生誕160周年を迎えた、フランスの作曲家、エリック・サティの魅力に迫った。
この内容をお届けしたのは、5月19日(火)放送のJ-WAVE『MIDDAY LOUNGE』(ナビゲーター:市川紗椰)の「MUSIC EXPLORER」。世界の音楽シーンのムーブメントを“今”の視点で考察するコーナーだ。
『MIDDAY LOUNGE』はグローバルなルーツを持つ国際色豊かなナビゲーターたちが、リスナーと一緒に「新しい自分、新しい世界と出会う」3時間のプログラム。ナビゲーターは、月曜 ハリー杉山、火曜 市川紗椰、水曜 クリス・ペプラー、木曜 ジョン・カビラが日替わりで担当している。
市川:エリック・サティは、同時代のモーリス・ラヴェルやクロード・ドビュッシー、さらにパブロ・ピカソ、ダダイズムのマルセル・デュシャンのような美術家たちにも影響を与えました。さらに、現代音楽のジョン・ケージやブライアン・イーノにも大きな影響を与えています。そして実は、私たちの日常生活にも、サティの影響はかなり入り込んでいるんですよね。
サティは1866年、フランス・ノルマンディー地方のオンフルールで生まれる。その後、一家でパリへ移住。家族の事情もあり、幼少期はオンフルールとパリを行き来しながら過ごしたという。幼いころから音楽の才能を発揮していたサティは、13歳でパリ音楽院へ入学する。
市川:かなり正統派の音楽教育を受けたんですが、保守的なアカデミズムとそりが合わず、「歴代でもっとも怠惰な生徒」と言われたなんて話もあるんですよね。結局、7年在籍した末に退学。その後は、文芸キャバレー「ル・シャノワール」でピアノを弾きながら生活していきます。20代前半には『ジムノペディ』をはじめ、数々の名曲が生まれました。
市川:この曲、実は楽譜に拍子を区切る小節線がないという、とても実験的な試みがなされていて、自由な発想が強く感じられます。ルーマニアの音階を取り入れた東洋的なメロディー、そしてどこへ着地するかわからない感覚。特に和声が特徴的なんです。普通のクラシック音楽って「不安定な響きがあって、それが解決する」という流れがあるんですが、サティは「別に解決しなくてもいいか」という感覚なんですよね。だからこそ、現代音楽やアンビエント、映画音楽への影響も感じられるんだと思います。
さらに市川は、サティについて「全体的に構成が特徴的な作曲家だと言えると思います」と語る。
市川:クラシックって、テーマを提示して、盛り上がりを作って展開、クライマックス、大団円という物語を作ることが多いんですけど、サティはそこを避けるんです。『ジムノペディ』や『グノシエンヌ』も左手によるゆったりとした伴奏が、最初から最後までほとんど変わらない歩幅で続いて、その上に短い旋律がふわっと浮かぶ。「ここがサビ」という大きな山場がないんです。
市川は、「その変わらない感じが催眠的」だと表現する。音楽が前進するというより、同じ場所の空気を静かに照らし続けているような印象があるという。
市川:こうした独特の構成や和声だけでなく、サティにはかなりアート的な思考もありました。当時の芸術家たちとも積極的に交流していたんです。そのひとりがパブロ・ピカソですね。ピカソが進めていたキュビズムも、従来の遠近法や形式を壊していく表現でした。そこにサティも共鳴したんだと思います。
市川:当時の最先端が集結した夢のコラボと言えると思います。初演は、当時の大スターが名を連ねた作品なので大盛況なんですが、やはりちょっと受け入れてもらえなかったというか。とくにサティの音楽は評論家に批判されました。
特に注目されたのが、環境音を楽曲に取り入れた点だという。ピストルの音などを音楽に組み込んだことが、当時は非常に前衛的だと受け止められたそう。
市川:今は車の音やサイレンといった環境音を曲に取り入れるのは、とくにヒップホップとかでは当たり前ですけど、当時はかなり批判を浴びました。これにサティは激怒して、評論家たちに過激な手紙を書くことになります。なんとあまりに過激すぎて、一度、拘留までされてしまうんですよね。40代後半のころの話なんですが、すごいエピソードですよね。ただ、そのスキャンダルによって逆に注目を集めた部分もありました。今でいう炎上商法みたいなかたちですね。その過激な手紙は、なぜか旧知の仲だったクロード・ドビュッシーにも向けられます。当時、ドビュッシーは病床にあり、そのままふたりは和解しないまま別れてしまいました。
ドビュッシーは、サティより4歳年上だったが、ふたりは互いに大きな影響を与え合う関係にあった。音楽家として模索を続けていたドビュッシーに対し、サティは「もっとフランス人らしい表現を」と勧めたとされる。その助言が、のちの印象派音楽につながるヒントになったとも言われている。
市川:無名だったサティの才能を誰よりも評価していたのもドビュッシーで。サティを家に招いて食事をごちそうするだけでなく、のちに『ジムノペディ』を自らオーケストラ編曲して演奏会で取り上げたりもしています。美しい友情ですよね。クセの強いふたりなんですが、いい話もたくさん残っています。
市川:ドビュッシーがサティに「もっと形式にこだわったほうがいい」と助言したそうです。それに対してサティは、その言葉を受け入れるふりをしながら「形式って何だ?」という皮肉を込めて、『梨の形をした3つの小品』を作曲します。
市川:まず、「梨」というタイトル自体が謎ですよね。しかもフランス語では梨には「間抜け」みたいな意味合いもあるらしいんです。さらに「3つの小品」と言いながら、実際は7曲あります。表面的には助言に従っているように見せつつ、かなり皮肉が効いています。一方で、サティは単に奇抜な作品を書いただけではありません。実は、現代の私たちの生活にも直結する発明をしています。それが「家具の音楽」です。
サティが提唱した「家具の音楽」とは、家具のようにそこに存在していながら、意識されない音楽のこと。つまり、聴くこと自体を目的としない音楽だという。
市川:今でこそ、商業施設や病院、コンビニなど、あらゆる場所で音楽が流れています。でも本来、ロマン派以降の音楽は「鑑賞するもの」だったわけですね。レストランで音楽を聴くとかはありますけど、演奏はちゃんと聴くものであって、雰囲気づくりという発想は基本的になかったという時代です。そんななかでサティは、空間を快適にするための音楽、いわゆるBGMという概念を考えたわけですよね。「家具の音楽」は、のちにブライアン・イーノにも大きな影響を与えたと言われています。
また、サティは奇抜な人物としても知られているという。
市川:白い食べ物しか食べなかったり、同じ服を何着も持ってそればかり着たり、天気に関係なく傘とハンマーを持ち歩いたりと、風変わりな逸話には事欠かないんです。あと、『ヴェクサシオン』という曲を840回繰り返して演奏するよう指示していたとかね。
市川:破天荒なエピソードや実験的な試みが注目されがちなサティですが、一方で本当に美しいフランスの空気を感じる曲もたくさんあります。ぜひこの機会に、エリック・サティの音楽について考えてみてください。
J-WAVE『MIDDAY LOUNGE』のコーナー「MUSIC EXPLORER」では、世界の音楽シーンのムーブメントを「今」の視点で考察する。放送は月曜~木曜の14時ごろから。
この内容をお届けしたのは、5月19日(火)放送のJ-WAVE『MIDDAY LOUNGE』(ナビゲーター:市川紗椰)の「MUSIC EXPLORER」。世界の音楽シーンのムーブメントを“今”の視点で考察するコーナーだ。
『MIDDAY LOUNGE』はグローバルなルーツを持つ国際色豊かなナビゲーターたちが、リスナーと一緒に「新しい自分、新しい世界と出会う」3時間のプログラム。ナビゲーターは、月曜 ハリー杉山、火曜 市川紗椰、水曜 クリス・ペプラー、木曜 ジョン・カビラが日替わりで担当している。
幼少期から音楽の才能を発揮
5月17日は、フランスが生んだ偉大な作曲家、エリック・サティの生誕日。1866年生まれのサティは、今年で生誕160周年を迎えた。「音楽界の異端児」とも呼ばれる彼は、後世の音楽や芸術に大きな影響を与えた存在だ。今回はそんなサティの功績と、その独創的な音楽がもたらした影響について考えていく。市川:エリック・サティは、同時代のモーリス・ラヴェルやクロード・ドビュッシー、さらにパブロ・ピカソ、ダダイズムのマルセル・デュシャンのような美術家たちにも影響を与えました。さらに、現代音楽のジョン・ケージやブライアン・イーノにも大きな影響を与えています。そして実は、私たちの日常生活にも、サティの影響はかなり入り込んでいるんですよね。
サティは1866年、フランス・ノルマンディー地方のオンフルールで生まれる。その後、一家でパリへ移住。家族の事情もあり、幼少期はオンフルールとパリを行き来しながら過ごしたという。幼いころから音楽の才能を発揮していたサティは、13歳でパリ音楽院へ入学する。
市川:かなり正統派の音楽教育を受けたんですが、保守的なアカデミズムとそりが合わず、「歴代でもっとも怠惰な生徒」と言われたなんて話もあるんですよね。結局、7年在籍した末に退学。その後は、文芸キャバレー「ル・シャノワール」でピアノを弾きながら生活していきます。20代前半には『ジムノペディ』をはじめ、数々の名曲が生まれました。
Gymnopédie No. 1
エリック・サティの独自の作曲性を分析
ここで番組では、エリック・サティの代表曲のひとつ『グノシエンヌ第1番』をオンエア。1889年の「パリ万国博覧会」でルーマニアの音階に触れたサティが、その民族的な要素を取り入れて作った作品だとされている。Satie: Gnossiennes: No. 1, Lent
さらに市川は、サティについて「全体的に構成が特徴的な作曲家だと言えると思います」と語る。
市川:クラシックって、テーマを提示して、盛り上がりを作って展開、クライマックス、大団円という物語を作ることが多いんですけど、サティはそこを避けるんです。『ジムノペディ』や『グノシエンヌ』も左手によるゆったりとした伴奏が、最初から最後までほとんど変わらない歩幅で続いて、その上に短い旋律がふわっと浮かぶ。「ここがサビ」という大きな山場がないんです。
市川は、「その変わらない感じが催眠的」だと表現する。音楽が前進するというより、同じ場所の空気を静かに照らし続けているような印象があるという。
市川:こうした独特の構成や和声だけでなく、サティにはかなりアート的な思考もありました。当時の芸術家たちとも積極的に交流していたんです。そのひとりがパブロ・ピカソですね。ピカソが進めていたキュビズムも、従来の遠近法や形式を壊していく表現でした。そこにサティも共鳴したんだと思います。
盟友・ドビュッシーと晩年に仲違い
サティには、芸術家たちとの共作でも知られる作品がある。なかでも市川が紹介したのは、台本をジャン・コクトー、衣装と舞台装置をパブロ・ピカソ、そして音楽をサティが手がけたバレエ作品『パラード』だ。市川:当時の最先端が集結した夢のコラボと言えると思います。初演は、当時の大スターが名を連ねた作品なので大盛況なんですが、やはりちょっと受け入れてもらえなかったというか。とくにサティの音楽は評論家に批判されました。
特に注目されたのが、環境音を楽曲に取り入れた点だという。ピストルの音などを音楽に組み込んだことが、当時は非常に前衛的だと受け止められたそう。
市川:今は車の音やサイレンといった環境音を曲に取り入れるのは、とくにヒップホップとかでは当たり前ですけど、当時はかなり批判を浴びました。これにサティは激怒して、評論家たちに過激な手紙を書くことになります。なんとあまりに過激すぎて、一度、拘留までされてしまうんですよね。40代後半のころの話なんですが、すごいエピソードですよね。ただ、そのスキャンダルによって逆に注目を集めた部分もありました。今でいう炎上商法みたいなかたちですね。その過激な手紙は、なぜか旧知の仲だったクロード・ドビュッシーにも向けられます。当時、ドビュッシーは病床にあり、そのままふたりは和解しないまま別れてしまいました。
ドビュッシーは、サティより4歳年上だったが、ふたりは互いに大きな影響を与え合う関係にあった。音楽家として模索を続けていたドビュッシーに対し、サティは「もっとフランス人らしい表現を」と勧めたとされる。その助言が、のちの印象派音楽につながるヒントになったとも言われている。
市川:無名だったサティの才能を誰よりも評価していたのもドビュッシーで。サティを家に招いて食事をごちそうするだけでなく、のちに『ジムノペディ』を自らオーケストラ編曲して演奏会で取り上げたりもしています。美しい友情ですよね。クセの強いふたりなんですが、いい話もたくさん残っています。
生活に寄り添う「家具の音楽」を生み出す
一方で、ふたりの関係を象徴するようなユーモラスなエピソードも残っている。市川:ドビュッシーがサティに「もっと形式にこだわったほうがいい」と助言したそうです。それに対してサティは、その言葉を受け入れるふりをしながら「形式って何だ?」という皮肉を込めて、『梨の形をした3つの小品』を作曲します。
Trois morceaux en forme de poire: I. Lentement
サティが提唱した「家具の音楽」とは、家具のようにそこに存在していながら、意識されない音楽のこと。つまり、聴くこと自体を目的としない音楽だという。
市川:今でこそ、商業施設や病院、コンビニなど、あらゆる場所で音楽が流れています。でも本来、ロマン派以降の音楽は「鑑賞するもの」だったわけですね。レストランで音楽を聴くとかはありますけど、演奏はちゃんと聴くものであって、雰囲気づくりという発想は基本的になかったという時代です。そんななかでサティは、空間を快適にするための音楽、いわゆるBGMという概念を考えたわけですよね。「家具の音楽」は、のちにブライアン・イーノにも大きな影響を与えたと言われています。
また、サティは奇抜な人物としても知られているという。
市川:白い食べ物しか食べなかったり、同じ服を何着も持ってそればかり着たり、天気に関係なく傘とハンマーを持ち歩いたりと、風変わりな逸話には事欠かないんです。あと、『ヴェクサシオン』という曲を840回繰り返して演奏するよう指示していたとかね。
Vexations
J-WAVE『MIDDAY LOUNGE』のコーナー「MUSIC EXPLORER」では、世界の音楽シーンのムーブメントを「今」の視点で考察する。放送は月曜~木曜の14時ごろから。
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月・火・水・木曜13:30-16:30
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月曜:ハリー杉山 火曜:市川紗椰 水曜:クリス・ペプラー 木曜:ジョン・カビラ
