(画像素材:PIXTA)
茨城・水戸に関する歴史や魅力、独自の風習について、作家・文献学者の山口謠司さんが語った。
この内容をお届けしたのは、J-WAVEのワンコーナー「PLENUS RICE TO BE HERE」。放送日は2026年6月29日(月)〜7月2日(木)。同コーナーでは、独自の文化のなかで育まれてきた“日本ならではの知恵”を、山口さんが解説する。ここではその内容をテキストで紹介。
また、ポッドキャストでも過去のオンエアをアーカイブとして配信している。山口さんが実際に水戸を訪れ、そこで営む人から聞いたエピソードの詳細が楽しめる。
・ポッドキャストページ
山口:東京から水戸へ行くにはJR常磐線に乗るのが1番便利です。乗り継ぎ無しで1時間ちょっとで到着します。日帰り旅行をするにはちょうどいい距離ですね。水戸は地名の通り、水の町です。那珂川という川が流れています。那須から流れてきて、大洗の海に注ぐキレイな川です。抜けるような青空と、偕楽園の梅の緑。大きく深呼吸をすると“気持ちいいな”と感じる空気がいっぱいでした。
水戸・大洗といえば「あんこう」です。冬に行くと、お魚屋さんの前に巨大なドロドロとしたあんこうがかけてあったりします。そして、どぶ汁。「1杯どうですか?」などと言いながら、カップに入れて振る舞っているお魚屋さんもたくさんあります。あん肝はあんこうの肝です。肥えておいしくなるのは12月から2月。あんこうは一番寒い時期に旬を迎えます。
山口さんはあんこうのお造り(お刺身)を味わってきたそうだ。
山口:お造りはすっきりした味がしました。フレンチではあんこうのポアレをいただきました。表面が香ばしく焼かれてあって、身はふっくら。ソースもよかったです。初夏を感じるような、優しい風のような白ワインとバターと新玉ねぎ。
ちょうどいい甘みのソースがあんこうの白身にかかっていて、それを一口で食べる。お料理の仕方次第で、思いもしないものに変わるんですね。
水戸と江戸。「み」と「え」が異なり、そして「と」というのは「入口」を意味する漢字だ。
山口:江戸の「と」も入口。水辺の入口という意味です。水戸の「と」も那珂川、桜川などの川の入口……その間にできた大地というので、水の入口を表す地名になったそうです。
あんこうも大きな口を開けて、海の底でお口を開いていると思いますが、あんこうの頬肉。これまた美味しいんです。オリーブオイルとニンニクでソテーすると絶品です。
山口:僕が行った日には「30年目の結婚記念日です」と言うご夫妻が1組いらっしゃいました。とっても清潔な店内は静かで、少し変わった置物がいくつかアクセントとして置かれていました。野のもの、山のもの、海のものがおいしく調理され、綺麗にテーブルに出てきます。アレルギーではありませんが「ちょっとカニ・エビが苦手です」とお伝えしておきましたら、なんとアワビのソテーを出してくださいました。
シェフは僕よりも随分お年を召した方です。独学でお料理を学んで、旬のものをできるだけ、手を入れないで作るということをモットーにしていらっしゃる。なので、バターやクリームはできるだけ使いません。
「レストラン オオツ」では、素材が持っている味を上手く引き出すようにしている。
山口:僕が「アワビうれしいですね」と言ったら、「このアワビの料理はクリームもバターも使っていません。アワビが持っている出汁だけで作っているんですよ」と仰いました。柔らかくて、噛んでいると真珠の宝石のような感じがします。お肉じゃないのにお肉のような満足感。ありがたい味だなと思いました。
お魚じゃないのに、海の筋肉というか、お餅のような力強さがあるんです。アワビと言えば、もちろんステーキ屋さんに行くとステーキでいただきます。でも大体オリーブオイルとかバターとかを使って、アワビの味を引き出していますよね。一方、「レストラン オオツ」では薄塩とアワビの出汁だけで、ソテーしていました。まさか水戸でアワビを頂くなんて思ってもいなかったです。
アワビの後に出てきたのが「ローズポーク」だ。
山口:アワビの後のローズポーク。この組み合わせは、優しくて幸せでいっぱいになりました。アワビ(鮑)は魚編に包むと書きます。元々は中国で作られた漢字ですが、中国では魚編に包と書いてもアワビとは読みません。
中国では薄塩に漬け込んだ魚という意味で、「鮑」という漢字を使います(※諸説あり)。日本にこの漢字が伝わったのは、大体西暦600年から700年ぐらいですが、我々が頂くアワビを表すようになりました。
アワビは岩と自分の殻の間に包まれて育った貝。それ故、日本では「鮑=アワビ」となった(※諸説あり)そうだ。
山口:そんなことを考えているうちにローズポークが出てきて、「これは茨城産ですか?」と聞くと、「もちろんです。茨城県の県花は薔薇(ローズ)。このローズポークは、生後4か月から約6か月まで、大麦を15%添加したローズポーク専用の飼料で優しく育てた豚なんです」と説明してくださいました。
大麦がおいしい脂を作るそうですが、口に入れると、この脂が溶けるんです。ローズポーク、優しい味ですが、アワビの後に出てくるこのローズポーク…この組み合わせのおいしさ、ありがたさは、頭の中で星図のようにキラキラと輝きました。「レストラン オオツ」ではご夫妻のご長男が、茨城県内を走り回って、おいしい食材を探してくるそうです。
茨城、おいしいものでいっぱいです。
山口:青菜、トマト、根菜。見ていると「茨城県産」と書いてあるものが多いですね。茨城県は首都圏の台所です。
ところで、今回、水戸で心を掴まれたものがありました。「ハナビラタケ(花弁茸)」です。真っ白いキノコで、見ているとキノコではなくて、お花が咲いているように見えるんです。道の駅でたくさん売っていました。
キノコなのにお花。山の中に真白く透明になっている花束の塊。そこの箇所だけ靄(もや)がかかったように、白っぽくかすんで見えるキノコです。
山口さんは水戸にある徳川ミュージアムにも足を運んだ。
山口:偕楽園という梅がいっぱい植えてある公園からそれほど遠くない小高い丘に建てられた博物館です。水戸徳川家に伝来した美術品や古文書、古書を所蔵していらっしゃいます。昔は彰考館(しょうこうかん)と呼ばれているところで、僕はそこで漢籍の調査をさせていただいたことがありましたが、新しい博物館になったというので、今回初めて行って参りました。芝生が綺麗でした。
その芝生は、裸足で歩けるようになっていて、徳川家康と水戸黄門の金色の銅像がベンチに腰掛けていらっしゃいます。横で手を背中に回して、写真を撮らせていただきました。
徳川ミュージアムには、徳川家康が自ら筆を執って「花鳥風月」と記した書が飾ってある。
山口:家康が書いた「花鳥風月」という書を見ていたとき、ハナビラタケを思い出しました。
ハナビラタケのおいしいお料理と言えばポタージュです。口の中に入れると、シャキシャキ、コリコリとハナビラタケの食感が残っています。なんとなく松茸っぽい香りがするんですけども、ポタージュの上にお花が咲いたように、1口で入るぐらいのお花がポツン、ポツンと置いてあるんですね。
家康の「花鳥風月」という字は初々しくて優しくて、「これが戦乱の時代に書かれたものなの?」と思うような優しさに包まれていました。ハナビラタケのような優しい雰囲気をまとったお軸だったのです。
「鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス」は戦国武将の徳川家康の忍耐強い性格を象徴するとされる有名な句だ。
山口:お軸を黙って見ていると、やっぱり家康は待つことを知っていた人なのかなという感じがしました。外に出て、芝生の上を歩いていると、自動芝刈り機が僕の方にやってきました。芝刈り機の名前は格さんです。
スタッフの方に「あるのは、格さんだけですか?」と聞くと、「助さんもいましたが、引退してしまいました」とのでした。時々、夜中に雨が降ると、格さんも止まってしまうそうです。そうすると、館長さんか誰かから、「格さんが止まっているから助けに来てください」という電話が来るそうです。
徳川ミュージアムはそんな風に水戸の街の中でホッとできるところです。ぜひ水戸を訪れた際には行かれてみてください。
この内容をお届けしたのは、J-WAVEのワンコーナー「PLENUS RICE TO BE HERE」。放送日は2026年6月29日(月)〜7月2日(木)。同コーナーでは、独自の文化のなかで育まれてきた“日本ならではの知恵”を、山口さんが解説する。ここではその内容をテキストで紹介。
また、ポッドキャストでも過去のオンエアをアーカイブとして配信している。山口さんが実際に水戸を訪れ、そこで営む人から聞いたエピソードの詳細が楽しめる。
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水戸であんこうを食べる
茨城県の県庁所在地である水戸市。東京から電車で約1時間とアクセスがよく「日本三名園」の偕楽園(かいらくえん)、食では水戸納豆が有名だ。都市の便利な生活と、千波湖などの豊かな自然が調和している点が大きな特徴で、徳川家の城下町として栄え、歴史的な名所も有する。千波湖(画像素材:PIXTA)
水戸・大洗といえば「あんこう」です。冬に行くと、お魚屋さんの前に巨大なドロドロとしたあんこうがかけてあったりします。そして、どぶ汁。「1杯どうですか?」などと言いながら、カップに入れて振る舞っているお魚屋さんもたくさんあります。あん肝はあんこうの肝です。肥えておいしくなるのは12月から2月。あんこうは一番寒い時期に旬を迎えます。
山口さんはあんこうのお造り(お刺身)を味わってきたそうだ。
山口:お造りはすっきりした味がしました。フレンチではあんこうのポアレをいただきました。表面が香ばしく焼かれてあって、身はふっくら。ソースもよかったです。初夏を感じるような、優しい風のような白ワインとバターと新玉ねぎ。
ちょうどいい甘みのソースがあんこうの白身にかかっていて、それを一口で食べる。お料理の仕方次第で、思いもしないものに変わるんですね。
水戸と江戸。「み」と「え」が異なり、そして「と」というのは「入口」を意味する漢字だ。
山口:江戸の「と」も入口。水辺の入口という意味です。水戸の「と」も那珂川、桜川などの川の入口……その間にできた大地というので、水の入口を表す地名になったそうです。
あんこうも大きな口を開けて、海の底でお口を開いていると思いますが、あんこうの頬肉。これまた美味しいんです。オリーブオイルとニンニクでソテーすると絶品です。
どぶ汁(画像素材:PIXTA)
「レストラン オオツ」で味わうアワビとローズポーク
山口さんは水戸にあるフランス料理の名店「レストラン オオツ」に足を運んだ。山口:僕が行った日には「30年目の結婚記念日です」と言うご夫妻が1組いらっしゃいました。とっても清潔な店内は静かで、少し変わった置物がいくつかアクセントとして置かれていました。野のもの、山のもの、海のものがおいしく調理され、綺麗にテーブルに出てきます。アレルギーではありませんが「ちょっとカニ・エビが苦手です」とお伝えしておきましたら、なんとアワビのソテーを出してくださいました。
シェフは僕よりも随分お年を召した方です。独学でお料理を学んで、旬のものをできるだけ、手を入れないで作るということをモットーにしていらっしゃる。なので、バターやクリームはできるだけ使いません。
「レストラン オオツ」では、素材が持っている味を上手く引き出すようにしている。
山口:僕が「アワビうれしいですね」と言ったら、「このアワビの料理はクリームもバターも使っていません。アワビが持っている出汁だけで作っているんですよ」と仰いました。柔らかくて、噛んでいると真珠の宝石のような感じがします。お肉じゃないのにお肉のような満足感。ありがたい味だなと思いました。
お魚じゃないのに、海の筋肉というか、お餅のような力強さがあるんです。アワビと言えば、もちろんステーキ屋さんに行くとステーキでいただきます。でも大体オリーブオイルとかバターとかを使って、アワビの味を引き出していますよね。一方、「レストラン オオツ」では薄塩とアワビの出汁だけで、ソテーしていました。まさか水戸でアワビを頂くなんて思ってもいなかったです。
アワビの後に出てきたのが「ローズポーク」だ。
山口:アワビの後のローズポーク。この組み合わせは、優しくて幸せでいっぱいになりました。アワビ(鮑)は魚編に包むと書きます。元々は中国で作られた漢字ですが、中国では魚編に包と書いてもアワビとは読みません。
中国では薄塩に漬け込んだ魚という意味で、「鮑」という漢字を使います(※諸説あり)。日本にこの漢字が伝わったのは、大体西暦600年から700年ぐらいですが、我々が頂くアワビを表すようになりました。
アワビは岩と自分の殻の間に包まれて育った貝。それ故、日本では「鮑=アワビ」となった(※諸説あり)そうだ。
山口:そんなことを考えているうちにローズポークが出てきて、「これは茨城産ですか?」と聞くと、「もちろんです。茨城県の県花は薔薇(ローズ)。このローズポークは、生後4か月から約6か月まで、大麦を15%添加したローズポーク専用の飼料で優しく育てた豚なんです」と説明してくださいました。
大麦がおいしい脂を作るそうですが、口に入れると、この脂が溶けるんです。ローズポーク、優しい味ですが、アワビの後に出てくるこのローズポーク…この組み合わせのおいしさ、ありがたさは、頭の中で星図のようにキラキラと輝きました。「レストラン オオツ」ではご夫妻のご長男が、茨城県内を走り回って、おいしい食材を探してくるそうです。
茨城、おいしいものでいっぱいです。
お花が咲いているように見える「ハナビラタケ」
都内のスーパーでお野菜を手に取ると「茨城県産」と書かれているものがたくさんある。山口:青菜、トマト、根菜。見ていると「茨城県産」と書いてあるものが多いですね。茨城県は首都圏の台所です。
ところで、今回、水戸で心を掴まれたものがありました。「ハナビラタケ(花弁茸)」です。真っ白いキノコで、見ているとキノコではなくて、お花が咲いているように見えるんです。道の駅でたくさん売っていました。
ハナビラタケ(画像素材:PIXTA)
山口さんは水戸にある徳川ミュージアムにも足を運んだ。
山口:偕楽園という梅がいっぱい植えてある公園からそれほど遠くない小高い丘に建てられた博物館です。水戸徳川家に伝来した美術品や古文書、古書を所蔵していらっしゃいます。昔は彰考館(しょうこうかん)と呼ばれているところで、僕はそこで漢籍の調査をさせていただいたことがありましたが、新しい博物館になったというので、今回初めて行って参りました。芝生が綺麗でした。
山口:家康が書いた「花鳥風月」という書を見ていたとき、ハナビラタケを思い出しました。
ハナビラタケのおいしいお料理と言えばポタージュです。口の中に入れると、シャキシャキ、コリコリとハナビラタケの食感が残っています。なんとなく松茸っぽい香りがするんですけども、ポタージュの上にお花が咲いたように、1口で入るぐらいのお花がポツン、ポツンと置いてあるんですね。
家康の「花鳥風月」という字は初々しくて優しくて、「これが戦乱の時代に書かれたものなの?」と思うような優しさに包まれていました。ハナビラタケのような優しい雰囲気をまとったお軸だったのです。
「鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス」は戦国武将の徳川家康の忍耐強い性格を象徴するとされる有名な句だ。
山口:お軸を黙って見ていると、やっぱり家康は待つことを知っていた人なのかなという感じがしました。外に出て、芝生の上を歩いていると、自動芝刈り機が僕の方にやってきました。芝刈り機の名前は格さんです。
スタッフの方に「あるのは、格さんだけですか?」と聞くと、「助さんもいましたが、引退してしまいました」とのでした。時々、夜中に雨が降ると、格さんも止まってしまうそうです。そうすると、館長さんか誰かから、「格さんが止まっているから助けに来てください」という電話が来るそうです。
徳川ミュージアムはそんな風に水戸の街の中でホッとできるところです。ぜひ水戸を訪れた際には行かれてみてください。