人工衛星から和菓子まで幅広くものづくりに取り組むデザイン・イノベーション・ファームTakramの渡邉康太郎が、さまざまなテーマでトークセッションするJ-WAVEの番組『TAKRAM RADIO』。
1月14日(木)のオンエアでは、ゲストに情報学研究者のドミニク・チェンが登場。「文化をまたぐ、意味を捏造するー翻訳と遊び」をテーマに渡邉とトークを繰り広げた。
ドミニク:彼は北京語、広東語、日本語、フランス語など7か国語を話す人です。そんな父の家族がフランスやアメリカ、ベトナムなど世界中にいて、子どもの頃に電話で各地の家族といろいろな言語で話しているのを見て「言語はスイッチングしていくもの」ということは自分の中にすんなりと染み付きました。また、父から伝わってきたのは言葉が好きな様子。言葉を好きになることとポリグロット(多言語話者)であることはつながっているはずだと思います。
ドミニク自身もかつて日本語の面白さにハマったのは、子どもの頃に自分なりに漢字の起源を考えるのが好きだったからだという。
ドミニク:白川 静さんの本でも家にあれば研究的な見解も得られるんだけど、そんなものはなかったので自分で考えて日本語が好きになりました。
渡邉:今ならすぐに検索もできるけど、その情報の不足がある時間だけ妄想が捗りますね。
ドミニク:その妄想が、ある種の余白として勝手に好きになっていく流れは各言語でありましたね。フランス語でも英語でも。
渡邉:白川 静さんの言葉で「漢字は世界を記憶している箱舟である」という言葉があります。漢字は文字が生まれる以前の時代の記憶が梱包されている、と。文字は人間や言葉を記憶している。たとえばへんとつくりが似ている「比」という漢字は、「右を向く二人を比べる」という意味のようです。
ドミニク:へ~。
渡邉:この「比」のへんをひっくり返すと「北」という漢字になりますよね。これは背中を向けている二人の絵になる。だから「背」も肉付きの上に「北」が隠れている。さらに言うと、古代中国には「天子南面す」という言葉があって、玉座に座っているプリンスが北を背にして南を向く、と。だから負けた人が北を背に向けて逃げるのが「敗北」。「北」、「背中」がすべてこの辺りで繋がってくるんですよね。
渡邉の話を聞いて、ドミニクは漢字の起源を考えることは歴史を学び、存在しない文化を学ぶ「ある種のバーチャルトリップ」だと改めて感じたと話す。一方で、アルファベットを習っていた頃には、日本語とは異なり、それぞれの言葉に意味が宿っていないことが疑問だったそう。そのため、フランス語の言葉の成り立ちに納得がいかなかったと振り返っていた。
渡邉:僕の妻の朝吹真理子も「かつていた人たちに思いを馳せる」という意味で古語が好きなんです。今は使わないけれどもかつて確かに人々の口をふるわせた音が文字で残っていて、それを書くことで今の時代に帰ってくる感覚を大事にしているそうです。僕自身は外国語の繋がりや、何かの事件があったときに言葉の意味合いがどんどん移り変わっていくことに思いを馳せますね。たとえば、ナインイレヴン(9.11/アメリカ同時多発テロ事件)が起きた後に、「悲劇」や「悲しみ」の言葉のイメージが一気に更新されたこととか。
ドミニク:なるほどね。
渡邉:ポルトガル語を勉強して簡単な教科書を読むだけでも、かつてこの言葉を数えきれないほど発話してきたポルトガル語と関わってきた人と繋がっている気がするんですよね。
ドミニク:それは面白いですね。言葉を通じて共同体に参加する感覚。
渡邉:記憶にアクセスしたり、記憶自体を更新したりする一端を担わせてもらっているような。言語の庭にお邪魔して、その城作りを手伝っている気持ちになる。
ドミニク:「我々と同じなんだ」と瞬時に体感されるのはすごく魔術的ですよね。
渡邉:やっぱり英語のようなメジャーな言葉以外の言語を少しでも勉強していることが伝わると、共同体の一部として思ってもらえるチャンスはあがりそうですよね。
ドミニク:どんな国でもそうですよね。僕は日本に住んで外国人として生活しているんだけど、日本語が片言じゃないというだけで日本の社会に溶け込めていると思う。今は日本にいろいろな国の人が来ていて、言語のせいで差別が起こっている様子を見ると悲しい気持ちになります。言葉によって共同体を分かち合うこともできれば、防波堤や壁になる側面もあるなと思いますね。
渡邉:英語を例にとると、英語を母語として話していない人が圧倒的ですよね。下手な英語のほうが世界標準。
ドミニク:そうそう。僕が英語を本格的に使い始めたのは大学生の頃なんですけど、僕の周りもみんな英語が下手でプレッシャーがなかったんです。自然と英語が好きになる環境でしたね。
渡邉:言語が変わるときに見えない足かせがまとってしまうものだから、その足かせをどれだけ意識せずに済むか。環境に恵まれると一番いいですよね。
ドミニク:自由にその言葉を好きになる環境が大事ですよね。言語も文化も、学んでいる対象を嫌いになったらおしまいですからね。
『TAKRAM RADIO』では、デザイン・イノベーション・ファームTakramの渡邉康太郎が、毎月さまざまなテーマでトークセッションを繰り広げる。放送は毎週木曜日の26時から。
1月14日(木)のオンエアでは、ゲストに情報学研究者のドミニク・チェンが登場。「文化をまたぐ、意味を捏造するー翻訳と遊び」をテーマに渡邉とトークを繰り広げた。
漢字の起源を知ることはバーチャルトリップ
フランス国籍を持ち、日本語、フランス語、英語を巧みに操るドミニク。渡邉はまず「文化を横断するときの状況」について質問を投げかける。ドミニクは、台湾出身でベトナムとのハーフでありながら、日本で働いた後にフランスに帰化した父親の存在の大きさを語った。ドミニク:彼は北京語、広東語、日本語、フランス語など7か国語を話す人です。そんな父の家族がフランスやアメリカ、ベトナムなど世界中にいて、子どもの頃に電話で各地の家族といろいろな言語で話しているのを見て「言語はスイッチングしていくもの」ということは自分の中にすんなりと染み付きました。また、父から伝わってきたのは言葉が好きな様子。言葉を好きになることとポリグロット(多言語話者)であることはつながっているはずだと思います。
ドミニク自身もかつて日本語の面白さにハマったのは、子どもの頃に自分なりに漢字の起源を考えるのが好きだったからだという。
ドミニク:白川 静さんの本でも家にあれば研究的な見解も得られるんだけど、そんなものはなかったので自分で考えて日本語が好きになりました。
渡邉:今ならすぐに検索もできるけど、その情報の不足がある時間だけ妄想が捗りますね。
ドミニク:その妄想が、ある種の余白として勝手に好きになっていく流れは各言語でありましたね。フランス語でも英語でも。
渡邉:白川 静さんの言葉で「漢字は世界を記憶している箱舟である」という言葉があります。漢字は文字が生まれる以前の時代の記憶が梱包されている、と。文字は人間や言葉を記憶している。たとえばへんとつくりが似ている「比」という漢字は、「右を向く二人を比べる」という意味のようです。
ドミニク:へ~。
渡邉:この「比」のへんをひっくり返すと「北」という漢字になりますよね。これは背中を向けている二人の絵になる。だから「背」も肉付きの上に「北」が隠れている。さらに言うと、古代中国には「天子南面す」という言葉があって、玉座に座っているプリンスが北を背にして南を向く、と。だから負けた人が北を背に向けて逃げるのが「敗北」。「北」、「背中」がすべてこの辺りで繋がってくるんですよね。
渡邉の話を聞いて、ドミニクは漢字の起源を考えることは歴史を学び、存在しない文化を学ぶ「ある種のバーチャルトリップ」だと改めて感じたと話す。一方で、アルファベットを習っていた頃には、日本語とは異なり、それぞれの言葉に意味が宿っていないことが疑問だったそう。そのため、フランス語の言葉の成り立ちに納得がいかなかったと振り返っていた。
言葉を通じて共同体に参加する感覚
2020年10月16日から2021年3月7日(日)まで、東京ミッドタウン内のデザイン施設「21_21 DESIGN SIGHT」にて「トランスレーションズ展 −『わかりあえなさ』をわかりあおう」が開催中だ。ディレクターを務めるドミニクは、「かつての縄文人に思いを馳せ、火焔土器や土偶の再解釈も含めた翻訳というコンセプトを掲げて出展者に遊んでもらった」と開催テーマを語った。Takramは炎の形が氷になるという「火焔氷器」を出展している。渡邉:僕の妻の朝吹真理子も「かつていた人たちに思いを馳せる」という意味で古語が好きなんです。今は使わないけれどもかつて確かに人々の口をふるわせた音が文字で残っていて、それを書くことで今の時代に帰ってくる感覚を大事にしているそうです。僕自身は外国語の繋がりや、何かの事件があったときに言葉の意味合いがどんどん移り変わっていくことに思いを馳せますね。たとえば、ナインイレヴン(9.11/アメリカ同時多発テロ事件)が起きた後に、「悲劇」や「悲しみ」の言葉のイメージが一気に更新されたこととか。
ドミニク:なるほどね。
渡邉:ポルトガル語を勉強して簡単な教科書を読むだけでも、かつてこの言葉を数えきれないほど発話してきたポルトガル語と関わってきた人と繋がっている気がするんですよね。
ドミニク:それは面白いですね。言葉を通じて共同体に参加する感覚。
渡邉:記憶にアクセスしたり、記憶自体を更新したりする一端を担わせてもらっているような。言語の庭にお邪魔して、その城作りを手伝っている気持ちになる。
言葉が防波堤や壁になることも
ドミニクはかつてブラジルに行った際、ポルトガル語で「この近くでおいしいお店を教えてください」というフレーズだけで話せる状態でホテルのフロントマンと対峙したそうだ。それまで英語で会話していた中でドミニクがいきなりポルトガル語を話した途端、フロントマンの表情や雰囲気が一気に和んだ経験を振り返った。ドミニク:「我々と同じなんだ」と瞬時に体感されるのはすごく魔術的ですよね。
渡邉:やっぱり英語のようなメジャーな言葉以外の言語を少しでも勉強していることが伝わると、共同体の一部として思ってもらえるチャンスはあがりそうですよね。
ドミニク:どんな国でもそうですよね。僕は日本に住んで外国人として生活しているんだけど、日本語が片言じゃないというだけで日本の社会に溶け込めていると思う。今は日本にいろいろな国の人が来ていて、言語のせいで差別が起こっている様子を見ると悲しい気持ちになります。言葉によって共同体を分かち合うこともできれば、防波堤や壁になる側面もあるなと思いますね。
渡邉:英語を例にとると、英語を母語として話していない人が圧倒的ですよね。下手な英語のほうが世界標準。
ドミニク:そうそう。僕が英語を本格的に使い始めたのは大学生の頃なんですけど、僕の周りもみんな英語が下手でプレッシャーがなかったんです。自然と英語が好きになる環境でしたね。
渡邉:言語が変わるときに見えない足かせがまとってしまうものだから、その足かせをどれだけ意識せずに済むか。環境に恵まれると一番いいですよね。
ドミニク:自由にその言葉を好きになる環境が大事ですよね。言語も文化も、学んでいる対象を嫌いになったらおしまいですからね。
『TAKRAM RADIO』では、デザイン・イノベーション・ファームTakramの渡邉康太郎が、毎月さまざまなテーマでトークセッションを繰り広げる。放送は毎週木曜日の26時から。
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2021年1月21日28時59分まで
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番組情報
- TAKRAM RADIO
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毎週木曜26:00-27:00
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渡邉康太郎