鴻上尚史が驚いた、ミュージカル『ビリー・エリオット』の演出。映像ではできない組み合わせとは?

J-WAVEの番組『STAGE PIA WE/LIVE/MUSICAL』(ナビゲーター:中井智彦)。7月17日(金)のオンエアでは、演出家の鴻上尚史が登場。お気に入りのミュージカル『ビリー・エリオット』や『ムーラン・ルージュ』について語った。


■鴻上が絶賛! 「今やる意味のある」ミュージカル

ミュージカル『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』が、9月11日(金)より東京・TBS赤坂ACTシアターでオープニング公演の初日を迎える。中井もトニー役で出演が決定している。



<あらすじ>
不況に喘ぐ英国北部の炭鉱の町を舞台に、ひとりの少年と彼を取り巻く大人たちの姿を描いた映画「BILLY ELLIOT」(邦題「リトル・ダンサー」)。アカデミー賞ノミネート監督であるスティーヴン・ダルドリー(映画「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」)が手掛けたその作品は、世界中の観客を虜にした。
『ライオンキング』『アイーダ』などの傑作ミュージカルを手掛けた“ポップス界の生ける伝説” サー・エルトン・ジョンは後のインタビューで「すごく泣いた。泣きすぎて、観終わったあとは立ちあがるのに人の手を借りなければならなかったよ」と語っている。2005年、リー・ホール(映画「ロケットマン」「キャッツ」)が脚本・歌詞、スティーヴン・ダルドリーが演出を担当、そこにエルトン・ジョンが音楽で加わりミュージカル化され、世界中で成功を収めた。
オフィシャルサイトより)

演出家として長く活躍する鴻上は、『ビリー・エリオット』を「大傑作」と絶賛。同作に惚れ込んだ理由を語った。

鴻上:映画版よりもはるかにすごいです。僕が生涯観た舞台のベスト3に間違いなく入ります。
中井:それはどのようなところが?
鴻上:監督が自分でも言っていますが、ミュージカルをいろいろと研究して、今までのミュージカルのいいところを全部集めようとしたというのがすごくあるんです。本当によくできた傑作ですよね。僕は社会性があるものが特に好きなんです。炭鉱ストライキのシーンと子どもたちがクラシックバレエをやるシーンがひとつの空間のなかに入っているとか。
中井:ドキドキしますよね。
鴻上:ちょっとすごいですよね。それは演劇にしかできないこと。映像だとカットバックして、炭鉱ストのシーン、クレシックバレエのシーンなんだけど、演劇の自由さは同じ空間に労働者とクラシックバレエの子どもたちが同時にいられること。初めて観たときは叫びましたよ。「こんなことをするのか!」みたいなね。

中井は『ビリー・エリオット』を通じて、英国の歴史を知ることができたと明かす。

中井:1984年のイギリスで炭鉱ストがあったんだと知りました。僕は1983年生まれなので、当時はまだ1歳だったんです。炭鉱の人たちは自分たちが正義じゃないですか。それに対して(マーガレット・)サッチャー政権との戦い。戦うからこそ過激になっていってしまうし、それに抑圧された感覚。ストに生き抜いた人たちの人生というものをすごく考えてしまいます。昔これだけのことがあって、だからこそミュージカルになっているんだということに触れられる。
鴻上:根本的なことがちゃんとミュージカルにできているってすごくいいよね。よくわからない男と女が出会って恋して苦労して別れました、みたいなミュージカルじゃなくて。
中井:あはは(笑)。
鴻上:だって、サッチャーがあの当時に社会を分断して、いわゆる新自由主義という「自分で働きなさい」「貧困は自分の責任ですから」と言ったのが、今のボリス・ジョンソン(現・イギリス首相)まできて。あの当時、サッチャーは「あなたたちを守るべき社会なんかないんだ」って言ったんだけど、この前ボリス・ジョンソンがコロナになって帰ってきたあとに「社会はあった」と言ったんです。つまりコロナによってみんながつながることが必要なんだ、社会はやっぱり存在するんだというふうに、明らかにあの時代のサッチャーの言葉を受けて訂正したんです。あの当時は分断が正しいと思われていたので、それはもう歴史的なこと。まさに、このコロナのあとにやるべき作品なんだよね。
中井:確かに。考えますよね。
鴻上:それから普遍的でもある。スト破りという、生活のためにストをしている人たちの前で働くようになってしまうとか、それは本当にどのような社会的なものでもストを扱ったらあるんだけど、それがサッチャーから今の流れで「今やる意味」だね。だから、(公演延期にならずに)できたらいいね。
中井:やれることを信じて本番に進んでいきたいと思います。


■鴻上が楽曲の使い方に驚いた『ムーラン・ルージュ』

『ビリー・エリオット』をはじめ、映画からミュージカル・舞台化された作品は多数存在する。ブロードウェイミュージカル『ムーラン・ルージュ』もそのひとつだ。鴻上は2019年にプレビュー公演を鑑賞したそうで、楽曲の使い方に大変驚いたという。



鴻上:曲がアップデートされているんだよね。アヴリル・ラヴィーンからマドンナから……。映画版から今により近いところになっている。映画版と同じ曲じゃないのよ。
中井:え? でも『ムーラン・ルージュ』のメイン曲はありますよね。
鴻上:もちろんメインの曲はあるんだけど、そこから先は最新曲までいっぱい入れているのね。「こうきたか」みたいな曲があって。これも「この手があったか」って悔しいんだけど(笑)。アップデートして曲を変えていて「このシーンでこの曲を愛の曲で歌うか」というふうにくるんですよ。だから僕もわからない曲がけっこうある。なんとなく客席がザワついて「ここでこの曲か!」とか「この曲はなんだ?」「誰の最新曲だ?」という曲もあったりする。愛というテーマで「ありもの」をいっぱい集めるという。
中井:新しいですね。日本でもできることはたくさんある気がします。
鴻上:制作費の多くが音楽の著作権だとか言ってましたから。
中井:考えられないですよね。ひとりのアーティストを使うだけでも大変なのに、何人使っているんですか(笑)。
鴻上:本当にそうですよ。だからミュージカルは金がかかるんだよね(笑)。




■日本ミュージカルの未来

鴻上は日本のミュージカルを観ていて「惜しい」と思うことが多々あり、できることならば手直しをしたいと考えることもあると話す。ふたりが、日本のミュージカル界の未来について語った。

鴻上:もう一回やることになって、俺が噛ませてもらったら、シナリオドクターでいくらでも直せるのに、これを直したらもっとよくなるのに、みたいな。
中井:日本のオリジナルも出てきてはいるけど、ロングランみたいなことができないし、ブロードウェイやウエストエンドみたいな形があるわけじゃないから一回で終わってしまう公演が多い気がします。
鴻上:それこそ「売っていく」ということでしょうね。韓国ミュージカルみたいにね。このスタイルで海外で売るということを視野に入れていかないといけない。そうすると、わりとドメスティックな日本固有のものというか、日本人の情緒だけだと難しいかもしれないですね。韓国ミュージカルみたいに、どの国の民族が観ても、はっきり対立が明確なものにしておかないと、難しいとは思いますけどね。

『STAGE PIA WE/LIVE/MUSICAL』では、ミュージカル俳優の中井がゲストを迎えて、ミュージカルの話や作品の解説など、さまざまな形でミュージカルの魅力をお届けする。放送は毎週金曜の22時30分から。

【この記事の放送回をradikoで聴く】(2020年7月24日28時59分まで)
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【番組情報】
番組名:『STAGE PIA WE/LIVE/MUSICAL』
  放送日時:毎週金曜 22時30分-23時
  オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/musical/

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