患者の医療データをVRで立体化! 医師・起業家の杉本真樹が目指す「医領解放」とは

J-WAVEで放送中の番組『TOPPAN FUTURISM』(ナビゲーター:小川和也・南沢奈央)。10月21日(日)のオンエアでは、最先端の医療開発に携わる医師の杉本真樹さんがゲストに登場。「医療の現場でも、バーチャルはリアルを超えるのか?」をテーマにお届けしました。

Holoeyes株式会社COOで、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員でもある杉本さん。専門は外科で、2014年にはAppleが選ぶ「世界を変え続けるイノベーター30人」にも選ばれました。医師という肩書に加え「医療イノベーター」と呼ばれる理由を伺いました。

杉本:医療は課題がいっぱいあって、これを1個1個よくしようとしていたら、気づいたら今までにないことをしていたんです。結果的に「イノベーションをしている」と言われることが多いので、たぶんそういうふうに呼んでいただいているのだと思います。自分ではあまり意識してないです。

医療における「バーチャルがリアルを超える」とはどのようなことなのでしょうか?

杉本:僕がやっているのはレントゲンのような医療画像をいかに本物に近づけるかということをやっています。レントゲンは写真で写っているけど、本当にそれがどういう形かとか、ガンがどれくらいの大きさかは一般の人はわかりづらいと思うんですが、これを空中に浮かせたり、手に持っているような感覚にすると、より病気が身近になります。患者さんや一般の人が病気や健康を理解するのにもいいし、医者がより的確な手術ができたり、正確な診断ができると思うんです。

杉本さんが使っている技術はMR(mixed reality:複合現実)と呼ばれるものです。これまでVRと言われていたものはモニターのなかでしか見られなかったのに対して、MRは現実がメインで、ARとVRが重なった、現実の生活の中にバーチャルなデータを共存させる技術です。


■どのように使うの?

杉本:たとえば、カーナビは自分がどこにいるのかわかりますよね。患者さんのレントゲンも地図なんですけど、自分の位置がわからないです。それが、手術中の患者さんのここがガンで、どこまで切ったらいいとか、メスがどこにあるか、これをその場でセンサーでスキャンすると空中でみえるわけです。VRやMRのもうひとついい点は、手術は滅菌処理をされていて、マウスやキーボードは触ることができず、手袋は血まみれです。でも、MRを使うと、ジェスチャーでマウスのクリック操作ができるゴーグルがあり、滅菌の手袋で血まみれでも空中でデータを動かせます。しかも患者さんのレントゲン地図は、内蔵の位置も血管もひとりひとり違います。ガンの大きさも違う。その人のデータをその場で再現することで、その人の個別化されたデータが地図として利用できるんです。
小川:人体のカーナビといったらわかりやすいかもですね。
杉本:そうですね。


■VR医療に興味を持ったワケ

外科医として活躍しながら、杉本さんはなぜVR医療に興味を持ったのでしょうか。

杉本:私はいまだに外科医をやっていて、週に1回オペをしています。現場にいると「これはこうしたほうがいいな」と思うことがたくさんあるわけです。それをひとつひとつやっているだけで、それをまとめるとイノベーションになるのかもしれません。大学でやると研究で終わってしまうので、起業する選択をすることでより多くの人に届けられるようになったと思います。

オンエアでは実際に杉本さんがMRの再現ができるヘッドセットで、杉本さん自身が入院していた時にCTで撮った内蔵を空中に映しだし、装置の解説をしていただきました。ゴーグルから出ている赤外線センサーで指の位置や動きを検出し、手や指が空中でマウスと同じ役割をするのだそうです。南沢も、内蔵を回転させたりして体験していました。

MR上の映像は録画も可能なので、医師が事前に手術の練習や復習ができたり、ベテランの先生の技術を若手に伝えるツールとしても有用です。これによって最初から3Dで学習することが可能になり、医師のトレーニング時間も短くなったそう。また患者さんや家族も立体で理解することで、医療や健康に対する知識を深めることも可能になります。

最後に杉本さんは医療現場とテクノロジーの融合が上手くいくためには「社会が医療を担うこと」と語りました。

杉本:これまでは医師側も患者が病気になるのを待っていたと思うんです。でもそうではなくて、健康とか生活に我々が踏み込むべきだと思います。一般の人たちも病気になる前から病気を想定し、認識を高めたり、その人が病気になったら自分の情報や経験をより多くの健康な人に共有してほしいです。VRを使うと自分の経験が他の人にも体験できるので、どんどん自分のデータを公開したり共有するきっかけになればいいと思います。私はこれを「医領解放」と呼んでいます。

技術革新により、立体による医療情報が広まることで、医師だけでなく患者の病気に対する意識やコミュニケーションが深まり医療が身近になる。そんな未来への希望を感じさせるお話でした。



【番組情報】
番組名:『TOPPAN FUTURISM』
放送日時:毎週日曜 21時-21時54分
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/futurism/

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