誰ひとり取り残さずに、持続可能でよりよい世界を目指す――17のゴール・169のターゲットから構成された、2030年までの国際目標「SDGs(持続可能な開発目標)」。これに賛同するJ-WAVEは9月22日(火・祝)、持続可能なライフスタイルを見つめる特別番組『J-WAVE HOLIDAY SPECIAL FUTURE IS YOURS』(ナビゲーター:前田智子)を9時間にわたりオンエアした。
ここでは、東京大学教養学部教授で、ラテンアメリカ文化を研究する文化人類学者の石橋 純さんをゲストに迎え、「人や国の不平等をなくすためにできること」を考えたパートを紹介する。
黒人差別は、アメリカ大陸やアメリカ合衆国特有の問題ではない。石橋さんは、リスナーに「現在、地球上に何種類の人類がいるか」と問いかけた。
石橋:答えは1種類です。現在、人類はホモサピエンスしか住んでいません。
前田:日本の中学・高校の教科書にはいわゆる「白」「黒」「黄色」と皮膚の色による3種類分類で表記されていましたが、これは人種ではないということですね。
石橋:今度の教科書検定にはその表記がなくなると思います。日本の教育現場では人種についての考え方が非常に遅れていました。実は、人類を人種で分類する試みは、一切科学的な根拠がありません。それをあえて人種で分類しようとする試みには、人種差別があると考えられます。
前田:そもそもその試み自体が人種差別なのですね。
石橋:その通りです。ですから、日本ではつい最近まで人種差別を助長するような知識を教科書で教えていたことになります。
石橋:実は、黒人と呼ばれうる人から選んだ被験者と白人と呼ばれうる人から選んだ被験者を比べた場合に見いだせるいろいろな能力の差は、黒人と呼ばれうる人々のなかに存在する個人差の幅と同じ程度なのです。
前田:人類は1種類しかいないということなら、それは当然ですよね。
石橋:「黒人の特徴」や「白人の特徴」や「黄色人種の特徴」というものは、それが知的能力であれ身体的能力であれ、一切描けないということなんです。
黒人と呼ばれる人たちは「音感がよくダンスが上手だ」「身体能力に長けている」といったイメージがあるかもしれない。これらも偏見のひとつだ。
石橋:メディアでは「黒人特有の(身体の)バネが~」などと言われますが、それは全て偏見と言えます。「うそだろ」「やっぱり黒人の能力はすごいんじゃないか」と思う人もいるかもしれません。信じられない場合は、名前と顔が一致している黒人と呼ばれる人の名前と、その人の職業や地位を書き出してみてください。そうすると、大多数はプロアスリートやプロミュージシャンじゃないかと思います。黒人として知っている人がみんなプロアスリートやプロミュージシャンだとしたら、黒人は身体能力と音感が優れているという偏見を抱くのも当然です。
身体能力や音感がずば抜けているのは、日本人と同じように、ごく一部の人たちだ。
石橋:さらに言うと、日本は義務教育で音楽が必修になっている、世界的に見ても珍しい国です。学校で音楽を教わらない、黒人と呼ばれるアフリカやアメリカ大陸の子どもよりも日本の子どもたちの方が音感に優れている可能性があると、私は思っています。
前田:ただ、たとえばラテン系の方たちは家族が集まるとみんな踊り出すイメージがあるとか、ラテン系のダンスを踊らせると日本人がついていけないくらいのノリだとかありますよね。それは習慣から生まれるものでしょうか。
石橋:サルサでもサンバでも、すごいバネやスイングで踊るラテンアメリカの人たちに、「腰を低くしてすり足でサマになった盆踊りを踊れ」と言っても全く踊れません。もちろん長年、日本にいて盆踊りを練習すれば踊れるようになりますが。つまり、異文化のアートに参入しようとしたとき、それを幼少期から知らず知らずのうちに習得してしまっているネイティブの人にはなかなかかなわないということは当たり前のことなんです。
例えば、日本の風習である“一本締め”。日本に住む多くの人が自然と合わせることができるのは、日本文化で生活するなかで、日本的な音感として身につけたから。「黒人」のプロミュージシャンでも、練習しないと合わせることができないと、石橋さんは付け加えた。
2001年に南アフリカで行われた反人種主義・差別撤廃世界会議(ダーバン会議)の準備途上で、「アフロ系子孫」または「アフリカ系子孫」という新しい呼称が「黒人」に変わって提唱されたのだ。
石橋:「黒人」という呼称は、歴史的に否定的なイメージとともに使われてきました。「黒」は皮膚の色と結びつき、それがレイシズムを助長する。「黒人」と言った時点で、そこには差別が含まれているという考え方なんです。そこで2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標「SDGs」が提唱された2015年に、「アフロ系子孫のための国際の10年」の行動指針が国連で採択・提唱されました。しかし、日本の国連資料を見ると「アフリカ系の人々のための国際の10年」という非常にぼやけた言葉で訳されています。本来は「アフロ系子孫」または「アフリカ系子孫」と「子孫」を入れることがとても重要なんです。
前田:それはなぜでしょう?
石橋:ラテンアメリカ地域は混血社会なので、誰がアフリカ系で誰がそうではないかの線引きが難しいんです。肌の色が褐色系でも「自分は黒人ではない」と言う人もいますし、反対に白人的なルックスでもアフリカ人の血を引いているという考えをする人もいます。そういう人々が「500年前にはじまった大西洋奴隷貿易の被害を受けて、奴隷化され拉致・連行された人たちが私たちの祖先であり、彼ら・彼女らが今日のラテンアメリカ、アメリカ大陸の社会を築き上げてきた」という歴史認識に立てば、アフロ系子孫としてそのルーツに誇りを持つことができるという考え方で、この用語が生まれました。
現在、約2億人のアフロ系子孫がアメリカ大陸で暮らすと言われている。
石橋:差別の対象は黒人にとどまらず、出身地や出身家系、遺伝やルックスなどによって人の集団に生まれつきの優劣があるという発想から生まれます。そう考えると、黒人問題に限らず、日本にはレイシズムがあふれていることがわかる。アイヌ、沖縄、在日コリアン、在日チャイニーズ、外国籍の人たちにたいする差別や、同和問題は、レイシズムの一部と考えることができます。大坂なおみ選手の7枚のマスクの問題は、アメリカ大陸の問題だけではなく、黒人だけを対象にした問題でもありません。これは日本の問題だと考えてほしいと思います。
音楽をはじめとする異文化に触れ、それに入門してみることも、レイシズムを社会から根絶する一助になる。それを伝承してきたネイティブの人たちに対する敬意を養うことになるからだ。遠回りかもしれないが、そうした姿勢は広い意味で、SDGsの多くの分野に貢献するはずだ。
ここでは、東京大学教養学部教授で、ラテンアメリカ文化を研究する文化人類学者の石橋 純さんをゲストに迎え、「人や国の不平等をなくすためにできること」を考えたパートを紹介する。
「人類を人種で分類する」こと自体が差別的
全米各地で「Black Lives Matter」運動が盛り上がっている。最近では、テニスの全米オープンで2度目の優勝を果たした大坂なおみ選手が世界中に発信したメッセージも話題も集めた。黒人差別は、アメリカ大陸やアメリカ合衆国特有の問題ではない。石橋さんは、リスナーに「現在、地球上に何種類の人類がいるか」と問いかけた。
石橋:答えは1種類です。現在、人類はホモサピエンスしか住んでいません。
前田:日本の中学・高校の教科書にはいわゆる「白」「黒」「黄色」と皮膚の色による3種類分類で表記されていましたが、これは人種ではないということですね。
石橋:今度の教科書検定にはその表記がなくなると思います。日本の教育現場では人種についての考え方が非常に遅れていました。実は、人類を人種で分類する試みは、一切科学的な根拠がありません。それをあえて人種で分類しようとする試みには、人種差別があると考えられます。
前田:そもそもその試み自体が人種差別なのですね。
石橋:その通りです。ですから、日本ではつい最近まで人種差別を助長するような知識を教科書で教えていたことになります。
知的能力も身体的能力も「個人差」にすぎない
人間の集団の間に遺伝による能力の優劣があるという考えを「人種主義」(レイシズム)と呼ぶ。そこから人種差別を意味する「レイシズム」も生まれた。石橋:実は、黒人と呼ばれうる人から選んだ被験者と白人と呼ばれうる人から選んだ被験者を比べた場合に見いだせるいろいろな能力の差は、黒人と呼ばれうる人々のなかに存在する個人差の幅と同じ程度なのです。
前田:人類は1種類しかいないということなら、それは当然ですよね。
石橋:「黒人の特徴」や「白人の特徴」や「黄色人種の特徴」というものは、それが知的能力であれ身体的能力であれ、一切描けないということなんです。
黒人と呼ばれる人たちは「音感がよくダンスが上手だ」「身体能力に長けている」といったイメージがあるかもしれない。これらも偏見のひとつだ。
石橋:メディアでは「黒人特有の(身体の)バネが~」などと言われますが、それは全て偏見と言えます。「うそだろ」「やっぱり黒人の能力はすごいんじゃないか」と思う人もいるかもしれません。信じられない場合は、名前と顔が一致している黒人と呼ばれる人の名前と、その人の職業や地位を書き出してみてください。そうすると、大多数はプロアスリートやプロミュージシャンじゃないかと思います。黒人として知っている人がみんなプロアスリートやプロミュージシャンだとしたら、黒人は身体能力と音感が優れているという偏見を抱くのも当然です。
身体能力や音感がずば抜けているのは、日本人と同じように、ごく一部の人たちだ。
石橋:さらに言うと、日本は義務教育で音楽が必修になっている、世界的に見ても珍しい国です。学校で音楽を教わらない、黒人と呼ばれるアフリカやアメリカ大陸の子どもよりも日本の子どもたちの方が音感に優れている可能性があると、私は思っています。
前田:ただ、たとえばラテン系の方たちは家族が集まるとみんな踊り出すイメージがあるとか、ラテン系のダンスを踊らせると日本人がついていけないくらいのノリだとかありますよね。それは習慣から生まれるものでしょうか。
石橋:サルサでもサンバでも、すごいバネやスイングで踊るラテンアメリカの人たちに、「腰を低くしてすり足でサマになった盆踊りを踊れ」と言っても全く踊れません。もちろん長年、日本にいて盆踊りを練習すれば踊れるようになりますが。つまり、異文化のアートに参入しようとしたとき、それを幼少期から知らず知らずのうちに習得してしまっているネイティブの人にはなかなかかなわないということは当たり前のことなんです。
例えば、日本の風習である“一本締め”。日本に住む多くの人が自然と合わせることができるのは、日本文化で生活するなかで、日本的な音感として身につけたから。「黒人」のプロミュージシャンでも、練習しないと合わせることができないと、石橋さんは付け加えた。
黒人ではなく「アフロ系子孫」「アフリカ系子孫」と呼ぶように
レイシズムを考える最先端の現場では、「黒人」という言葉が問題視され、別の呼称に変えるよう進められている。2001年に南アフリカで行われた反人種主義・差別撤廃世界会議(ダーバン会議)の準備途上で、「アフロ系子孫」または「アフリカ系子孫」という新しい呼称が「黒人」に変わって提唱されたのだ。
石橋:「黒人」という呼称は、歴史的に否定的なイメージとともに使われてきました。「黒」は皮膚の色と結びつき、それがレイシズムを助長する。「黒人」と言った時点で、そこには差別が含まれているという考え方なんです。そこで2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標「SDGs」が提唱された2015年に、「アフロ系子孫のための国際の10年」の行動指針が国連で採択・提唱されました。しかし、日本の国連資料を見ると「アフリカ系の人々のための国際の10年」という非常にぼやけた言葉で訳されています。本来は「アフロ系子孫」または「アフリカ系子孫」と「子孫」を入れることがとても重要なんです。
前田:それはなぜでしょう?
石橋:ラテンアメリカ地域は混血社会なので、誰がアフリカ系で誰がそうではないかの線引きが難しいんです。肌の色が褐色系でも「自分は黒人ではない」と言う人もいますし、反対に白人的なルックスでもアフリカ人の血を引いているという考えをする人もいます。そういう人々が「500年前にはじまった大西洋奴隷貿易の被害を受けて、奴隷化され拉致・連行された人たちが私たちの祖先であり、彼ら・彼女らが今日のラテンアメリカ、アメリカ大陸の社会を築き上げてきた」という歴史認識に立てば、アフロ系子孫としてそのルーツに誇りを持つことができるという考え方で、この用語が生まれました。
現在、約2億人のアフロ系子孫がアメリカ大陸で暮らすと言われている。
大坂なおみ選手のメッセージは、アメリカ大陸の問題だけではない
日本には人種差別がない、と感じている人もいるかもしれない。しかし、“ないこと”になっているだけだ。石橋さんは「レイシズムは日本の問題だ」と言う。どういう意味なのか。石橋:差別の対象は黒人にとどまらず、出身地や出身家系、遺伝やルックスなどによって人の集団に生まれつきの優劣があるという発想から生まれます。そう考えると、黒人問題に限らず、日本にはレイシズムがあふれていることがわかる。アイヌ、沖縄、在日コリアン、在日チャイニーズ、外国籍の人たちにたいする差別や、同和問題は、レイシズムの一部と考えることができます。大坂なおみ選手の7枚のマスクの問題は、アメリカ大陸の問題だけではなく、黒人だけを対象にした問題でもありません。これは日本の問題だと考えてほしいと思います。
音楽をはじめとする異文化に触れ、それに入門してみることも、レイシズムを社会から根絶する一助になる。それを伝承してきたネイティブの人たちに対する敬意を養うことになるからだ。遠回りかもしれないが、そうした姿勢は広い意味で、SDGsの多くの分野に貢献するはずだ。
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2020年9月29日28時59分まで
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番組情報
- J-WAVE HOLIDAY SPECIAL FUTURE IS YOURS
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2020年9月22日(火・祝)9:00-17:55