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タワレコ「NO MUSIC, NO LIFE.」25周年の歩みを振り返る。坂本慎太郎の心に響く言葉は…

タワレコ「NO MUSIC, NO LIFE.」25周年の歩みを振り返る。坂本慎太郎の心に響く言葉は…

クリエイティブディレクターの箭内道彦が、25年手掛けたTOWER RECORDSの広告「NO MUSIC, NO LIFE.」の思いや制作の裏側を語った。

箭内が登場したのはJ-WAVEで放送中の番組『SONAR MUSIC』(ナビゲーター:あっこゴリラ)。番組では、毎回ゲストを迎え、様々なテーマを掘り下げていく。ここでは12月8日(水)にオンエアした内容をテキストで紹介する。

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「No」がふたつ重なることで強い肯定になる

1996年から音楽そのものを応援することを目的に制作し続けているタワーレコードのポスター企画「NO MUSIC, NO LIFE.」。なんと今年で25周年を迎えた。これまで多くのアーティストが登場し、言葉をつづってきたこの企画のキャッチコピーはどのように誕生したのだろうか。

箭内は1964年福島県出身。東京藝術大学美術学部デザイン科を卒業。博報堂を経て「風とロック」設立。タワーレコード「NO MUSIC,NO LIFE.」キャンペーン、リクルートゼクシィ「Get Old with Me」、サントリー「ほろよい」、グリコ「ビスコ」などの広告のクリエイティブディレクターを手掛けてきた。

あっこゴリラ:そもそも箭内さんはどういう経緯で「NO MUSIC, NO LIFE.」に関わるようになったんですか?
箭内:この企画が始まる25年とちょっと前、僕と博報堂の先輩でコピーライターの木村 透さんとタワーレコードを担当していて、新しいお店がオープンするときのポスターを作っていたんです。そんなときに、タワーレコードの宣伝部長の坂本幸隆さんに呼ばれて「タワーレコードのコーポレートボイスをつくりたいんだ」というお話をもらいました。
あっこゴリラ:そこから何パターンか案を考えて「NO MUSIC, NO LIFE.」がいいとなったんですか?
箭内:そんなに「これだ!」ってことでもなかったんですけど、僕が「No pain, no gain」(虎穴に入らずんば虎子を得ず)って言葉が好きで。当時企業のスローガンってもっと分かりやすくて前向きなものが多かったのですが、「No」のような禁止する言葉ってフレーズとして強いんじゃないか、でも「No pain, no gain」であれば「No」がふたつ重なることで強い肯定になるだろうって木村さんと打ち合わせでして、そこに「MUSIC」と「LIFE」がバシッとハマっていったって感じでしたね。

従来の定義からすると広告らしくない

あっこゴリラは「NO MUSIC, NO LIFE.」は「広告なの!?」って思うほど私たちの生活に染み込んでいる言葉だと話し、箭内は「従来の定義からすると広告らしくないかもしれないけど、僕は本来の広告はこういうものが理想だなと思いながらやっている」とコメントした。

あっこゴリラ:「NO MUSIC, NO LIFE.」で箭内さんは実際にどんなことをやっているんですか?
箭内:ここではクリエイティブディレクターというよりアートディレクションを中心にしています。当初1年間は「NO MUSIC, NO LIFE.」という言葉のデビューに使って、2年目からミュージシャンともうひとりっていう組み合わせでいろんな人が登場して。最初はその組み合わせを考えたり、そのデザインをやったりしていました。その後、組み合わせじゃなくなってアーティストだけになって。そのアーティストもタワーレコードの坂本さんが連れてきてくれる人を「次は誰だろう」って僕らが心待ちにしてるって感じになっています。

現在のモノクロ写真と言葉の組み合わせは2006年から始まったそう。1997年から2006年までは全面カラー写真で、一回ごとに「NO MUSIC, NO LIFE.」のロゴのデザインを変えていたという。

あっこゴリラ:しかも2006年から「NO MUSIC, NO LIFE?」と最後に「?」が付いたシリーズもスタートしましたが、それはどういった経緯で生まれたんですか?
箭内:CD以外の音楽メディアも出てきたりしている中で、これから音楽と社会ってどんなつながり方をしていくんだろうってタワーレコードさん自身も問いかけたいという話をいただいて。坂本さんが音楽に関わる全ての人にこれを問いかけてみようということでピリオドからクエスチョンに変わりました。

THE HIGH-LOWS×立川談志の撮影秘話

番組では箭内が「NO MUSIC, NO LIFE.」で印象に残った撮影のひとつにTHE HIGH-LOWSと落語家の立川談志が登場した2002年の回をあげた。

あっこゴリラ:これすごい組み合わせですね。
箭内:この頃は組み合わせと言っても、こちらがその指定をするのではなくて、アーティストに「誰に会いたいですか?」って訊いて会いたい人に会ってたんですよ。さっき、あっこゴリラさんが言ったように広告らしくないというか、会いたい人に会えたという最高の表情が撮りたくて、それが音楽の素晴らしさや楽しさに繋がるっていうふうに思っていました。そこでTHE HIGH-LOWSに訊いたら、「談志師匠に会いたいです」ってリクエストがあって実現しました。
あっこゴリラ:これめっちゃいい写真ですよね。ここは浅草にある談志師匠が行きつけの洋食屋なんですね。
箭内:すごく味のある雰囲気のお店でしたね。当日は夕方みんなで集まって18時くらいに撮影が終わったんですけど、談志師匠の話が止まらなくなって。THE HIGH-LOWSはもともと19時には次の仕事にでなきゃいけなかったけど、談志師匠がものすごく尊い話をしてくださっているので、(甲本)ヒロトさんもマーシー(真島昌利)さんも何も言えなくて。たしか20時からJ-WAVEで生放送があったからスタッフがハラハラしてるんだけど、途中で失礼するとは言えずにJ-WAVEに遅刻したんじゃないかな。
あっこゴリラ:ええ!
箭内:でも、それも彼らの素敵な感じが出ていて。この後、ザ・クロマニヨンズで俳優の藤岡弘、さんとともに出た回もあったんですけど、そのときも同じようなことが起こりました。ヒロトさんの人のよさも含めて「NO MUSIC, NO LIFE.」なんですよね。

写真家・平間 至から見た「NO MUSIC, NO LIFE.」

番組では「NO MUSIC, NO LIFE.」のほとんどの写真を撮影している写真家・平間 至のコメントを紹介した。

まずは、「NO MUSIC, NO LIFE.」の撮影はどのように進んで行くのか語った。

平間:僕自身、写真の撮り方として即興性を大切にしているところがあって。箭内さんのディレクションの仕方も絵コンテをカッチリ描いたりするよりも、僕と被写体の間で起こっていることを大切にしていただいている感じです。ある程度は僕の中でイメージはできているんですけど、なるべく現場で起こったことを僕なりに拾って広げていったり、即興性を大事にしたいとすごく思っています。写真はよく偶然性という言葉で語られることが多いんですけど、僕は写真の即興性って言葉がすごく大事で自分にもすごく合っているなと思っています。

これまで「NO MUSIC, NO LIFE.」の関連書籍が2冊発売され、1冊目の帯には平間が「写真って音楽だろ」とつづった。この言葉はどんな意味を持つのか?

平間:自分の写真が音楽でありたいっていう願いを込めての言葉です。僕にとって音楽は全てのインプット。僕は音楽からいろんなことを学んで出力として写真にしているという感じなので、僕にとって音楽は全てを教えてくれるような存在です。

そんな平間にとって「NO MUSIC, NO LIFE.」が今ではどんな存在になっているのだろうか。

平間:このタワーレコードのシリーズは僕にとって「平間さんってどんな写真を撮ってるんですか?」って言われたときにいちばん説明しやすいシリーズであると共に、自分自身がまさに「NO MUSIC, NO LIFE.」なので、自分にとっても本当にぴったりな企画です。

「NO MUSIC, NO LIFE.」は続いていく

続いて、メッセージ性についての話題に。「NO MUSIC, NO LIFE.」は東日本大震災以降、オファーするアーティストにも変化があったという。

箭内:復興支援をしている方々が音楽を通して思いを語ったりすることもありますし、時代をどう見ているかをぜひこの人に訊いてみたいっていう人にタワーレコードの坂本さんがオファーしているような印象を受けます。
あっこゴリラ:これまでの「NO MUSIC, NO LIFE.」の広告を見ていると、全体に共通して時代を憂いていて、だけど「音楽でひっくり返せるんだ」とか「音楽があるから希望なんだ」とかそういうものを感じますね。
箭内:時代を憂いているんだけど、諦めてないし、それは決して否定ではないというかね。ここにどう立ち向かって行こうかっていう意思表明ですよね。
あっこゴリラ:音楽を信じていますよね。

箭内はこれまでの「NO MUSIC, NO LIFE.」で印象に残った言葉のひとつとして、坂本慎太郎の回を紹介した。
音楽は役に立たない。
役に立たないから素晴らしい。
役に立たないものが存在できない世界は恐ろしい。


(坂本慎太郎/「坂本慎太郎 NO MUSIC, NO LIFE.メイキングレポート」より)

あっこゴリラ:これは2011年11月の回ですけど、「今(の状況)じゃん」って思いますよね。
箭内:ちょうど10年前だけど、コロナで音楽が不要不急なのかどうなのかってことがあちこちで議論された今(の状況)なんですよね。坂本慎太郎さん、さすがです。
あっこゴリラ:しかも「音楽は文化として必要です」って言葉はすごく難しくて、「必要です」って言葉ってたぶん伝わらないんだろうなって感覚がすごくあるので、どう言ったらいいのかなって思うんです。そんなときに10年前のこの広告がSNSでまわってきて「うわ、マジこれ!」って思いましたね。
箭内:リリックのような言葉の研ぎ澄まされたセンスで。3行の中に「役に立たない」って3回出して、最後に「存在できない世界は恐ろしい」って言う。まさに「NO MUSIC, NO LIFE.」を日本語に訳したらどうなりますかっていうひとつの答えなんじゃないかなって思います。

最後に箭内は「『NO MUSIC, NO LIFE.』はこれからも続いていくし、人が生きていく限り音楽は絶対なくならないと思うので、新しい『NO MUSIC, NO LIFE.』も楽しみにしてほしい」とコメントした。タワーレコードのサイトでは、メイキングの連載ページもある。気になる人はチェックしてみては。

J-WAVE『SONAR MUSIC』は月曜~木曜の22:00-24:00にオンエア。

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番組情報
SONAR MUSIC
月・火・水・木曜
22:00-24:00