J-WAVEで放送中の番組『RADIO SWITCH』。この番組は【Listen to the Magazine, Reading Radio 雑誌を聴く、ラジオを読む。】をコンセプトに、カルチャーマガジン『SWITCH』、旅の雑誌『Coyote』、新しい文芸誌『MONKEY』の3つの雑誌とゆるやかに連動しながらお送りしています。
6月29日(土)のオンエアでは、『SWITCH』編集長・新井敏記さんと谷川俊太郎さんが、谷川さんがこの春に出版した詩集『普通の人々』について語り合いました。
【この記事の放送回をradikoで聴く(2019年7月6日28時59分まで)】
■新井敏記が谷川俊太郎のすごさを再確認した『普通の人々』
これまで新井さんは、谷川さんに幾度も詩を書いてもらってきていました。そこで新井さんが、それらの詩をまとめて「一冊の本にしたい」と谷川さんに提案したところ、谷川さんは「新しい書き下ろしの詩集を出したい」と言いました。それがこの『普通の人々』でした。
新井:まず「普通の人々」っていう言葉、なかなかタイトルとしてはつけがたい言葉ですよね?
谷川:それはアメリカ映画のタイトルですよね。内容はぜんぜん覚えてないんだけど(笑)。タイトルだけがすごく頭に残ってたんです。「普通の人々」っていうのがずっと頭の中にあったときに、佐野洋子が『ふつうがえらい』って本を書いたでしょ?
新井:はい。
谷川:あの人は事あるごとに「普通がえらい」と思ってる人なんです。だけど「何が普通なのか」っていうと、誰もわかってないじゃないですか。だから僕は、わかってないんだけど、なんとなく普通の人々というイメージが、昔は「大衆」って言ってた「大衆」のことなんだろうと思って、ひとりひとり違う人なんだけど、そういう人たちが集まって世界を支えてるんだ、みたいな。プロレタリアートとは違う意味合いで使ってます。
谷川さんの思う「普通」とは、「バラエティがあるものの集まり」。新井さんもこの詩集を読んで初めてそれを感じたそうです。
新井:「普通」って言葉はある意味、平凡だったり単色だったりしてて、ややもすると否定的な言葉に近いんですが、谷川さんによって初めて色を与えられた感じ、自由を与えられた感じがします。
新井さんは『普通の人々』を読んで、普通の人々はそうでない人々に引け目を感じさせないようにしていて、それが偽善であることにも薄々気づいている……というようなメッセージを受け取り、谷川さんのすごさを改めて感じたと言います。谷川さんはこれに、「半分、冗談なんですけどね」と笑って答えました。
谷川:ただすんなり読んでもらえるだけでは詩はおもしろくないから、どこかに抵抗するようなものを入れたいっていうのは常にあります。それなんかも、そういうことに影響されて書けたんじゃないのかな。
■登場人物に名前をつけた理由
『普通の人々』には、代名詞を含めて固有名詞が120個ほど出てきます。これまで谷川さんは固有名詞を使わず「ぼく」や「わたし」を多く使い、それが読者に共振するカタチになっていたのですが、今回は様々な固有の名前が出てきます。
谷川:小説だと主人公とか、そういう人たちの名前が決まったらそこから物語が始まるわけでしょ。だけどこの場合には、名前だけあって場面があるだけなんですよね。物語は始まらないの。だから物語を始めるのは読者だっていうふうに簡単に考えちゃってて、だから特に変な名前がないでしょ? わりと平凡な名前が多いんですよ。僕は名前を考えるのが苦手でね。昔、ラジオドラマを書いてた頃に、やっぱり登場人物の名前を考えなきゃいけなわけですよ。それがめんどくさくて「男1」とか「男2」とかにしてたんだけど、どうしても必要なときは、昔は分厚い電話帳があったじゃないですか。あれがすごい便利だったのね。
電話帳の中にある名前の中から、ときに適当に、ときに気に入った名前を選んでいたと明かした谷川さん。しかし現代はそれがないため、「今回は名前を考えるのがめんどくさかった」と話します。
新井:「男1」とかではなく、名前をつけた場合ってやっぱり主人公が谷川さんに何か呼びかけることってあるんでしょうか?
谷川:それはぜんぜんないですね。別にね。ただ人間というのはいくらでも抽象化できるわけじゃないですか。でも姓名を与えると抽象化に歯止めがかかりますよね。
新井:はい。
谷川:やっぱり読者としてはイメージを作りやすいんだろうなって思いますね。それを利用しようという気はあったんですけどね。
新井:今回初めてそれに気づきました。今までは谷川さんの呼びかけみたいな「あなた」とか「わたし」っていうところで同化していくんですが、今回は近しい人に同化していくっていう。それで動き出し始めるっていうカタチがものすごくおもしろかったです。
谷川さんは登場人物に具体的な名前を与えることで、読者がそれぞれ自由に想像力を働かせ、登場人物たちに「この人、知ってる」という感覚を持つことを期待していたそうです。
谷川:「小説が物語だとすると、詩は場面」っていう話をこの前したと思うんだけど、場面っていうのは深みがなきゃダメなんですよね。だから場面の中に、一種の意識の深みに、どこまで登場人物の姿で迫れるか、みたいなことはちょっと考えてたんですけどね。
87歳の谷川さんが新たな手法に挑戦した詩集『普通の人々』。まだ手に取っていないという人はもちろん、すでに読んだ人も今回の話を聞いて読み返してみると新たな発見ができるかもしれません。
【この記事の放送回をradikoで聴く(2019年7月6日28時59分まで)】
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【番組情報】
番組名:『RADIO SWITCH』
放送日時:土曜 23時-24時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/radioswitch/about.html
6月29日(土)のオンエアでは、『SWITCH』編集長・新井敏記さんと谷川俊太郎さんが、谷川さんがこの春に出版した詩集『普通の人々』について語り合いました。
【この記事の放送回をradikoで聴く(2019年7月6日28時59分まで)】
■新井敏記が谷川俊太郎のすごさを再確認した『普通の人々』
これまで新井さんは、谷川さんに幾度も詩を書いてもらってきていました。そこで新井さんが、それらの詩をまとめて「一冊の本にしたい」と谷川さんに提案したところ、谷川さんは「新しい書き下ろしの詩集を出したい」と言いました。それがこの『普通の人々』でした。
新井:まず「普通の人々」っていう言葉、なかなかタイトルとしてはつけがたい言葉ですよね?
谷川:それはアメリカ映画のタイトルですよね。内容はぜんぜん覚えてないんだけど(笑)。タイトルだけがすごく頭に残ってたんです。「普通の人々」っていうのがずっと頭の中にあったときに、佐野洋子が『ふつうがえらい』って本を書いたでしょ?
新井:はい。
谷川:あの人は事あるごとに「普通がえらい」と思ってる人なんです。だけど「何が普通なのか」っていうと、誰もわかってないじゃないですか。だから僕は、わかってないんだけど、なんとなく普通の人々というイメージが、昔は「大衆」って言ってた「大衆」のことなんだろうと思って、ひとりひとり違う人なんだけど、そういう人たちが集まって世界を支えてるんだ、みたいな。プロレタリアートとは違う意味合いで使ってます。
谷川さんの思う「普通」とは、「バラエティがあるものの集まり」。新井さんもこの詩集を読んで初めてそれを感じたそうです。
新井:「普通」って言葉はある意味、平凡だったり単色だったりしてて、ややもすると否定的な言葉に近いんですが、谷川さんによって初めて色を与えられた感じ、自由を与えられた感じがします。
新井さんは『普通の人々』を読んで、普通の人々はそうでない人々に引け目を感じさせないようにしていて、それが偽善であることにも薄々気づいている……というようなメッセージを受け取り、谷川さんのすごさを改めて感じたと言います。谷川さんはこれに、「半分、冗談なんですけどね」と笑って答えました。
谷川:ただすんなり読んでもらえるだけでは詩はおもしろくないから、どこかに抵抗するようなものを入れたいっていうのは常にあります。それなんかも、そういうことに影響されて書けたんじゃないのかな。
■登場人物に名前をつけた理由
今夜番組に登場した #谷川俊太郎(@ShuntaroT)さん、この春長編4作品を含む、新作書き下ろし詩集を出版されました。詳細は公式HPでご確認ください。
— J-WAVE 『RADIO SWITCH』 (@RADIOSWITCH_813) 2019年6月29日
⇒https://t.co/DeHkm5q83O
今夜の放送を聞き逃した方は #radiko のタイムフリーでお楽しみください⇒https://t.co/mlri8Zt6Ze#radioswitch813 #jwave pic.twitter.com/uMyyl7c2dO
『普通の人々』には、代名詞を含めて固有名詞が120個ほど出てきます。これまで谷川さんは固有名詞を使わず「ぼく」や「わたし」を多く使い、それが読者に共振するカタチになっていたのですが、今回は様々な固有の名前が出てきます。
谷川:小説だと主人公とか、そういう人たちの名前が決まったらそこから物語が始まるわけでしょ。だけどこの場合には、名前だけあって場面があるだけなんですよね。物語は始まらないの。だから物語を始めるのは読者だっていうふうに簡単に考えちゃってて、だから特に変な名前がないでしょ? わりと平凡な名前が多いんですよ。僕は名前を考えるのが苦手でね。昔、ラジオドラマを書いてた頃に、やっぱり登場人物の名前を考えなきゃいけなわけですよ。それがめんどくさくて「男1」とか「男2」とかにしてたんだけど、どうしても必要なときは、昔は分厚い電話帳があったじゃないですか。あれがすごい便利だったのね。
電話帳の中にある名前の中から、ときに適当に、ときに気に入った名前を選んでいたと明かした谷川さん。しかし現代はそれがないため、「今回は名前を考えるのがめんどくさかった」と話します。
新井:「男1」とかではなく、名前をつけた場合ってやっぱり主人公が谷川さんに何か呼びかけることってあるんでしょうか?
谷川:それはぜんぜんないですね。別にね。ただ人間というのはいくらでも抽象化できるわけじゃないですか。でも姓名を与えると抽象化に歯止めがかかりますよね。
新井:はい。
谷川:やっぱり読者としてはイメージを作りやすいんだろうなって思いますね。それを利用しようという気はあったんですけどね。
新井:今回初めてそれに気づきました。今までは谷川さんの呼びかけみたいな「あなた」とか「わたし」っていうところで同化していくんですが、今回は近しい人に同化していくっていう。それで動き出し始めるっていうカタチがものすごくおもしろかったです。
谷川さんは登場人物に具体的な名前を与えることで、読者がそれぞれ自由に想像力を働かせ、登場人物たちに「この人、知ってる」という感覚を持つことを期待していたそうです。
谷川:「小説が物語だとすると、詩は場面」っていう話をこの前したと思うんだけど、場面っていうのは深みがなきゃダメなんですよね。だから場面の中に、一種の意識の深みに、どこまで登場人物の姿で迫れるか、みたいなことはちょっと考えてたんですけどね。
87歳の谷川さんが新たな手法に挑戦した詩集『普通の人々』。まだ手に取っていないという人はもちろん、すでに読んだ人も今回の話を聞いて読み返してみると新たな発見ができるかもしれません。
【この記事の放送回をradikoで聴く(2019年7月6日28時59分まで)】
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【番組情報】
番組名:『RADIO SWITCH』
放送日時:土曜 23時-24時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/radioswitch/about.html