音楽プロデューサーの小林武史が、1996年に公開された映画『スワロウテイル』を機に生まれたYEN TOWN BANDについて、現在の想いを語った。
小林が登場したのはJ-WAVEで放送された『GOOD NEIGHBORS』(ナビゲーター:クリス智子)のワンコーナー「TALK TO NEIGHBORS」。オンエアは11月8日(月)。
【関連記事】小林武史が語る「時間をお金に変える社会」への不安。“循環”の重要性とは?
クリス:YEN TOWN BANDが今年結成して25周年ということで。小林さんのキャリアのなかでも少し特異なバンドだと思います。現実社会にポンと飛び出して曲もヒットしてという。そのへんの面白さもあったバンドです。このバンドは小林さんのキャリアのなかでどんな存在ですか?
小林:映画を公開してから25年後に活動するということはまったく想像はしてなかったけど、ただなんか想いを込めたというか、「もしかしたら架空のバンドだからできたんだろうな」という想いはあるんです。90年代の半ば、96年に作ったんですが、その当時はすでにコンピューターとかは存在しているんだけど、60年代70年代のようなオールアナログのレコーディングでやったんです。ノーコンピューターでレコーディングしたものなんですよ、ニューヨークでね。だからロック的な初期衝動というか、ちょっとザラザラしたようなカルチャーというかカウンター。(『スワロウテイル』に出てくる)円都(イェン・タウン)という場所自体が、お金の合理性といったこと社会が向かっていくのに、なかなか乗り切れない人とかはみ出しちゃうような人たちをテーマにしていたとも思うんです。このYEN TOWN BANDにサウンドとしても、そんなに合理的に急いでいくというよりは、もっと感情とかそういうことに正直に、というようなね。そういうテイストの音が25年経ったいまでも変わらず、色あせない感じになっているのが面白いと思いますね。
クリス:映画での円都は円が強くて、社会があるひとつの方向に向かっていきます。25年経ったわけなんですけれども、社会になんとなくついていけない気持ちはどこかにみんな持っているとは思うので、いまでもYEN TOWN BANDは響く感じはありますね。
小林:そう思いますね。いまそういうカウンター的な気持ちを持って生きている連中って、音楽やロックのなかにもいると思うけど、そういうスピリットを食とか農業の、そういうのをやっている連中にバトンもわたっているんです。だからクルックフィールズ自体がひとつの円都とは違うけど、なにか変わらないでそういうところからはみだしてしまうというか「賛成ばかりもしかねる」みたいな。経済合理性だけを追求していく生き方とは違う、命とちゃんと触れ合っていくというか。視点がダウン・トゥ・アースというか、視点が低い感じの生き方をしている連中とYEN TOWN BANDのサウンドは結びついていますよね。
クリス:あらためて25周年をお迎えになって、クルックフィールズでライブをやったのはいかがでしたか?
小林:そこで働いているスタッフが25年前の円都にいてもおかしくないような、そういう人がけっこういるんです。食とか農業の可能性というか命とのつながりみたいなので、扉を開けようとしているような人たちがいるから、本当にみんなYEN TOWN BANDがくるのを楽しみにしていたんです。どんどん食の準備とかいろいろなことをやりながら盛り上がっていったんですよね。本当に僕らがYEN TOWN BANDをずっとやっていくなかで「響き合う」というのがどんどん実感できるという感じですね。Charaもあそこまで自由にかつ、そういうときって自由にもなるし力強く、たくましくもなっていくので、いい時間に膨らんでいくのがわかるんですよね。まあ、日がどんどんと暮れていって……。
クリス:ライトアップがきれいだったけど、最後は真っ暗でしたもんね。歌のみならず映画音楽をインストというか楽器で、音楽がクルックフィールズに浸透していく感じというのは、映像で観ていてもすごく浸れるいい空気なんだなというのが見て取れました。もともとYEN TOWN BANDは25周年になにかしようという話があったんですか?
小林:本当は去年ぐらいからそういうような話が、岩井(俊二)くんと話しているなかでちらっとぐらいはあったんですけど、やっぱりコロナだしね。岩井監督は監督でYEN TOWN CLUBという映画のなかにも出てくるクラブを活かした形でできないかな? みたいなことで、ちょっと動きだしたりもしていて。だから今回のライブもそのYEN TOWN CLUBプレゼンツみたいなことで、一応そういう名前の付け方にはなっているんです。なんかそれぞれが勝手にちょっと思惑を(笑)。でもやっぱり祝うというか、25年の歳月をそれぞれが形にしていくみたいな感じにいまはなっているんだと思います。
クリス:今回映像はそれこそ監修を岩井さんがご担当でいらしたり、いろいろそのあとの対談も伺っていると、岩井さんと小林さんとCharaさんも、みなさんが「案外そこは25年前にいろいろ話し合っていたわけじゃないんだ」とか、いい距離感でそれぞれが考えて参加されていた部分もあったんだなとか、いろいろなことを思ったりもしました。
小林:あんまり計画的な感じにはこの3人は全然ならないんだけど(笑)。でもあのときに託し込んだ想いというが、それが三人三様の想いだったような気がするんです。このあいだも3人で1回、ネットで話す機会があったんです。混じり合ったというよりは多様なまま、いろいろとそこから広がっていっているという感じだったんだなと、振り返っても思いました。いい出会いって、わりとそういうところがあるんだなってあらためて思いましたね。
小林:やっぱり「響き合う」ことが面白いなと思うんです。YEN TOWN BANDのときもすごいテクニシャンが集まって演奏するような音楽じゃなくてね。さっきの『あいのうた』を聴いてもわかると思うんだけど、あれもニューヨークのスタジオで、普通にマネージャーとかサブマネージャーとか、ドラムもけっこういい味出してるからとか、そういう人たちに叩いてもらったりしていたんです。メジャーリーガーがみんな集まっているという感じじゃないんですけれど、なんかそういうなかで正直な会話というか音を通じての「いい感じだね、これ」みたいなことをただ探りにいくというような。
クリス:そういうところでホッとしているのかもしれないですね。聴いてそれがすぐにはわからないけど、なにかそういう音色で私たちがずっとそばに置いたり、聴いて「いいな」と思ったりするという。
小林:言葉にすると「利己」と「利他」というのがあってね。利他のセンス、感覚というところに行きついたところがあったんだけどYEN TOWN BANDをやっているときにも、偶然性とかそういうこともちゃんと入れながら「僕が、僕の音楽が」、みたいな主張じゃなくて、響き合うということ。いい演奏って自分でプレイすることと聴くということが両方同時に起こっていることだから、利他って別に全然特別なことでもないんだよな、という想いはありますね。だからクルックフィールズでも太陽光から微生物からいろいろなことの繋がりのなかでみんな生きてるけど生かされている、みたいな感じなんです。
J-WAVE『GOOD NEIGHBORS』のワンコーナー「TALK TO NEIGHBORS」は毎週月曜から木曜の14時10分ごろスタート。
小林が登場したのはJ-WAVEで放送された『GOOD NEIGHBORS』(ナビゲーター:クリス智子)のワンコーナー「TALK TO NEIGHBORS」。オンエアは11月8日(月)。
いまも色あせないYEN TOWN BAND
YEN TOWN BANDは1996年に公開された映画『スワロウテイル』の劇中に登場する架空のバンド。Charaが演じるグリコがボーカルで、小林もメンバーに名を連ねており、実際に楽曲もリリースされた。小林は現在人と農と食とアートが融合した総合施設「クルックフィールズ」の総合プロデュースも担当している。【関連記事】小林武史が語る「時間をお金に変える社会」への不安。“循環”の重要性とは?
クリス:YEN TOWN BANDが今年結成して25周年ということで。小林さんのキャリアのなかでも少し特異なバンドだと思います。現実社会にポンと飛び出して曲もヒットしてという。そのへんの面白さもあったバンドです。このバンドは小林さんのキャリアのなかでどんな存在ですか?
小林:映画を公開してから25年後に活動するということはまったく想像はしてなかったけど、ただなんか想いを込めたというか、「もしかしたら架空のバンドだからできたんだろうな」という想いはあるんです。90年代の半ば、96年に作ったんですが、その当時はすでにコンピューターとかは存在しているんだけど、60年代70年代のようなオールアナログのレコーディングでやったんです。ノーコンピューターでレコーディングしたものなんですよ、ニューヨークでね。だからロック的な初期衝動というか、ちょっとザラザラしたようなカルチャーというかカウンター。(『スワロウテイル』に出てくる)円都(イェン・タウン)という場所自体が、お金の合理性といったこと社会が向かっていくのに、なかなか乗り切れない人とかはみ出しちゃうような人たちをテーマにしていたとも思うんです。このYEN TOWN BANDにサウンドとしても、そんなに合理的に急いでいくというよりは、もっと感情とかそういうことに正直に、というようなね。そういうテイストの音が25年経ったいまでも変わらず、色あせない感じになっているのが面白いと思いますね。
クリス:映画での円都は円が強くて、社会があるひとつの方向に向かっていきます。25年経ったわけなんですけれども、社会になんとなくついていけない気持ちはどこかにみんな持っているとは思うので、いまでもYEN TOWN BANDは響く感じはありますね。
小林:そう思いますね。いまそういうカウンター的な気持ちを持って生きている連中って、音楽やロックのなかにもいると思うけど、そういうスピリットを食とか農業の、そういうのをやっている連中にバトンもわたっているんです。だからクルックフィールズ自体がひとつの円都とは違うけど、なにか変わらないでそういうところからはみだしてしまうというか「賛成ばかりもしかねる」みたいな。経済合理性だけを追求していく生き方とは違う、命とちゃんと触れ合っていくというか。視点がダウン・トゥ・アースというか、視点が低い感じの生き方をしている連中とYEN TOWN BANDのサウンドは結びついていますよね。
「響き合う」ことを実感した25周年のライブ
番組では『Swallowtail Butterfly ~あいのうた~』をオンエア。YEN TOWN BANDは11月6日(土)に1日かけてのライブ「YEN TOWN CLUB presents 映画『スワロウテイル』25th Anniversary YEN TOWN BAND SPECIAL LIVE in KURKKU FIELDS」でこの曲を披露した。クリス:あらためて25周年をお迎えになって、クルックフィールズでライブをやったのはいかがでしたか?
小林:そこで働いているスタッフが25年前の円都にいてもおかしくないような、そういう人がけっこういるんです。食とか農業の可能性というか命とのつながりみたいなので、扉を開けようとしているような人たちがいるから、本当にみんなYEN TOWN BANDがくるのを楽しみにしていたんです。どんどん食の準備とかいろいろなことをやりながら盛り上がっていったんですよね。本当に僕らがYEN TOWN BANDをずっとやっていくなかで「響き合う」というのがどんどん実感できるという感じですね。Charaもあそこまで自由にかつ、そういうときって自由にもなるし力強く、たくましくもなっていくので、いい時間に膨らんでいくのがわかるんですよね。まあ、日がどんどんと暮れていって……。
クリス:ライトアップがきれいだったけど、最後は真っ暗でしたもんね。歌のみならず映画音楽をインストというか楽器で、音楽がクルックフィールズに浸透していく感じというのは、映像で観ていてもすごく浸れるいい空気なんだなというのが見て取れました。もともとYEN TOWN BANDは25周年になにかしようという話があったんですか?
小林:本当は去年ぐらいからそういうような話が、岩井(俊二)くんと話しているなかでちらっとぐらいはあったんですけど、やっぱりコロナだしね。岩井監督は監督でYEN TOWN CLUBという映画のなかにも出てくるクラブを活かした形でできないかな? みたいなことで、ちょっと動きだしたりもしていて。だから今回のライブもそのYEN TOWN CLUBプレゼンツみたいなことで、一応そういう名前の付け方にはなっているんです。なんかそれぞれが勝手にちょっと思惑を(笑)。でもやっぱり祝うというか、25年の歳月をそれぞれが形にしていくみたいな感じにいまはなっているんだと思います。
クリス:今回映像はそれこそ監修を岩井さんがご担当でいらしたり、いろいろそのあとの対談も伺っていると、岩井さんと小林さんとCharaさんも、みなさんが「案外そこは25年前にいろいろ話し合っていたわけじゃないんだ」とか、いい距離感でそれぞれが考えて参加されていた部分もあったんだなとか、いろいろなことを思ったりもしました。
小林:あんまり計画的な感じにはこの3人は全然ならないんだけど(笑)。でもあのときに託し込んだ想いというが、それが三人三様の想いだったような気がするんです。このあいだも3人で1回、ネットで話す機会があったんです。混じり合ったというよりは多様なまま、いろいろとそこから広がっていっているという感じだったんだなと、振り返っても思いました。いい出会いって、わりとそういうところがあるんだなってあらためて思いましたね。
「利他のセンス」で行きついた音楽
グランドオープンを2022年に控えたクルックフィールズ。小林は同施設とYEN TOWN BANDとの共通点について語った。小林:やっぱり「響き合う」ことが面白いなと思うんです。YEN TOWN BANDのときもすごいテクニシャンが集まって演奏するような音楽じゃなくてね。さっきの『あいのうた』を聴いてもわかると思うんだけど、あれもニューヨークのスタジオで、普通にマネージャーとかサブマネージャーとか、ドラムもけっこういい味出してるからとか、そういう人たちに叩いてもらったりしていたんです。メジャーリーガーがみんな集まっているという感じじゃないんですけれど、なんかそういうなかで正直な会話というか音を通じての「いい感じだね、これ」みたいなことをただ探りにいくというような。
クリス:そういうところでホッとしているのかもしれないですね。聴いてそれがすぐにはわからないけど、なにかそういう音色で私たちがずっとそばに置いたり、聴いて「いいな」と思ったりするという。
小林:言葉にすると「利己」と「利他」というのがあってね。利他のセンス、感覚というところに行きついたところがあったんだけどYEN TOWN BANDをやっているときにも、偶然性とかそういうこともちゃんと入れながら「僕が、僕の音楽が」、みたいな主張じゃなくて、響き合うということ。いい演奏って自分でプレイすることと聴くということが両方同時に起こっていることだから、利他って別に全然特別なことでもないんだよな、という想いはありますね。だからクルックフィールズでも太陽光から微生物からいろいろなことの繋がりのなかでみんな生きてるけど生かされている、みたいな感じなんです。
J-WAVE『GOOD NEIGHBORS』のワンコーナー「TALK TO NEIGHBORS」は毎週月曜から木曜の14時10分ごろスタート。
番組情報
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月・火・水・木曜13:00-16:00