J-WAVEで放送中の番組『J-WAVE TOKYO MORNING RADIO』(ナビゲーター:別所哲也)のワンコーナー「ZOJIRUSHI MORNING INSIGHT」。8月20日(月)のオンエアでは詩人・社会学者の水無田気流さんをお迎えして、セクハラや性差別などに端を発する日本が抱える問題について伺いました。
水無田さんは詩集『音速平和』で第11回中原中也賞を受賞、また國學院大學経済学部教授で、専門は文化社会学ジェンダー論です。
■#MeToo問題、欧米と日本では状況が違う?
今回は水無田さんに社会学者として、ハリウッド発の「#MeToo」など、昨年から大きく注目されているセクハラ問題について伺いました。セクハラ問題は昔からあったものの、なぜ現在大きく再び注目されているのでしょうか。また日本と海外での違いはあるのでしょうか。
水無田:「昔からセクハラがあった」というのはその通りですが、「それはしかたがないことだ」「個人的に対処すればいいことだ」と多くの人たちが考えていたのが、「不当なことだ、声をあげていいんだ、社会的な問題だ」と、#MeTooによって気づく人が増えました。先日の『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』に掲載された論文によると、ここ1年でアメリカ人の87%は男女ともに「いかなるハラスメントも許すべきではない」と考えています。社会がそういう風に容認すると世界観が大きく変わり、職場の環境や人間同士のコミュニケーション関係も変わってくるということじゃないでしょうか。
■医学部入試の女性差別…業界の水準下げる懸念も
日本で先日明らかになった医学部入試の女性差別問題について、見解を伺いました。
水無田:典型的な統計的差別が行われていたということです。男性・女性という性差、属性で、たとえば「女性は子どもを生んで仕事をやめるだろう」「男性だったら昼夜問わず過酷な労働環境でも耐えるだろう」と考える。これはおかしな話です。女性だって、結婚するか、子どもを産むかわからないですし、適正もあります。男性だってブラックな環境はイヤだと離脱する人がいるかもしれない。職場や企業で統計的差別が横行していると、従業員の適正や能力を活かしきれなくなり、利益率も下がるという研究結果もでているんです。
別所:先入観で決めつけてしまっている、ということですね。
水無田:そうです。先入観や偏見によってマネージメントすることは非常に危険だということが、経済学や社会学では結果が出ているのに、なぜいまさらやってしまったんだろう……という感じました。特に医療現場は高水準の職場ですので、能力が公正に評価されないことの問題が大きい。能力が低くのに男性だというだけで上がっていくと、全体の能力水準が下がり、結果的に日本の医療の水準自体が下がってしまうという懸念すらあるわけです。
■日本は生活貧困国!?
水無田さんの著書『「居場所」のない男、「時間」がない女』では、日本のサラリーマン家庭がはらむ2つの貧困問題に触れています。
水無田:貧困問題というとお金の問題ばかりが浮かぶんですけど、GDPが上昇しても、必ずしも「生活満足度・幸福度」は上がりません。それどころか、ある程度GDPが上がると、その後はGDPが上昇してもむしろ生活満足度が下がり続ける、という現象があります。これは「幸福のパラドクス」といい、日本でも80年代くらいから顕著にみられるようになりました。ジュリエット・ショアという社会学者がそれに対し、「GDP上昇によらない、人間の生活満足度を押し上げる効果があるものはなにか?」を考えて、2つ「自由になる時間」と「良好な人間関係」だという結論を出しました。調査の結果、日本の男性は仕事以外の人間関係が「ほとんどない」か「全くない」という人が、先進国で一番多かったんです。だから、退職すると居場所がなくなっちゃう。女性は外で働く有償労働の時間と、家の中の家事・育児・介護などのケアワークの総労働時間が先進国でトップクラス。結婚して育児もしている女性は、先進国1のハードワーカーなんですよ。人間の生活満足度を押し上げるはずの「時間」と「人間関係」が、日本は男女それぞれ最下位の生活貧困なんです。
別所:これを解消するにはどうすればいいんですか?
水無田:「男性だから」「女性だから」という働き方、暮らし方、「家族パッケージ」「会社員パッケージ」に入ってというあり方を越えて、個人としての生き方、属性ではなく、適正や能力を従事するようなあり方にシフトする必要があると思います。
■まずできるのは「偏見を捨てること」
水無田:日本は特に、「ジェンダー・セグリゲーション」という男性・女性の“性差”がその人のライフコースに与える影響が大きいんです。高卒男性の管理職者割合が、大卒女性の割合よりも高いのは、先進国で日本くらいで、学歴が社会的な地位や所得に影響がない、適正があっても女性だという理由で活かされていないという人たちが非常に多い。これは人材活用の意味でも非常にもったいないです。
別所:私たちは何からはじめるべきですか?
水無田:まずは偏見を捨てることです。属性をその人の全てと思い込まないようにすること。「多様性を重視しよう」というんですけど、それは難しい話ではありません。要は、偏見を捨て、その人自身の個性・適正をみて評価していこうということです。職場だけでなく、家族の場、教育の場でも、その人個人の特性・適正がもっと発揮される為にも、個人がやれることはまず偏見を捨てること、そこからだと思います。
属性から押し付けられた「らしさ」という偏見が、貧困問題や性差別など社会全体のさまざまな課題とつながっています。「これは偏見ではないか?」と、立ち止まって考えてみてください。
【この記事の放送回をradikoで聴く】
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【番組情報】
番組名:『J-WAVE TOKYO MORNING RADIO』
放送日時:月・火・水・木曜 6時-9時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/tmr/
水無田さんは詩集『音速平和』で第11回中原中也賞を受賞、また國學院大學経済学部教授で、専門は文化社会学ジェンダー論です。
■#MeToo問題、欧米と日本では状況が違う?
今回は水無田さんに社会学者として、ハリウッド発の「#MeToo」など、昨年から大きく注目されているセクハラ問題について伺いました。セクハラ問題は昔からあったものの、なぜ現在大きく再び注目されているのでしょうか。また日本と海外での違いはあるのでしょうか。
水無田:「昔からセクハラがあった」というのはその通りですが、「それはしかたがないことだ」「個人的に対処すればいいことだ」と多くの人たちが考えていたのが、「不当なことだ、声をあげていいんだ、社会的な問題だ」と、#MeTooによって気づく人が増えました。先日の『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』に掲載された論文によると、ここ1年でアメリカ人の87%は男女ともに「いかなるハラスメントも許すべきではない」と考えています。社会がそういう風に容認すると世界観が大きく変わり、職場の環境や人間同士のコミュニケーション関係も変わってくるということじゃないでしょうか。
■医学部入試の女性差別…業界の水準下げる懸念も
日本で先日明らかになった医学部入試の女性差別問題について、見解を伺いました。
水無田:典型的な統計的差別が行われていたということです。男性・女性という性差、属性で、たとえば「女性は子どもを生んで仕事をやめるだろう」「男性だったら昼夜問わず過酷な労働環境でも耐えるだろう」と考える。これはおかしな話です。女性だって、結婚するか、子どもを産むかわからないですし、適正もあります。男性だってブラックな環境はイヤだと離脱する人がいるかもしれない。職場や企業で統計的差別が横行していると、従業員の適正や能力を活かしきれなくなり、利益率も下がるという研究結果もでているんです。
別所:先入観で決めつけてしまっている、ということですね。
水無田:そうです。先入観や偏見によってマネージメントすることは非常に危険だということが、経済学や社会学では結果が出ているのに、なぜいまさらやってしまったんだろう……という感じました。特に医療現場は高水準の職場ですので、能力が公正に評価されないことの問題が大きい。能力が低くのに男性だというだけで上がっていくと、全体の能力水準が下がり、結果的に日本の医療の水準自体が下がってしまうという懸念すらあるわけです。
■日本は生活貧困国!?
水無田さんの著書『「居場所」のない男、「時間」がない女』では、日本のサラリーマン家庭がはらむ2つの貧困問題に触れています。
水無田:貧困問題というとお金の問題ばかりが浮かぶんですけど、GDPが上昇しても、必ずしも「生活満足度・幸福度」は上がりません。それどころか、ある程度GDPが上がると、その後はGDPが上昇してもむしろ生活満足度が下がり続ける、という現象があります。これは「幸福のパラドクス」といい、日本でも80年代くらいから顕著にみられるようになりました。ジュリエット・ショアという社会学者がそれに対し、「GDP上昇によらない、人間の生活満足度を押し上げる効果があるものはなにか?」を考えて、2つ「自由になる時間」と「良好な人間関係」だという結論を出しました。調査の結果、日本の男性は仕事以外の人間関係が「ほとんどない」か「全くない」という人が、先進国で一番多かったんです。だから、退職すると居場所がなくなっちゃう。女性は外で働く有償労働の時間と、家の中の家事・育児・介護などのケアワークの総労働時間が先進国でトップクラス。結婚して育児もしている女性は、先進国1のハードワーカーなんですよ。人間の生活満足度を押し上げるはずの「時間」と「人間関係」が、日本は男女それぞれ最下位の生活貧困なんです。
別所:これを解消するにはどうすればいいんですか?
水無田:「男性だから」「女性だから」という働き方、暮らし方、「家族パッケージ」「会社員パッケージ」に入ってというあり方を越えて、個人としての生き方、属性ではなく、適正や能力を従事するようなあり方にシフトする必要があると思います。
■まずできるのは「偏見を捨てること」
水無田:日本は特に、「ジェンダー・セグリゲーション」という男性・女性の“性差”がその人のライフコースに与える影響が大きいんです。高卒男性の管理職者割合が、大卒女性の割合よりも高いのは、先進国で日本くらいで、学歴が社会的な地位や所得に影響がない、適正があっても女性だという理由で活かされていないという人たちが非常に多い。これは人材活用の意味でも非常にもったいないです。
別所:私たちは何からはじめるべきですか?
水無田:まずは偏見を捨てることです。属性をその人の全てと思い込まないようにすること。「多様性を重視しよう」というんですけど、それは難しい話ではありません。要は、偏見を捨て、その人自身の個性・適正をみて評価していこうということです。職場だけでなく、家族の場、教育の場でも、その人個人の特性・適正がもっと発揮される為にも、個人がやれることはまず偏見を捨てること、そこからだと思います。
属性から押し付けられた「らしさ」という偏見が、貧困問題や性差別など社会全体のさまざまな課題とつながっています。「これは偏見ではないか?」と、立ち止まって考えてみてください。
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【番組情報】
番組名:『J-WAVE TOKYO MORNING RADIO』
放送日時:月・火・水・木曜 6時-9時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/tmr/