佐藤オオキが「幕の内弁当」より「蕎麦」を選ぶワケは?

【連載】やきそばかおるのEar!Ear!Ear!(vol.25)

「いやぁ~、最近、忙しくて…」

佐藤オオキさんの前で、そんな言葉をうっかり言ってしまった日には、鼻で笑われそうです。佐藤さんは常に400以上のプロジェクトを抱えている、超売れっ子デザイナー。一日におよそ30件のプロジェクトをチェックして、次々に打ち合わせがある上、月の半分は海外に行っているそうです。クライアントとの打ち合わせでは、先方の話を聞いている間に、7~8つのアイデアが浮かぶとか。同じ人間とは思えません。私は『400のプロジェクトを同時に進める 佐藤オオキのスピード仕事術』(幻冬舎)を読みましたが、私が読み終わるまでに、佐藤さんだったら5つぐらいのプロジェクトを終わらせてしまいそうです。

そんな佐藤さんには、ちょっと変わったところがあります。毎日、白いシャツに黒のズボン、同じ道を散歩して、同じコーヒーを飲む…というように、毎日、同じような生活を送るようにしているそうです。波を作らないように、常に一定のリズムを保つことが、佐藤さんにとって快適なのだとか。

先日放送されたJ-WAVEの特別番組で、佐藤さんがクリス智子さんとナビゲーターを務めた時も、食事に関するユニークな考え方の話になりました。佐藤さんは蕎麦を食べる時も、いつも同じ蕎麦屋に行っていつも同じメニューを注文するそう。「昼食は、幕の内弁当と蕎麦を選べるとしたらどちらにする?」と聞かれた時も、佐藤さんは「蕎麦」を選んでいました。佐藤さんが無類の蕎麦好き…というわけでなく、「幕の内弁当はどのおかずを食べるかを選ばないといけないのが嫌で、蕎麦だったら、ずっと蕎麦だけを食べ続ければいいから」というものでした。これだけ選択肢が多い世の中で、寄り道をせず、ひとつのものに絞れるなんて、羨ましい限りです。

そんな佐藤さんが海外に行くと大変です。日本にいる時と同じように生活するというわけにはいきません。例えば、サンフランシスコでは、現地の皆さんがオープンにコミュニケーションをとっている光景を見て、思わず「みんな、日焼けしてるし、ものすごく楽しそう…この光景、無理だな。ひっそりと暮らしたい」とポツリ。いつも歩いている近所の道とは訳が違います。

ところが、次の瞬間、佐藤さんをホッとさせる光景が目に飛び込んできました。それは「スターバックスコーヒー」の建物。佐藤さんは、日本でも日常的に見かけるお店の外観に思わず「落ち着く~~」と一言。思わぬオアシスを発見します。日常って、なんてありがたいのでしょう。

そんな佐藤さんは4月からJ-WAVEで新番組「LAUGH SKETCH」(土曜 21時)を担当しています。ひとつのテーマに関して、ゲストと共にデザイントークを展開するというものなのですが、そのテーマがまたユニークなのです。ラジオ番組のテーマといえば、「仕事」「好きな食べ物」「旅行」といった、ある程度広い範囲のテーマでいきそうなものですが、この番組では「ドア」「公園」「階段」といった、ニッチなものがテーマになります。佐藤さん自ら範囲を狭めているのかもしれません。特に「階段」の時は、建築科卒でもある佐藤さんが、階段に対して、独特な内容のトークを展開していました。

「階段の段差の面の部分を『踏面(ふみづら)』、垂直の部分を『蹴上(けあげ)』と呼びます、つまり、『階段』は『蹴り上げて顔面を踏みつける』んです。なんて、バイオレンスなんでしょう」と佐藤さん。 さらに「螺旋階段」の話になると「直線上の階段はドラマティックで、螺旋階段はエロティックなんです」と、独特な感性を披露。「階段」というワンテーマなのに話のネタが枯れる様子はありませんでした。

佐藤さんについて色々と考えてきて分かったのは、佐藤さんはとりわけ一点にフォーカスを当てることに長けているということ。以前、NHKで放送されたドキュメンタリーでも「仕事の依頼は、完全にお任せの状態だとツライ」と言っていました。ということは、私たちも自らテーマを狭めた上で考えると、唯一無二のものが生まれるかもしれません。

唯一無二といえば、世の中には狭いテーマで、ユニークな活動をしている人がたくさんいます。数年前、鉄道ファンが集まる番組を見ていると、「乗り鉄」「撮り鉄」以外に、さまざまなジャンルの鉄道ファンが紹介されていました。例えば「鉄道林鉄」。文字通り、吹雪などの自然災害から鉄道を守る鉄道林と鉄道の写真を撮り続ける鉄道マニアです。良い写真を撮るためにどこの鉄道林でも駆けつける姿は素敵です。ほかに「駅のスタンプ収集家」「駅の伝言板マニア」などもいました。

中でも私が「テーマが狭い!」と目を見張ったのは、「駅のホームにある池マニア」でした。地方の駅のホームに行くとホームの片隅に小さな池があることがあります。そんな池の写真を撮り続けているとのこと。ただし「鉄道会社の経費削減や、駅そのものの無人化が進み、池の水が枯れていることが多いんです」と嘆いていました。小さな池の写真は水が枯れているため、石でできた容器にしか見えず、悲壮感さえ漂っていました。ホームにある池を追い求めるのはさすがにニッチで、見つけるのも大変そうです。話のネタも枯れてしまうかもしれません。これからマニアを目指すなら、「駅の跨線橋」という感じで、もう少し一般的なものにするという手もあります。すると、佐藤さん風に「駅舎とホームを結ぶ跨線橋に階段がありますが、段差の面の部分を『踏面(ふみづら)』、垂直の部分を『蹴上(けあげ)』と呼びます。『蹴り上げて顔面を踏みつける』…それが階段なんです!」とか、「◯◯駅の跨線橋の階段は、まっすぐ伸びてて、ドラマティック!」といった解説もできて、話のネタも枯れなくてすみそうです。

LAUGH SKETCH http://www.j-wave.co.jp/original/laughsketch/

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