動物が恋愛対象になる人たちがいる…『聖なるズー』は自分の世界が変わる衝撃作

J-WAVEで放送中の番組『BKBK(ブクブク)』(ナビゲーター:大倉眞一郎、原カントくん)。本や映画に詳しい大倉眞一郎と、複数のメディアに携わる編集者・プロデューサーの原カントくんが、大人が興味を惹かれるモノについて縦横無尽に語り合う。

2月18日(火)のオンエアでは、原が「最近読んだ本で一番の衝撃作」と話す濱野ちひろの『聖なるズー』(集英社)を紹介した。


■読んだあとに動物性愛者の見方が変わっていた

昨年、第17回開高健ノンフィクション賞を授賞した『聖なるズー』。この本は「動物とのセックス」をテーマに綴られている。

:結論からするとこの本を読んでよかったです。いい本の条件は、読む前と読んだあとの自分が変わっていることだと思うんです。『聖なるズー』は読む前と読んだ後で動物性愛者(ズーフィリア)の見方がまるっきり変わりました。

作者の濱野は性暴力に苦しんだ経験があり、それがこの作品の出発点になったという。

:濱野さんは大学生くらいから付き合っていた男性に、10年間に渡って激しいDVを受けていた。言葉の暴力や暴力的なセックスも強いられ、濱野さんは肉体的にも精神的にも彼の支配下にあったようです。

当時は警察がDVに対してそこまで介入しない時代だった。その状況で濱野さんが取った行動は、彼と結婚することだった。

:結婚したあとにDVを受けたら、その瞬間に家族に伝えて法的に彼と別れる手続きを取ろうと。だから結婚してから彼がDVをしてくることを待ち続けて、証拠を掴んで別れたそうです。そのときに彼女は異性に対しての恋愛やセックスが嫌になってしまい、「愛とかセクシャリティ」を研究するために京都大学大学院に入って、そこの先生に自分のバックグラウンドを話したら「獣姦をやってみたら」と提案され、動物性愛を研究することになったそうです。

濱野が動物性愛について調べると、ドイツが動物性愛に盛んな国だと知ったという。

:動物性愛と獣姦は違うみたいです。獣姦は動物を性欲のはけ口として使う一方で、動物性愛は本当のパートナーとして動物を愛することで、セックスをしないこともあるけど、自分と対等の存在であり恋愛対象として扱います。

濱野はドイツ渡り、動物性愛者の団体の人たちと生活を共にした記録を『聖なるズー』に綴っている。

:テーマだけ見ると「うわっ」ってなる人もいると思うけど、濱野さんはとても真面目で精巧な文章を書かれているので、「うわっ」って感じだったのに読み終わると全く違う自分になっている。そういう気持ちになっていくんです。濱野さんがドイツに降り立ったとき、迎えに来てくれた動物性愛者の団体の人に「俺の奥さんだよ」って犬を紹介されたそうで、それを読むと「えっ」って戸惑うんだけど、その人はパートナーとしてその犬を愛していることがだとだんだんわかってくるんです。
大倉:でも、犬がどう思っているかはわからないよね。
:濱野さんは動物性愛者の人に「犬の気持ちってわからないですよね」って質問したら「犬がセックスをしたいときってわかるんだよ」って言って、どうやら犬が性欲を感じたときをわかってくるみたいなんです。

濱野が動物性愛者に「どうして動物を愛するのか」と質問。すると、「動物はうそをつかない。ありのままで私を受け入れてくれるから」という返答があったという。

:深い言葉です。濱野さんはDVをずっと受けて、いろんなものに不信感を抱いていた。そんな濱野さん自身の世界が広がるというか、自分の恋愛とかセクシャリティの感覚がどんどん揺さぶられていくさまが『聖なるズー』で綴られているんです。読んでいる僕自身も同じ人として(その感覚は)否定できるものじゃないなって気持ちになりました。

原が衝撃を受けた『聖なるズー』を手に取り、愛について深く考えてみてほしい。

大倉は巨匠テレンス・マリック監督の最新映画『名もなき生涯』を紹介し、「構図が完璧すぎて息苦しくなる」と絶賛した。

J-WAVE『BKBK』は、本、旅、映画、音楽など、大人たちが興味を惹かれるものについて大倉眞一郎と原カントくんが語り合う。放送は火曜の26時30分から。お聴き逃しなく!

【番組情報】
番組名:『BKBK』
放送日時:毎週火曜 26時30分-27時
オフィシャルサイト: https://www.j-wave.co.jp/original/bkbk/

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