J-WAVEで放送中の番組『SONAR MUSIC』(ナビゲーター:藤田琢己)。10月4日(木)のオンエアは、いきものがかりの水野良樹とお届けしました。
「DAILY SESSIONS」のコーナーでは、水野が「いきものがかりの『ありがとう』から考えるJ-POPの5つの魅力」をテーマに語りました。
■J-POPには「様式美」がある
ひとつめの魅力として水野が挙げたのは、J-POPの構成にある「様式美」です。
水野:『ありがとう』が、なんで売れたかわからないんです(笑)。作ったときは自信がなかったんですけど、ありがたいことにヒットして、「なぜヒットしたか」を考えたときに学ばされた楽曲でした。J-POPをイメージしたときに、Aメロ、Bメロ、サビがある3段構成を基調としていて、大サビ、頭サビなどの派生形もありますが、基本は3段構成です。音楽という広大な平野があるとすると、ニッチで珍しい構成なんですよね。
歌謡曲の時代には、3段構成の曲はあまりなかったと水野。
水野:当時の職業作曲家のみなさんは、ジャズやハワイアンなど、欧米のものが背景に多くありました。演歌の人たちも、A、B、サビみたいなものはないんですよ。これはあとに出てきたもので、90年代くらいに定まったんじゃないかな。日本はどこが目立つのか、どこが主役かを指し示す構成に美学があって、お笑いでもフリ、ボケ、ツッコミ、オチという構成がしっかりしていて、それが日本の文化の面白さ。それがJ-POPにも影響しているのではないかと思います。『ありがとう』なんかも、A、B、サビの構成なんですよね。
■「サビがある」のが面白さのひとつ
水野:そもそも普通はAメロ、Bメロと来たらCメロじゃないですか。実際レコーディングの現場で譜面をみると、A、B、Cって書いてあるんです。でも一般的には「サビ」っていうじゃないですか。「サビ」って日本語でしょ? 洋楽だとA、B構成が多かったりして、「ブロック」という印象です。何が言いたいかというと、サビは主役なんです。歌の一部分を、他のブロックとは別のものとして捉えてますよということなんです。
「そこがJ-POPとされる音楽の面白さ」と水野は言います。
水野:これが強化されたのが、僕が青春時代を迎えた90年代で、なぜかというとCMがあったり、タイアップというものとすごく密接に関わっていて、それが世の中にうまくフィットして影響力を及ぼした時代です。CMは15秒だから、15秒に魅力が詰まってないといけない。おいしいところがどこかわかっているのがすごく重要で、サビがあるという構成が大事なのではないかと思います。『ありがとう』も頭サビで、いきなり主役からですからね。
■「母音」を活かすメロディ
水野:日本語という言語を、もともと欧米にあるポップスのメロディに乗っけるのはとても難しいんですよ。今でこそ普通ですが、先人たちが苦労してひな形を作ってくれて成立していることで、その土台の上で僕らは歌を書かせていただいてると思うんです。母音が強調されている言語がなぜ難しいかというと、のっぺりしてリズムが出てこないんです。
一方、「英語は子音が豊富で、言葉にアクセントポイントがある」と続けます。
水野:たとえば『ありがとう』は、ドレミファソと5音ですが、5音で5文字。でも英語は「Thank You」で、2音で済む。ひとつの音に対して1音が基本になると、意味を乗せるのも音を乗せるのもすごく難しい。だからのっぺりとした母音をうまく活かすメロディということで成長していったのがJ-POPです。『ありがとう』も、「ありがとう」、「伝えたくて」、「あなたを」と、全部アクセントポイントが母音の「あ」で、これが一番響くからです。「夏が過ぎ風あざみ」(井上陽水『少年時代』)も、「あの日 あの時 あの場所で」(小田和正『ラブ・ストーリーは突然に』)も、『粉雪』(レミオロメン)も、『愛のままにわがままに 僕は君だけを傷つけない』(B'z)も、全部アクセントポイントが「あ」なんです。母音がちゃんとそろっていて韻を踏んでいるのが重要で、その母音をどう活かすかが、J-POPが成長していく上で大事なポイントじゃないかなと思います。
■J-POPは聴くんじゃない、歌うんだ!
水野:商業音楽も芸術で、鑑賞物として捉えると思うんです。アーティストが作って、聴く側の人は受け身。でも、J-POPが拡大したのは鑑賞物じゃないと思うんです。みんなカラオケとかで歌っていたからで、J-POPの需要のされ方って、リスナーのみなさんが自分の恋人や大切な人を思い出したり、自分を主役としてその歌を聴いているんです。『ありがとう』は売れたんだけど、いやらしい話、CDでもらった印税より、そのあとに続く何年間での印税のほうが大きいのよ(笑)。つまり、みなさんがカラオケ、卒業式、結婚式で歌ってくれたからです。譜面とか楽譜もめちゃくちゃな量が出版されています。これは、聴いているんじゃなくて歌ってくれたことで愛されていったということで、J-POPの需要って、それだと思うんですよ。
■「J-POP」生みの親への願い
実は「J-POP」という言葉はJ-WAVEが生みの親。水野が、J-WAVEへの願いを語りました。
水野:最後は願いですね。J-WAVEが今のJ-POPとは違うものを主軸に置いてきたことを理解しているんですけど、J-POPの言葉がフラットになって意味が変わってきたからこそ、今のJ-POPって、世界では面白いユニークなものになっていると思うんです。J-WAVEの人たちも洋楽と邦楽を分けることを考えていたわけじゃなくて、「いいものを届けたい」と思っていて、その結果ジャンル分けに誤解された部分もあると思うんです。「いいものを届ける」「面白いものを届ける」という基本に戻るなら、今のJ-POPは面白いから、最先端の音楽を伝えてきたJ-WAVEという放送局が、J-POPにさらに新しいイメージをつけて届けていくということがすごく大事。J-WAVEにしかできないことなんじゃないかと思っています。
ユニークな進化を遂げたJ-POP。その魅了や成り立ちを改めて知ることができるオンエアとなりました。また同番組では、「J-POP」の歴史を振り返る特集も。こちらもチェック!
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【番組情報】
番組名:『SONAR MUSIC』
放送日時:月・火・水・木曜 21時-24時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/sonarmusic/
「DAILY SESSIONS」のコーナーでは、水野が「いきものがかりの『ありがとう』から考えるJ-POPの5つの魅力」をテーマに語りました。
■J-POPには「様式美」がある
ひとつめの魅力として水野が挙げたのは、J-POPの構成にある「様式美」です。
水野:『ありがとう』が、なんで売れたかわからないんです(笑)。作ったときは自信がなかったんですけど、ありがたいことにヒットして、「なぜヒットしたか」を考えたときに学ばされた楽曲でした。J-POPをイメージしたときに、Aメロ、Bメロ、サビがある3段構成を基調としていて、大サビ、頭サビなどの派生形もありますが、基本は3段構成です。音楽という広大な平野があるとすると、ニッチで珍しい構成なんですよね。
歌謡曲の時代には、3段構成の曲はあまりなかったと水野。
水野:当時の職業作曲家のみなさんは、ジャズやハワイアンなど、欧米のものが背景に多くありました。演歌の人たちも、A、B、サビみたいなものはないんですよ。これはあとに出てきたもので、90年代くらいに定まったんじゃないかな。日本はどこが目立つのか、どこが主役かを指し示す構成に美学があって、お笑いでもフリ、ボケ、ツッコミ、オチという構成がしっかりしていて、それが日本の文化の面白さ。それがJ-POPにも影響しているのではないかと思います。『ありがとう』なんかも、A、B、サビの構成なんですよね。
■「サビがある」のが面白さのひとつ
水野:そもそも普通はAメロ、Bメロと来たらCメロじゃないですか。実際レコーディングの現場で譜面をみると、A、B、Cって書いてあるんです。でも一般的には「サビ」っていうじゃないですか。「サビ」って日本語でしょ? 洋楽だとA、B構成が多かったりして、「ブロック」という印象です。何が言いたいかというと、サビは主役なんです。歌の一部分を、他のブロックとは別のものとして捉えてますよということなんです。
「そこがJ-POPとされる音楽の面白さ」と水野は言います。
水野:これが強化されたのが、僕が青春時代を迎えた90年代で、なぜかというとCMがあったり、タイアップというものとすごく密接に関わっていて、それが世の中にうまくフィットして影響力を及ぼした時代です。CMは15秒だから、15秒に魅力が詰まってないといけない。おいしいところがどこかわかっているのがすごく重要で、サビがあるという構成が大事なのではないかと思います。『ありがとう』も頭サビで、いきなり主役からですからね。
■「母音」を活かすメロディ
水野:日本語という言語を、もともと欧米にあるポップスのメロディに乗っけるのはとても難しいんですよ。今でこそ普通ですが、先人たちが苦労してひな形を作ってくれて成立していることで、その土台の上で僕らは歌を書かせていただいてると思うんです。母音が強調されている言語がなぜ難しいかというと、のっぺりしてリズムが出てこないんです。
一方、「英語は子音が豊富で、言葉にアクセントポイントがある」と続けます。
水野:たとえば『ありがとう』は、ドレミファソと5音ですが、5音で5文字。でも英語は「Thank You」で、2音で済む。ひとつの音に対して1音が基本になると、意味を乗せるのも音を乗せるのもすごく難しい。だからのっぺりとした母音をうまく活かすメロディということで成長していったのがJ-POPです。『ありがとう』も、「ありがとう」、「伝えたくて」、「あなたを」と、全部アクセントポイントが母音の「あ」で、これが一番響くからです。「夏が過ぎ風あざみ」(井上陽水『少年時代』)も、「あの日 あの時 あの場所で」(小田和正『ラブ・ストーリーは突然に』)も、『粉雪』(レミオロメン)も、『愛のままにわがままに 僕は君だけを傷つけない』(B'z)も、全部アクセントポイントが「あ」なんです。母音がちゃんとそろっていて韻を踏んでいるのが重要で、その母音をどう活かすかが、J-POPが成長していく上で大事なポイントじゃないかなと思います。
■J-POPは聴くんじゃない、歌うんだ!
水野:商業音楽も芸術で、鑑賞物として捉えると思うんです。アーティストが作って、聴く側の人は受け身。でも、J-POPが拡大したのは鑑賞物じゃないと思うんです。みんなカラオケとかで歌っていたからで、J-POPの需要のされ方って、リスナーのみなさんが自分の恋人や大切な人を思い出したり、自分を主役としてその歌を聴いているんです。『ありがとう』は売れたんだけど、いやらしい話、CDでもらった印税より、そのあとに続く何年間での印税のほうが大きいのよ(笑)。つまり、みなさんがカラオケ、卒業式、結婚式で歌ってくれたからです。譜面とか楽譜もめちゃくちゃな量が出版されています。これは、聴いているんじゃなくて歌ってくれたことで愛されていったということで、J-POPの需要って、それだと思うんですよ。
■「J-POP」生みの親への願い
実は「J-POP」という言葉はJ-WAVEが生みの親。水野が、J-WAVEへの願いを語りました。
水野:最後は願いですね。J-WAVEが今のJ-POPとは違うものを主軸に置いてきたことを理解しているんですけど、J-POPの言葉がフラットになって意味が変わってきたからこそ、今のJ-POPって、世界では面白いユニークなものになっていると思うんです。J-WAVEの人たちも洋楽と邦楽を分けることを考えていたわけじゃなくて、「いいものを届けたい」と思っていて、その結果ジャンル分けに誤解された部分もあると思うんです。「いいものを届ける」「面白いものを届ける」という基本に戻るなら、今のJ-POPは面白いから、最先端の音楽を伝えてきたJ-WAVEという放送局が、J-POPにさらに新しいイメージをつけて届けていくということがすごく大事。J-WAVEにしかできないことなんじゃないかと思っています。
ユニークな進化を遂げたJ-POP。その魅了や成り立ちを改めて知ることができるオンエアとなりました。また同番組では、「J-POP」の歴史を振り返る特集も。こちらもチェック!
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【番組情報】
番組名:『SONAR MUSIC』
放送日時:月・火・水・木曜 21時-24時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/sonarmusic/