「ニュースは無料で読めるもの」という感覚、なぜ広まった? 大手新聞社とヤフーの攻防を描く一冊『2050年のメディア』

J-WAVEで放送中の番組『BKBK(ブクブク)』(ナビゲーター:大倉眞一郎、原カントくん)。本や映画に詳しい大倉眞一郎と、複数のメディアに携わる編集者・プロデューサーの原カントくんが、大人が興味を惹かれるモノについて縦横無尽に語り合う。

1月28日(火)のオンエアでは、大倉が高橋秀実 の『パワースポットはここですね』(新潮社)を、原が下山 進の『2050年のメディア』(文藝春秋)を紹介した。

■そもそもパワースポットって何?

まずは大倉が、日本人の心の深層に迫った高橋秀実『パワースポットはここですね』を紹介した。

大倉:この本は「パワースポットってよくわからない」と思った高橋さんが「パワースポットって何か」を探す全国の旅をするんです。各地のパワースポットに行き、そこに訪れた人たちに「なぜここに来たのですか?」と話をしながら周辺の事実を確認していくわけです。
:パワースポットって言われるからには、それぞれ由縁があるんでしょうね。
大倉:それが、高橋さんが調べれば調べるほど怪しいんです(笑)。たとえば、高橋さんが2014年に世界遺産に登録された群馬県の富岡製糸場に訪れたとき、(ある)女性に「世界遺産に登録されたけど、どうですか?」と訊くと「迷惑でしょうがない」と言われたそうです。なんでも「世界遺産になったことでメンテナンスとかすごくお金がかかるんだ」って。お金を落とす人がいればいいんだけどそういうものもない。ただ、ジャマなだけだと。

その女性の発言などから高橋は「パワーがもらえるからパワースポットではなくて、パワースポットだからパワーがもらえるんだ」と気付くという。

大倉:ところが、みんなが勝手にパワースポットを作ってしまったものだから、なんだかわからないものがたくさんあるんです。

高橋は「パワースポット」という言葉がどこから来たのか疑問に思い、それは1970年代〜80年代にエスパー少年と世間を騒がせた清田益章さんに行き着いたという。

大倉:ある日、清田くんが荒川の土手を歩いていたときに「あるポイントに来るとなんだか自分の心が高揚する」と感じたそうで、ある10〜15メートルの間だけそう感じるとわかったらしいんです。「ここはスポットライトが当たっているような場所だ」と。それで清田くんが「パワースポット」と名前を付けたみたいです。この本では、そういった「えっ!?」みたいな話を高橋さんが掘り返してくれます。でも、パワースポットって宗教じゃないから高橋さんは「感じるものは救われる」と書いています。

大倉は『パワースポットはここですね』を持って、1月に伊勢神宮へ初詣に行ったと話す。

:伊勢神宮は代表的なパワースポットですよね。
大倉:でも、僕は特にここで気分が高揚するとかはなかったけど、内宮はなんとなく気持ちがいいんですよ。他にもいろいろと社があるから、まわろうとしたときに、石が縄で囲われている場所があり、ここでたくさんの人が手をかざしていたんです。

この本で、高橋もその光景が不思議だったようで、手をかざす人たちに「何をしているんですか?」と訊いたところ「ここはパワースポットだから手が温かくなるんです。何か感じませんか?」と言われたが高橋は何も感じなかったという。

大倉:よく調べると、そこはおはらいの場所であってパワースポットではなかったみたいなんです。
:そうなんですか(笑)。
大倉:あの場所は内宮の正殿に入る前に汚れを落とす場所らしいんです。それをみんな勘違いしてパワースポットだと思って、手をかざしている(笑)。パワースポットを信じるか信じないかは個人の自由だけど、この本は意外な発見があると思うのでぜひ楽しんでほしいですね。


■大手新聞社とヤフーとの戦い

続いて、原は下山 進の『2050年のメディア』を紹介した。

:下山さんが慶應義塾大学総合政策学部で立ち上げた講座をまとめた本なんですけど、読み進めると教科書的な話ではなくて無類に面白いスペクタクルな一冊なんです。

この本には「2050年にメディアがどうなっているか」はあまり書かれず、今のメディア業界にいる大手新聞がどうデジタルメディアと戦ってきたかを綿密な取材と調査によって描かれている。

:『2050年のメディア』は1996年にYahoo! JAPAN(以下「ヤフー」)が「Yahoo!ニュース」を始めてから、2000年代において朝日新聞、日本経済新聞、読売新聞、そしてヤフーがいかなる攻防を繰り広げたかという三国志ならぬ、四国志みたいな本なんです。

原はこの本で、2001年8月に読売新聞がヤフーにニュースを提供し始めたことが分岐点だったと知ったという。

:ヤフーなど大手ポータルサイトは自分たちでニュースを作らず、基本的には新聞社からニュースをもらっているんですよね。2001年当時、過去最多の発行部数があった読売新聞は、ヤフーをゾウとアリくらいの存在でしか見ていなかったので、深く考えていませんでした。そのときに読売新聞は広告をバーターに530万円でヤフーに情報提供を始めたそうです。そこからニュースは無料で読めるものだと世の中に広がったと思うんですよね。
大倉:そこから恐ろしい時代になったんだよね。
:そのあと、勢いを増すヤフーに脅威を抱いた読売新聞は、ヤフーをたたきつぶす作戦に出たんです。当時のヤフーの交渉担当責任者である読売新聞の室次長がライバル他社の朝日新聞と日本経済新聞と交渉して、ヤフーをつぶそうと提案したそうです。

「ヤフーにニュースを渡さない」と考えた読売新聞、朝日新聞、日本経済新聞は3社連合「ANY」を設立し、2008年に新聞読み比べサイト「あらたにす」のサービスを開始した。

:あとはヤフーにニュースを提供することをやめれば計画が完了するはずだったのに、ヤフーの親会社であるソフトバンクの孫 正義社長が当時の読売新聞のグループ社長に「なんとかヤフーに読売新聞のニュースを配信し続けてくれ」とゴリ押しして、そこで読売側の対応が及び腰だったために、それからもニュースが無料で配信され続けたとこの本には書かれています。

その流れのなか、日本経済新聞だけは売り上げを落としていなかったという。

:日本経済新聞だけは当時から、自分たちのコンテンツは3割しかヤフーに提供しないという3割ルールを設けていたので、早くデジタルに舵を切れたんです。
大倉:なるほどね。
:今、日本経済新聞のデジタル版は好調で、唯一売り上げを落としていないみたいです。ただ、ここで面白いのは、当時のヤフーの交渉担当責任者だった読売新聞の室次長が今は読売新聞の事実上のトップになっているので、その方がヤフーにリベンジを図るのではないかと思っているんです。そのときがもしかしたら2050年なのかもしれません。
大倉:その反撃ののろしは何になるんだろう。
:全ての新聞社がデジタルにニュース配信をしないことじゃないですかね。ニュースは無料で読めることが当たり前になっているけど、実際は取材する人たちが必死になってつかんだニュースなので、その価値があらためて見直される時代なのかなと思います。

2050年、ニュースの価値はどのように変化しているだろうか。そんな想像もしながらぜひ『2050年のメディア』を手にとってほしい。

J-WAVE『BKBK』は、本、旅、映画、音楽など、大人たちが興味を惹かれるものについて大倉眞一郎と原カントくんが語り合う。放送は火曜の26時30分から。お聴き逃しなく!

【番組情報】
番組名:『BKBK』
放送日時:毎週火曜 26時30分-27時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/bkbk/

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