J-WAVEで放送中の番組『J-WAVE TOKYO MORNING RADIO』(ナビゲーター:別所哲也)のワンコーナー「MORNING INSIGHT」。8月11日(火)のオンエアでは、お笑い芸人・作家の又吉直樹が登場。自身の読書体験、著書『東京百景』や、原作が映画化された『劇場』の話などを訊いた。
又吉:普段はいろいろな仕事をしながら文章も書いたりしているんで、それでリズムができていたんです。時間があるとそれはそれで文章がなかなか書けないというか……。だからずっと映画を観たり、本読んだりしていましたね。
別所:夏の読書は秋の読書とはまた違いますよね。子どもの頃は読書感想文を書かされたと思うのですが、何を書きましたか? 僕はヘルマン・ヘッセの『車輪の下』とか。
又吉:僕はスタジオジブリの作品で『火垂るの墓』がすごく好きだったので、本を読んでいないけれど、これだったらすごい作品に対しての思いがあるから、それを書こうと思って。でもいちおう、表紙が『火垂るの墓』のアニメになっている文庫本を買って読んだら、野坂(昭如)さんの文章が素晴らしいんですけど、小6の僕には難しくて。でも読んでいくうちに文章のリズムの面白さみたいなものに気づいて、それも一つの読書に入っていくきっかけにはなりましたね。アリバイ作りのために買った『火垂るの墓』で、これは何かが違うぞっていう、小説ならではの文体っていうか言葉のリズムみたいなものがあるって気づきましたね。
別所:言葉の中にある独特の魅力にドキドキワクワクする瞬間って、子どもの頃にあるもんですよね。知らない言葉に出会ったりね。
又吉:しかも5ページくらい読んで「あれ、難しい。全然理解できてない」と思ってまた最初から読み直すっていう。そのわからないことが面白いみたいなのもありましたね。
又吉:僕、恋愛の経験があんまりないんで、東京百景を作るときに当時の編集者の方から「又吉さん、恋愛に関することがひとつもないですね。ひとつくらい何か書いてくれませんか」みたいに言われたんです。「書けることが1こしかないんですよ。それ他のエッセイでも書いたんで」って言ったんですけど、それはもうしかたないからって、この『池尻大橋の小さな部屋』っていう、僕がお付き合いしてた人とのエピソードみたいなのを書いてるんですけど。その後『劇場』って小説を書くときに、あくまでも小説なんで僕の話ではないんですけど、でもどうしてもそういうのって自分の経験みたいなものが出てきてしまうんです。となるとこの『池尻大橋の小さな部屋』っていうエッセイと、『劇場』っていうのは似ているというか、共通点はあるってよく言われますね。
別所:夏休みに読んで欲しい太宰治の作品があったら、ぜひ教えてください。
又吉:今日は好きな文庫本、新潮文庫の『ヴィヨンの妻』と『きりぎりす』を持ってきました。太宰ってすごい面白い短編がたくさんあって、たとえば『ヴィヨンの妻』に入っている作品でいうと『トカトントン』。読者から送られてきた、悩み相談のような不思議な手紙(の形をとった文章)で、「私は自分が何かに集中したり楽しいと思ったり、悲しいと思ったりしたときに『トカトントン』っていう音が聞こえてくるんです」って(書いてある)。実はこの「トカトントン」って終戦になったときの、「うわー戦争が終わった」と思っているときに、どっかから聞こえた釘を打つような音で。そのときになんか素になってしまった記憶がそのまま持ち越されていって、その後どんなことがあってもずっとその音が聞こえてしまうみたいな。ちょっと不思議な話でもあるんです。
又吉:ちょうど僕が高校卒業して大阪から上京するときに、よく大阪でラジオでかかってて、すごく好きになって。だからなんとなく自分の上京とのタイミングとも重なるし、この曲を聞きながら東京への期待みたいなものを持ってたんですよね。僕の周りの上京した人みんな言うんですけど、歌詞がすごく自分に響くというか、そういう曲ですね。
別所:僕も静岡出身ですけど、初めての東京都の遭遇と、そこからの生活で、いろいろなことを感じました。『東京百景』には、「東京は果てしなく残酷で時折楽しく稀に優しい」とありますね。これは、どういう思いで書いたんですか?
又吉:東京にすごい期待を抱いて、芸人の世界で頑張ろうと思って出てきたんですけど、来てみたら意外と大変じゃないですか。実際にはアルバイトをしながらとか、雑誌とかで見ていたような若者が住んでるオシャレな部屋にはなかなか住めないんだなとか、いろんなことがわかっていって。現実というのは厳しいんですけど、でもたまにすっごい誰かが優しくしてくれたり、「あー、今日なんかいい1日やったな」って思う日があって、それがたまにだからこそ、すごく喜びが大きくなるというか。こういうリズムで東京のことをだんだん好きになっていくのかなというのが、特に若い頃に実感としてありましたね。
加筆された『東京百景』にはコンビの相方・綾部祐二への思いも綴られている。
又吉:コンビとして活動しながら20代の頃から文筆もずっとやってたんですけど、文筆のほうで相方のことを書くことがあんまりなくて。今、両方やるようになったタイミングで書いてみたいなと思って。相方を含めた当時の自分のことも書いた「ピース」が『東京百景』の中のいちばん長い章になっていると思います。
『J-WAVE TOKYO MORNING RADIO』のワンコーナー「MORNING INSIGHT」では、あらゆる世界の本質にインサイトしていく。放送は月曜〜木曜の6時30分頃から。お楽しみに!
『火垂るの墓』で文章の面白さに気づく
未だ収束の兆しを見せない新型コロナウイルスの流行。外出自粛期間などはどのように過ごしていたのかを又吉に訊くと、とにかく部屋の掃除をしていたという。最終的にはゴミを手に取った瞬間に分別ができる“能力”も身につけたのだとか。又吉:普段はいろいろな仕事をしながら文章も書いたりしているんで、それでリズムができていたんです。時間があるとそれはそれで文章がなかなか書けないというか……。だからずっと映画を観たり、本読んだりしていましたね。
別所:夏の読書は秋の読書とはまた違いますよね。子どもの頃は読書感想文を書かされたと思うのですが、何を書きましたか? 僕はヘルマン・ヘッセの『車輪の下』とか。
又吉:僕はスタジオジブリの作品で『火垂るの墓』がすごく好きだったので、本を読んでいないけれど、これだったらすごい作品に対しての思いがあるから、それを書こうと思って。でもいちおう、表紙が『火垂るの墓』のアニメになっている文庫本を買って読んだら、野坂(昭如)さんの文章が素晴らしいんですけど、小6の僕には難しくて。でも読んでいくうちに文章のリズムの面白さみたいなものに気づいて、それも一つの読書に入っていくきっかけにはなりましたね。アリバイ作りのために買った『火垂るの墓』で、これは何かが違うぞっていう、小説ならではの文体っていうか言葉のリズムみたいなものがあるって気づきましたね。
別所:言葉の中にある独特の魅力にドキドキワクワクする瞬間って、子どもの頃にあるもんですよね。知らない言葉に出会ったりね。
又吉:しかも5ページくらい読んで「あれ、難しい。全然理解できてない」と思ってまた最初から読み直すっていう。そのわからないことが面白いみたいなのもありましたね。
自身の恋愛エピソードも盛り込んだ『東京百景』
又吉は先日、文庫版の『東京百景』を刊行した。2013年に発表した作品に加筆をしたもの。作中の「僕」は又吉本人の、半自伝的要素を持つ小説で、18歳で上京してきた又吉の目を通して東京の風景や記録が綴られている。中でも『池尻大橋の小さな部屋』というエピソードは、行定勲監督によって映画化された『劇場』との共通点があるという。又吉:僕、恋愛の経験があんまりないんで、東京百景を作るときに当時の編集者の方から「又吉さん、恋愛に関することがひとつもないですね。ひとつくらい何か書いてくれませんか」みたいに言われたんです。「書けることが1こしかないんですよ。それ他のエッセイでも書いたんで」って言ったんですけど、それはもうしかたないからって、この『池尻大橋の小さな部屋』っていう、僕がお付き合いしてた人とのエピソードみたいなのを書いてるんですけど。その後『劇場』って小説を書くときに、あくまでも小説なんで僕の話ではないんですけど、でもどうしてもそういうのって自分の経験みたいなものが出てきてしまうんです。となるとこの『池尻大橋の小さな部屋』っていうエッセイと、『劇場』っていうのは似ているというか、共通点はあるってよく言われますね。
この夏おすすめしたい太宰作品『トカトントン』
又吉は上京してから最初に住んだ建物が、作家・太宰 治の居住跡に建ったアパートだったという。そんな縁もあり、別所は又吉に太宰のおすすめ作品を訊いた。別所:夏休みに読んで欲しい太宰治の作品があったら、ぜひ教えてください。
又吉:今日は好きな文庫本、新潮文庫の『ヴィヨンの妻』と『きりぎりす』を持ってきました。太宰ってすごい面白い短編がたくさんあって、たとえば『ヴィヨンの妻』に入っている作品でいうと『トカトントン』。読者から送られてきた、悩み相談のような不思議な手紙(の形をとった文章)で、「私は自分が何かに集中したり楽しいと思ったり、悲しいと思ったりしたときに『トカトントン』っていう音が聞こえてくるんです」って(書いてある)。実はこの「トカトントン」って終戦になったときの、「うわー戦争が終わった」と思っているときに、どっかから聞こえた釘を打つような音で。そのときになんか素になってしまった記憶がそのまま持ち越されていって、その後どんなことがあってもずっとその音が聞こえてしまうみたいな。ちょっと不思議な話でもあるんです。
上京後の暮らしで感じたこと
番組では、くるり『東京』をオンエア。『東京百景』にも登場する、又吉にとって思い入れのある曲だという。又吉:ちょうど僕が高校卒業して大阪から上京するときに、よく大阪でラジオでかかってて、すごく好きになって。だからなんとなく自分の上京とのタイミングとも重なるし、この曲を聞きながら東京への期待みたいなものを持ってたんですよね。僕の周りの上京した人みんな言うんですけど、歌詞がすごく自分に響くというか、そういう曲ですね。
別所:僕も静岡出身ですけど、初めての東京都の遭遇と、そこからの生活で、いろいろなことを感じました。『東京百景』には、「東京は果てしなく残酷で時折楽しく稀に優しい」とありますね。これは、どういう思いで書いたんですか?
又吉:東京にすごい期待を抱いて、芸人の世界で頑張ろうと思って出てきたんですけど、来てみたら意外と大変じゃないですか。実際にはアルバイトをしながらとか、雑誌とかで見ていたような若者が住んでるオシャレな部屋にはなかなか住めないんだなとか、いろんなことがわかっていって。現実というのは厳しいんですけど、でもたまにすっごい誰かが優しくしてくれたり、「あー、今日なんかいい1日やったな」って思う日があって、それがたまにだからこそ、すごく喜びが大きくなるというか。こういうリズムで東京のことをだんだん好きになっていくのかなというのが、特に若い頃に実感としてありましたね。
加筆された『東京百景』にはコンビの相方・綾部祐二への思いも綴られている。
又吉:コンビとして活動しながら20代の頃から文筆もずっとやってたんですけど、文筆のほうで相方のことを書くことがあんまりなくて。今、両方やるようになったタイミングで書いてみたいなと思って。相方を含めた当時の自分のことも書いた「ピース」が『東京百景』の中のいちばん長い章になっていると思います。
『J-WAVE TOKYO MORNING RADIO』のワンコーナー「MORNING INSIGHT」では、あらゆる世界の本質にインサイトしていく。放送は月曜〜木曜の6時30分頃から。お楽しみに!
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2020年8月18日28時59分まで
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番組情報
- J-WAVE TOKYO MORNING RADIO
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月・火・水・木曜6:00-9:00
-
別所哲也
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- 夢を追う人、支える人。忘れられない恋を描く映画『劇場』の裏話
- アジカン・後藤と芥川賞作家・村田沙耶香が対談。「嫌なこと」を作品にする意義