愛知県で8月1日(木)より、国内最大級の現代アートの祭典「あいちトリエンナーレ2019」が開催されます。美術だけでなく、演劇、音楽、ダンスなど、さまざまな芸術を扱うことが特徴です。
同イベントは、ジャーナリスト・津田大介さんが芸術監督を務めます。「参加アーティストの男女比を同数にする」と発表したことでも、話題を呼びました。
J-WAVEで放送中の番組『TRUME TIME AND TIDE』(ナビゲーター:市川紗椰)では、5月25日(土)のオンエアにて、津田さんをゲストに招きました。「あいちトリエンナーレ2019」のテーマや、なぜジェンダー平等にこだわった理由について伺いました。
■なぜ「情の時代」をテーマにしたのか
「あいちトリエンナーレ2019」のテーマは「情の時代」です。
津田:僕が芸術監督に選ばれたのは2017年で、世界中が混乱していたと思うんです。イギリスがEUを離脱しようとしたり、アメリカではまさかのトランプ大統領が誕生したり。国内外のいろいろなニュースを見ていて、みんなが感情的になっているように感じました。ロジカルな説得よりも、感情的な訴えの方が力を持っている。そんな状況を見て「感情の時代だな」と感じました。
なぜ感情的にさせられているのかと考えたときに、テレビやネットなどの情報が影響ではないかと考えました。
津田:感情にも情報にも「情」という漢字が含まれています。語源を調べたところ、「情」には心の動きという感情みたいな意味とは別に、実は「本当のこと」「真実の姿」という意味がありました。そして、訓読みで「情け」と読みます。「情」には大きく分けて3つの意味があるので、アーティストも広い意味で「情」をテーマにいろいろな作品を作れると思い、テーマに決めました。
市川:具体的にアーティストにはどういう方向性で作品を依頼しているんですか?
津田:人々の揺れ動く感情をテーマにした作品でもいいし、情報そのものをテーマにした作品でもいいし、人間の情けを思い出させてくれるような作品でもいい。それら複数にまたがる作品でもいい。そういったコンセプトを説明して制作を依頼しています。
■アート祭で「ジェンダー平等」を打ち出した経緯
「情の時代」について考える上で、差別問題もテーマにとらえ、参加アーティストが決まっていきました。ジェンダーの問題を取り上げる女性作家が多かったことから、気がつくと男女比は6:4に。津田さんがキュレーターに、「もしかして女性作家の人数が多くないですか」と問うと、「“とても多い”です」との回答がありました。
津田「とても多い」という言い方に疑問を感じ、過去の芸術祭や有名美術館の収蔵作品などの男女比を調べたところ、男性がものすごく多かったんです。でも、美術業界を見ると、美大生は7、8割が女性で、芸術祭などに訪れるお客さんも7、8割は女性、また学芸員も7割近くが女性。女性がこんなに多いのに、選ばれる立場の作家は男性ばかりということがわかりました。
市川:美術館の館長もそうですよね?
津田:そうなんです。ジャーナリストの視点からすると、選ぶ側が男性に偏っていることのバイアスが美術業界を歪めている部分があると見えた。何らかの問題提起ができないかと思い、男女比を同数にして、「これは日本初です」と打ち出したら、想定以上の話題になりました。
市川:アーティスト側からはどういう反応ですか?
津田:いろいろな意見があるものの、みなさんおもしろがっているので、僕自身もすごく楽しみです。そうは言っても男性作家も半分いますから。いい意味で男性作家も女性作家もやりがいを感じてくれていると思います。
■女性の未来は日本の未来。そして、世界の未来だ
日本はジェンダーギャップ指数が世界で110位と、非常に遅れています。津田さんは「あいちトリエンナーレ2019」の芸術監督を務めることで、ジェンダー問題により関心を持ったそうです。
津田:経済合理性という点でも男女不平等は解消したほうがいい。例えば、出産を機にキャリアが途絶えてしまった女性が働けるようになると、GDPが増加するというデータもあります。また、経営層で女性の取締役が多い企業はリーマンショック以降の回復の速度が明確に早いというデータもあります。そういった経営層のダイバーシティが非常に重要だというデータも出てきています。女性がどのように社会進出して意思決定する場を増やしていくか、そこが重要じゃないですかね。まずは、いちばん格差になっている男女の問題で女性をエンパワーすることが未来を作っていくことになる。つまり、女性の未来=日本の未来=世界の未来だと思います。
市川:その世界に進むための1歩は何だと思いますか?
津田:ジェンダー問題は女性側の問題だと思われがちですが、決定権がある立場は男性が多いので、男性の問題なんです。だから、決定権がある立場の男性がそれぞれの持ち場で変えていけばいい。僕は今回の芸術祭でそういった立場でもあったので、作家の男女比を同数にしました。決定権がありジェンダー平等に関心のある男性が少しずつ出てきているので、そういう世論をうまく作っていけば、男性も女性も意識が変わってくると思います。
津田さんは「今回のトリエンナーレの成功の駆動力のひとつにジェンダー平等があったとなると、他も真似する」と、意気込みを語りました。8月1日からスタートする「あいちトリエンナーレ2019」にぜひ注目してみてください。
【関連記事】「選ぶ側が男性ばかり」の現状を変えないと、男女平等は成立しない(東浩紀×津田大介 対談)
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【番組情報】
番組名:『TRUME TIME AND TIDE』
放送日時:毎週土曜 21時-21時54分
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/timeandtide/
同イベントは、ジャーナリスト・津田大介さんが芸術監督を務めます。「参加アーティストの男女比を同数にする」と発表したことでも、話題を呼びました。
J-WAVEで放送中の番組『TRUME TIME AND TIDE』(ナビゲーター:市川紗椰)では、5月25日(土)のオンエアにて、津田さんをゲストに招きました。「あいちトリエンナーレ2019」のテーマや、なぜジェンダー平等にこだわった理由について伺いました。
■なぜ「情の時代」をテーマにしたのか
「あいちトリエンナーレ2019」のテーマは「情の時代」です。
津田:僕が芸術監督に選ばれたのは2017年で、世界中が混乱していたと思うんです。イギリスがEUを離脱しようとしたり、アメリカではまさかのトランプ大統領が誕生したり。国内外のいろいろなニュースを見ていて、みんなが感情的になっているように感じました。ロジカルな説得よりも、感情的な訴えの方が力を持っている。そんな状況を見て「感情の時代だな」と感じました。
なぜ感情的にさせられているのかと考えたときに、テレビやネットなどの情報が影響ではないかと考えました。
津田:感情にも情報にも「情」という漢字が含まれています。語源を調べたところ、「情」には心の動きという感情みたいな意味とは別に、実は「本当のこと」「真実の姿」という意味がありました。そして、訓読みで「情け」と読みます。「情」には大きく分けて3つの意味があるので、アーティストも広い意味で「情」をテーマにいろいろな作品を作れると思い、テーマに決めました。
市川:具体的にアーティストにはどういう方向性で作品を依頼しているんですか?
津田:人々の揺れ動く感情をテーマにした作品でもいいし、情報そのものをテーマにした作品でもいいし、人間の情けを思い出させてくれるような作品でもいい。それら複数にまたがる作品でもいい。そういったコンセプトを説明して制作を依頼しています。
■アート祭で「ジェンダー平等」を打ち出した経緯
「情の時代」について考える上で、差別問題もテーマにとらえ、参加アーティストが決まっていきました。ジェンダーの問題を取り上げる女性作家が多かったことから、気がつくと男女比は6:4に。津田さんがキュレーターに、「もしかして女性作家の人数が多くないですか」と問うと、「“とても多い”です」との回答がありました。
津田「とても多い」という言い方に疑問を感じ、過去の芸術祭や有名美術館の収蔵作品などの男女比を調べたところ、男性がものすごく多かったんです。でも、美術業界を見ると、美大生は7、8割が女性で、芸術祭などに訪れるお客さんも7、8割は女性、また学芸員も7割近くが女性。女性がこんなに多いのに、選ばれる立場の作家は男性ばかりということがわかりました。
市川:美術館の館長もそうですよね?
津田:そうなんです。ジャーナリストの視点からすると、選ぶ側が男性に偏っていることのバイアスが美術業界を歪めている部分があると見えた。何らかの問題提起ができないかと思い、男女比を同数にして、「これは日本初です」と打ち出したら、想定以上の話題になりました。
市川:アーティスト側からはどういう反応ですか?
津田:いろいろな意見があるものの、みなさんおもしろがっているので、僕自身もすごく楽しみです。そうは言っても男性作家も半分いますから。いい意味で男性作家も女性作家もやりがいを感じてくれていると思います。
■女性の未来は日本の未来。そして、世界の未来だ
日本はジェンダーギャップ指数が世界で110位と、非常に遅れています。津田さんは「あいちトリエンナーレ2019」の芸術監督を務めることで、ジェンダー問題により関心を持ったそうです。
津田:経済合理性という点でも男女不平等は解消したほうがいい。例えば、出産を機にキャリアが途絶えてしまった女性が働けるようになると、GDPが増加するというデータもあります。また、経営層で女性の取締役が多い企業はリーマンショック以降の回復の速度が明確に早いというデータもあります。そういった経営層のダイバーシティが非常に重要だというデータも出てきています。女性がどのように社会進出して意思決定する場を増やしていくか、そこが重要じゃないですかね。まずは、いちばん格差になっている男女の問題で女性をエンパワーすることが未来を作っていくことになる。つまり、女性の未来=日本の未来=世界の未来だと思います。
市川:その世界に進むための1歩は何だと思いますか?
津田:ジェンダー問題は女性側の問題だと思われがちですが、決定権がある立場は男性が多いので、男性の問題なんです。だから、決定権がある立場の男性がそれぞれの持ち場で変えていけばいい。僕は今回の芸術祭でそういった立場でもあったので、作家の男女比を同数にしました。決定権がありジェンダー平等に関心のある男性が少しずつ出てきているので、そういう世論をうまく作っていけば、男性も女性も意識が変わってくると思います。
津田さんは「今回のトリエンナーレの成功の駆動力のひとつにジェンダー平等があったとなると、他も真似する」と、意気込みを語りました。8月1日からスタートする「あいちトリエンナーレ2019」にぜひ注目してみてください。
【関連記事】「選ぶ側が男性ばかり」の現状を変えないと、男女平等は成立しない(東浩紀×津田大介 対談)
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番組名:『TRUME TIME AND TIDE』
放送日時:毎週土曜 21時-21時54分
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