クリエイティブディレクター・小橋賢児が、建築家・谷尻 誠と対談。「住まい」の新しい価値観を考えながら、豊かな暮らしのヒントを「家」から紐解いた。
小橋と谷尻がトークを展開したのは、1月24日(日)放送のJ-WAVEのPodcast連動プログラム『INNOVATION WORLD ERA』のワンコーナー「FROM THE NEXT ERA」。小橋は同番組の第4週目のマンスリーナビゲーターを務める。
谷尻は建築家・実業家として活躍。SUPPOSE DESIGN OFFICEで建築家の吉田 愛と共に、住宅やホテルの建築、不動産業、キャンプ場経営など幅広い事業を展開している。
『Casa BRUTUS』(マガジンハウス)2021年2月号では、谷尻が自ら設計して2020年に完成させた自邸が掲載されている。
小橋:僕はこの素晴らしいご自宅に行かせてもらったんですけど、少しご説明していただけますか?
谷尻:自分のお財布事情で家作りをしようと思うと東京は価格が高くて無理だなと思ったので、じゃあ事業として自宅を作ったら何ができるんだろうって、ある種の実験的にやったのがこのプロジェクトでした。
小橋:プロジェクトなんですね。
谷尻:通常、家作りってプロジェクトじゃないですよね。でも、僕にとっては建物を建てることは仕事なので、もっと新しい家の建て方がないか、そういった建て方の提案をしてみようと思いました。これからAIが発達すると、人じゃなくてコンピューターが働く時代がもうそこまで来ているので、僕であれば建物に働いてもらおうと。昔から大家業があって、これってリアルAIだなと思ったので、自宅にテナントを併設しながら、建物(代)も稼いでもらいつつ、僕もしっかり働く状態で建てると、お財布とは関係ない規模で建物を建てることができる。その実験を『Casa BRUTUS』さんが特集してくれたので、やたらと事業から相談したいという依頼がいきなり来はじめました(笑)。
小橋は谷尻の自宅を訪れた際、真夏なのに冷房がなくても涼しかったことに驚いたと話す。
谷尻:9度くらいの冷水を天井に循環させているんです。結露するので、冷やされた空気が水蒸気になって下に降りてくるんですよね。洞窟の中ってひんやりする感じがありますよね。それは結露した水の水蒸気によって洞窟内が冷やされているので、その原理を今のテクノロジーで作り出したのがこの住宅です。
小橋:人間って寒くなると当たり前に暖房を使い、暑くなったら冷房を使い、体が弱くなったら薬を飲むみたいな生活だけど、本来はそんなものはなかったんですよね。自然の環境に合わせて体が適用していたのに、今はそれができなくなってるじゃないですか。
谷尻:そうなんですよね。昔からあるもので工夫すれば、暖めたり冷たくしたりすることができます。できるだけそういうものを取り入れながらこれからの時代の生活を考えてみたかったので、人の家で実験できなかったからこそ自分の家で実験してなんとかうまくいきました。
谷尻:僕らの事務所はホテルのプロジェクトが多かったので、コロナの影響で全部止まったんですよね。店じまいかなと思いました(笑)。でも同時に会社を起業して20年だったので、もう一度会社を始める気持ちになれってことなんだなと思って、だんだんわくわくしてきたんです。今からやれることはまだまだあるから考えよう、という風にいい意味で考えを改めることができました。
小橋:そういう意味ではコロナが与えてくれたきっかけって原点回帰、自然との共存など、私たちがどういう暮らし方や生き方をするべきか、そもそも自分は何を本当にしたいのかを考えるきっかけになりましたよね。
谷尻はコロナで自宅にこもらなければならない時期を、こう過ごしたという。
谷尻:外にお風呂を作ったので、子どもと一緒に外のお風呂に入ったり、テラスを作ったのでそこでご飯を食べたり、朝は奥さんと一緒にテラスでヨガをやったり、気が付くと夜明けと共に起きて、日が暮れると早い時間に寝る。そういう生活を外出自粛期間中はずっとしてたんです。そうするとめちゃくちゃ健康になって、心も体も爽快というか。今までは一生懸命にバリバリ働いていることが元気の証だったけど、そうじゃないんだなと感じました。
谷尻:「変化に強い家」にはふたつの意味があります。ひとつはあまり特殊に作りすぎないことであり、ベーシックなんだけど、ちゃんと作品としても成立するように作っていて、他の人でも住みやすい作り方をする。たとえば自分が東京から離れてその家を誰かに渡しても、中の構造的な制約が全くない作り方にしているので、木造の部分を取り除くとまた違うプランニングではめやすいようにしています。
小橋:なるほど! マイホームを建てるとこだわりすぎて、いろんなものを建て込んでしまい、東京から離れるとなっていざ売り出しても売りにくく、次に住む人が住みにくい部分がありますからね。
谷尻は「変化に強い家」のもうひとつの意味として「事業性」と続ける。
谷尻:(自宅のある建物は)三層の構造になっています。一層目はテナントとして借りていただいて、二層目に自宅があって、三層目もテナントで、月々のローン返済は自宅意外の部分でほぼほぼ賄えているので、僕自身が急に仕事を失って、ずっと寝ていてもとりあえずローンは返せるという。
小橋:それって賢いですね!
谷尻:普段、そういった仕事をしているので。たとえば、この敷地にどういう風に建てて、どういう事業を作ればいいかという事業計画と設計も一緒にやったりしています。
絶景不動産
https://zekkeisite.com
谷尻:作った当時はニッチ過ぎて、何とかひとりが食べていけるくらいの仕事にはなるけど、コロナ以降はやたらと問い合わせが来るようになりました。
小橋:今はテレワークで離れたところでも仕事ができるので、今まで日の目を浴びなかったような場所が急に注目されているわけですね。
谷尻:いろんな自然のある場所を知っているので、自分たちでも今から建物を建てて別荘的に使いながら、空いているときは別の人に使ってもらえるような事業を今年からやろうとしています。
小橋:きっと、もっとセカンドホームを持ちたい人は増えてくると思いますよね。
谷尻:(小橋)賢児くんも鎌倉と二拠点で生活しているよね。
小橋:そうなんです。その二拠点って今までだと無理だと思っていたけど、働き方を変えるとそれさえもできるようになりますからね。
谷尻:移動中もZoomできるし、どこにいても仕事ができるようになったので、二拠点、多拠点という風にいろんな生活の仕方がクリエイトできるような気がします。
これからの時代の住まいについて、谷尻はこう話す。
谷尻:まず自分でも試してみたいのは、もう室内をそんなに作らなくてもいいんじゃないかなって。
小橋:でも、暑いし、寒いじゃないですか。
谷尻:寒いときはそこにテントを張って薪ストーブを焚けば暖かいリビングが作れますし、夏は屋根だけあって日陰であれば十分に風が通って涼しいので。
小橋:確かに。真夏の炎天下に神社とか寺とか行くと、日陰に入ったときの風が通る涼しさってびっくりしますよね。あれが本来の人の生きる知恵だったけど、いつしかそれをなくしてしまったじゃないですか。
谷尻:だから、今から作ろうとしている別荘は、寝室と洗面所以外は外でいいなと思ってるんです(笑)。
小橋:もう現実的にそういうプロジェクトが進行中なんですか?
谷尻:去年「DAICHI」というネイチャーディベロップメントの会社を作ったので、もうすぐリリースします。いろんな場所に別荘とか小屋とサウナとか、キャンプ場とかを各地に作りたいと思っています。僕たちは「キャンプ以上、別荘未満」と言っています。グランピングだといろいろやってもらえちゃうので、も少し自分で考えてほしいので。
小橋:それはめちゃくちゃ楽しみですね!
番組は、J-WAVEのポッドキャストサービス「SPINEAR」でも聴くことができる。
・SPINEAR
https://spinear.com/shows/innovation-world-era/
『INNOVATION WORLD ERA』では、各界のイノベーターが週替りでナビゲート。第1週目はライゾマティクスの真鍋大度、第2週目はASIAN KUNG-FU GENERATION・後藤正文、第3週目は女優で創作あーちすとの「のん」、第4週目はクリエイティブディレクター・小橋賢児。放送は毎週日曜日23時から。
小橋と谷尻がトークを展開したのは、1月24日(日)放送のJ-WAVEのPodcast連動プログラム『INNOVATION WORLD ERA』のワンコーナー「FROM THE NEXT ERA」。小橋は同番組の第4週目のマンスリーナビゲーターを務める。
事業として自宅を作ったら何ができるのか
小橋と谷尻は、サウナや旅などを共にする仲。小橋が芸能活動をしていたころ、谷尻の妻が専属スタイリストだった縁でふたりの親交が始まったという。谷尻は建築家・実業家として活躍。SUPPOSE DESIGN OFFICEで建築家の吉田 愛と共に、住宅やホテルの建築、不動産業、キャンプ場経営など幅広い事業を展開している。
『Casa BRUTUS』(マガジンハウス)2021年2月号では、谷尻が自ら設計して2020年に完成させた自邸が掲載されている。
最新号『新しい家のつくり方』発売中!https://t.co/1Vh5dgPKoK
— casabrutus (@CasaBRUTUS) January 8, 2021
巻頭企画では、数々の美しい住宅を手がけ、新しい家のあり方を常に模索する、建築家 #谷尻誠 が自ら設計して2020年に完成させた自邸を大解剖。新しい時代に向けた新しい家づくりのアイデアを集めました。最新BEST住宅サンプル集! pic.twitter.com/iheWVMGq5r
小橋:僕はこの素晴らしいご自宅に行かせてもらったんですけど、少しご説明していただけますか?
谷尻:自分のお財布事情で家作りをしようと思うと東京は価格が高くて無理だなと思ったので、じゃあ事業として自宅を作ったら何ができるんだろうって、ある種の実験的にやったのがこのプロジェクトでした。
小橋:プロジェクトなんですね。
谷尻:通常、家作りってプロジェクトじゃないですよね。でも、僕にとっては建物を建てることは仕事なので、もっと新しい家の建て方がないか、そういった建て方の提案をしてみようと思いました。これからAIが発達すると、人じゃなくてコンピューターが働く時代がもうそこまで来ているので、僕であれば建物に働いてもらおうと。昔から大家業があって、これってリアルAIだなと思ったので、自宅にテナントを併設しながら、建物(代)も稼いでもらいつつ、僕もしっかり働く状態で建てると、お財布とは関係ない規模で建物を建てることができる。その実験を『Casa BRUTUS』さんが特集してくれたので、やたらと事業から相談したいという依頼がいきなり来はじめました(笑)。
小橋は谷尻の自宅を訪れた際、真夏なのに冷房がなくても涼しかったことに驚いたと話す。
谷尻:9度くらいの冷水を天井に循環させているんです。結露するので、冷やされた空気が水蒸気になって下に降りてくるんですよね。洞窟の中ってひんやりする感じがありますよね。それは結露した水の水蒸気によって洞窟内が冷やされているので、その原理を今のテクノロジーで作り出したのがこの住宅です。
小橋:人間って寒くなると当たり前に暖房を使い、暑くなったら冷房を使い、体が弱くなったら薬を飲むみたいな生活だけど、本来はそんなものはなかったんですよね。自然の環境に合わせて体が適用していたのに、今はそれができなくなってるじゃないですか。
谷尻:そうなんですよね。昔からあるもので工夫すれば、暖めたり冷たくしたりすることができます。できるだけそういうものを取り入れながらこれからの時代の生活を考えてみたかったので、人の家で実験できなかったからこそ自分の家で実験してなんとかうまくいきました。
建築家・谷尻誠の自邸〈HOUSE T〉ムービー
コロナ禍で気づいた、本当の意味での“元気の証”とは
新型コロナウイルスの影響は建築家の谷尻にとって、どんな変化をもたらしたのだろうか。谷尻:僕らの事務所はホテルのプロジェクトが多かったので、コロナの影響で全部止まったんですよね。店じまいかなと思いました(笑)。でも同時に会社を起業して20年だったので、もう一度会社を始める気持ちになれってことなんだなと思って、だんだんわくわくしてきたんです。今からやれることはまだまだあるから考えよう、という風にいい意味で考えを改めることができました。
小橋:そういう意味ではコロナが与えてくれたきっかけって原点回帰、自然との共存など、私たちがどういう暮らし方や生き方をするべきか、そもそも自分は何を本当にしたいのかを考えるきっかけになりましたよね。
谷尻はコロナで自宅にこもらなければならない時期を、こう過ごしたという。
谷尻:外にお風呂を作ったので、子どもと一緒に外のお風呂に入ったり、テラスを作ったのでそこでご飯を食べたり、朝は奥さんと一緒にテラスでヨガをやったり、気が付くと夜明けと共に起きて、日が暮れると早い時間に寝る。そういう生活を外出自粛期間中はずっとしてたんです。そうするとめちゃくちゃ健康になって、心も体も爽快というか。今までは一生懸命にバリバリ働いていることが元気の証だったけど、そうじゃないんだなと感じました。
谷尻 誠が考える「変化に強い家」とは?
小橋は谷尻が以前、雑誌のインタビューで「変化に強い家」について話していたのを読んだという。その意味とは?谷尻:「変化に強い家」にはふたつの意味があります。ひとつはあまり特殊に作りすぎないことであり、ベーシックなんだけど、ちゃんと作品としても成立するように作っていて、他の人でも住みやすい作り方をする。たとえば自分が東京から離れてその家を誰かに渡しても、中の構造的な制約が全くない作り方にしているので、木造の部分を取り除くとまた違うプランニングではめやすいようにしています。
小橋:なるほど! マイホームを建てるとこだわりすぎて、いろんなものを建て込んでしまい、東京から離れるとなっていざ売り出しても売りにくく、次に住む人が住みにくい部分がありますからね。
谷尻は「変化に強い家」のもうひとつの意味として「事業性」と続ける。
谷尻:(自宅のある建物は)三層の構造になっています。一層目はテナントとして借りていただいて、二層目に自宅があって、三層目もテナントで、月々のローン返済は自宅意外の部分でほぼほぼ賄えているので、僕自身が急に仕事を失って、ずっと寝ていてもとりあえずローンは返せるという。
小橋:それって賢いですね!
谷尻:普段、そういった仕事をしているので。たとえば、この敷地にどういう風に建てて、どういう事業を作ればいいかという事業計画と設計も一緒にやったりしています。
「もう室内をそんなに作らなくてもいいんじゃないか」
谷尻は4年程前に「豊かな風景と共にある生活がいい」という思いから、絶景だけを扱う不動産会社・絶景不動産という会社を立ち上げた。コロナ禍において、大きな変化があったという。絶景不動産
https://zekkeisite.com
谷尻:作った当時はニッチ過ぎて、何とかひとりが食べていけるくらいの仕事にはなるけど、コロナ以降はやたらと問い合わせが来るようになりました。
小橋:今はテレワークで離れたところでも仕事ができるので、今まで日の目を浴びなかったような場所が急に注目されているわけですね。
谷尻:いろんな自然のある場所を知っているので、自分たちでも今から建物を建てて別荘的に使いながら、空いているときは別の人に使ってもらえるような事業を今年からやろうとしています。
小橋:きっと、もっとセカンドホームを持ちたい人は増えてくると思いますよね。
谷尻:(小橋)賢児くんも鎌倉と二拠点で生活しているよね。
小橋:そうなんです。その二拠点って今までだと無理だと思っていたけど、働き方を変えるとそれさえもできるようになりますからね。
谷尻:移動中もZoomできるし、どこにいても仕事ができるようになったので、二拠点、多拠点という風にいろんな生活の仕方がクリエイトできるような気がします。
これからの時代の住まいについて、谷尻はこう話す。
谷尻:まず自分でも試してみたいのは、もう室内をそんなに作らなくてもいいんじゃないかなって。
小橋:でも、暑いし、寒いじゃないですか。
谷尻:寒いときはそこにテントを張って薪ストーブを焚けば暖かいリビングが作れますし、夏は屋根だけあって日陰であれば十分に風が通って涼しいので。
小橋:確かに。真夏の炎天下に神社とか寺とか行くと、日陰に入ったときの風が通る涼しさってびっくりしますよね。あれが本来の人の生きる知恵だったけど、いつしかそれをなくしてしまったじゃないですか。
谷尻:だから、今から作ろうとしている別荘は、寝室と洗面所以外は外でいいなと思ってるんです(笑)。
小橋:もう現実的にそういうプロジェクトが進行中なんですか?
谷尻:去年「DAICHI」というネイチャーディベロップメントの会社を作ったので、もうすぐリリースします。いろんな場所に別荘とか小屋とサウナとか、キャンプ場とかを各地に作りたいと思っています。僕たちは「キャンプ以上、別荘未満」と言っています。グランピングだといろいろやってもらえちゃうので、も少し自分で考えてほしいので。
小橋:それはめちゃくちゃ楽しみですね!
番組は、J-WAVEのポッドキャストサービス「SPINEAR」でも聴くことができる。
・SPINEAR
https://spinear.com/shows/innovation-world-era/
『INNOVATION WORLD ERA』では、各界のイノベーターが週替りでナビゲート。第1週目はライゾマティクスの真鍋大度、第2週目はASIAN KUNG-FU GENERATION・後藤正文、第3週目は女優で創作あーちすとの「のん」、第4週目はクリエイティブディレクター・小橋賢児。放送は毎週日曜日23時から。
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2021年1月31日28時59分まで
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番組情報
- INNOVATION WORLD ERA
-
毎週日曜23:00-23:54/SPINEAR、Spotify、YouTubeでも配信