも。
高崎:右腕と左腕をやってますって感じでずっと一緒にいたので、そうするとヴェンダースというアプリが自分の中に入ったみたいな感じがして(笑)。
高崎は「街の見方がちょっと変わる感じ」と表現する。
高崎:大きく言うと、木とかにすごく関心がいくようになって。街の中に生えてる木をすごく見るようになってましたね。めちゃくちゃ風景が変わって見えて、気づかないものに気づくというか。特段、美しいものを見つけてるっていうことでもない。構図がきれいとかじゃなくて、どちらかというとここにしかないものとかを見つけるのがすごく得意で。
松居:へえ。
高崎:これは面白いっていうのが、僕らはいつも見てる場所なのにって思う場所だったりとか。僕がすごくかわいいアパートだって思ってる場所を見せても、そんな奇妙なものはいらないって拒絶したりして。普通の場所をどう見るかみたいなのは、ずっと一緒にいると同期していくっていうか。
松居:一緒に歩いてて「あそこにスカイツリーありますよ」とか言っても、スカイツリーよりも、その脇の雑草がどうとか。
高崎:そうそう。川の橋のたもとにブルーのテントがあって、そこをびっくりするくらいゆっくりジョギングしてるおじいちゃんとかいると、それをずっとiPhoneで撮ってたりとか。みんながきれいと思うものとか、そういうものに反応する感じは全然なくて。何に反応するか、最初はわからなかったんだけど。
松居:すごい感覚的なものだったり。
高崎:感覚的なものと、それは主人公の男が世界をどう見るかって考えて見てるから、そういう見方をきっとしてるんだなって。
「映画って、本当は物語を追うことじゃないんだ」
映画『PERFECT DAYS』では共同脚本で名を連ねる高崎。松居はその制作過程に迫った。松居:ヴェンダースは高崎さんとどういう打ち合わせをして台本制作していったんですか?
高崎:もともと短編を作ろうっていう話から始まって。トイレを舞台にして、清掃員を主人公にした物語で、清掃員は役所広司さんっていうのは決めてて。役所広司さんが清掃する4つのトイレを舞台にした短編を作ろうってことを決めてたんですよ。
松居:なるほど。
高崎:どのトイレにするかとかは決めてなくて、ヴェンダース先生に自分の考えたエピソードを見せられるって最高だし、すごいチャンスだから短編だとはいえ、めちゃくちゃ考えたんですよ。60くらいエピソードを作って。それをぶわっと見せて、そしたらその中から20個くらい「このへん、面白い」ってキャッキャ言いながら選んで、「これは短編じゃ済まない」って言い出して「これは映画にしよう」と。
松居:じゃあ、高崎さんは枝葉を書いて、ヴェンダースが幹を作ったみたいな。
高崎:そう。役所さんが演じた平山っていう男の毎日があって、(高崎)卓馬が作ったこのエピソードを月曜から日曜まで1週間に並べ替えそうって言い出して。「彼の月曜があります。何が起きる?」「このエピソードにしよう」、「水曜日はどうしてもないな。ここは考えよう」とかやって、ばっと並べて。並べていくのにも3日くらい朝から晩まで考えてたんだけど、並べてたときに、ここの月曜があるから木曜日はこうなったんだなっていうのが2人がめちゃくちゃ納得する瞬間があって、それを「アーチがかかる」って言ってて。こういう関連性が生まれるのがいちばん楽しいんだって言ってて。
高崎はヴェンダースとの制作過程で、ある疑問を抱いたという。
高崎:「でも、このやり方で書いてると関連性はあるけど伏線はできないですよね?」って言ったら、ヴェンダースが「サブプロットとか考えちゃダメだ」ってすごく言って。
松居:ほう。
高崎:サブプロットなんて世界にないぞ。そんなものを作るから作為が生まれる。物語というのは本来、映像の中に感じさせちゃいけないものだと。そのことを「ゾウ」って彼は言うんです。映画の中にゾウがいるって。
松居:動物のゾウ?
高崎:そう。映画の中にデッカい邪魔なものがいて、みんなそれに気づかないふりをして、それをありがたいとか言っちゃってるけど、物語というのは誰かの作為だから世界じゃないって。「映画って、本当は物語を追うことじゃないんだ」って言ってて。物語をびっくりするほど排除しようとする。
松居:へえ。
高崎:写真とか絵画とかに近い映画というか。何回も観れるとか、ストーリーを追うとか起承転結とか伏線回収とか、そういうものはNOっていう人で、それはびっくりでした。だからこそ本当にいる人が切り取られている気がするとか。
松居:そこに生きてる感じとかするっていう。
高崎:一応、2週間を描いても、2週間以外の350日とかがある感じというか。
松居:描かれていない時間も想像できる。
高崎:描かれてないことが描かれてるっていう状態がいちばんいいっていう。たぶんそういうスタイルだから。
写真や絵を観ることに似ている映画
役所広司は『PERFECT DAYS』で、第76回カンヌ国際映画祭の最優秀男優賞を受賞。高崎は役所を「とんでもない人」と絶賛する。高崎:ほとんどテストなしで全部まわしてて。カメラマンはドイツ人なんですけど、狭い部屋で撮ってるからカメラがこれ以上は下がれなくて、人物が前にいて表情が撮れないとかってあるじゃない。そういうのがあったときに、カメラマンがもうちょっと顔が見たいなって思ってると、役所さんがスってそうするんだって。
松居:指示されずにってことですよね。
高崎:「なんで役所広司は自分が撮りたい面がわかるんだ?」っていつも言ってた。
松居:へえ。
高崎:「なんなんだ、あの人は?」って。
松居:すごいな。僕は下北沢のレコード屋で役所さんと柄本時生くんと共演して、ヴェンダースもいてっていうときに、僕はすごい緊張していて。
高崎:名演技ですよ。
松居:いやいや(笑)。緊張したけど、とにかく「パーフェクト!」とか言ってくれて、「でも、もう1回だ」とかいう感じの、すごい演じている自分たちも気持ちよくなるような。
高崎:現場をすごく楽しくする人ですよね。わりと盛り上げていって。
松居:何より現場を楽しんでるんだなって。
高崎:映画を作ることをすごく楽しんでるから、伝染するよね。
松居:しますね。で、あのシーンって現場が狭かったんで、ヴェンダースが指示して、そのまま引きのシーンで、ヴェンダースがお客さん役で映ってるんですよね。
高崎:レコード屋にいる外国人はヴェンダースなんですよね。
最後に、高崎は「この映画は3回観たほうがいい」とおすすめしつつ、その理由を語った。
高崎:意外と淡々としている、何も起きない映画なんですけど、起承転結があってドラマドラマしてるわけではないけど、自分の体調とかによって見方も変わるし、役所さんの表情から受け取るものが日によって違うから。
松居:そうですよね。
高崎:写真とか絵を観るのと似てるっていうか、そういう感じの映画だなって思うので。
松居:だし、生きてる世界が愛おしくなるっていうのも本当に。何気なく歩いてるサラリーマンとか掃除の人とか。
高崎:大切に思える。
松居:そう、大切に思えるし、毎日を大事に生きようってすごく思います。
松居大悟の『RICOH JUMP OVER』は、J-WAVEで毎週水曜26:00-27:00にオンエア。高崎は、毎週金曜25時から放送中の『BITS & BOBS TOKYO』でナビゲーターを担当している。
番組情報
- RICOH JUMP OVER
-
毎週水曜26:00-27:00