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テイラー・スウィフト最新作『The Life of a Showgirl』大ヒットだけど賛否両論、その理由は? 研究者に聞く

テイラー・スウィフト最新作『The Life of a Showgirl』大ヒットだけど賛否両論、その理由は? 研究者に聞く

大ヒットを記録している、テイラー・スウィフトの最新アルバム『The Life of a Showgirl』に注目した。

この内容をお届けしたのは、10月23日(木)放送のJ-WAVE『MIDDAY LOUNGE』(ナビゲーター:ジョン・カビラ)の「MUSIC EXPLORER」。世界の音楽シーンのムーブメントを“いま”の視点で考察するコーナーだ。

『MIDDAY LOUNGE』はグローバルなルーツを持つ国際色豊かなナビゲーターたちが、リスナーと一緒に「新しい自分、新しい世界と出会う」3時間のプログラム。ナビゲーターは、月曜 ハリー杉山、火曜 市川紗椰、水曜 クリス・ペプラー、木曜 ジョン・カビラが日替わりで担当している。

最新アルバム『The Life of a Showgirl』が記録的大ヒット

テイラー・スウィフトが10月3日にリリースした最新アルバム『The Life of a Showgirl』は、2023年3月から2024年12月にかけて開催されたツアー「The Eras Tour」での体験や自身のプライベートな出来事が歌詞に込められた1枚である。全12曲・約41分にわたる本作は、アメリカで発売初日に270万枚を売り上げ、翌日には300万枚を突破。今年の全米最高セールスを記録するとともに、全米音楽史上最速で300万枚の売り上げを達成した。

さらに、新作にあわせて公開された特別上映イベント映画『The Official Release Party of a Showgirl』は3日間限定上映で、米国・カナダで約3,300万ドル(約50億円)を稼ぎ、北米ボックスオフィスで首位を獲得。世界中で数々の新記録を樹立している。

今回は、アメリカ文学やポピュラー音楽を研究する、慶應義塾大学法学部の大和田俊之教授をゲストに招き、ヒットの秘密に迫った。

大和田:マックス・マーティンとシェルバックという、世界でもっとも多くのヒット曲を手がけてきたプロデューサー陣と、テイラー・スウィフトが再びタッグを組んだアルバムということで、大きな注目を集めていましたね。彼らは『Red』や『1989』など、テイラーの2010年代前半のヒット作にも関わっており、発売前から期待が高まっていました。

ジョン:The Eras Tourのあとに出たアルバム『The Life of a Showgirl』ですけども、「The Eras Tour」が21カ国149回の公演で1,000万枚以上のチケットを売り、約20億ドル(約3,000億円)という凄まじい売り上げを記録していました。そのツアー中にアルバムを制作していたってことですよね。

大和田:ひとつの都市で3日間ライブをやって、次の3日間がオフ。その合間にスウエーデンのスタジオへ行ってレコーディングをして、また別の都市へ向かっていたわけです。そのスケジュールを聞くだけでも、彼女のエネルギーにビックリしますよね。

アルバム内容に賛否が分かれる理由は?

新たな交際相手であり、先日、婚約を発表したトラビス・ケルシーとの関係をはじめ、テイラー自身の内面を映し出したアルバム『The Life of a Showgirl』は、世間で賛否両論を呼んでいる。

大和田:ある記事では、「テイラー・スウィフトが幸せになっても私たちは彼女のことを好きでいられるか」という辛らつなものがありました。

ジョン:その批評の角度がすごいですね。

大和田:つまり、これまではテイラー・スウィフトのパーソナルな経験が、時代や社会と奇妙にリンクしていたところがあったんですよね。たとえば、『folklore』というアルバムが出た当時は、コロナ禍の世界とマッチしていましたし、ああいう嗅覚は天才的だなと思っているんですよ。今回、アメリカはトランプ政権下で、みんなが激動の時代を生きていくなか、テイラー本人は個人的にもっとも幸福なフェーズに生きている。とてもいいアルバムだけれども、「いま、これが聴きたいサウンドなのか」と思っている人がけっこういるのかなという印象です。

テイラー・スウィフトはデビュー当初から、恋愛や別れを一貫して楽曲にしてきた。最終的には、アメリカの学校文化の象徴ともいえる“アメフトのスター選手”にたどり着いた格好だ。ファンのあいだでは、幸せを願う声がある一方で、「あまりにも出来過ぎではないか」と感じる向きもある。

ジョン:まさにアメリカの青春映画そのものですよね。その視点でお伺いしたいのですが、大和田先生が今回のアルバムのなかで気になっている曲はどれになるでしょうか?

大和田:やはり、いちばんキャッチーな曲でもある、1曲目の『The Fate of Ophelia』です。

Taylor Swift - The Fate of Ophelia (Official Music Video)

大和田:「オフィーリア」というのは、ポピュラー音楽の歴史的にも、ちょっと狂気をはらんだ女性のモチーフとしてずっと歌い継がれてきています。ただ、この曲は「私がオフィーリアにならなくて済んだのはあなたのおかげ」という感じの曲なんですよね。

ジョン:シェイクスピアの悲劇中の悲劇である戯曲『ハムレット』で、ハムレットがオフィーリアの父を結果的にあやめることになり、絶望して川に身を投げるわけですよね。

大和田:そうなんですよね。そしてこの楽曲では「男の人に助けてもらう」ということがわりと留保なく描かれていて、それに対してファンのなかでは「プリンセス願望」みたいに言われている曲でもあります。とはいえ、シングルカットもされていて、マックス・マーティンとシェルバックのソングライティングでとてもヒットする曲だという感じはしますね。

ジョン:本当によくできていますよね。アメリカの一部の放送局は、この楽曲のミュージックビデオを徹底的に解説して、ストップモーションで「このオレンジ色の鳥にはこういう意味があるに違いない」みたいなことまでしています。そのぐらい、みんなが掘り下げたい対象になっているんですよね。なぜ、こんな現象にまで至っているのでしょうか?

大和田:ちょうど、トラビス・ケルシーとの婚約を発表したときに、テイラー自身が「あなた方の体育の先生と英語の先生が結婚しますよ」とSNSで宣言したんですよね。

ジョン:そうです(笑)。

大和田:テイラー自身がそういうイメージを作ろうとしていて、つまり自分は英語の先生的な文化系で、体育会系的なスポーツ選手のトップスターと結婚するっていう、英語の先生としての自覚があるのかなと思うんです。だから、こういう歌詞の多彩な解釈みたいなものは、テイラー自身もたぶん望んでいることだろうなという気はします。

名曲『Father Figure』をテイラー流に再構成

続いて、大和田教授とジョンは『The Life of a Showgirl』の収録曲である『Father Figure』にフォーカスする。同曲は、故ジョージ・マイケルの楽曲をテイラーが再解釈したものだ。

ジョン:もはや、産業を通り越して経済圏になっているという現象のテイラー・スウィフトですが、ビジネスサイドに関してちょっとくすぐるような曲もありますよね。

大和田:そうですね。キャッチーという点では『The Fate of Ophelia』ですが、もうひとつの注目は『Father Figure』という曲で。

Taylor Swift - Father Figure (Visualizer)

大和田:ジョージ・マイケルの『Father Figure』は、自分の若い愛人に対して「父親のように守ってあげる」という内容の曲なんですね。テイラーはその構図を反転させています。彼女はかつて、自分の意図しないかたちでレコードの原盤権を売られてしまいましたが、それを婚約と同じくらいの時期にすべて取り戻したんです。初期のころは、自身のレーベルのオーナーだった人物に搾取されていた経験がありました。もともとの『Father Figure』の世界観を反転させたうえで、さらにレーベルオーナー側の視点から歌っているんですよね。

ジョン:本来であれば、もっと直接的に批判するほうがメッセージとしては強く伝わるはずです。ですが、彼女は自分に災いをもたらした“主体”としての思いを、あえて歌詞に込めたんですね。

大和田:裏切られた感覚がテイラー・スウィフトの歌詞でいちばん輝くとするのならば、幸福な歌からどこまで伝わってくるか、そういう話をみなさんしている気がします。もちろん、アーティストが幸せであることは素晴らしいことだと思いますが。

ジョン:そうですよね。日本でもまたパフォーマンスしてくれると思いますし、期待感しかないです!

大和田:世界中のファンがテイラー・スウィフトを支えて、みんなそれぞれの人生を投影しながら一緒に成長していますよね。

J-WAVE『MIDDAY LOUNGE』のコーナー「MUSIC EXPLORER」では、世界の音楽シーンのムーブメントを“いま”の視点で考察する。放送は月曜~木曜の14時ごろから。

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月・火・水・木曜
13:30-16:30