〈法多山のあじさい(画像素材:PIXTA)〉
静岡・袋井市に関する歴史や魅力、独自の風習について、作家・文献学者の山口謠司さんが語った。
この内容をお届けしたのは、J-WAVEのワンコーナー「PLENUS RICE TO BE HERE」。放送日は2026年4月6日(月)〜4月9日(木)。同コーナーでは、独自の文化のなかで育まれてきた“日本ならではの知恵”を、山口さんが解説する。ここではその内容をテキストで紹介。
また、ポッドキャストでも過去のオンエアをアーカイブとして配信している。山口さんが実際に袋井を訪れ、そこで営む人から聞いたエピソードの詳細が楽しめる。
山口:江戸時代から作られていた「たまごふわふわ」という不思議なお料理のお話です。静岡県袋井市、東海道新幹線で行くなら掛川駅で降りるか、浜松駅で降りてもあまり時間的には変わりません。ゆっくり揺られると袋井に到着します。駅前に着くと正岡子規の句碑が立っていました。
たまごふわふわとは一体どんな料理なのだろうか?
山口:たまごふわふわは袋井の名物です。正岡子規の句碑がある駅前からすぐの「山梨屋寿司店」というお寿司屋さんがあります。開店が11時と聞きましたので、11時に行ってみると、もう3組のお客さんが待っていらっしゃいました。
目当てにしているのは、たまごふわふわです。「20分程度時間がかかりますが大丈夫ですか?」と聞かれ、「大丈夫です、待っていますから」と言うと、出てきたお料理は、お出汁が入ったお椀の中で、卵のメレンゲが山のようにふわふわと盛り上がっていました。そしてその上にキレイな緑色のセリの葉が1枚。「熱いから気を付けてね」と言われましたが、言われたそばからスプーンで掬って一口……熱さに悶絶してしまいました。
袋井には「袋井市歴史文化館」という施設がある。
山口:袋井市歴史文化館の西村さんが、たまごふわふわについてお話ししてくださいました。
このお料理、江戸時代の文献「仙台下向日記」に登場したそうです。袋井宿は東海道五十三次のど真ん中、27番目の宿場町。地図を見ると、この袋井、南側には遠州灘、市内には太田川や原野谷川、そしてこの辺りは海から山からと風がとっても強く吹くそうですが、この袋井という宿場、ただ泊まるというだけではなく、物流と人流の安全が保障されて、設置された中継所だったのです。
山口さんは「たまごふわふわは“ふわふわ”というより、“ほわほわ”ではないかと思います」と雑感を話す。
山口:京都から江戸へ、江戸から京都へ、ちょうど真ん中にある袋井へやってきて、ホッとするお料理。ほわほわの気持ちをいただく料理だからこそ、たまごほわほわという料理名になったのかなと思います。
正岡子規がこの駅に立ったのは明治22年(1889年)のことでした。12月、正岡子規は東海道線で四国・松山、自分の故郷に帰省します。そのとき、袋井に汽車が止まりました。辺りは12月、暗くなった中で先の句が出来たそうです。
まるで駅員さんのほんわり柔らかな声のような、たまごふわふわ。皆さんもぜひ、袋井に行って、食べてみてください。
山口:お水がおいしくないとお米はおいしく作れません。お水との関係で、おいしいかおいしくないか、断然変わってしまうと言われています。
袋井というところは、何度も大きな増水、太平洋から迫ってくる津波に襲われた場所です。お米がおいしいところは、水がおいしいと簡単に言えるものではありません。
適度な塩分、ミネラルがバランスよくお米の糖度を上げていく。だからおいしいお米が出来ると言われますが、袋井でも、特に旧浅羽町という土地は、太田川と原野谷川が合流しているところです。地面が低くなっていて、海にも川にも近いところ。つまり、ここはお米ができる恵みと同時に災いも近い場所だったのです。
旧浅羽町は、江戸時代の延宝8年(1680年)、近世最大級と言われる台風によって高潮が発生し、大きな被害が出た場所と言われている。
山口:そこで先人たちが考えたことは、“村の中央に自分たちの命を守るための山を作ろう”ということでした。この山の名前を「命山」と呼びます。
2つの山が作られました。2つの山の作り方は、それぞれ違いがあります。1つの山は「中新田命山」と呼ばれています。これは、土を中央に向かって傾斜させながら、ゆっくり山のように作っていくんです。横から見ると小山のようになっています。小さな子どもや、腰が曲がったおばあさん、おじいさんたちも這うようにして上がっていくことができる。これに対して「大野命山」という、もう1つの山があります。
こちらの方は、地山(じやま)から約1メートルずつ削り取り、その土を水平方向に積み上げて作られています。洪水のときには、船で避難をしたりするわけですが、これによって、船を着岸させやすくなっているそうです。こうした知恵は現代でも活かされています。
2011年の東日本大震災を契機に、袋井では命山をモデルにした平成の命山を整備した。
山口:沿岸部で津波が起こった場合、緊急避難施設としてこの命山を守っていこうということです。袋井は東海道のど真ん中、物流・人流をさせる要の場所です。こういうところだからこそ、人の命を守るための設計がずっとなされてきました。
命があるからこそのおいしいお米。袋井産のきぬむすめは、日本穀物検定協会によって食味ランキングで最高ランクの「特A」に認定されたお米です。
浜松でお食事を頂いたときに訊くと「当たり前ですよ」みたいな顔で、「袋井のきぬむすめを使っています」と仰っていました。浜松の鰻、その鰻のおいしさにも負けないおいしいお米・きぬむすめ。いろんな県のいろんな地域のお米を食べてみると、お米の持っている力、地方によって違うお米の味、先人の知恵を感じます。
山口:スーパーに行って野菜売り場で見ると、なんだかホッとするお野菜がありませんか? 青梗菜(チンゲンサイ)、なんかピースフルな野菜でしょう。
チンゲンサイの青という漢字は、信号でもそうですが、緑色という意味ですね。ゲンは木編に、木更津の更という漢字ですが、ここは“木のように固くなっている”ということを表します。梗は“茎が硬い”という意味なんですね。それ故に、シャキシャキッとする歯触りを楽しめます。チンゲンサイ、その名前が体をそのまま表しているんですね。
中でも袋井市はチンゲンサイの名産地として知られている。
山口:チンゲンサイは、春・秋だと30日から50日、夏だと30日から40日程度で収穫できます。袋井周辺は、年間を通じて日照時間がとても長いからなんです。そして、何と言っても地面に含まれている水の量が、他の地域とは比べ物にならないくらい豊富。栄養が豊かで、水も豊富。そこで育った袋井のチンゲンサイ。シャキシャキ感は、太陽の光と一緒になって、袋井の大地でしっかり伸び伸びと作られているからです。
チンゲンサイは古くから日本にあった野菜ではない。
山口:このお野菜は、昭和47年(1972年)、日本と中国が国交回復をして以来、少しずつ日本で栽培されるようになってきたのです。もう1つ、袋井には名産のおいしいお野菜があります。これが「エンサイ(蕹菜)」、別名「空芯菜(くうしんさい)」です。中がストローのように空洞になったお野菜ですね。これは、にんにくと一緒に炒めるとおいしいです。非常にシャキシャキした食感が楽しめるでしょう。
一方で、空芯菜は食べても食べても、いくらでもお腹に入ってしまいます。芯が空洞ということなので、お腹がいっぱいになりにくいのかもしれません。ついつい2皿も3皿も頂いて、それでも足りず……そんなときにはスーラータンメンです。
お昼はスーラータンメンに空芯菜。これを食べて午後からも心を込めて仕事をしましょう。ついでにチンゲンサイも召し上がってくださいね。
この内容をお届けしたのは、J-WAVEのワンコーナー「PLENUS RICE TO BE HERE」。放送日は2026年4月6日(月)〜4月9日(木)。同コーナーでは、独自の文化のなかで育まれてきた“日本ならではの知恵”を、山口さんが解説する。ここではその内容をテキストで紹介。
また、ポッドキャストでも過去のオンエアをアーカイブとして配信している。山口さんが実際に袋井を訪れ、そこで営む人から聞いたエピソードの詳細が楽しめる。
袋井の名物料理「たまごふわふわ」とは?
東京、大阪からも新幹線と東海道本線で約2時間の位置にある静岡・袋井。歴史ある「遠州三山」をはじめとする神社仏閣が点在し、5万人を収容する県最大の多目的競技場「エコパスタジアム」も有する。温暖な気候で暮らしやすく、豊かな食も楽しめる。山口:江戸時代から作られていた「たまごふわふわ」という不思議なお料理のお話です。静岡県袋井市、東海道新幹線で行くなら掛川駅で降りるか、浜松駅で降りてもあまり時間的には変わりません。ゆっくり揺られると袋井に到着します。駅前に着くと正岡子規の句碑が立っていました。
<冬枯の中に家居や村一つ(ふゆがれの なかにいえいや むらひとつ)>
袋井駅前のカメラ屋さん(写真◎山口謠司)
山口:たまごふわふわは袋井の名物です。正岡子規の句碑がある駅前からすぐの「山梨屋寿司店」というお寿司屋さんがあります。開店が11時と聞きましたので、11時に行ってみると、もう3組のお客さんが待っていらっしゃいました。
目当てにしているのは、たまごふわふわです。「20分程度時間がかかりますが大丈夫ですか?」と聞かれ、「大丈夫です、待っていますから」と言うと、出てきたお料理は、お出汁が入ったお椀の中で、卵のメレンゲが山のようにふわふわと盛り上がっていました。そしてその上にキレイな緑色のセリの葉が1枚。「熱いから気を付けてね」と言われましたが、言われたそばからスプーンで掬って一口……熱さに悶絶してしまいました。
たまごふわふわ(写真◎谷口敦子)
山口:袋井市歴史文化館の西村さんが、たまごふわふわについてお話ししてくださいました。
このお料理、江戸時代の文献「仙台下向日記」に登場したそうです。袋井宿は東海道五十三次のど真ん中、27番目の宿場町。地図を見ると、この袋井、南側には遠州灘、市内には太田川や原野谷川、そしてこの辺りは海から山からと風がとっても強く吹くそうですが、この袋井という宿場、ただ泊まるというだけではなく、物流と人流の安全が保障されて、設置された中継所だったのです。
(写真◎山口謠司)
山口:京都から江戸へ、江戸から京都へ、ちょうど真ん中にある袋井へやってきて、ホッとするお料理。ほわほわの気持ちをいただく料理だからこそ、たまごほわほわという料理名になったのかなと思います。
正岡子規がこの駅に立ったのは明治22年(1889年)のことでした。12月、正岡子規は東海道線で四国・松山、自分の故郷に帰省します。そのとき、袋井に汽車が止まりました。辺りは12月、暗くなった中で先の句が出来たそうです。
まるで駅員さんのほんわり柔らかな声のような、たまごふわふわ。皆さんもぜひ、袋井に行って、食べてみてください。
最高ランクの「特A」に認定された袋井産・きぬむすめ
袋井では、「コシヒカリ」を中心に「きぬむすめ」「にこまる」といった品種のお米が作られている。山口:お水がおいしくないとお米はおいしく作れません。お水との関係で、おいしいかおいしくないか、断然変わってしまうと言われています。
袋井というところは、何度も大きな増水、太平洋から迫ってくる津波に襲われた場所です。お米がおいしいところは、水がおいしいと簡単に言えるものではありません。
適度な塩分、ミネラルがバランスよくお米の糖度を上げていく。だからおいしいお米が出来ると言われますが、袋井でも、特に旧浅羽町という土地は、太田川と原野谷川が合流しているところです。地面が低くなっていて、海にも川にも近いところ。つまり、ここはお米ができる恵みと同時に災いも近い場所だったのです。
旧浅羽町は、江戸時代の延宝8年(1680年)、近世最大級と言われる台風によって高潮が発生し、大きな被害が出た場所と言われている。
山口:そこで先人たちが考えたことは、“村の中央に自分たちの命を守るための山を作ろう”ということでした。この山の名前を「命山」と呼びます。
(写真◎山口謠司)
こちらの方は、地山(じやま)から約1メートルずつ削り取り、その土を水平方向に積み上げて作られています。洪水のときには、船で避難をしたりするわけですが、これによって、船を着岸させやすくなっているそうです。こうした知恵は現代でも活かされています。
2011年の東日本大震災を契機に、袋井では命山をモデルにした平成の命山を整備した。
(写真◎山口謠司)
命があるからこそのおいしいお米。袋井産のきぬむすめは、日本穀物検定協会によって食味ランキングで最高ランクの「特A」に認定されたお米です。
浜松でお食事を頂いたときに訊くと「当たり前ですよ」みたいな顔で、「袋井のきぬむすめを使っています」と仰っていました。浜松の鰻、その鰻のおいしさにも負けないおいしいお米・きぬむすめ。いろんな県のいろんな地域のお米を食べてみると、お米の持っている力、地方によって違うお米の味、先人の知恵を感じます。
チンゲンサイに空芯菜にスーラータンメン
静岡はチンゲンサイの生産量が全国で2番目(出典:農林水産省「野菜生産出荷統計」)の産地だ。山口:スーパーに行って野菜売り場で見ると、なんだかホッとするお野菜がありませんか? 青梗菜(チンゲンサイ)、なんかピースフルな野菜でしょう。
チンゲンサイ(画像素材:PIXTA)
中でも袋井市はチンゲンサイの名産地として知られている。
山口:チンゲンサイは、春・秋だと30日から50日、夏だと30日から40日程度で収穫できます。袋井周辺は、年間を通じて日照時間がとても長いからなんです。そして、何と言っても地面に含まれている水の量が、他の地域とは比べ物にならないくらい豊富。栄養が豊かで、水も豊富。そこで育った袋井のチンゲンサイ。シャキシャキ感は、太陽の光と一緒になって、袋井の大地でしっかり伸び伸びと作られているからです。
チンゲンサイは古くから日本にあった野菜ではない。
山口:このお野菜は、昭和47年(1972年)、日本と中国が国交回復をして以来、少しずつ日本で栽培されるようになってきたのです。もう1つ、袋井には名産のおいしいお野菜があります。これが「エンサイ(蕹菜)」、別名「空芯菜(くうしんさい)」です。中がストローのように空洞になったお野菜ですね。これは、にんにくと一緒に炒めるとおいしいです。非常にシャキシャキした食感が楽しめるでしょう。
空心菜炒め(画像素材:PIXTA)
お昼はスーラータンメンに空芯菜。これを食べて午後からも心を込めて仕事をしましょう。ついでにチンゲンサイも召し上がってくださいね。
スーラータンメン(画像素材:PIXTA)