SF作家・藤井太洋が今後注目するのは遺伝子編集技術「注意しないといけない」

J-WAVEで放送中の番組『TRUME TIME AND TIDE』(ナビゲーター:市川紗椰)。4月13日(土)のオンエアでは、小説『ハロー・ワールド』で「第40回吉川英治文学新人賞」を受賞した、SF作家の藤井太洋さんを迎えました。


■強い言葉を持ちたかった

藤井さんは15歳まで奄美大島で過ごし、都会やテクノロジーに憧れて育ちました。初めてSF小説に触れたのは小学校3年生の頃のこと。公民館の図書室で手にした、ロバート・A・ハインラインの『さまよう都市宇宙船』を子ども向けに書き換えた本でした。一気にその世界に引き込まれたそうです。

大学進学で上京したのち、平田オリザさんの劇団で舞台美術を手伝います。Macintoshで舞台の図面を描いたり完成予想図をCGで作っているうちに、Macintoshで出来る仕事がしたいと思うようになりました。その後、印刷会社でのグラフィックデザインの仕事を経て、ソフトウェアの開発会社に入り、コンピューターのエンジニアになりました。そして2012年、処女作『Gene Mapper』を自主出版して話題になりました。

市川:こちらの作品はどういう経緯で書こうと思いましたか?
藤井:それまで小説を書いたことはなかったんですけど、2011年の震災後、津波で私の同僚の実家も流されたりして、そういう被害があるにもかかわらず、原発事故や放射能一色の報道に変わってしまって違うなと疑問を感じていたんです。そんなとき、ある科学者の方に放射線や放射能について説明されて、その言葉の強さにすごく安心しました。その言葉は彼が正しく科学をやってきたから言えることなんです。自分も同じような強い言葉を持ちたいと思ってフィクションを選びました。
市川:確かにあのときは、科学的根拠がどのくらいあるのか分からない報道がたくさん出ることで不安が増しましたよね。テクノロジーに対する安心感を出したかったんですか?
藤井:真正面から見ないと見えないものがあると言いたかったのと、恐怖は強い感情で、それを誘導するような行為には耳を貸してほしくないと考えました。それで、「環境テロが煽ろうとしているのは恐怖である。恐怖を利用するな」というメッセージを込めた作品になりました。


■情報の真偽の見極めは難しい

藤井さんはアイデアに行き詰まったときは、音楽を聴きながら書くそうです。それでも難しいときはNetflixでSFドラマなどを観て気分転換しているとか。

市川:情報収集はどのようにしていますか?
藤井:書いていて必要になったときはネットで検索していますが、できるだけオリジナルの情報に近いところまで遡って、複数のネタを探して確認した上で書くようにしています。
市川:正しい情報の見分け方を知りたいです。
藤井:本当に難しくて、ダメなときはダメだと諦めるしかないです。この前も、ユダヤ人の裁判の方法で、10人全員が有罪判決を出したら裁判をやり直すという話があるんですが、それのオリジナルが分からないんです。いくら調べても出てこなくて。見つからないから、小説で使えないんです。

藤井さんは、小説を書くために現地取材をするよりは、仕事やプライベートで実際に行ったあとで、その場所について書くことが多いとも明かします。

藤井:『公正的戦闘規範』内の『常夏の夜』はセブ島を舞台にしましたけど、それは妻と旅行をしたあとに書きました。

旅行では街の歴史に注目していて、セブ島では日本とイギリスが取り合った要塞に注目したと教えてくれました。


■遺伝子編集技術に注目

藤井さんが今後注目している技術を伺うと、中国で遂に誕生したデザイナーベビーの話題に。

藤井:CRISPR-Cas9(クリスパー・キャス9)という遺伝子編集技術は、今までの遺伝子組み換えとはまるで違う精度で物事が実行できるので、「何かできる」と思ってしまう可能性が高いんです。遺伝子組み換えのビジネスに投資する人たちは、今まではソフトウェア産業で莫大な富を築いてきた人たちが多いんです。
市川:なるほど。
藤井:ソフトウェアの基本は、信頼できるハードウェアの上で動くプログラムを書き換えていくこと。今回の中国のような胎児に対する遺伝子組み換えのほうが、政治に対する遺伝子組み換えよりも楽で正しいという価値観に繋がりかねないと思っています。ですからすごく注意しないといけない技術です。

最後に、今後成し遂げたい夢を訊きました。

藤井:4歳になる息子がいるので、彼が読める間に児童用のSFを書きたいです。
市川:いいですね!
藤井:宇宙を舞台にした学園モノで、遺伝子組み換えが普通に行われている時代。将来木星で働きたい人は特殊な遺伝子治療を受けてセルロースを消化できるようにならなければいけないとか、将来に対して自分の体をちょっと改造していくというモラトリアムを抱えている人たちがいる。それを当然のものとして受け入れている社会を描いてみたいと思っています。
市川:こんなに具体的に教えてもらえるとは。藤井さんの作品は、普通だったら理解できない技術をものすごく分かりやすく説明してくれますよね。
藤井:SFの技術だけでなく、社会問題というか、働かないと食べていけないという私たちの社会のバグも治したいと思っています。ベーシックインカムが実現している社会を極力書いていきたいなと思っているんですけど、なかなかできないです。

番組では、藤井さんが選曲したTsuyoshi Niwaの『Away and Home』をオンエアしました。Tsuyoshi Niwaさんは、藤井さんの友人のサックスミュージシャンです。

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【番組情報】
番組名:『TRUME TIME AND TIDE』
放送日時:毎週土曜 21時-21時54分
オフィシャルサイト:http://www.j-wave.co.jp/original/timeandtide/

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