J-WAVEで放送中の番組『RADIO SWITCH』。この番組では、カルチャーマガジン『SWITCH』、旅の雑誌『Coyote』、新しい文芸誌『MONKEY』の3つの雑誌とゆるやかに連動。3月14日(土)のオンエアでは、作家の原田マハに『SWITCH』の編集長の新井敏記がロングインタビューを敢行した。
■『SWITCH』や『Coyote』は、大好きな雑誌
原田マハは会社員、美術館勤務などを経て『カフーを待ちわびて』(宝島社)で、第1回日本ラブストーリー大賞を受賞。『楽園のカンヴァス』(新潮社)など、アートを題材とした小説を次々と発表し、ベストセラーとなった。
原田と新井の最初の出会いは、『Coyote』が復刊した2012年。原田さんに巻末のエッセイを寄稿してもらったことがきっかけだった。原田の当時の担当編集者から「復刊の記念すべき号なので、なにか背中を押していただけるようなものを書いていただけませんか」と依頼を受けたそうだ。
原田:『SWITCH』や『Coyote』って、今も大好きな雑誌なんです。日本のメディアのなかで非常に独特な立ち位置で、ほかにないユニークな質を持っている雑誌だなと思っていたので、そんな風にお声をかけていただいたことをとてもうれしく思ったんです。自分自身も「これからだぞ」という思いもあったし、『Coyote』の復刊を喜ばれる読者の方もたくさんいらっしゃると思ったので、なにかその、ギフトのような形でお送りできたらなと思いました。
■小説家になるきっかけはアンリ・ルソーへの思い
原田が小説家になろうと思ったきっかけについて尋ねると、「なんでしょうね……」と、思いを巡らせながら回答をした。
原田:自分で思い出してみても、とても不思議な気がするんですが「必ず小説家になる」と意識したことは、実はあまりないんです。もちろん、子どものころから物語を読むのが好きでしたし、物語を読むのと同じぐらい好きだったのは絵を観ることでした。自分も絵や漫画を描いたりしまして、物語とアートというものが幼いころから常に自分のそばにあったというのが、大きな土台としてはあると思います。
はっきりと「小説家になろう」と意識するのは、もっと時間が経ってからだったというが、“芽生え”となる出来事はあった。
原田:21歳のときにアンリ・ルソーの画集と出会ったんです。あるとき友だちから「この画家知ってる?」と画集を見せてもらって、失礼ながら「下手すぎないか?」と思って。技術的には、いわゆる「うまい絵」とは言えない。だけど、ちょっと笑っちゃうような感じと「なんかアイツ憎めないよね」みたいな泣き笑いのような感じが画集から漂ってきて、「この画家は只者じゃないな」と感じたんです。それで興味を持ってルソーの本や画集を手に取るようになったときに、一冊の本と出会いました。
その本は、フランス文学で美術研究者の岡谷公二による『アンリ・ルソー 楽園の謎』(平凡社)だった。
原田:それを読んだら、ルソーという人がものすごく人間臭い画家で「特別なものを持った人なんだ」と感じて、夢中になりました。なぜそう思ったのかはわからないんですが「この人を助けてあげたいな」という気持ちになったんです。当然亡くなって何十年も経っていますし、いまさら私がどうこうしても助けられないんですが、それでもなにか、遠いところに「ルソーの復権」みたいなイメージがあったんです。たぶん私はなんらかのクリエイターになるだろうから、そのなかにルソーがいてほしいなという、それがそもそも『楽園のカンヴァス』を書く根っこのところにありました。
■日常生活のなかに潜んでいる小さなドラマを描く短編集
原田の新作短編集『〈あの絵〉のまえで』(幻冬舎)は、全部で6編からなる短編が収められた小説集。それぞれの章にモチーフとなる絵画作品が登場する。
原田:物語自体は非常に小さな話で、誰の身にも、誰の人生にも起こり得るような、とてもささやかな話。だけどそのささやかな生活のなかで、ふとした瞬間にアートの前に歩み出て、なにかアートとコンタクトをするという物語になっています。だから私にとっても、非常に思い描きやすく書いています。意外と日常生活のなかに潜んでいる小さなドラマというのはもっとも心を動かすというか、そういう風に思いながら書きました。
新井:たとえば僕らにとって、なにか忘れている世界を引き出してくれます。美術館に行って、なにか1枚の絵をじっと観るということの感動みたいなものを、この短編を読みながら思い出して、旅に出たくなりました。ひろしま美術館や大原美術館には行ったことがあるんですが、こういう形の見方を忘れていたという感じがしました。忘れていた断片のかけらをずっと僕たちに見せてくれたという感じがして、かつ希望があります。それはたぶん、原田さんのライティングスタイルのいちばんの特徴と同時に、すばらしいところだと思います。主人公とそれを読んでいる読者が同時に体験できるという、稀有(けう)な例なんじゃないかと思っています。
『RADIO SWITCH』では、スイッチ・パブリッシングの紙面に登場する様々な著名人、アーティスト、作家たちのロングインタビューやドキュメント企画をおこなう。放送は毎週金曜日の23時から。
【この記事の放送回をradikoで聴く】(2020年3月21日28時59分まで)
PC・スマホアプリ「radiko.jpプレミアム」(有料)なら、日本全国どこにいてもJ-WAVEが楽しめます。番組放送後1週間は「radiko.jpタイムフリー」機能で聴き直せます。
【番組情報】
番組名:『RADIO SWITCH』
放送日時:毎週日曜 23時-24時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/radioswitch/
■『SWITCH』や『Coyote』は、大好きな雑誌
原田マハは会社員、美術館勤務などを経て『カフーを待ちわびて』(宝島社)で、第1回日本ラブストーリー大賞を受賞。『楽園のカンヴァス』(新潮社)など、アートを題材とした小説を次々と発表し、ベストセラーとなった。
原田と新井の最初の出会いは、『Coyote』が復刊した2012年。原田さんに巻末のエッセイを寄稿してもらったことがきっかけだった。原田の当時の担当編集者から「復刊の記念すべき号なので、なにか背中を押していただけるようなものを書いていただけませんか」と依頼を受けたそうだ。
原田:『SWITCH』や『Coyote』って、今も大好きな雑誌なんです。日本のメディアのなかで非常に独特な立ち位置で、ほかにないユニークな質を持っている雑誌だなと思っていたので、そんな風にお声をかけていただいたことをとてもうれしく思ったんです。自分自身も「これからだぞ」という思いもあったし、『Coyote』の復刊を喜ばれる読者の方もたくさんいらっしゃると思ったので、なにかその、ギフトのような形でお送りできたらなと思いました。
■小説家になるきっかけはアンリ・ルソーへの思い
原田が小説家になろうと思ったきっかけについて尋ねると、「なんでしょうね……」と、思いを巡らせながら回答をした。
原田:自分で思い出してみても、とても不思議な気がするんですが「必ず小説家になる」と意識したことは、実はあまりないんです。もちろん、子どものころから物語を読むのが好きでしたし、物語を読むのと同じぐらい好きだったのは絵を観ることでした。自分も絵や漫画を描いたりしまして、物語とアートというものが幼いころから常に自分のそばにあったというのが、大きな土台としてはあると思います。
はっきりと「小説家になろう」と意識するのは、もっと時間が経ってからだったというが、“芽生え”となる出来事はあった。
原田:21歳のときにアンリ・ルソーの画集と出会ったんです。あるとき友だちから「この画家知ってる?」と画集を見せてもらって、失礼ながら「下手すぎないか?」と思って。技術的には、いわゆる「うまい絵」とは言えない。だけど、ちょっと笑っちゃうような感じと「なんかアイツ憎めないよね」みたいな泣き笑いのような感じが画集から漂ってきて、「この画家は只者じゃないな」と感じたんです。それで興味を持ってルソーの本や画集を手に取るようになったときに、一冊の本と出会いました。
その本は、フランス文学で美術研究者の岡谷公二による『アンリ・ルソー 楽園の謎』(平凡社)だった。
原田:それを読んだら、ルソーという人がものすごく人間臭い画家で「特別なものを持った人なんだ」と感じて、夢中になりました。なぜそう思ったのかはわからないんですが「この人を助けてあげたいな」という気持ちになったんです。当然亡くなって何十年も経っていますし、いまさら私がどうこうしても助けられないんですが、それでもなにか、遠いところに「ルソーの復権」みたいなイメージがあったんです。たぶん私はなんらかのクリエイターになるだろうから、そのなかにルソーがいてほしいなという、それがそもそも『楽園のカンヴァス』を書く根っこのところにありました。
■日常生活のなかに潜んでいる小さなドラマを描く短編集
原田の新作短編集『〈あの絵〉のまえで』(幻冬舎)は、全部で6編からなる短編が収められた小説集。それぞれの章にモチーフとなる絵画作品が登場する。
原田:物語自体は非常に小さな話で、誰の身にも、誰の人生にも起こり得るような、とてもささやかな話。だけどそのささやかな生活のなかで、ふとした瞬間にアートの前に歩み出て、なにかアートとコンタクトをするという物語になっています。だから私にとっても、非常に思い描きやすく書いています。意外と日常生活のなかに潜んでいる小さなドラマというのはもっとも心を動かすというか、そういう風に思いながら書きました。
新井:たとえば僕らにとって、なにか忘れている世界を引き出してくれます。美術館に行って、なにか1枚の絵をじっと観るということの感動みたいなものを、この短編を読みながら思い出して、旅に出たくなりました。ひろしま美術館や大原美術館には行ったことがあるんですが、こういう形の見方を忘れていたという感じがしました。忘れていた断片のかけらをずっと僕たちに見せてくれたという感じがして、かつ希望があります。それはたぶん、原田さんのライティングスタイルのいちばんの特徴と同時に、すばらしいところだと思います。主人公とそれを読んでいる読者が同時に体験できるという、稀有(けう)な例なんじゃないかと思っています。
『RADIO SWITCH』では、スイッチ・パブリッシングの紙面に登場する様々な著名人、アーティスト、作家たちのロングインタビューやドキュメント企画をおこなう。放送は毎週金曜日の23時から。
【この記事の放送回をradikoで聴く】(2020年3月21日28時59分まで)
PC・スマホアプリ「radiko.jpプレミアム」(有料)なら、日本全国どこにいてもJ-WAVEが楽しめます。番組放送後1週間は「radiko.jpタイムフリー」機能で聴き直せます。
【番組情報】
番組名:『RADIO SWITCH』
放送日時:毎週日曜 23時-24時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/radioswitch/