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実写版『秒速5センチメートル』音楽担当の江﨑文武、奥山由之監督との“本当に細かな”制作秘話を語る

実写版『秒速5センチメートル』音楽担当の江﨑文武、奥山由之監督との“本当に細かな”制作秘話を語る

音楽家の江﨑文武が、実写版『秒速5センチメートル』の劇伴制作や、自身が好きな映画音楽について語った。

江﨑が登場したのは、11月14日(金)放送のJ-WAVE『SUNNY VIBES』(ナビゲーター:長井優希乃)のコーナー「THE MIRROR」。さまざまなフィールドで輝く人の言葉から“いま”を映し出すコーナーだ。

実写版『秒速5センチメートル』は楽曲先行で制作された

江﨑は4人組ソウルバンド・WONKのキーボードを務めるほか、ソロとしても活躍。King Gnuや米津玄師、Vaundyをはじめ、さまざまなアーティストの作品に参加している。また、10月に公開され話題を呼んでいる、新海 誠監督によるアニメーション作品を奥山由之監督が実写化した映画作品『秒速5センチメートル』では、劇伴サウンドトラックを手がけている。

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長井:私、映画館のすごくいいど真んなかの席で観ましたが、素晴らしかったです……。ストーリーはもちろんですが、とにかく音楽がそれとともにある。それを劇場で、全身で聴くというのが、唯一無二の体験でした。

江﨑:ありがとうございます。

長井:江﨑さんご自身、完成した映画を観終わったときはどんな感情や言葉が浮かびましたか?

江﨑:「言葉にはできない感覚のようなものが、みっちり詰め込まれている」というのが、この映画の特徴かなと思っています。「学生のときに、ああいうちょっと切ない瞬間あったよな」とか、いろいろな思い出にふたをしていたものが少し開いて、そこからちょっと思い出が漏れてくる、みたいな。でも、それは言葉にできないし、人とは共有できない。そういう感覚が生まれる作品だなと思って観ていました。

長井:本当にそうですね。「自ら開けようとしていないふたを開けられちゃった」という感じがすごくありました。音楽制作自体は、いつごろからされていたのでしょうか?

江﨑:2年くらい前から始めていました。映画音楽はだいたい先に映像ができて、その上に音楽を乗せていくという作業ですが、今回はもともとある脚本の上に音楽を想像して作っていって。そのあとに映像を撮っていくという、けっこう変わった制作手法を取りました。

長井:音楽が先行しているから、映画の場面を煽りすぎることなく寄り添って。しかも、上品さがありながらも感情にいい波が立つというか……。そういうイメージの音楽だったのは、その制作方法があったからなんですね。

江﨑:そう言っていただけて、うれしいです。

細やかに仕上げることで、多くの人の心を動かす作品に

映像に先がけて劇伴を制作するにあたり、奥山由之監督ともさまざまなやり取りをしたという江﨑。2度目に会った際の印象的な思い出を語ってくれた。

江﨑:2回目にお会いしたのが奥山さんのアトリエで、そのときに「たぶん、お互い性格が似ているんだな」と思う瞬間が多々ありました。そのひとつが、極度に整頓された部屋です(笑)。テーブルの上の物の垂直・平行が取られていることは大前提で、なんならものが接着されているようなレベルで、すごく細かなところまで空間のしつらえに気を配っていらっしゃるアトリエで。僕もわりとその辺がすごく細かいタイプなので、そこでいちばんわかり合えたというか……(笑)。もちろん、会話を重ねることでいろいろと詰めていける部分はありますが、言葉ではない部分で気が合う感じがするものもあるんだと思いました。

長井:そういう「なんだか気が合う感じ」があったからこそ、ぴったりと合うような作品になったのかと思うと、もう1回観返したくなりますね。

その後、ふたりで初めて出演したメディアも、このときのエピソードにまつわるものだったそうだ。

江﨑:映画のプロモーションの一環としてふたりで初めて出演したメディアが、まさかの雑誌の整理整頓特集。しかも、映画の話をまったくしていないという(笑)。

長井:すごい! それ、読まなきゃ(笑)!

江﨑:「消毒スプレーみたいなやつを机の上に出しておくのがちょっと忍びないので、それにぴったり合うステンレスの筒を見つけたんですよ、ワハハ」みたいな謎の盛り上がりを繰り広げる対談をしました。いま思えば、映画の話をしたほうがよかったですね(笑)。

長井:その整理整頓の話を聞いて、そういうところが制作にも表れているのかなとも思ったのですが、いかがですか?

江﨑:そうですね。奥山監督はもともと写真家でもいらっしゃるので、構図を決める段階でもかなり細かくコントロールされていて、それがきっと整理整頓みたいな、図形的にものを処理することにつながっているんだろうなと思います。音楽に関しても、僕もかなり細かくやるほうではありますが、監督は「絵に対して音がこういう感じで入ってきてほしい」みたいなのがすごく細かくある方でした。レコーディングしているときですら、僕がピアノを弾いている後ろに監督がいらして「そこ、もうちょっと弱めに入れますか?」みたいな、本当に細かなやり取りを最後の最後、仕上げる瞬間までしていました。

長井:感情が映画に乗っていく体験は、そういう緻密なこだわりの積み重ねがあってのものだったのですね。しびれる話です。

江﨑:ありがとうございます。

映画音楽制作ならではの楽しさと難しさ

これまでも数多くの映画音楽を手がけている江﨑に、長井は「映画の音楽を作ることの楽しさ、そして難しさはどういうところにありますか?」と問いかけた。

江﨑:楽しさは、毎回、自分にはなかった扉、引き出しが開いていくところかなと思っています。監督の思い描くものに寄り添っていく過程で、自分自身が成長できます。ただ、その裏返しみたいな部分で、自分にはないものを求められることの難しさがありますね。

長井:自分にはないものを求められたとき、江﨑さんはどういうふうにしていくんですか?

江﨑:研究というか、勉強に近いですかね。知らないジャンルのものを聴いて、自分なりに「こういうふうにしたら、こういうサウンドが作れるんじゃないか」みたいな仮説を立てて、検証するみたいな(笑)。

さらに長井は、江﨑の好きな映画の劇伴を訊く。

江﨑:小さいころからずっと好きだったのは、『ニュー・シネマ・パラダイス』や『海の上のピアニスト』などで知られているエンニオ・モリコーネという、イタリアの作曲家です。自分はどちらかというと、昨今のあまり語りすぎない映画音楽より、単体で聴いてすごく浸れる音楽が好きなので、そういう作家さんのものを中心に聴くことが多いです。ただ、最近よくある、語りすぎないけどテクスチャーで存在感を示していくような音楽もすごくいいなと思っていて。最近、話題になった作品だと『ワン・バトル・アフター・アナザー』。レディオヘッドのジョニー・グリーンウッドなどが音楽を担当していますが、すごい映画でしたね。

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長井:最高でした!

江﨑:ストーリーはもちろんですが、音楽は全然語っていないのに質感がずっと耳に残り続けるという。プリペアド・ピアノという、現代音楽的な文脈の楽器が使われている瞬間や、ドラムセットだけでひたすら緊迫したシーンを彩っていくみたいな場面もありました。

長井:私は映画音楽が「語る」か、「質感のみ」かという視点がなかったので、いまのお話を聞いて「そういう視点でもう1回観なきゃ」と思いました。質感でやっていくのは、挑戦的な試みでもありますよね。

江﨑:そうですね。ただ、日本の伝統芸能、特に能や歌舞伎などはあまり音楽で語りすぎない部分があるかなと思っています。

長井:そこにもつながってくる! 興味深いお話です。

江﨑は12月21日(日)に恵比寿The Garden Hallで「江﨑文武 L'ULTIMO Anno 25 Songbook」を開催する。どのようなライブになるのだろうか。

江﨑:先日、『秒速5センチメートル』のサウンドトラックコンサートをさせていただいたのですが、今回の「江﨑文武 L'ULTIMO Anno 25 Songbook」は、僕が書いた歌ものを中心にお届けするライブです。坂本美雨さん、YeYeさん、Nazさん、そしてクラシック歌手の七澤 結さんなどのシンガーのみなさんをお迎えして、歌ものをたくさんやろうという会になっています。

江﨑文武の最新情報は公式ホームページまで。

J-WAVE『SUNNY VIBES』のコーナー「THE MIRROR」では、さまざまなフィールドで輝く人の言葉から“いま”を映し出す。放送は金曜8時35分ごろから。

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