シンガー・ソングライターの藤原さくらが、origami PRODUCTIONS 代表の対馬芳昭と、音楽業界のイノベーションと未来について語りあった。
5月の第5週目のスペシャル・ナビゲーターを務めた藤原と対馬がトークを展開したのは、5月31日(日)にオンエアされた、J-WAVEのPodcast連動プログラム『INNOVATION WORLD ERA』のワンコーナー「FROM THE NEXT ERA」。新型コロナウイルス感染防止のためリモートでお届けした。
■「裏方として、表に出る人たちへ恩返ししたい」
対馬が代表を務める「origami PRODUCTIONS」は、2007年に設立したレーベル/クリエーターチーム。Ovall、Kan Sano、Michael Kanekoらが所属している。藤原は、origami PRODUCTIONSのアーティストとライブで共演したり、楽曲アレンジを提供してもらったりするなど、10代の頃から親交を続けている。
対馬はコロナ禍において、ミュージシャンのサポートをはじめ、さまざまなアクションを行っている。そのひとつが、ライブができず収益が当面見込めないアーティストにorigami PRODUCTIONSに所属するクリエーターが楽曲を無償提供する「origami Home Sessions」だ。
・「origami Home Sessions」プロジェクトページ
http://ori-gami.com/home-sessions/
対馬:origami PRODUCTIONS所属のミュージシャンはアーティストでありながら、プロデューサーやアレンジャーでもあります。普段、表に出るときもあれば、裏方になるときもある。新型コロナの影響でアーティストのみなさんはライブができなくなり、活動の場がなくなってしまいました。いつも我々は裏方としてそのみなさんのお世話になっているので、今回は逆に恩返しができないかと思い、この取り組みを行いました。
「origami Home Sessions」では、origami PRODUCTIONS所属のアーティストたちが制作した曲をインターネット上に公開している。その楽曲を聴くことはもちろん、ミュージシャンはそれらをダウンロードして、歌やラップを載せたり、楽器を足すなどしてアレンジすることができる。そこで生まれた楽曲をリリースすることもでき、その収益はアレンジしたアーティストに帰属する。
ダウンロード可能な楽曲を全て聴いた藤原は「ぜいたくなトラックだ」と驚きを隠せない様子。その中から、数曲ダウンロードしたという。
藤原:コロナ禍で漠然と自分ができることは何かと考える中で、「origami Home Sessions」みたいに具体的な取り組みをやってもらえると、それに乗っかっていろんな人に楽しい音楽を届けられるなと思って、すごくありがたかったです。
■藤原さくら×Michael Kanekoのすごく響いた1曲
先日、藤原とMichael Kanekoは、ルイ・アームストロングの『What a Wonderful World』をカバーした。
対馬は「外出自粛中に最も聴いた楽曲だったかも」と話ながら、このセッションの魅力を語る。
対馬:今、音楽はファイルで交換できるから、こうやって隔離されている状況でも音楽を生みだせることは表現としてベストだと思います。この『What a Wonderful World』はベトナム戦争当時に作られた楽曲で、今回のコロナ禍は戦争ではないけど、一人ひとりの気持ち的にはそれに等しいものがあったと思います。そういうときにこの曲を選んでくれて、しかもふたりのハーモニーの相性がものすごくよくて、それをギター1本で歌いジャマするモノがなかったから、すごく響きました。
■とにかく目の前の人を助けることが先決
対馬は、個人資産を使って音楽関係者に向けたドネーション「White Teeth Donation」を立ち上げた。ミュージシャンだけではなく、エンジニアや音楽ライターなど音楽に関わる全ての人が対象だ。notoには、このドネーションに対する対馬の想いが綴られている。
・対馬芳昭のnote
「音楽関係者に向けたドネーション(寄付)「White Teeth Donation」を立ち上げました。」
https://note.com/yoshiorigami/n/n565042212e67
対馬は、クラウドファンディングのような資金調達ではなく、ドネーションにした理由を明かした。
対馬:簡単に言うと、自分の貯金から支援しています。貯蓄もあって、ちょっとした投資もうまくいっていたこともあったので、2年前くらいからそれを原資に音楽シーンに対して何かできないかと考えていました。その矢先にこういう状況になってしまったので、とにかく目の前の人を助けることが先決だと思って。そんなに大きなお金ではないですが、音楽関係者から連絡をもらって、銀行口座を訊いて振り込む。そういった支援を最速で行いました。自分の判断で少額ながらお金をお渡しして、とにかく音楽を続けてほしいと思いました。
藤原は「新型コロナの影響でライブもなくなり、補償の話もない状況の中、対馬さんのように自己資金を基にスピード感を持って支援をした人は誰もいなかった」と、そのアクションを称賛。「なんていいボスなんだろう」と伝えると、対馬は「僕が音楽の仕事をできているのは、みなさんがいるから」とその想いを語る。
対馬:自分で音楽を奏でて、自分で販売して……ひとりでできたら素晴らしいことですけど、僕はその一部を担っているだけ。音楽関係者の誰もが自分たちの一部なので、切り捨てることなんて絶対にできません。結局、みんなが続けていけないと意味がなく、この先に自分だけが助かっても、たとえばみなさんが音楽をやめて他の仕事をしなくてはいけない場合は、僕自身も終わってしまうので、自分に返ってくるものだと思ってやっています。だから、「いいことをしてあげた」とかいう気持ちは全くなくて、自分を守るためにやった感覚です。
■「大ヒットはしないけど素晴らしい音楽」も日の目を浴びてほしい
コロナ禍では衣食住、そして医療が最も大切で、音楽などのエンターテインメントは後回しと考える人も多い。対馬はその考えは全く間違いではないとしながらも、「音楽がないと生きていけない人も中には存在する。それが多様性であり、いろいろな考えがあっていいと思う」と考えを述べる。
対馬:音楽に助けられたという人がいる以上、僕らが後回しの存在ではなく最優先事項にもなり得る。それもひとつの考え方だと思うので、これからは「何が大事か」を決めつけるのではなくて、それぞれが尊重し合う社会になっていければいいなと思います。ミュージシャンが音楽を奏でて、僕らが裏方としてそれを広げていく。それで助かる人がいるということは、これまでの災害でも今回の新型コロナでも目の当たりにしているので、僕は自信を持って音楽で人を助けることができていると思っていますし、音楽にはそういう力があるとあらためて感じました。
今後、対馬は「売れる、売れないにかかわらず、素晴らしい音楽を生み出すアーティストが日の目を浴びるような音楽シーンを作りたい」と語る。
対馬:全ての日本人が知っているような素晴らしいミュージシャンが出てくることは変わらす素晴らしいことだと思っているけど、今はそうじゃないかたちでも大きくなっていく人はいます。
サブスクリプションサービスが台頭し、最近はorigami PRODUCTIONSのアーティストは、インスト楽曲をシングルとしてリリースすることも増えたという。
対馬:声が入っていない曲だから生活のジャマをしなくていいときもあって、そういう音楽のファンが世界中で聴いてくれるだけで、数百万回の再生回数になることも現実としてあります。
対馬は「今は本当にいろんな音楽があり、世界中の人たちがそれぞれの好みによって聴いていけば、その積み重ねはすごい数になる」として、「それはいろんな表現で食べていけるミュージシャンが増えるという可能性になる」と希望を口にした。
デジタル音声コンテンツ配信サービス 「SPINEAR」の他、SpotifyやYouTubeなど各ポッドキャストサービスではノーカット版を配信中。
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Google Podcasts
SPINEAR
同番組は、各界のイノベーターが週替りでナビゲートする。第1週目はライゾマティクスの真鍋大度、第2週目はASIAN KUNG-FU GENERATION・後藤正文、第3週目は女優で創作あーちすとの「のん」、第4週目はクリエイティブディレクター・小橋賢児。
【この記事の放送回をradikoで聴く】(2020年6月7日28時59分まで)
PC・スマホアプリ「radiko.jpプレミアム」(有料)なら、日本全国どこにいてもJ-WAVEが楽しめます。番組放送後1週間は「radiko.jpタイムフリー」機能で聴き直せます。
【番組情報】
番組名:『INNOVATION WORLD ERA』
放送日時:日曜 23:00-23:54/SPINEAR、Spotify、YouTubeでも配信
オフィシャルサイト: https://www.spinear.com/shows/innovation-world-era/
5月の第5週目のスペシャル・ナビゲーターを務めた藤原と対馬がトークを展開したのは、5月31日(日)にオンエアされた、J-WAVEのPodcast連動プログラム『INNOVATION WORLD ERA』のワンコーナー「FROM THE NEXT ERA」。新型コロナウイルス感染防止のためリモートでお届けした。
■「裏方として、表に出る人たちへ恩返ししたい」
対馬が代表を務める「origami PRODUCTIONS」は、2007年に設立したレーベル/クリエーターチーム。Ovall、Kan Sano、Michael Kanekoらが所属している。藤原は、origami PRODUCTIONSのアーティストとライブで共演したり、楽曲アレンジを提供してもらったりするなど、10代の頃から親交を続けている。
対馬はコロナ禍において、ミュージシャンのサポートをはじめ、さまざまなアクションを行っている。そのひとつが、ライブができず収益が当面見込めないアーティストにorigami PRODUCTIONSに所属するクリエーターが楽曲を無償提供する「origami Home Sessions」だ。
・「origami Home Sessions」プロジェクトページ
http://ori-gami.com/home-sessions/
対馬:origami PRODUCTIONS所属のミュージシャンはアーティストでありながら、プロデューサーやアレンジャーでもあります。普段、表に出るときもあれば、裏方になるときもある。新型コロナの影響でアーティストのみなさんはライブができなくなり、活動の場がなくなってしまいました。いつも我々は裏方としてそのみなさんのお世話になっているので、今回は逆に恩返しができないかと思い、この取り組みを行いました。
「origami Home Sessions」では、origami PRODUCTIONS所属のアーティストたちが制作した曲をインターネット上に公開している。その楽曲を聴くことはもちろん、ミュージシャンはそれらをダウンロードして、歌やラップを載せたり、楽器を足すなどしてアレンジすることができる。そこで生まれた楽曲をリリースすることもでき、その収益はアレンジしたアーティストに帰属する。
ダウンロード可能な楽曲を全て聴いた藤原は「ぜいたくなトラックだ」と驚きを隠せない様子。その中から、数曲ダウンロードしたという。
藤原:コロナ禍で漠然と自分ができることは何かと考える中で、「origami Home Sessions」みたいに具体的な取り組みをやってもらえると、それに乗っかっていろんな人に楽しい音楽を届けられるなと思って、すごくありがたかったです。
■藤原さくら×Michael Kanekoのすごく響いた1曲
先日、藤原とMichael Kanekoは、ルイ・アームストロングの『What a Wonderful World』をカバーした。
対馬は「外出自粛中に最も聴いた楽曲だったかも」と話ながら、このセッションの魅力を語る。
対馬:今、音楽はファイルで交換できるから、こうやって隔離されている状況でも音楽を生みだせることは表現としてベストだと思います。この『What a Wonderful World』はベトナム戦争当時に作られた楽曲で、今回のコロナ禍は戦争ではないけど、一人ひとりの気持ち的にはそれに等しいものがあったと思います。そういうときにこの曲を選んでくれて、しかもふたりのハーモニーの相性がものすごくよくて、それをギター1本で歌いジャマするモノがなかったから、すごく響きました。
■とにかく目の前の人を助けることが先決
対馬は、個人資産を使って音楽関係者に向けたドネーション「White Teeth Donation」を立ち上げた。ミュージシャンだけではなく、エンジニアや音楽ライターなど音楽に関わる全ての人が対象だ。notoには、このドネーションに対する対馬の想いが綴られている。
・対馬芳昭のnote
「音楽関係者に向けたドネーション(寄付)「White Teeth Donation」を立ち上げました。」
https://note.com/yoshiorigami/n/n565042212e67
対馬は、クラウドファンディングのような資金調達ではなく、ドネーションにした理由を明かした。
対馬:簡単に言うと、自分の貯金から支援しています。貯蓄もあって、ちょっとした投資もうまくいっていたこともあったので、2年前くらいからそれを原資に音楽シーンに対して何かできないかと考えていました。その矢先にこういう状況になってしまったので、とにかく目の前の人を助けることが先決だと思って。そんなに大きなお金ではないですが、音楽関係者から連絡をもらって、銀行口座を訊いて振り込む。そういった支援を最速で行いました。自分の判断で少額ながらお金をお渡しして、とにかく音楽を続けてほしいと思いました。
藤原は「新型コロナの影響でライブもなくなり、補償の話もない状況の中、対馬さんのように自己資金を基にスピード感を持って支援をした人は誰もいなかった」と、そのアクションを称賛。「なんていいボスなんだろう」と伝えると、対馬は「僕が音楽の仕事をできているのは、みなさんがいるから」とその想いを語る。
対馬:自分で音楽を奏でて、自分で販売して……ひとりでできたら素晴らしいことですけど、僕はその一部を担っているだけ。音楽関係者の誰もが自分たちの一部なので、切り捨てることなんて絶対にできません。結局、みんなが続けていけないと意味がなく、この先に自分だけが助かっても、たとえばみなさんが音楽をやめて他の仕事をしなくてはいけない場合は、僕自身も終わってしまうので、自分に返ってくるものだと思ってやっています。だから、「いいことをしてあげた」とかいう気持ちは全くなくて、自分を守るためにやった感覚です。
■「大ヒットはしないけど素晴らしい音楽」も日の目を浴びてほしい
コロナ禍では衣食住、そして医療が最も大切で、音楽などのエンターテインメントは後回しと考える人も多い。対馬はその考えは全く間違いではないとしながらも、「音楽がないと生きていけない人も中には存在する。それが多様性であり、いろいろな考えがあっていいと思う」と考えを述べる。
対馬:音楽に助けられたという人がいる以上、僕らが後回しの存在ではなく最優先事項にもなり得る。それもひとつの考え方だと思うので、これからは「何が大事か」を決めつけるのではなくて、それぞれが尊重し合う社会になっていければいいなと思います。ミュージシャンが音楽を奏でて、僕らが裏方としてそれを広げていく。それで助かる人がいるということは、これまでの災害でも今回の新型コロナでも目の当たりにしているので、僕は自信を持って音楽で人を助けることができていると思っていますし、音楽にはそういう力があるとあらためて感じました。
今後、対馬は「売れる、売れないにかかわらず、素晴らしい音楽を生み出すアーティストが日の目を浴びるような音楽シーンを作りたい」と語る。
対馬:全ての日本人が知っているような素晴らしいミュージシャンが出てくることは変わらす素晴らしいことだと思っているけど、今はそうじゃないかたちでも大きくなっていく人はいます。
サブスクリプションサービスが台頭し、最近はorigami PRODUCTIONSのアーティストは、インスト楽曲をシングルとしてリリースすることも増えたという。
対馬:声が入っていない曲だから生活のジャマをしなくていいときもあって、そういう音楽のファンが世界中で聴いてくれるだけで、数百万回の再生回数になることも現実としてあります。
対馬は「今は本当にいろんな音楽があり、世界中の人たちがそれぞれの好みによって聴いていけば、その積み重ねはすごい数になる」として、「それはいろんな表現で食べていけるミュージシャンが増えるという可能性になる」と希望を口にした。
デジタル音声コンテンツ配信サービス 「SPINEAR」の他、SpotifyやYouTubeなど各ポッドキャストサービスではノーカット版を配信中。
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同番組は、各界のイノベーターが週替りでナビゲートする。第1週目はライゾマティクスの真鍋大度、第2週目はASIAN KUNG-FU GENERATION・後藤正文、第3週目は女優で創作あーちすとの「のん」、第4週目はクリエイティブディレクター・小橋賢児。
【この記事の放送回をradikoで聴く】(2020年6月7日28時59分まで)
PC・スマホアプリ「radiko.jpプレミアム」(有料)なら、日本全国どこにいてもJ-WAVEが楽しめます。番組放送後1週間は「radiko.jpタイムフリー」機能で聴き直せます。
【番組情報】
番組名:『INNOVATION WORLD ERA』
放送日時:日曜 23:00-23:54/SPINEAR、Spotify、YouTubeでも配信
オフィシャルサイト: https://www.spinear.com/shows/innovation-world-era/