「あのとき、あそこにいた人たちはもういない…」安藤裕子、青春時代の東京を振り返る

シンガーソングライター/俳優の安藤裕子が、東京への想いや、初の小説集『一口ちょうだい』(ミルブックス)の制作エピソードについて語った。

安藤が登場したのは、5月5日(火・祝)放送のJ-WAVE『J-WAVE GOLDEN WEEK SPECIAL MY STORY TOKYO ―僕らがここにいる理由―』(ナビゲーター:ふかわりょう、市川紗椰)。3月16日から展開している、東京の魅力を再確認するJ-WAVE春のキャンペーン「MY STORY TOKYO ―僕らがここにいる理由―」と連動した特別番組だ。

この日の放送は5月12日(火)28時ごろまで、radikoのタイムフリー機能で楽しめる。

東京にはいい感じの無関心がある

上京、転職、引っ越し――人の流れが活発になる春。J-WAVE春のキャンペーン「MY STORY TOKYO ―僕らがここにいる理由―」では、「いま東京にいる自分たち」を主語に“東京にいる理由”をリスナーとともに見つめ直してきた。また、キャンペーン期間中、J-WAVEのナビゲーターが “東京にいる理由” をテーマに綴ったエッセイを、J-WAVE公式noteで公開。この日の番組には、そのエッセイの執筆者たちがスタジオに集結し、それぞれの東京にまつわるストーリー“僕らがここにいる理由”を語った。

ここでは、執筆者のひとりでJ-WAVE『THE UNIVERSE』(月曜〜木曜 27:00-29:00)の月曜ナビゲーターを務める安藤裕子がゲストとして登場したパートをテキストで紹介する。安藤が執筆したエッセイは下記にて読むことができる。

【関連サイト】安藤裕子『棲家』|J-WAVE春キャンペーン「MY STORY TOKYO」

シンガーソングライター、俳優として活動する安藤は、4月に初の短編小説集『一口ちょうだい』を発表。まずは、東京に対して感じる「温かさ」「冷たさ」に関する話題となった。

ふかわ:東京についていろいろ話しているなかで、干渉してこない冷たさの一方で温かさがある。その感じ方はどっちにも転びやすいと思いますが、そこら辺についてどうですか?

安藤:たしかに、自分が長年このぬるま湯? 無関心ってけっこう優しさというか緩いじゃないですか、強制されるルールも薄くて。それに長年どっぷり浸かっているから、今回この「東京に住む理由」みたいなものを訊かれたときに考えたんです。「今さら外でがっつり、いろいろなコミュニティのルールがあるなかで生きていけるのかな?」と思ったら、東京ってこれがあるから抜けられないんじゃないかなと思って。

ふかわ:世代的には近いと思いますが、かつて長渕 剛さんのドラマのエンディングかなにかで、かなり象徴的で刺激的なシーンがあって。最後に血だらけになって、都庁の近くをはいつくばって歩くんです。だけど、周りは一切関わらず、目もくれず日常を送るというシーンがあって。それを冷たいととらえるか、もちろんその場に遭遇したら手を差し伸べるのもいいのかどうかもわからないから、関わりたくないという心境もわかるというか。

安藤:それはすぐに絶対、110番しますね。

市川:私も。

ふかわ:いざそうなったらわからないよ? これはドラマの1シーンで象徴的にとらえていますけど、渋谷のスクランブル交差点で火を点けるみたいな。それもやっぱり、なんとなく一瞥(いちべつ)しながらもみんなスッと日常に戻るじゃないですか。そういう東京ってあるなと思って。

安藤:絶対にやるって言ったけど、(関わらない可能性も)ありますね。

ふかわ:それがいいとか悪いとかではなく、その距離感が助かる場合もあるなという。

市川:ものすごく奇抜な格好をしても、誰も気にしないというね。いい感じの無関心はありますよね。

「何者かになれる」と思えた場所

神奈川県生まれの安藤は、高校時代には学校帰りに渋谷に遊びに行くことも多かったという。安藤は自身の視点から見た東京について語った。

ふかわ:神奈川だと横浜ビブレに学校帰りに行く人たちと、渋谷まで繰り出す人に分かれると思います。渋谷に行くというのは少し、覚悟がいるものでしたか?

安藤:どうなんだろう? でも「面倒くさいから今日はフタコ(二子玉川)にしよう」とか。

ふかわ:選択肢にあったんですね。どういうときにフタコが選ばれるんですか?

安藤:「ドッグウッドプラザ」という広場みたいなのがあって、そこでクレープ食べたり、みんなでだらだらしていました。お店がいっぱいあるんです。

ふかわ:でも、神奈川なりに「東京に行くぞ」というのはあったと思います。ものを作るうえで、東京という環境はどうですか?

安藤:どうなんだろう? わからないけれど、気が付いたら「若い青春時代」みたいな。女子高生みたいな時代もそうだし、自分が大学生になってからも集うことで自分がその世界にいける。自分が目指すなにか、何者かになれるというような錯覚のようなものがあって。私は、当時は音楽をもう始めていたけど「スタイリストになりたいんだ」とか、私と一緒に音楽をやっていた子は「プロデューサーになりたい」とか、周りにいっぱいいて。今はもうないけど、神泉のほうにみんなが集まっていたお店があったんです。何カ月か前にちょうど一緒に音楽をやっていた子と会って、「あのときにあそこにいた人たち、今はもうみんな東京にいないね」みたいな話になって。

市川:そうなんだ……。

安藤:死んじゃった人もいるし。「俺らはまだ、いちおう音楽でごはん食べてるから偉くね?」みたいなことをその子が言っていて、ちょっと切ないけどたしかにまあ、ごはんは食べられてるなあみたいな感じで。でも、あのころはもうちょっとキラキラした想いで、素敵な大人になれるというか「素敵ななにか」になれるんだと思って。みんなそのキラキラした東京に集まっていたというか。

市川:すごい、青春ですね。東京以外でやろうと思ったことはありますか?

安藤:それは浮かばなかったし、当時はデビューを目指していたから、会社はみんな東京にあるし。スタジオを貸してくれてた人も東京のスタジオで、ライブも仕込んでくれる人は東京の人だったりするので。自分がやりたいことは東京にしかなかった。それが九州とかで呼ばれて育てられていたら、あっちでやっていたかもしれません。

書きながら気付いた、食への意識

安藤は著書『一口ちょうだい』を書くことになったきっかけについて語り、「食べ物」が物語に出てくる理由についても明かした。

安藤:もともと、ちょっと自分の音楽の「灰色の時代」というのがあって。なんか「やめようかな」と思っていたのが、ちょうど10年ぐらい前で。当時の事務所をひっそりと離れてこっそり休んで、ぼんやりしてたんです。もともと、女子高生のときは映画監督になりたくて、映画が撮りたいと思ってちょっと小説、脚本みたいなのをパチパチとワープロみたいなので書いたりしていて。その想いを思い出して、ちょっと家で小説みたいなものを書きだしたんです。自分で短編小説付きの自主原盤のミニアルバムを作ったりとか、そういう活動を始めて、その裏でもちょこちょこ書いていたらミルブックスさんという、今回出させていただいた編集者の方が「短編集を出しませんか」とお声がけくださって。

市川:拝読しました。食のエッセイだから、ほのぼのとした感じを想像していたらけっこう人間の欲望とかがあって。いい意味で裏切られました。

安藤:本当は食べ物について書こうと思って書いたというよりは、人間のちょっとした機微を書いているとどうしても主人公は全部バラバラで私じゃないから、リアリティを入れないと物語、小説は成り立たない。リアリティを求めると、私が自信をもって好きなことって食べることなんです。食べ物の描写を真剣に書いていたら、編集の方が「これは食べ物という共通項があるよね」と話してくださって。

市川:気が付いたら食べ物の話が多かったと。

安藤:多いというか、全部にあったよねと。

ふかわ:潜在的な、食に対するものがあったんでしょうね。

安藤:なにを書いても「食べ物の描写だけが一生懸命」みたいな感じになりやすくて(笑)。

ふかわ:『一口ちょうだい』にはファンタジー要素もあると思います。失ったから輝いて見えるのか、失ったとか関係なくその本質に気づいたのか、すごく日常でも自分に問うときがあって。お相手に対する想いというのは、どうでしたか?

安藤:これは「自分の一部が欠けたのかな」というような印象がけっこうあって。私は「こういうことを書こう」と思って書かないんです。主人公が生まれて、その人が動き出すことを追いかけるみたいな書き方をします。だから実は、結末をよくわかっていなくて。歌もそうで、音楽も歌い始めて「歌っていたらこうなったよ、結果」という感じなんです。ライブとかで「こんな悲しい歌だったの? 泣ける」みたいになったりして(笑)。

市川:自分で書いたもので。

安藤:そうそう。お話も書いてるうちに、とんでもないことになっちゃって「気持ち悪いな、グロいな」となったりとかします。

ふかわ:あまり苦しんで書くというより、スラスラといける?

安藤:文字も音楽と近くて。譜割りというか、読んでいるときのリズム、間が悪いと書き換えようとか。

ふかわ:伝えたい核となる部分があって、そこに肉付けというよりも、わりと書いているライブ感で?

安藤:そう、書いていきます。

ふかわ:なかなか書くっていうのはね、産みの苦しみがあると思います。

市川:だから、「登場人物が勝手に動く」というのはかっこいいですよね。表紙も安藤さんの絵ですよね。これも自然と?

安藤:これはけっこうダメ出しがあったんです。最初は私、すごい昭和初期のシンプルな幾何学模様的な、色彩もないような表紙を書いたんです。真ん中にスプーンの絵だけポンと置いて出したら「地味だ」って言われて(笑)。

市川:そうなんだ(笑)。

安藤:やはりみなさん、Amazonとかネットでポチッとするときに、あまりにアタックがないと。もうちょっと華やかに、できれば『一口ちょうだい』という1個目の話は女の人が主人公なので、女の人を描いてほしいと言われて「ちきしょう」と(笑)。スプーンは何時間もかけて描いたから、すごく悲しいと思って画像を切り取りました。この女性は、私のなかでは女優の田中裕子さんなんです。

ふかわ:言われてみればそんな雰囲気がします。これコラージュみたいなことですよね。これも先ほどの文章を書いている過程と似ていて、ゴールに向かっているというよりは、作っていくうちにこういうふうになったという感じですか?

安藤:そうですね。私はゴールを決めて書けないんですよ。このあいだも編集の人と話していて、本当はミステリーとか書いてみたいんだけど。

市川:いちばんゴールが必要ですね(笑)。

安藤:トリックから作るじゃないですか。絶対、いちばん要素がないんですよ(笑)。

ふかわ:付け焼刃ではできないですからね。

安藤:いちばん遠い世界です。

安藤裕子の最新情報は公式サイトまで。
radikoで聴く
2026年5月12日28時59分まで

PC・スマホアプリ「radiko.jpプレミアム」(有料)なら、日本全国どこにいてもJ-WAVEが楽しめます。番組放送後1週間は「radiko.jpタイムフリー」機能で聴き直せます。

番組情報
J-WAVE GOLDEN WEEK SPECIAL MY STORY TOKYO ―僕らがここにいる理由―
5月5日(火・祝)
9:00-17:55

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